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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
8章 それが〈世壊呪〉なら、やはり勇者は悪役しかない
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第82話 それでも、戦いの夜はやって来る



「……で。朝岡(あさおか)、なんでお前までここにいる」



 あたしが、ベッドの上からジトーッとした視線を向けると……。


 さしもの悪ガキ朝岡も、バツが悪そうな顔で――助けを求めるように、すぐ脇の見晴(みはる)ちゃんを見た。



「だ、だから、そりゃ、見舞いだろ?

 ……ってか、オレも見晴に引っ張ってこられただけでさー……」


「うん~、そうなんだよぉ~」



 まったくゼンゼン気にした様子もなく、いつもの調子で……見晴ちゃんはニッコリ笑った。





 ――現在、時刻は午後4時過ぎ。



 学校が終わった見晴ちゃんは、なぜか朝岡まで引き連れて、うちにお見舞いに来てくれたというわけだ。



 一応あたしは、お兄が作ってくれたおかゆも美味しく食べられたし、アガシーが付いててくれたから、安心して寝ていられて……今はだいぶ調子が良くなってる。


 だから、ちょうど少しお話とかして気晴らししたいところだったし、お見舞いはすごく嬉しかったんだけど――。




 しかし、なぜに、よりによって朝岡……。


 よーちゃんとか、アキちゃんとか、コンちゃんとかいるでしょうに……。




 ……ちなみに、玄関で応対したアガシーも、


「アーサー……女の園たる後宮は男子禁制だぞ……?」


 なんて、最初はシブい顔をしていたみたいなんだけど……。



 朝岡が、今日の給食で出た白桃ゼリーを持ってきてたみたいで、それを差し出すと……途端に寝返ったらしい。



 ……食べ物であっさり懐柔されるとか、番犬としては最低レベルだなコイツ……。




「まあ……別にいいけどね……」


 ぼふっと、あたしはベッドに寝転がった。



 ……にしても、まさかお兄やパパ以外で、初めてあたしの部屋に入った男子が朝岡だなんてなあ……。



 まあ、もの珍しげにときどきキョロキョロしてるけど、余計なものに触ったりせず、大人しくしてるところは評価してあげよう……。


 勝手に探索とか始めたりしやがったら、思いっきり蹴り出してたところだ。



「……けどなんだよ、二人とも風邪で休みって聞いてたのに、軍曹はゼンゼンだいじょーぶそうじゃねーか」


「そりゃそうです。わたしは、アリナを看病するためにズル休みしただけですからねー。

 二人とも風邪ってのは、兄サマが気を利かせてくれた方便ってやつですよー」


「なんだよ、そっか……」


「ふふん? なんです、この超絶美少女軍曹が病床で苦しんでると思うと、いてもたってもいられなかったってコトですか?

 ぐふふ〜、()いヤツめ〜」


「そそ、そんなんじゃねーっての!」



 悪代官みたいな笑顔を浮かべたアガシーに、バシバシ背中を叩かれた朝岡が、恥ずかしそうに座ったまま距離を取って逃げていた。



 ――この悪ガキにしては珍しい反応だ。


 さすがに、(あたしの――とはいえ)女子の部屋で、さらに女子3人に囲まれてれば、いかにコイツでも普段通りとはいかないのかも知れない。



「ねえ、亜里奈ありなちゃん~」



 漫才というかコントというか……そんなやり取りを繰り広げてる朝岡とアガシーを尻目に、見晴ちゃんがすすっとあたしの側に近付いてくる。



「んー? なに?」


「アガシーちゃんと朝岡くん~、なんか~、すっごい仲良くなった気がするねぇ~」


「……もともとじゃない?

