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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
9章 万難排し、世界を守るが〈勇者〉の役目
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第93話 そのキャンプじゃないけど、聖霊は大歓喜



「キャキャキャ、キャンプですとぉーっ!?」


 ガタン、と椅子を蹴り飛ばしそうな勢いで立ち上がるアガシー。




 ――午後、6限目。


 あたしたち6年生は今週末にキャンプがあるから、授業の代わりにその説明の時間になった――んだけど。



 担任の喜多嶋(きたじま)先生が配ったしおりを見た途端……。


 やっぱりというか、アガシーが激しく反応したから、あたしは即座に抑えにかかる。



「――って言っても、あなたが思ってるような、新兵訓練基地(ブートキャンプ)とかじゃないからね?」


「な――バカな……っ!

 徐々に近付く夏休みを思い、浮かれ始めるこのタイミングで……ジャリ坊どもに兵士としての心構えを再度叩き込み、引き締めを図るのを狙った地獄のキャンプ――じゃないんですかっ!?」


「……そんなの参加したい?」


「したいです! シゴく側なら!」


「シゴかれる側に決まってるでしょ。あなたもその『ジャリ』なんだからね?」


「……がっでむ!」



 頭を抱えつつ、席に座り直すアガシー。



「えーっと……もう話、進めていいかなー?」


「ゴメンナサイ先生、そこのユルミリオタは放っておいて――」



 いい加減慣れっこになったみたいで、平然と聞き直す先生に、あたしは「どうぞ」と手を差し出した。




 ――しおりの内容を追いながら、先生がキャンプ説明をしていく。



 日程は、今週の金曜日から土曜日にかけての一泊二日……。


 早朝の6時に校門前に集まって、バスで4時間かけて、隣の県の〈葉月山(はづきやま)〉のキャンプ場へ。


 魚つかみ体験で放流されたニジマスを捕って、それを塩焼きにして昼食。


 木工体験で、焼き杉板を使ったオリジナルのルームプレートを作り、その後は野山の散策を兼ねたオリエンテーリング。


 お約束のカレーをみんなで作って夕食。


 キャンプ場に併設されたお風呂で入浴。


 あとは、キャンプファイヤー……と思いきや、近くに昔は学校だった公民館があるってことで、そこを借りての肝試し。


 そうして最後は、テントで就寝。


 翌朝は、焼きおにぎりとお味噌汁を作って朝食を摂ったら、バスに乗って帰る――。



 ……ざっと、こんな感じ。



 だいたいは、お兄から聞いてた話とおんなじだね。


 もっとも、お兄のときは確か、肝試しは近くの池の周りを回るとか、そんな感じだったはずだけど……。



 でも、どっちにしてもやるんだね肝試し……。


 うちの小学校の伝統みたいなものなのかなあ……。



 ハッキリ言って、そんな伝統いらないんだけどね。うん。

 いらない。ゼンゼンまったく。ホント不必要。邪魔。

 6年生にもなって、誰もそんなので怖がるわけないのにね。

 時間のムダだよもう。うん。ホントに。



 ――あ、ちなみにアガシーはというと……。



 喜多嶋先生の説明の間、終始、とにかく目をキラキラさせていた。


 どれもこれも、めちゃくちゃ楽しみにしてるみたい。


 ときどきヘンな声を上げては、先生に注意されてたからね……。




 ……うん、まあ、さてと。


 それはそれとして、こうした行事で必須になるのが班分け。



 修学旅行ともなると、生徒の間で相談して決めるみたいだけど……。

 そこは一泊二日の小キャンプ。


 行動時の男女混合班にしても、寝るときのテント分けにしても、クジ引きで決めることになった。



 ……まあね、結局修学旅行もこのクラスで行くんだから、この機会に色んな子と仲良くなっておこうってことで、それ自体はいいと思う。



 でも……。




「……それで、なんでこーなるかなあ……」




 あたしは思わず机に突っ伏していた。お兄がうちでよくやるみたいに。


 なぜなら……。




「そりゃオレのセリフだってーの!」


「はっはっは、わたしのアリナへの愛は天運すら動かすのです!」




 男女混合班は、それぞれ2人ずつの4人体制になるんだけど……。


 なんの因果か、あたしの班には朝岡(あさおか)にアガシーという、いつもの2人がいたのだ。



 なに? クラスの問題児トップ2人を一手に引き受けるとか、あたしが引率か!



 喜多嶋先生もクラス委員のアキちゃんも、収まるべきところに収まった――みたいな、晴れやかな顔しちゃってるし!



