表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
8章 それが〈世壊呪〉なら、やはり勇者は悪役しかない
81/367

第79話 鬼のかく乱と言うなら、悪魔だって風邪を引く



 ――夜。すっかり人気が無いオフィス街の一画で――。



 魔獣を引き連れた〈救国魔導団(きゅうこくまどうだん)〉。

 能丸(のうまる)とシルキーベル。


 そしてこの俺、クローリヒトは……。



 今回もまた、三つ巴の戦いを繰り広げていた。




「……な、なんだか、いつもみたいなキレが、ハァ、ないですよ、クローリヒト……!」


「……そ、それを言うなら、フゥ、お前もな、シルキーベル……!」



 俺とシルキーベルは、互いの得物とともに、そんな言葉もぶつけ合う。



「つ、疲れてるんですか? 体調が、悪いんですか?

 それなら……フゥ、さっさと降参……した方が、いいんじゃないですか……っ?」


「お、お前もな……!

 調子が悪い、んなら、ハァ、さっさと帰って……寝たら、どうだ……っ?」



 俺たちは互いに、いつもと違って明らかに精彩を欠いた動きで――。


 けどだからこそか、俺も向こうもムキになってヤケクソ気味に、聖剣を、長杖を、何合も何合も打ち合わせ続ける。


 カネヒラとかいうロボ使い魔も、俺たちの剣幕にビビってるのか、手を出してこない。



 それにしても、クソ……はっきり言って頭が回らない。


 ついでに言えば、手も回らない。



 ……ああもう、こんなムダなことしてる場合じゃないのに……!


 このままじゃ、また魔導団の魔獣が、〈霊脈(れいみゃく)〉の汚染を終わらせちまう……!



 能丸のヤツも魔導団に邪魔されてるみたいだし、なんとかしなきゃなんだけど――。



 ああ……頭が重い。考えが巡らない。


 そもそも俺はたった一人だ、なにか思いついても手が回らない……。



 ……ああくっそ、シルキーベル、このガンコ者め……!


 頑張り屋でマジメってのは結構だが、調子悪いんなら素直にお休みしてろってンだよ、わざわざ俺の邪魔しやがって、ちくしょう……!



 同じ頑張り屋でマジメって言っても、やっぱり鈴守(すずもり)とはゼンゼン違うな!


 まったく、いっそ爪のアカでも煎じて飲めってんだ……!




「「 ……いい加減に……ッ!! 」」




 俺とシルキーベルが、妙なところでは気が合ったのか、互いに大振りの一撃を見舞おうとした――そのときだった。




「――ギャウッ!?」




 魔導団が引き連れてきた、虎っぽい魔獣が――いきなり。


 見えない車にでもはねられたみたいに、思い切り弾き飛ばされたのだ。



「「 …………っ!? 」」



 突然の事態に、動きを止める俺たち。


 そこへ降ってくる声――




「――交ぜてもらうぞ。これで、数的には同等というわけだ」




 その元を辿れば、街灯の上に、一つの人影があった。



 闇そのもののような漆黒のマントにすっぽりと身を包む、長く美しい銀髪をなびかせた、これもまた真っ黒な仮面で顔を隠した長身の男――。




 俺は……その姿に、見覚えがあった。ありすぎるほどに。




「あ、あなたは……何者、ですか……!」



 シルキーベルの、男に向かっての誰何(すいか)


