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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
7章 勇者たちの、記憶にも記録にも残りそうな体育祭 (後編)
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第63話 気が付けば、末は王子かお姉サマ



 ――と、いうわけで……昼休みも終わり、午後の部が始まった。



 午前ラスト、おキヌさんの三輪車レース勝利もあって、また少し追い上げた我ら紅組だが、いかんせん、まだその差は大きい。


 しかし……それでも、ぶっちぎりの大勝間違いなしと踏んでいただろう白組の方からすれば、想定外の点差には違いない。

 なんせ、逆転の目が充分に残ってるぐらいなんだから。


 もちろんそのためには、『騎馬戦』と、ラストを飾る『長距離リレー』――点数が大きいこの二種目はゼッタイに落とすわけにはいかない。




 そして――。


 紅白双方の、『ちゃんとした』応援団による応援合戦(アガシーが飛び入りしようとしたが、亜里奈(ありな)によって阻まれた)と、点数には関係ないクラブ対抗レースという、午後一番のお祭り的プログラムを経て……。



 まさに天王山とでも言うべき、騎馬戦の時間がやって来たのだった。




 うちの学校の騎馬戦は、全学年、各クラスから4人一組の一騎ずつが出場となり、そこへ、紅白両組に選抜された大将騎が一騎追加……これが基本構成となる。


 つまり、紅白双方が、3学年×3クラス+大将1の、全10騎――人数で言えば互いに40人がぶつかり合うわけで……結構大きな戦いと言えるだろう。



 この10騎対10騎で、制限時間10分の中、上に乗る騎手のハチマキを奪い合い……最終的に生き残った騎馬の数で点数を決める、というのが基本ルールだ。


 中でも大将騎は、潰されたら即負け、ってわけじゃないものの……割り当ての点数が非常に大きいので、味方の大将騎を守りつつ、いかに敵の大将騎を負かすか――というのが重要になってくる。



 ちなみに……うちの騎馬戦は男女混合なので、全騎において、女子が上に乗る騎手を、男子がそれを支える騎馬をやることになっている。



 なので、うちのクラスは……。


 俺を先頭に、イタダキ、(まもる)が三角形になって騎馬を組み――その上に、裸足になった鈴守(すずもり)が颯爽とまたがったんだが……。



 その瞬間――なんか、紅白問わず学年問わず、普通の声援とは違う、女子の黄色い声があちこちから沸き起こる。



「なんだか……『おねーさまー!』……とかって聞こえない?」


「でもよー、鈴守の見た目なら、どっちかってーと妹じゃねーの?」



「むっふっふ……!

 ウタちゃんの情報によるとだねえ、今、おスズちゃんファンの女子が急増中らしいのだよー」



 衛とイタダキの疑問に、3学年混成の騎馬にまたがったおキヌさんが答える。



 ……そう――。


 紅組の大将騎として選ばれたのは、我らがおキヌさんだったのだ。



 もちろん、そのリーダーシップを買われたってのもあるが、なんせ体型が体型だけに、圧倒的に軽いからなあ……。


 最悪、逃げ回ってでも生き残るのが大事な大将騎として、これほど相応しい人選もないだろう。



 ――っていうか……この人、今何て言った?


 ファン? 鈴守の……? しかも女子?



「……え、なんなん? ウチのファン――て」



「いや〜、だってさ?

 『略奪競走』で、単に守られるだけのお姫さまかと思いきや、とんでもない大活躍したっしょ?

 今まさに、『カッコイイ!』って、下級生を中心に人気急上昇中みたいなんだよ。

 もうすでに、ショタ王子的男装が似合いそう……なーんて、アンケート結果まで出てるらしいから」


「――なんなんそれっ!?」



 温厚な鈴守が、珍しく素っ頓狂な声を上げる。



 まあ……気分は分からなくもないな。


 鈴守と……ファンだって女子と。どっちの気も。



「さらに……漫研女子の間じゃ早くも、男装おスズちゃんが攻めで、赤みゃんが受けってマンガのプロットが起こされてたりとか……」


「――なにそれっ!?」



 ……素っ頓狂な声を上げたのは俺もだった。



 ヤバい……そんなモン、アガシーが存在を知ろうものなら――


 『予約! 予約ですよムフー!』


 ……とか、目ェ血走らせて言い出しかねないぞ……。



「あ、ちなみに、アタシゃもう予約したんだけどな!」


「「 するなっ!! 」」



 俺と鈴守のツッコミは見事に重なった。


 それ自体は嬉しいが……しかし素直に喜べん……!




