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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
7章 勇者たちの、記憶にも記録にも残りそうな体育祭 (後編)
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第66話 前衛系な彼女、落雷に果てる!?



「うおお……っ!

 あのねーちゃんスゲーな、かぁっけーっ!!」



 ――戦場を飛び回り、次々に白組の騎馬を撃破していく千紗(ちさ)さんの勇姿に、朝岡(あさおか)は大興奮だった。


 ふっ、目をキラキラ輝かせちゃって……お子さまだなあ……まったく。



 ちなみに、あたしはお子さまではなく、タダの『子供』。


 ちょっとの違いが大違い。



 ……でもまあ、朝岡の気持ちも分からなくもない。


 千紗さんのアクションスターばりの、すごくカッコ良くて華麗な動きには、あたしだって少なからず感動してたから。



「ふわああ~……!

 千紗お姉ちゃん、スゴいね、スゴいねぇ~!」



 目をキラキラさせてるのは、見晴(みはる)ちゃんも同じなんだけど……。


 このコのは神聖でピュアなそれだ。

 まったくもって問題ない。アリなのだ。


 ――人、これを区別という。



 一方で……。



「うおおぉーーっ!

 なぜ……なぜ体操服とはスカートではないのかっ!! なぜにィっ!!」


「そりゃ、あなたみたいなヘンタイがいるからじゃないの?」



 クラスの応援旗を振りながら、欲望で真っ黒なシャウトをする聖霊サマには……。


 その頭を、丸めたプログラム表でパカンとやってあげる。



「――ていうか、あなたが好きなのは幼い女の子じゃなかったっけ?」


「それはそれ。これはこれです。

 ……ほら、あるじゃないですか、なまじ素っ裸より、むしろチラリと――」


「黙れゲス」



 あたしは半ば反射的に、側に置いていた水筒でアガシーの鳩尾(みぞおち)を貫いていた。



「――うぼぅふっ!?」



 その美少女な姿からは有り得ないうめきをもらし、ヒザを折って悶絶するアガシー。


 ……それでも、応援旗を振るのを忘れないところだけはリッパだ。



「公衆の面前では発言に気を付けろと何度言ったら分かる。キサマの脳ミソはノミ以下か?

 いい加減学習しろ軍曹」


「い、いえしゅ、まむ……」



「「 お、おお~……っ! 」」



「ん? ねえ亜里奈(ありな)ちゃ〜ん。

 今の亜里奈ちゃんの『罵倒(ばとー)』聞いてぇ~、何人かの人たちが仲間になりたそーにこっちを見てるよ〜?」


「うん見晴ちゃん、そんな具体的な意味の視線は存在しないからね、気のせいだからね、スルーしようね……ハイ、こっち」



 あたしが見晴ちゃんのピュアな視線をトラックの方に(物理的に)戻すのに合わせて、意を汲んでくれたのか……クラスの女子の人たちが、鼻息荒い男子の人たち数人を、首根っこつかまえてどこかに引きずって行った。


 なんか、『我らが共有財産に(よこしま)な目を向けた罪は死刑に値する』……とか言ってた気もするけど、深くは追求しない。


 うん……男女問わず、みんないい人たちではあるんだけどね……。



 さて、気を取り直してお兄たちを応援しなくちゃ――。



 そう思ったあたしは、だけど……なぜだろう。


 ふと、逆方向に首を巡らせて……校舎の方……ううん、さらにその向こう、裏山みたいに小高く広がる雑木林の方に目を向けてしまっていた。




 なんだろ……何か……ざわつく……? 気のせい……?




「……アリナ? どうかしましたか?」


「え? あ、ううん、なんでも。

 お兄の学校って、意外と自然に囲まれてるんだなー、とか思っちゃって」



 アガシーの問いかけをはぐらかし、あたしはあわててグラウンドの方に視線を戻す。



 すると……本当にただの気のせいだったみたいで……。


 すぐに、裏の雑木林のことなんて気にならなくなっていた。










     *     *     *




 ――おキヌさんの騎馬を足場に、白城(しらき)を落馬させた3年の騎馬に飛びかかる鈴守(すずもり)


 一方、対する3年生も――それを迎え撃つべく、宙を見据えていた。



「後輩のカタキ――取らせてもらいますっ!」


「アンタも――調子に乗るなってのっ!!」



 飛び乗った鈴守を、いっそ叩き落としてしまえと初めから考えていたのだろう――。



 3年の騎手は、あろうことか……。


 上半身を倒しつつ、その勢いのまま両腕で、思い切り――着地したばかりの鈴守の足を薙ぎ払いにかかった!



「!――鈴守っ!」



 狭すぎる騎馬の上だ、いくら何でもかわしようがない……!



 そう見て、思わず声を上げる俺だったが――。




「――――ッ!」




 なんと、鈴守は――――そこでもう一度、軽やかに跳んだ。




 足を薙ぎ払いにきた騎手の頭上を、側転するように飛び越え――その最中にハチマキすら奪い取り――。


 先頭の騎馬の肩に、片足、しかも爪先だけで……ものの見事に着地してみせたのだ。




「……う、そ……?」



 当の3年生も呆けるしかない、すさまじい精度の身のこなし。



 あまりの美しさに、俺まで思わず見惚れそうになる――が。



「――赤みゃんっ!!」


「分かってる!!」



 おキヌさんの一声に応えつつ、俺はイタダキと(まもる)を引きずるように走り出す。



 ――白組の大将騎は、ほぼ同時に、味方によって撃破されていた。


 つまり、この時点で白組は全滅。



 あとは――。



 競技終了の合図が入るより早く、鈴守が俺たちの騎馬に戻れなければ……失格になる!