 おバカなところで相性良さそうだったし」



 見晴ちゃんの囁きに、興味なさげに答えながら――。



 でもあたしの目は、なんとなく、アガシーたちに釘付けになっていた。



「………………」



 朝岡については、確かにいつもの調子とは違うと思うけど……そもそも男子だから、正直よく分からない。



 でも、アガシーは――。



 ああそうだ、〈剣の聖霊〉とか関係なく、このコも女の子なんだ、って――そんな当たり前と言えば当たり前のことを、ふっと……でも強く、感じた。




 いつもと同じ――はず、なのに。


 どうしてだか違って見える……明るくまぶしい、その笑顔に。











     *     *     *




「…………あ…………」



 ふっと、目が覚めた。


 視界に映り込むんは……見慣れた天井。



「……ふう……」



 身体中が汗でじっとりしてて、ちょっと気持ち悪いけど……頭が重いんはだいぶマシになってる気がする。



 快復……言うにはほど遠いけど、少しは熱が下がったみたい。


 感覚からしたら、朝に測ったときは39度近かったのが、37度ぐらいになってる感じ……かな。



 ――ちらっと見えた窓の向こうは、もうすっかり暗くなってて……。



 うん……これだけ、ゆっくり休めたんは……。



 ウチは、感覚を確かめるように――キュッと左手に力を込める。


 そこには、ウチの手を包むみたいに握ってくれてる、ウチよりずっと大きくて力強い手の感触があった。



 ――優しくてあったかい、ウチを安心させてくれる、大好きな人の手。



「……赤宮(あかみや)くん……」



 握ってもらったときは、ちょっと冷たくて、それが気持ちよかったりしたけど……。


 ずっと長いこと繋いでたからか、すっかり熱くなって――。



 ……って……。


 赤宮くんの手、なんか、ウチより……熱くなってるような……?



 身体を起こして、すぐそこ、枕元――ベッド脇に座ってくれてる赤宮くんを見る。



 ……いつ頃からやったんか、赤宮くんも眠ってたみたい、やけど……。



「…………」



 ……そ、そういえば、赤宮くんが授業中に寝てるんとかは、ちょっと見たことあるけど……。


 ちゃんとした寝顔を、こんな間近で見るんは初めてやなあ……。



 ――なんて、ヘンに浮かれ気味やったウチやけど……赤宮くんの様子に、そんな考えはすぐにどっかにいってしまう。



 赤宮くんは――赤みがかった顔で、いかにもしんどそうにしていた。呼吸も荒い。



 ……え、これ……まさか、ウチの風邪が伝染(うつ)ったとか……?


 だ、大丈夫かな、熱とかどれぐらいあるんやろ――。



 心配になって、赤宮くんの方に手を伸ばしたら。



「――――ッ!!」



 ……それは、信じられへん速さやった。


 いつの間にか、赤宮くんの左手が、伸ばしたウチの手首を掴まえてて――確かに寝てたハズやのに、そのまぶたがちゃんと開いてる。


 さらに、その眼差しに一瞬、鋭く闘気めいたもんが宿った気がしたけど……。



 それもすぐに消えて……一転してすごい大慌てに、手首も離して謝ってくる赤宮くん。



「ご、ごごゴメン鈴守(すずもり)

 あぁ、その……寝ぼけてた、みたいで……!」


「う、ううん、だいじょうぶ……ちょっとビックリしたけど……」



 ――正直、一瞬、武術の達人を相手にしたみたいな緊張を感じたけど……。



 気のせい……やんな?


 うん、ウチかて、まだ熱で頭がちょっとボーッとしてるし……。



「……あぁ、くっそ、なにやってんだ俺……」



 珍しく、険しい顔でそんなことを言いながら……頭を振る赤宮くん。



「……だいじょうぶ……?」


「――え? あ、ああ、ゴメン……って言うか、鈴守の方は調子……どう?」



 表情こそ和らげて、ウチを見てくれるけど……その顔色は、正直良くなかった。



「うん、ウチは……赤宮くんのおかげで、ゆっくり休めたから……だいぶマシになった感じやけど……」


「そっか……うん、確かにちょっと元気になった感じがする。良かったよ」


「でも、今度は赤宮くんが調子悪そう……もしかして、ウチの風邪――」


「ああいや、そうじゃないって。伝染ったとして、こんなに早く症状なんて出ないよ。

 ……俺も、昨日結構ムチャしたからさ――思った以上に疲れてたってだけだと思う」



 ホンマに、なんでもないみたいに言うけど……やっぱりちょっとツラそう。



「ところで……今何時?

