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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
6章 勇者たちの、記憶にも記録にも残りそうな体育祭 (前編)
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第60話 絹と鈴の小少女恋愛談義



 ――いろいろとエラいことになってもうた、『借り物競走』のあと……なんか意気揚々と戻ってきたおキヌちゃん。


 その姿に、さすがに一言言いたくなって、首根っこ掴んで引きずってきたんやけど……。



「みゃー! 分かったから、とりあえず放しておくれよ、おスズちゃぁ〜ん……」



 応援席からちょっと離れたところで、観念したみたいにぐったり大人しくなったから、解放してあげた。



 するとおキヌちゃんは、ふぃ~、ってオジサンみたいなタメ息ついたと思たら……。


 ウチに「こっちこっち」て手招きして、スタスタ歩いて行く。



 ……着いたんは、プール脇の水場。


 今日は天気も良いし暑いから、グラウンドに近いところは大抵人がおるけど、ちょっと遠いここはさすがに誰もおれへんかった。



 そこでおキヌちゃんは、バチャバチャと子供みたいに顔を洗うと、洗い場の上にひょいと腰掛けた。


 ……で、明らかに拭くもの持ってなさそうやったから、ウチのハンドタオルを貸してあげる。



「あんがとよおスズちゃん。

 ――おおう、顔を埋めるとおスズちゃんの良い匂いが……ぐっふっふ」


「単なる洗剤の香りです」



 顔を拭き終わったところで、タオルはさっさと取り上げた。



「いや~……サッパリしたなぁ~……」


「そんな暑苦しいふわもこコート、いつまでも羽織ってるからやん……。

 ほんで、ウチに――っていうか、ウチと赤宮(あかみや)くんになんか言うことないの?」



「ん――ゴメン」



 あっけらかんと言って、おキヌちゃんはペコリと頭を下げる。


 ……高いところ座ってるから、思いっきり上からやけど。




 でも……その口調は、真面目やった。


 適当に言うてるんちゃうって分かったから、まあええか――って思った。




 一応、ウチと赤宮くんのことを想ってやってくれたんは分かってるし……。


 ウチも、それはめちゃくちゃ恥ずかしかったけど、でも本気で怒ってるわけちゃうし……。




「いやー、ちょーっと調子に乗っちゃったよ。

 二人が、あんまりやきもきさせてくれるモンだからさー。

 ……まあもちろん、実益も兼ねてたんだけどねー。おかげさまで、紅組にも勝ちの目が見えてきたし。


 それに……うん。


 アタシの気持ち的にも……。

 改めて踏ん切りつける、いいきっかけにはなったなーって、そう思うし」




「…………え?」




 今の…………。


 え、今のって――もしかして…………?



 ウチが目を見開くと、おキヌちゃんは何でもないみたいに、あっさりうなずいた。




「ああうん、アタシもね。

 前から、いいなーって思ってたんだよ、赤みゃんのことは」



「――――!!!」




「あ〜……予想通りの反応だね。うんうん。

 でもね、そんな気にしなくていいよおスズちゃん。ホントに、いいなーってぐらいだったからさ。


 それに、アタシゃおスズちゃんのことだって、大好きで大事だからねー。

 そりゃあもう、アタシ自身の嫁に欲しいぐらいにさー。


 だから……うん。


 この二人ならお似合いだし、しょーがないっていうか――ううん、良かったなーって……そんな感じなんだよ、ホントに」




「……おキヌちゃん……」



「まー、だからね。余計にやきもきがスゴくて、ちょいとやり過ぎちゃったのさ。

 ――許してやってくれい」



 上ったときと同じようにひょいと飛び降りたおキヌちゃんは、ニカッと笑って言う。



「そんなん……ウチ、許すとか許さへんとか……。

 本気で怒ってたんちゃうし……」


「にゃはは。

 そーそ、おスズちゃんのそーゆートコがまた好きなんだよねえ、アタシゃ」



 おキヌちゃんはウチを手招きして、ちょっと離れた木陰の涼しい場所に座らせると……。


 そんなウチをソファにするみたいに、ふわもこコートを脱いで、足の間に入ってもたれかかってきた。



 ――そよそよと、優しい風が吹き抜けていく。



「……まあね、もしも――もしもだよ?

