第65話 前衛系な彼女、戦場を蹂躙す!
――落馬した白城を救うべく、陣形を崩して突出した、おキヌさんの大将騎。
そして好機とばかり、その撃破を狙って一斉に進軍を開始する白組……。
俺を踏み台に、思い切り跳躍した鈴守は――。
狙い通りに、そんな列を成す白組の、最後尾の騎馬へと飛び移った!
「え、なに――――って、うええっ!?」
「まず一騎っ!!」
まさかの事態に混乱する(そりゃそうだろう)白組の騎手から難なくハチマキを奪い取り――鈴守はさらに前方、次の騎へと飛び移る。
「えええ!?
う、ううウソぉぉっ!! そんなのアリぃぃっ!?」
「ゴメンな、二騎めっ!!」
一瞬で二騎めのハチマキを奪取、さらに三騎めへと跳躍する鈴守。
――それに合わせて会場も、すさまじいまでの盛り上がりを見せる。
今度こそハッキリと、この騒がしい戦場にあってもその歓声の中に「おねーさまー!!」という黄色い声が混じってるのが分かった。
まあ、そりゃあなぁ……。
こんなアクションスターみたいな動き見せられりゃ、そりゃボルテージ上がるよなあ……。
「すっげえな鈴守! なんだアレ、アイツ忍者の末裔とかか!?」
「男装はショタ王子より、牛若丸の方が似合いそうだね!
まさに八艘跳びだよ!」
衛のそれは言い得て妙だが、俺たち紅組だから、むしろ平家なんだよなー……。
それに八艘跳びって、確か舟から舟を跳んで逃げ回る様子だったような……。
……いやまあ、そんなことはどうでもいい。
ともかく、俺たちの役目は、鈴守が落ちないよう……そしていつでも回収出来るよう、ひたすら追いかけ続けることだ。
「ムダ口叩く余裕があるなら、しっかり付いて来いよ!
俺たち騎馬が崩れても失格なんだからな!」
後ろの二人にハッパをかけ、足並みを合わせて、俺たちは鈴守を追って走る。
騎手はいないんだから、ハチマキの心配をする必要は無い。
そして……。
当然というか……白組の大将の目は、戦場を舞い跳ぶ鈴守に釘付けになっているようだった。
「――な、なんなのよ、あの子……!?
し、白組、みんな距離を開いてッ!! 近いとあの子に飛び移られるよッ!!」
鈴守が電光石火で三騎めを潰したところで、白組大将は全軍に指示を飛ばすが……。
それですぐにどうにか出来るわけもなく、すでに鈴守は四騎めに飛び移っていた。
しかし……さすがに向こうも警戒し始めているので、一瞬でハチマキをかっさらう、というわけにはいかない。
いかに鈴守が、腕の差し合いでは圧倒的な強さを誇るといっても、相手ががむしゃらになれば、狭くて不安定な足場のこと、多少なりと時間がかかる。
それでも、『多少』で済んでしまうあたりが、またさすがなんだけど……。
そのわずかな攻防の時間はしかし、白組各騎が大きく間を開けるには充分だった。
鈴守の跳躍力をもってしても、次の騎馬には届かず……。
このままだと、失格になった騎馬が崩されるのに合わせ、鈴守も地に沈むことになる――。
……だけど!
そう、それは――『このままだと』だ!
「――鈴守ぃっ!」
猛ダッシュで何とか鈴守に追い付き、前方に回り込んだ俺は、大きく叫ぶ。
なぜなら……このために、俺たちがいるんだからな!
「ありがとうっ!!」
すぐさま、俺たちの騎馬へと飛び移った鈴守は、礼の一言を置いて、俺を足場にさらに次の五騎めへと飛び移っていた。
「ふぃ〜……なっかなかキツいな、こりゃあ……!」
「ま、まだまだこれからだよ? イタダキ……!」
イタダキと衛が、少し荒くなった呼吸を整えている。
――そうだな、今回はなんとか上手くいったが……。
向こうは依然、騎馬の間を大きく取ってるし……イタダキたちの疲労を考えても、常に全力で追い続けるのは厳しいか……?