「……くそっ!」



 直線距離で向かえれば大した距離じゃないのに……撃破された騎馬がそこかしこにいる以上、迂回して近付くしかない。


 騎馬を組んだまま、必死に駆ける俺たち。



 一方――。


 ハチマキを奪った騎馬にいつまでも乗っているわけにはいかず、さらにその不安定な体勢から、もはや仕方なく……。



 鈴守は片足で、それでも少しでも俺の方へ近付こうと――最後の跳躍をした。



「――鈴守……っ!」



 くっそ、この距離は……!


 ……ヤバい……っ! ギリギリで……間に合わない……ッ!?



 最悪、失格になるのは承知の上で、イタダキと衛を切り離して受け止めに滑り込むか――!?



 そんなことを考えた瞬間――。


 そのイタダキと衛のスピードが、わずかながら……増した。



「ぅぅらあああっ! 足手まといになんざ、なってたまるかってんだあぁっ!

 ――いいな、裕真(ゆうま)ぁっ! 3・2・1でGOだからな!」


「3・2・1だよ! いいね、行くよっ!!」



 ……やってくれるじゃねーか、コイツら……!



 俺を後ろから突き飛ばすばかりの勢いで、猛烈なラストスパートをかける二人に、俺も応じて――さらに、一気に、スピードを上げる!



「――よし、行くぞ! 3――」

「2ぃっ! あ、ヤベ、ちょっと遅――」

「1ッ!! いいよもう!」



「「「 っらああああっっ!! 」」」



 俺たちはピッタリ(?)にタイミングを合わせ、騎馬を組んだままのスライディングで――鈴守の着地点に滑り込む。



 それでも、ほんのわずかに足りないと見た俺は――!



「鈴守ぃっ!」



 思いっきり片足を伸ばし、それを上に蹴り上げた。



「――うんっ!」



 鈴守は、蹴り上げた俺の足をさらに蹴り、お互いの勢いを利用して小さく跳ね――。


 俺を――抱きついてくるような軌道で、ギリギリで飛び越えて。



 見事……俺たち騎馬の上へと、転がり込んだ。




 ……い、いい、今の――か、顔!

 鈴守の顔、め、メチャクチャ近かった……!


 ど、ドキドキしたぁ〜……っ!




「よーしお前ら……立てるのか!?」



 俺が、色んな意味でバクバク言ってる心臓を必死になだめていると……。


 審判役の先生――『借り物競走』のルール変更の際、おキヌさんと取っ組み合いの果てに、何か友情を育んでたっぽいあの体育の先生だ――が、俺たちに確認を取る。




 ……一息ついた俺たちは、顔を見合わせると、ニヤリと笑い……。


 せーの!――で、すっくと立ち上がってやる。



 それに合わせて、鈴守が奪ったハチマキを高々と掲げると――。




「「「 うぅおおおおーーーっっ!!! 」」」

「「「 おねーーーさまーーーッ!!! 」」」



 なんか色々混じり合ったすさまじい歓声が、会場中で沸き起こった。




「――っしゃあああっ!!」



 その反応に、俺たち4人は騎馬を崩すと……あらためて、両手でハイタッチを交わし合う。



「やった、やった!

 赤宮(あかみや)くんもイタダキくんも国東(くにさき)くんも、ありがとう!」


「おう、鈴守もお疲れさま! 最高だったよ!」


「へっ、ったくよぉ……!

 ヤロー同士、ずっと手と肩を組んでるとか、こっちはサイアクだったけどな!」


「なーに言ってるのさ、一番必死に走ってたくせに!」



 輪になって笑い合う俺たち。


 そこへ――。



「みんな……!」



 大将騎のおキヌさんも近付いてきて、一緒に喜びを分かち合う……!









 ――と、思いきや……。




 騎上のおキヌさんは……泣き笑いのような表情で俺たちを見下ろしたまま……頬をぴくぴくと引きつらせていた。



 ……おう? おキヌさんよ、ダークサイドに堕ちたのかってぐらい、目元に濃ゆ〜い影が差してるぞ?


 ついでに……あれ、これ、笑ってないぞ? ヤバいぐらいに目がマジだぞ……?



 ……え? なんで?



 俺、鈴守、イタダキ、衛の4人は、まったく同じように疑問符を浮かべて顔を見合わせるが……。



 そこに――まさしくそうとしか形容出来ないぐらいの……おキヌさんのカミナリが落ちた。




「こぉンのっ…………揃いも揃って、ド阿呆どもがあぁーーーっ!!

 最終点呼前に騎馬を崩す、って……なぁーーーにを……っ……!


 なぁぁーーーにを、やっとるんじゃあぁぁぁーーーっ!!」




「へ? 最終、点呼……?」



 俺たちは、ゆっくりと周囲を見回す。


 そして、他の紅組の騎馬が、まだみんなそのまま静かに立っているのを確認して……。



 そこで、いち早く、鈴守が「あ」と声を上げた。


 鈴守にしてはあまりに珍しい、乾いた笑みがその顔に浮かぶ。



「あ、あは、あはは……。

 い、生き残った騎馬を、最終点呼して……それで競技終了……やった。

 やから……その、ウチら……」


「へ? お、おい、それってつまり……!」



 呆然とする俺たちのもとに、さっきの先生がつかつかと歩み寄ると……。


 鋭い笛の音を響かせ――ビシッと指を突きつけた。



 そして、情け容赦なく一言。





「2-A、失格な」






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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっとぉぉぉぉーーーー!? 最後の最後でぇぇぇぇーーーー!!
[良い点] モロ見えより、見えそうで見えないチラリズムこそが最高にエロいと、夕立も思うのです。 わかっているじゃないか、アガシー。がしっ(握手)
[一言] (;'∀') 最終点呼……ww 自分もやりそうです orz 義経が赤とかが面白かったです (`・ω・´)ゞ
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