 まるで、代わりに答えるように……俺は、小さく口の中でつぶやいていた。




「……ハイリア……!?」











     *     *     *




 ――同日、遡ること約12時間前。赤宮(あかみや)家――




「……38度。ものの見事に風邪だな。今日は学校休め」



 俺は、ベッドの中の亜里奈(ありな)から受け取った体温計を見て、汗で額に張り付いた前髪を払ってやりながら……努めて穏和にそう告げた。




 ――体育祭の翌日。


 さすがに昨日色々とムチャをしたせいか、俺も朝から身体がだる重かった。



 ……でもまあ、今日は月曜だけど振替休日だし、ゴロゴロしてればいいか……。



 そんな風にまどろみつつ、しかしそういう怠惰な生活態度に厳しい妹が、いつもの時間になっても起こしに来ないことを不思議に思い、部屋を訪ねてみると……。



 とっくに制服に着替えていてもおかしくない亜里奈は、けれどまだパジャマのまま――赤い顔をしてベッドの中にいた、というわけだ。



 ……ちなみに、父さんは仕事、母さんも朝早くから出かけていて……アガシーは朝食当番として、下で準備の真っ最中。


 多分亜里奈が、自分の不調に気付きつつも、すぐに行くから準備しててくれ、ってなことを言ったのだろう。


 しかし体調は改善どころか、悪化の一途を辿っている……と。



「……でも……学校、休むのは……」


「そんな泣きそうな顔して、でも、もないだろ。

 昨日はずっと俺たち年上ばっかりの中にいて、いろいろ気も遣ったろうし、お前にしちゃ結構はっちゃけてたから……その疲れがいっぺんに出たんだろうな」



 俺がそんな風に声をかけていると、軽快に階段を上がってくる音がして……。


 すぐにドアが開き、アガシーが顔をのぞかせた。



「アリナ~、どうですか~――って、おや、勇者様。

 実の妹に夜這い……ならぬ朝這いですか? TPOってのを考えましょうよ……」


「……お前もな」


「はっはっは、ま、冗談はさておき……アリナ、どんな感じです?」


「ああ。熱が38度もあるし、今日は学校休ませるさ。

 母さんも父さんもいないけど、ちょうど俺も今日は体育祭の振替休日だしな、俺が看てる」


「……いいよ、お兄……あたし、だいじょぶ……」


「こんなときは素直に甘えてりゃいいんだよ。たまにはアニキらしいことさせろ」


「うん……ごめん……」


「そこはありがとうだな――って、いいから、いちいち真に受けて言い直さなくていいから、大人しく寝てろ。……まったく」



 俺は亜里奈を安心させる意味も含めて、笑いかけながら立ち上がった。



 風邪ってのは身体の免疫反応だから、ヘタに風邪薬を飲まない方が治りが早いって話も聞くが……。


 まあ……この後、医者に連れて行くにせよ、市販の薬を飲ませるにせよ、体力つけるのが先決だろう。



 ……ってわけで、まずは定番のおかゆでも作るか……。



 そんなことを考えていた俺を、気付けばアガシーがじっと見上げていた。



「……治療魔法使えば一発なんじゃないんですか?」


「いや……ムリだろ。あれは毒素やらケガやら、外的要因に対するもんだからな。

 まあ、自然治癒力を高めるものなら効果はあるかも知れないが……あれだって、身体のあるべき状態に無理矢理手を加える、一種の劇薬みたいなもんだし。

 俺みたいに、慣れて身体が適応してたり、そもそもの体力があるならまだしも……こっちの世界の一般人、しかも身体も出来てない子供の亜里奈じゃ、逆にこじらせたりしかねないだろ。

 ……ってわけで、その案は却下だ」


「ふむ……まあ確かに。

 よし、それじゃーわたしも、学校休んでアリナの看病ですよ!」


「いや、お前はメシ食ったら学校行けよ……」



 あんまり病人の側で騒いでも良くないので、俺はアガシーを連れ、ひとまず亜里奈の部屋を出て台所に向かう。



 ……さて……と。



 ショウガなんて使えば、あったまって身体にも良いんだろうが……亜里奈、ショウガはあんまり好きじゃないからなー……。


 どういう味付けにするべきか……うーむ……。



「……勇者様」



 おかゆの方向性について考えながら冷蔵庫を開ける俺に、背後からアガシーが声を掛けてくる。


 思わず振り返ったのは、声にちょっと真剣な様子があったからだ。



「……なんだ? のんびりしてると遅刻するぞ?」


「だから、わたしも休みますって。

 ……勇者様だって今日、あんまり調子が良くないんでしょう?」



「…………分かるのか」


「まあ、魂が契約で結ばれちゃってますからね。……ある程度なら」



 ふむ……まあ、そりゃそうか。


 隠し立てするほどのことでもないんだが……。



「……なら、分かるだろ?