 なんか、外が暗くなってる気がするんだけど……」


「あ、うん……えっと――夜の7時半過ぎ……かな」



 枕元のスマホで確認した時間を伝えると、「あちゃー」とか言いそうに、赤宮くんは顔を手で覆った。



「看病に来てて、そんな時間まで寝てるとか、なにやってんだ俺……」


「そ、そんなことないよ。ウチかて今まで寝てたんやから……赤宮くんが手ェ繋いでてくれたから、安心して、ゆっくりと寝られたんやから……」


「あ……うん、ありがとう……そう言ってもらえると嬉しいよ。

 でも、こりゃまた……ゼッタイ、おキヌさんとかにボロクソ言われるなぁ……」


「そんな、しゃあないよ……赤宮くんも調子悪いんやし――」



 ――そう。


 それやのに、ウチの看病に来てくれるとか、すごく嬉しくて、でも悪いことしたな、って……。



 そう思ったウチは、ほんなら、今度はウチが看病してあげようって考えて――。



「あ、あの、赤宮くん……?」



 呼びかけるけど、返事が無い。



 赤宮くんは、なんか、心ここにあらず、みたいな感じで――視線を床に落としたまま、じっとしてる。


 あとなんか、「こんなときに……」って小さくつぶやいてた気もするけど……。



 とにかく心配になって、もう一回、ちょっと強く呼んでみたら……今度は反応してくれた。


 寝起きみたいに、ハッと顔を上げる。



「ホンマに、だいじょうぶ……?」


「あ、ああ、ゴメン。それで?」



「う、うん。あの……あのな、赤宮くん、しんどそうやし……その……うん。

 えっと……と、泊まっていったらええんちゃうかな、って……!

 ――ほ、ほら、うち、客間とか、結構空いてる部屋あるし!

 おばあちゃんもそうしろって言うと思うし、ウチも……そうしてほしいなって、思うし……っ」



 いつの間にか、ベッドの上に正座しながらウチは、恥ずかしくて視線は合わせられへんくて、うつむいたまま……思い切って。


 ホンマに思い切って、そんな提案をした。


 そうしたら、きっとウチの方が先に体調良くなると思うし、すぐに赤宮くんの看病、してあげられるから――って。



 赤宮くんのことやから、「うん」ってうなずいてくれるって――なんか理由もなく勝手に期待してたウチやけど……。


 ――でも。



 「ありがとう」って言うた次の瞬間、立ち上がった赤宮くんは――。




「でも――ホントにゴメン。

 今晩、これから、ちょっとした用事があるのを思い出したんだ」




 ホンマに申し訳なさそうに苦笑いしながら……ゆっくり、首を横に振った。











     *     *     *




 ……見舞いに来ていた二人も帰って、3時間近くが過ぎた頃。



「……ふう……まったく」



 ――高稲(たかいな)のオフィス街の方に、『結界』の張られた気配がある――。



 つい先刻、自らが察知したその異変を、裕真(ゆうま)に、思念による会話で伝えたアガシーは……小さくタメ息を吐きながら、亜里奈が横になるベッドの方へ戻ってきた。



「……また、〈呪疫(ジュエキ)〉とかが出たの?」


「いえ、結界の気配ですから……多分、〈救国魔導団(きゅうこくまどうだん)〉が魔獣を引き連れて〈霊脈(れいみゃく)〉の汚染でも進めようとしてるんでしょう。

 どちらにせよ、勇者様は向かうつもりのようなので、わたしも……」


「――うん、分かった。残った『身体』の方はあたしがちゃんと見てるから。

 まあでも、今日はうちだし、あたしももうちょっと寝てるから……見てる、ってほどじゃないかもだけど」


「……ふむ。動けないのをいいことに、このカラダにイケナイことを……ってのも悪くはないですが、そーゆーコトは、されるよりもしたいですし~……ぐへへ」


「――もう……またそんなこと言って」


「ま、とりあえず、気にかけてもらえればそれだけで安心ってモンです。

 じゃあ――ちょっくら、行ってきますね」



 答えて、アガシーはベッド脇のクッションに座り込む。



 途端に――外見で何が変わったわけでもないのに、人形のようになった、と……亜里奈は、二人で出かけた日の夕暮れどきのように、そう感じた。



「……いってらっしゃい、気を付けて……」



 もはや聞こえているかも分からない言葉を送り……改めて、目を閉じる亜里奈。


 とりあえず自分に出来ることは、二人が帰ってきたときこれ以上心配しないよう、しっかり元気になることだと……そう言い聞かせて、眠りに就く。





 ……そうして、しばらくの後。





「……………………」




 自ら、眠ろうと努力していたはずの亜里奈が――。


 そんなつもりは初めからなかったと言わんばかりの勢いで――。




 ……むくりと、上体を起こした。






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[一言] アリナ(の中身)「あなたの夜が来る」(ファン○イアのクイーン(ォィ これは波乱の予感(;'∀')
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