 そして、こんなめんどくさい班を引き当ててしまった、かわいそうなもう1人は――。



「……ん。よろしく」


「ああ、うん……よろしくね真殿(まどの)くん」



 物静かな声に、あたしもきちんと挨拶を返す。



 ……その名も、真殿凛太郎(りんたろう)くん。


 深窓の令嬢――ならぬ令息といった感じの、物静かでメガネの似合う、朝岡とは真逆な理知的な男の子だ。


 ただ、気弱とかそういうのでもなくて、言葉数も少なくてあまり表情豊かでもないけど、見晴(みはる)ちゃんとはまた別方向のマイペースというか……どこか浮き世離れした印象があって、とにかく物事に動じない。


 正直、あたしもはっきりと人柄を把握しきれないんだけど……冷めてるとかイヤなヤツとかいうわけじゃない。


 結構親切だし、いい人ではあるんだ……口数少ないし、表情に乏しいけど。



 ……あと、ここ東祇小で一番って言われるぐらいの美少年だったりもする。

 女装とかしても、違和感ないどころかきっと似合いすぎるぐらいの。



 ちなみにそんな真殿くん、朝岡とは付き合いが長いみたいで、わりと仲が良い……と思う。



 一方的に朝岡が絡んでるだけっぽいけど、イヤがってる感じはないし。


 性格も雰囲気も真逆だけど、それだけにかえってウマが合うのかもね。



「……うん、ある意味、真殿くんで良かったのかも……」



 あたしのつぶやきに、真殿くんはメガネを整えながらアガシーと朝岡を見て、「ん」と応える。



「軍曹と武尊(たける)だから?」


「そーゆーことだね。

 あたし一人じゃリード引っ張るの大変だから、手伝ってもらっていい?」


「ん」



「「 誰がワンコだ! 」」



 キレイに唱和し(ハモっ)てツッコんでくる問題児2人。


 なんだかんだでこの2人、気が合ってるんだよね……。



 御する側にとってはメーワクな話だけど。



「……まあとにかく、リンタローもよろしくな!

 うむ、ではこれからはマリーンと呼んでやろう! 名誉だな!」


「ん。よろしく軍曹」



 アガシーのウザい絡みにも表情を変えることなく、平然とうなずく真殿くん。



 あ〜……ホント、ちょっと悪い気もするけど、真殿くんで良かったなあ。



 ……っていうか、よりにもよって『海兵隊(マリーン)』って。


 その字ヅラからは果てなくイメージ遠いんだけど……完全に響きだけで付けやがったなエセ軍曹……。






 そして……そのあと、学校からの帰り道でも――。



「いや〜、しっかし、それにしても楽しみですねー!

 もう、今から校門前で場所取りして待っていたいぐらいですよ!」



 いまだ下がる気配を見せないテンションのままアガシーは、手に持ったしおりを振り回しつつ、迷惑なことを言っていた。



「学校行事に場所取りしてまで並ぶな。だいたいまだ4日もあるっての。

 ……って言うか、そんなに楽しみなの?」



 タメ息混じりに何気なく、改めてそう尋ねると……。


 アガシーは満面の笑顔で大きくうなずく。



「あっっったりまえじゃないですか!

 みんなでお泊まりとか、今から鼻血が出そうなほどに楽しみすぎます!

 ……そ、そう、これを機に、あっちこっちのお布団に潜り込んで……ぐふふ」


「寝袋だからムリだけどね……って、ああもう、ホントに鼻血出てるから!」



 あたしはティッシュを出して、アガシーの鼻血を拭ってあげる――〈人造生命(ホムンクルス)〉ってちゃんと血も流れてるんだ、とか思いながら。



 ……ちなみに、寝るときのテント分けについては、見晴ちゃんもあたしたちといっしょだ。



「へっへへ~……ハ〜ミコン坊主が出っるぞ〜……っと!」



「だからそのキャンプじゃないって……」



 いつも通りにツッコミながらも、子供みたいに(見た目はそうだけど)はしゃぐアガシーを見てると……。



 あたしもなんだか、このキャンプが、思ってたよりずっと楽しそうに感じてきた。





 ……それでもやっぱり、肝試しだけはいらないんだけど。






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― 新着の感想 ―
[一言] マリーン……女装したら凛子ちゃん……えぇなぁ(ぇ キャンプ……騒動が起こる予感しかしねぇ!!
[一言] ああ……オリエンテーリングめっちゃ好きやたなぁ (´;ω;`)ウッ… 肝試しも懐かしいなぁ~(;'∀') 地球は青かった。 >したいです! シゴく側なら! ですよね (`・ω・´)b ☆…
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