「あはははっ! でもそれ、わたしも読んでみたいかもですー」




 後方から投げかけられた、そんな聞き覚えのある声に振り返ると……。



 そこには、騎馬にまたがった白城(しらき)がいた。



 おお……そっか、白城も騎馬戦の出場者だったのか――って、いや、その前に。


 言うに事欠いて、コイツもまた何を言い出しやがる……。



 白城は、キチンと、まずはイタダキたちやおキヌさんに初めましてと挨拶してから、あらためて俺に笑いかける。



「――ね、いいですよねセンパイ?」


「カンベンしてくれよ……タダでさえ今日はとんでもなくこっ恥ずかしい思いしてるのに、なんで、この上さらに辱められなきゃならんのだ……」


「……でも、鈴守センパイは興味ありそうですけど……」



 白城の一言に、俺はガバッと首を反らして上を見る。



「え――そうなの鈴守!?」


「え!? そそそそ、そんなことないよっ!?」



 引きつった笑みを浮かべながら、鈴守は必死に首と両手を横に振っていた。



 ………………。


 じ、実はあるのか……興味。そうなのか…………。



 そこへ、おキヌさんがよいしょと身を乗り出し、そんな鈴守の肩を優しく叩いてサムズアップ。



「……アタシに任せな、おスズちゃん!

 ――それに、後輩ちゃんも!

 『略奪競走』のとき頑張ってくれたからな、アタシのツテで入手ルートを確保しておいてあげよう!

 ……ってわけで、合わせて3部予約けってーい!」


「ホントですかっ? やった、ありがとーございまーす!」



 続けて、白城ともにこやかに握手を交わす。



 むぐぐ……鈴守が認めるってんなら、もはや俺に否定する道理は……っ!



「……素直に諦めろ、な、裕真(ゆうま)


「もう有名税みたいなものだと思ってさー」



 葛藤する俺に向かって、したり顔でウンウンうなずいてくるイタダキと衛。


 そうかと思うとコイツらは……。



「――あ、ついでにオレも1部もらっとこうかな。

 別に読みたかないけど、裕真脅すのに便利そうだし」


「あ、僕も僕も。ラーメンおごってもらうのに使えそうだし」



「お〜ま〜え〜ら〜な〜……っ!」



 騎馬を組んでなきゃ暴れてやるところだが……それが出来ない俺は、精一杯の怒りを声にこめて野郎どもを脅しつける。


 もっとも……そんなモンで怯むような可愛げのあるヤツらじゃないんだが。



 しかし――幸いにも(?)野郎どもの邪悪な意図に基づく購買希望は、「男子禁制!」というおキヌさんの一言によって、ピシャリとシャットアウトされた。




 ……一方で、そんなバカなやり取りをしているうちに、競技開始の時間が近づいていたらしく――。


 準備に入れと言わんばかりに、場に、鋭い笛の音が鳴り響く。




「おっとっと……そろそろ時間だねい。


 ――それじゃ〜紅組の諸君!

 このアタシの指示通りに、陣形を組んでもらうぜー!」




 ――気持ちを切り替えたらしいおキヌさんは、紅組の騎馬に指示を出しながら……大将騎たる自らは、中央やや後方に退がっていく。


 その前方、敵陣に対しての壁になる中央には3年の騎馬を集め、俺たち2年が左翼、白城たち1年が右翼を担う形になった。



 大将騎を狙う敵を中央が食い止めている間に、機を見て、右翼と左翼が切り込み、相手の側面を突く……といった運用を狙っているようだ。



 もっとも、向こうもそれぐらい理解しているはずだし、とりあえずは同じような陣形を組んでいるので、そうカンタンにはいかないだろうが。



 それに……俺一人ならともかく、『騎馬を崩すと脱落』という騎馬戦の基本ルールがある以上、今回は、イタダキや衛の動きに合わせる必要がある。そうそうムチャは出来ない。



 そんな中、俺たちに他に無い強みがあるとすれば――。


 鈴守が、間違いなく騎手として最強クラスの実力者だってことだ。



 つまり、俺たち騎馬が崩れたり、ヘタな動きをしなければ……騎手同士の差し合いなら、そうそう負けはないはず。


 ……と、なると――。



「鈴守……指示は任せるよ。鈴守がやりやすいように、俺たちのことはどうとでも動かしてくれ。

 ――イタダキに衛も、それでいいよな?」



 俺が肩越しに振り返ると、イタダキと衛もうなずく。



「まァ、しゃーねーな」


「気合い入れて付いていくよ」



「うん、分かった……みんなありがとう。

 ほんなら――びしびしムチ入れていくから!」



 俺たちの総意を受けて、頭上で、鈴守がイタズラっぽく笑った。






 やがて……。


 一定距離を離れて向かい合う両陣から、次第に私語が消えていき……。




 会場も、固唾を呑んで見守る中……。




 空気を切り裂くような笛の音を合図に、激戦の幕が上がるのだった――!






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― 新着の感想 ―
[一言] 前後編分け目にして天下分け目の大決戦!! こいつぁ次回見ものですね!!
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