 赤みゃんがあの場で恥ずかしさとか、世間体だとか気にして、一人でゴールしてたら……なーんて、そんな考えも、ちょっと……ほーーーんのちょっとぐらいは、あったよ?」


「……うん」


「でもさー、それってもう……アタシらの好きな赤みゃんじゃないんだよねー、きっと。

 まあ、そんなハズが無いって、確信出来るからこその赤みゃんでもあるんだけどさ」


「……うん。分かる」


「――にしても、赤みゃんって不思議だよなあ。

 素の顔立ちは良いのに、オシャレにはまるで無頓着だから台無しだし……。

 ネクタイとか身だしなみは、しょっちゅう『妹に直された』って言うぐらいだらしないし……。

 スマホもまともに使えないし、妙に古風と言うかオッサンぽいところあるし……。

 恥ずかしい正論をはっきり言ったりするし……。

 でもそのくせ、マテンローたちとバカなことやったりするし――」


「…………うん」


「実際、ちょっと接しただけのほとんどの子は、『イマイチ』って評価を下すんだよ。

 なのに――。

 付き合いが長くなると、長くなるだけ……男女問わず、みんな惹きつけられる。

 いつの間にか、あの……存在感、かな? なんかうまく言えないけど、赤みゃんって人間そのものに、安心を覚えるんだよなあ。

 器がハンパなく大きい感じ……っていうかさ」


「……うん」


「だから――逆に言えばさ。

 そんな赤みゃんの魅力っていうか本質を、会ってすぐに見抜いたおスズちゃんは、間違いなく一番のお似合いなんだよ。

 同じく、おスズちゃんの魅力に気付いた赤みゃんと……お互いね」


「ん……そうやったら、ええな……」



 ウチの脳裏に、赤宮くんと初めて出会ったときのことが思い浮かぶ。






 ……それは、別に劇的なものでもなんでもなかった。



 〈世壊呪(セカイジュ)〉のことが託宣で出て、高校から広隅(ひろすみ)に住まなあかんようになって――。


 そんで、この堅隅(かたすみ)高校に受験に来たとき、近くにおった他の受験生の男の子にちょっと尋ねごとをしたら、この関西弁をからかわれて。



 もしかしたら、そうなるんちゃうかな、ってずっと心配してたから。


 実際そうなったら、ああやっぱり、ってすごい落ち込んで――ううん、落ち込みそうになって。



 そのとき、なんも言われへんようになったウチをフォローしてくれたんが……たまたま通りかかった赤宮くんやった。


 その男の子をさりげなく注意してくれて、ウチの聞きたかったことに答えてくれて。



 それで……。


 なんとか慣れへん標準語で話そうとするウチに、「もとのまんまでいい」って、すごく普通に言うてくれて――。




 本当に、ただ、それだけのこと。たったそれだけの。


 赤宮くんにしたら、きっといつも通りの当たり前の、なんでもないこと。




 でもそれが、ウチにとっては――。






「うん……なれたらええなぁ……赤宮くんの、お似合いに」



「ん。その謙虚っていうか、向上心っていうか……相応しい人間になれるようにって、そういうのを忘れないところがまた、アタシの、おスズちゃんの好きなトコなんだよねえ。

 でもまあ……。

 誰より当の赤みゃんが、改めてみんなの前で、『後にも先にもただ一人』って宣言して受け入れたのがおスズちゃんなんだからさ。

 ――だいじょぶだいじょぶ」



 おキヌちゃんは、ウチの手を取って、ポンポンと優しく叩いてくれる。



 ウチは……そんなおキヌちゃんを、気付けばぎゅって後ろから抱きしめてた。




 暑い――? ううん、あったかかった。


 ……すごく気持ちのいい、あったかさ。




「やったら――やっぱり、初めて会ったとき、すぐにウチを受け入れて仲良しになってくれたおキヌちゃんも……ウチの大事な大事な友達やで?」



「ふっふーん。そりゃ当然必然当たり前、ってもんさー」



 されるがまま身を任せて、ネコみたいに喉を鳴らすおキヌちゃん。


 木陰を抜けて、ウチらを優しくなでていく風が、いつも以上に気持ちよかった。




「……うん……まあ、だけどさ……おスズちゃん」




「うん」



「……それはともかくこのソファ、ちょっとボリューム足んないなー。

 特に頭の後ろがねー、このクッションがねー、もーちょっと欲しいって言うかねー……」



「………………」



「足んないなー……ボリューム」



 繰り返すおキヌちゃん。


 そうかと思うと、両手をなんか、アヤしい動きでわきわきと握り締め――。



「おう、そうだよ! コレが大き〜くなるための都市伝説を検証すべく、オトコの毒牙なんかにかかる前に、親友のアタシがこう……ふっふっふっ」



「………………」



 ウチは無言で、右腕を……ヒジが前に出るような形で、おキヌちゃんの首に巻き付けた。



「……おおう?」


「うん……気道は危ないし苦しいから、頸動脈にしたげるな?

 オチるときって、スーッと意識が遠のくから……気持ちいいよ?」


「へ? お、オチるって、おスズちゃんっ?

 な、なーにするつもりなのかにゃ〜……」



 危険を察知して逃げようとするのを、両足で挟み込んで素早くロック。



「うん、クッション無くてゴメンやから、気持ちよーく寝かせてあげよ、思て――」



 同時に、巻き付けた右ヒジで首を――気道は塞がず、左右の頸動脈洞(けいどうみゃくどう)だけを絞める。


 ここを圧迫すると、必要以上に血圧が高まったと身体がカン違いして……脳への血流が止まるんよね。


 で、ダメ押しに――左手で、後頭部を前方に押してキッチリ固めれば完成。



「くぇっ」



 あとは、ものの7秒で完全に失神す(オチ)る――んやけど。


 その時点で、これ以上は絞めず……ウチはさっさと腕をゆるめて解放してあげた。



「……ふにゃぁぁ……」


 それでもおキヌちゃんは、まさにネコみたいに、全身脱力して大人しくなる。



「もう、しょーもないこと言うたらあきません。……分かった?」



 ぐにょん、とうなずくおキヌちゃん。




「そ、そらな、冗談いうぐらいは分かってるけど、ウチかて気にしてるんやから……!

 ホンマにもお〜……っ」




 ウチは、口を尖らせながら……。


 ふにゃふにゃになってるおキヌちゃんの、子供みたいにサラサラな髪の毛を、しばらくゆっくりとなで続けた。






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― 新着の感想 ―
[一言] こういう恋愛、私も書きたいのです( ´∀` ) というか紫煙伝書いてる間はこういうの書けないかもしれない(ぇ そして最後……それ言っちゃアカンよおキヌさん(;'∀')
[一言] とても柔らかい表現で大好きです~♪ サラサラした毛は、さわりごこちが良いですね (*´▽`*)ノ~♪
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