さあ、どうする……?
……などと、俺が思考を巡らせていると――。
白城を助けに行って以来、そのまま逃げに回っていたおキヌさんが……いきなり、その動きを止めた。
そして――
「ぬっふっふ〜……間を離せばいい――だあ?
そんな腰抜け戦術を選んじまっちゃあ、勝ちの目は逃げていくばかりってもんよ!!
――紅組全軍っ、今こそ守りを固めて転進ッ!!
そーら、白組の皆さん……お望みの大将首はここですよーーーだ!!」
味方に指示を飛ばすや、なんと大将騎たる自らも転進――追いかけてくる白組と相対するように、逆に自分からその距離を詰めたのだ!
追っていた大将騎が前に出てくるとなれば、当然、白組の先頭はそれに合わせて足を止める。
いきおい、続く騎馬との距離は詰まる。
しかも、それでも距離を保とうとする騎馬がいても――その隙間には、守りを固めて突っ込んできた紅組の騎馬が、強引に割り込む形となった。
結果、離れるばかりと思われた戦場の騎馬が――密集していく……!
「おおおっ!? やるじゃねーか、おキヌ!」
「でも、ある意味これって捨て身だよ。おキヌさんがどれだけ凌げるか……!」
衛の心配ももっともだ。
だが……おキヌさんも、ここが勝負どころと手を打ったんだ。信じるしかない。
おキヌさんを、そして――鈴守を!
「――これで五騎! 次っ!」
おキヌさんの妙手により、また各騎の間が詰まり――加えて、紅組の騎馬という足場も得た鈴守は、飛び石を渡るように軽やかに、六騎めに襲いかかる。
そこへさらに、おキヌさんは、必死に自らの身を守りながら……鈴守の活躍によって、紅組が数的優位に立ち始めたことを利用し、余裕が生まれた騎馬へと素早く指令を下していた。
「2年の二騎! 3年左翼の一騎!
――今だ! 向こうの大将騎を追い立ててやれッ!!」
「「「 了解ボスっ!! 」」」
「――なっ!?
……ううっ……! 一旦、距離を取るよ!」
さすがに三騎を同時に相手にするのは分が悪いと踏んだのだろう、おキヌさんの指示を聞いた白組の大将騎は即座に逃げを打つ。
一方、他の残った白組の騎馬は、その様子を見て、どうするべきか混乱しているようだ。
――それはそうだろう。
まず基本として、自分のハチマキが奪われないよう、近くにいる紅組の騎馬を警戒しなければならないのに、加えて、鈴守の規格外の奇襲にも備えなければならず……。
その上、せっかく追い詰めた大将騎を攻めているところだし、かと言って、自軍の大将騎の危機も放っておけない……。
やるべきことが多くて慌ててしまい、その優先順位をとっさにつけられないのだ。
そこで、差し当たって目に付く近いところから――と、考えなしに、おキヌさんの方に意識を取られているがゆえに、彼らは足が止まってしまっていた。
そして、それは――まさに鈴守にとっては好機だ。
疾風怒濤の勢いで、六騎、七騎と立て続けにハチマキを奪い取り……。
その撃破に合わせて、さらに手空きになった紅組の騎馬が、おキヌさんの号令一下、白組の大将騎の追撃に順次加わっていく。
その様子に、一気に危機感を募らせたのだろう……。
今さらながら、大将騎の援護に向かおうと不用意に転進した白組の一騎が――そのスキを狙っていたらしいおキヌさんの、背後からの奇襲によって撃破された。
「――今だ、行けっ! おスズちゃん!!」
「うんっ!」
そのおキヌさんたちの騎馬を足場に、鈴守は、今まさに追い詰められている大将騎を除く、白組最後の一騎――。
白城を落馬させたという、3年の騎馬へと……襲いかかった。