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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
8章 それが〈世壊呪〉なら、やはり勇者は悪役しかない
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第84話 新たな〈黒〉と『みみじゅく』なヤツら



 ――ウチはハッキリ言って、頭に来てた。



 ウチもまだ熱が下がりきってへんことやし――あの〈救国魔導団(きゅうこくまどうだん)〉の道化師(ピエロ)さんを真っ先に狙って動きを止めたら、そのまますぐ魔獣を追い払って……最低限やることやって、早く帰ろうと思ってた。


 能丸(のうまる)さんもおるし、いけるやろうって考えた。



 やのに――絶妙のタイミングで邪魔されたから。クローリヒトに。



 しかも、向こうは向こうで、なんか体調悪そうなんが……またムッときた。


 調子悪いんやったら大人しくしてたらええのに、わざわざ出張ってきて、こうしてウチらの邪魔するとか……!



 ……なんなんよ、もぉ!



 同じく調子悪くても、それを堪えてまで、ウチを心配して看病に来てくれた赤宮(あかみや)くんとは大違い!


 いっそ、爪のアカでも煎じて飲んだらええねん!



 せっかく、赤宮くんのおかげでゆっくり寝られて、熱も下がり出してたのに……!



 クローリヒトも意地になってるんか、いちいち突っかかってきて――相手してるうちに、またなんか熱がぶり返してきた。

 ……頭がぼーっとする。



 でも、やからって帰るわけにもいかへんし、見たところ能丸さん一人やと、あの道化師さんに手こずってるみたいやし、なんとかせな、って思ってたら――。





「余は――そうだな、名乗るとすれば……〈クローナハト〉か。


 そこにいるクローリヒトの、いわば同輩だ」





 ――いきなりこの場に乱入してきて、そんな名乗りを上げた、黒いマントの男の人が……。


 ウチとクローリヒトの間に、立ちはだかったのだった。



「さて……確か、シルキーベル、だったか。

 余と争う気があるのかは知らんが……どのみちその様子では相手にならん、邪魔なだけだ。

 大人しく離れて見ていろ」



 その男の人――クローナハトは、とんでもない上から目線でそんなことを言うて……。


 しかもホンマに、ウチなんかまるで眼中に無いみたいに……無防備に側を横切って、魔獣の方へと向かおうとする。



「おおお、姫ェ、彼奴(きゃつ)めのあの態度、相当な実力者に違いありませぬぅ……!

 嗚呼、ついにここに、拙者のちっぽけな命運も尽きまするか……!

 お別れにござる姫ェ、かくなる上はぁっ!」



 その自信を見せつけられただけで、早くもカネヒラは、テノールのええ声で嘆きながら切腹しようとしてた。



「毎回、似たようなこと、言ってて……『ついに』もないでしょ、もう……。

 いったいあなたは……何が相手なら、運命を見限らずに、すむのやら……」



 さすがにそろそろ慣れてきてたウチは、荒い息の下思わずグチりつつ、ひょいとカネヒラを掴んで、切腹をやめさせる。



 そして――聖具〈織舌(シゼツ)〉を、無防備なクローナハトの背中に向かって突きつけた。



 ……正直、カネヒラの言う通り、この人からはクローリヒトに負けず劣らずの、すごく強いチカラを感じる。


 きっと、本調子のウチでも相当に厳しい相手なんやと思う。でも……!



「フゥ……いい? カネヒラ、その覚悟があるなら、死に物狂いでサポート……して。

 さすがに、このまま……行かせたんじゃ、バカにされすぎだから、ね……!」



 でも、ウチにもプライドがある……!



「しし、しかし姫ェ、その雪原のごときお身体は、今ぁ――!」



「――誰が見渡す限り真っ(たい)らだって……?」



「いいい、いえ、めめ滅相もございませぬぅ!

 そそ、そうではなく、新雪降り積もる汚れ無き雪原のごとき麗しきお身体は、今、調子もよろしくなく……!」



「ホントの意味でヘタなお世辞は、いいから……! 構えるっ!」


「いい、いえす御意っ!」



 ……まったくもう……。



「――クローナハト! あなたも、その禍々しいチカラを振るうと、言うなら……!

 見逃すわけには、いきません――っ!」



 しんどい中、ウチが必死に声を張り上げても、クローナハトは振り返る素振りすら見せない。



 それなら遠慮無く――と、ウチは。



「――てやっ!!」


 その無防備な背中へ、思い切り織舌を突き出した。



「――あ、バカ! やめろ!」



 瞬間、そんなクローリヒトの声が聞こえて――。


 なにかと思ったら、織舌に手応えはまったくなくて――そこにあったはずのクローナハトの身体は、風船が破裂するみたいに掻き消えて……。



 そして――。



「あぅ――っ!?」



 ――いきなり、ウチの身体を、感電でもしたみたいな衝撃が駆け抜けた。


 痛い――けど、痛さよりも、身体が一気に痺れて……力が入らへんくて……。

 ウチは、思わずヒザを突く。



「ひひ、姫ェッ!?」


「――相手にならん、と言ってやったハズだが?