 俺はちょっと疲れが溜まってる程度だ、不調ったって大したもんじゃない。

 昨日みたいな猛ダッシュとかはカンベンだが、亜里奈の看病ぐらい問題ねーよ」


「ふむ――なら、それはひとまず良しとしましょう。

 ……しかし、問題はまさにその『看病』にもあるとお気付きですか!」



 とりあえず梅干しはあったし、梅がゆにするか……。


 そう決めた俺に、なおもアガシーはまとわりつく。



「……なんだよ、問題って」


「あのですねえ、アリナは女の子なんですよ?

 汗をかいた身体をキレイに拭いてあげたり、着替えさせてあげたり……誰がするっていうんですか?」


「そりゃ、自分でやるのがツラそうなら、俺が――」



「だーかーら、それが問題だって言ってるんでしょーが!」



「……いや、見ず知らずの他人ならともかく、俺、アイツのアニキなんだけど」


「キサマの頭はゴブリン以下か、このクソへっぽこ新兵(ルーキー)め!

 お年頃のアリナの気持ちを考えろと言っている!

 いくらアニキだろーと、男にハダカ見られたいわけねーだろーが!」


「……むう……」



 ……言い方はムカつくが……まあ……確かに。


 考えてみりゃ、亜里奈も来年は中学生だもんな……そりゃ、そういう恥じらいってやつもあるか……。



「……じゃあ、誰が世話をするんだ?」


「――そそっ、それはモチロン、ここ、このBIGなsay! ray!たるわたしがですねえ、精魂込めてすみずみまで、こう、てて、丁寧に丹念に……ッ!

 ぐへ、ぐへへ……!」


「どう見たってお前の方が、犯罪臭漂うヤバさじゃねーか……」



 手をアヤしくわきわきと動かし、アヤしい笑いを浮かべるさまは、聖霊どころか『性霊』って感じだが……。


 確かに実際問題として、どんだけオヤジっぽくても、一応、なんとか、かろうじて――生物学的分類上は『女』であるコイツがいた方が、亜里奈にとっても、いいかもな……。



「……わーかったよ。そこまで言うなら休んでいいぞ、学校。

 ただし、学校への連絡は俺がまとめてしてやるけど、母さんには、あとでちゃんと自分から――」



 報告しろよ、と続けようとした俺を遮って……ジャージのポケットで電子音が鳴り響く。



 ――俺のスマホだ。取り出してみると……



「……おキヌさん?」



 画面を見る限り、おキヌさんからの電話らしい。


 ……昨日の今日でいったいなんなんだ、またなにかとんでもないことやらせるつもりじゃないだろーなー……。



 そんな、ちょっとした恐怖を感じながら、俺は電話に出る――。



 ――そう! なんと、すんなり電話に出られるのだ、今の俺は!


 いつまでも文明の利器を扱えない珍獣(UMA)と思うなかれ……!

 日々進化しているのだ、この俺も!


 まあ……メールとかになるとまだまだハードル高いんだけどな! はっはっは!



『……おーい、赤みゃーん! 聞こえてるかー!』



 ……はっ!?

 おお、いかんいかん、ついつい自分の成長に酔いしれてしまっていた……。



「あ、ああ、ゴメンおキヌさん。大丈夫、聞こえてる。

 ……で、なにか用?」



『うむ、実はだねー…………』



 おキヌさんはなにかもったいぶった様子で……。


 しかし同時に、なにか楽しんでいるかのような調子で……続く言葉を告げた。




『――おスズちゃんが、風邪引いてダウンしてるんだってさ?』






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >風邪ってのは身体の免疫反応だから、ヘタに風邪薬を飲まない方が治りが早いって話も聞くが なろう界のオクスリソムリエ優月茜さん曰く、漢方薬とは、症状を治すのではなく、服用者の肉体を症状に対抗し…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