 まして、この程度の『罠』を見抜けぬようではな」



 ……いつの間に移動してたんか――。


 背後から聞こえたその声の主は、続けて、斬りかかろうとしていたカネヒラに手の平を突き出す。



 それだけで……一瞬、カネヒラにまとわりつくように青い電光が走って――。



「――フゴッ!? むむ、むねん〜……」



 こてん、とか、可愛い音がしそうなぐらい力無く、カネヒラは地面に転がった。



「おい、ハイ――じゃない、クローナハト! 殺しは――!」


「分かっている。

 余を誰だと思っている、約束を(たが)えるような真似はせん」



 クローリヒトとそんなやり取りをしつつ、ウチの前へと回り込んできたクローナハトは……仮面の奥に輝く金色の瞳で、こっちを冷ややかに見下ろす。



「もし、余がお前を殺す気であったなら……運命は決していたぞ、シルキーベル?

 まったく、未熟にも至らぬ未熟――つまりは、そう、略して『みみじゅく』といったところだな。

 麻痺したその身体では今しばらく動けまい。良い機会だ、反省して頭を冷やせ。

 ……それから――」



 なんか言い方は腹立つけど……『みみじゅく』って……。


 冗談か天然か、微妙に可愛らしい単語を口にしたクローナハトは、続けて仲間の方を振り返る。



「キサマもキサマだ、クローリヒト。まったくどちらの味方なのやら。

 ――らしいと言えばらしいがな」


「……うぐっ」



 その指摘に、めずらしく、ぐうの音も出ない――みたいなクローリヒト。


 ……なんか、ちょっと気分ええかも。



 けど、ホンマに……。


 なんでまたクローリヒトは、ウチへの注意喚起みたいなことをしたんやろ……。




 ……そう言えば前も、サカン将軍の攻撃をかわすのに、とっさの助言をされたけど……。




 ふっと、そんなことを思い出してたウチの視界の隅を――素早い影がかすめた。


 今このとき、クローナハトの緊張が緩んだような、一瞬のスキを突くそれは――。



「スキありぃーーっ!!」



 道化師さんの相手を止めて、一旦こっちの方へと退いてきてた能丸さんやった。


 いかにも無防備なクローナハトの背後から、二刀を振りかざして奇襲をかける――!



 その動きは、ウチかって予想外やったし――これなら、って思ったら。




「……それも誘いだ、うつけが」




 まったく慌てる様子の無いクローナハトの声とともに。


 その背中側の何も無い空間から、いきなり、不気味に輝く闇色の刃がいくつも現れて――。



「――ッ!?」


 反射的に二刀で防御した能丸さんを、凄まじい速さで幾重にも斬りつけて後退させてしまった。



「ふむ……思ったよりはいい反応だな。普通に」


「普通って言うなっ!」



 もう一度突撃をかける能丸さん。



 対して、クローナハトが手をかざすと、また闇色の――さっきよりも大きい剣のような刃が現れ、能丸さんと激しく切り結ぶ。


 しかもその剣は、2つ、3つ、4つって――時間を追って5つまで増えてって……!



「うわ、わ、わわっ!!」



 攻めかかっていたはずの能丸さんを、剣たち自身が意志を持っているかのような巧みな連撃で、逆にどんどん追いやっていく。



「……能丸さんっ!」



 そうして、その動きを追っていくうち、視界から外れたクローナハトが――。



「そして……察しは悪い。普通に」



 気付けば、いつの間にかまったくの逆方向――能丸さんの真後ろにいた。



「――うそっ!?」


「もう遅い。普通に」



 能丸さんの背に向かって、クローナハトが手の平を突き出し――。



「普通普通って――!」



 振り返ろうとした能丸さんの身体を、カネヒラのときのように青い電光が走り抜けた。



「ふぎゃっ!?」



 ビクッ!――って、身体が跳ねたかと思たら……能丸さんはそのまま、地面にパッタリと倒れ込む。



「――能丸さんっ!?」


「安心しろ。お前よりは少々強めだが、麻痺させただけだ」



 ふん、と事も無げに鼻を鳴らすクローナハト。




 ……なんなん、結局――。


 結局、ウチら誰一人、一度も、指一本触れられへんかった――いうこと……?




「――おい、クローナハト!

 そろそろあの魔獣、起きてくるぞ……!」



 クローリヒトの言葉に、ウチも反射的にそちらに視線を向ける。


 クローナハトの……たぶん、魔法めいたチカラで弾き飛ばされてた魔獣は、ゆっくりと、身を起こそうとしてるところやった。



「……分かっている。

 今日はひとまず、アレを追い払ってやれば良いのだろう?」



 悠々と――。


 そんな表現がまさにピッタリな足取りで、クローナハトは。




「邪魔をする者は薙ぎ払ってでも――な」




 道化師さん、そして虎みたいな魔獣――。




 今度は〈救国魔導団〉が待ち構える方へと、漆黒のマントを翻して歩き始めた。






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[一言] 普通連呼はさすがに腹立ちますね(;'∀') にしても、麻痺……風邪引きさんには睡眠魔法かけてやるのが優しさではクローナハトよ(;'∀')
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