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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
6章 勇者たちの、記憶にも記録にも残りそうな体育祭 (前編)
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第59話 頂点に立つオトコと小さな約束



 いかに色々何かとザンネンなコイツでも、まさかこんな場所に連れてきて、どつきあいのケンカをしようってわけじゃないよな――。



 心なし身構えながら、そんな風に思っていると……。



 「ちょっと待ってろ」と、渡り廊下脇の自販機に向かったイタダキは、パックジュースを二つ買い……。


 そのうちの一つを、俺に投げ渡してきた。



 ……甘ったる〜いカフェオレだ。



 俺はコーヒーは基本ブラックか微糖なんだが、同時に、むしろ逆方向に大きく踏み越えた、こういうダダ甘いのもわりと好きだったりする。



「……おごりだ」


「おごりぃ~? なんでまたお前が……」



 ――実はイタダキの家は、高稲(たかいな)で総合病院を経営してるぐらいの金持ちだ。


 しかし、摩天楼(まてんろう)家の教育方針というか、両親が金銭感覚には非常に厳しいらしく、有り余る小遣いを渡され、湯水のようにカネを使って遊びまくり――というわけにはいかず。


 俺たち庶民と同レベルの小遣いの中、いつもカツカツの状態で何とかやりくりしている。


 ……まあだからこそ、俺のスキを突いて、これ幸いと1000円超えのラーメンをおごらせたりもしやがるわけだけど……。


 そんなヤツが、いきなりジュースをおごってくるとは、またなにをトチ狂ったことを――。



 なんて(いぶか)しんでたらイタダキは、「約束だろ」と、不満そうに言った。



 ……やくそくぅ……?



 何のことだと、首を傾げつつ必死に記憶を洗っていると――。


 やがて、しょうがねーな、とばかりにイタダキは大きくタメ息をついた。




「……先に彼女が出来た方に、ジュースおごるって約束、しただろーが」




「は? したっけ?……そんな約束」


「したっつーの! 小学5年の秋!」



 ああ~……じゃあ、俺が魔法世界メガリエントに初の異世界召喚を食らうすぐ前、か。



 なんせ、異世界で勇者やる――なんて、とんでもないイベントに巻き込まれるのは初めてのことだったし、しかも向こうじゃ、魔法理論詰め込むのに必死だったからなあ……。



 うん……完全に記憶の彼方に押しやられてるな。


 改めて聞いた今でも、全っ然、思い出せないぐらいだし。



 ――いや、もちろん俺だって、大事な約束なら覚えてるよ? いくら何でも。



 それが、これだけ引っかからないってことは……多分、何気ない会話の中、ノリでしたような、他愛のない口約束ぐらいのものなんだろう。


 そもそも、ジュースおごり――だしな。



 だけど……。



 自然と、頬がゆるむのが――自分で分かった。



「……何年前の話だよ。

 でもそう、お前ってそういうヤツなんだよな、ダッキー」



「ダッキー言うな!……って、どんなちっぽけなモンでも約束は約束だ、した以上は守るのが当たり前だろ。

 頂点に立つオトコとして、有言実行・約束厳守は当然のたしなみだからな!」



 ……まったく。


 そう、コイツってば……こういうところは、意外にしっかりオトコ前なんだよ……。



「――あ~あ、ちっくしょー……。

 どうせなら、焼き肉食べ放題とかにしときゃ良かったよなー」



 俺は、わざとらしくそんな悪態をつきながら……カフェオレにストローを刺し、渡り廊下の柵にもたれて座る。



「ふん――ンなコト言ってやがると、今度は、ラーメンどころか回らない寿司でもおごらせっからな」



 俺の隣に、同じようにしてイタダキも腰を下ろした。



 ちなみに、ヤツのパックは普通の牛乳だ。


 ムダに健康志向なところがあるからなコイツ――ガキの頃から。




「しっかし………………鈴守(すずもり)かぁ……」




 お互いしばらく無言でパックを吸っていたと思ったら、前を向いたまま、イタダキはおもむろにそう切り出した。



「――何だよ。今さら、『俺も好きだった』とか言うなよ?」


「言わねーよ。……で、いつからだよ?」


「4月末――だな。ゴールデンウィークの前。一ヶ月は超えた」


「マジか……まあ、ちょっとヘンだなー、って気はしてたけどよー」


沢口(さわぐち)さんなんか、誰にも話してないのに次の日には知ってたぞ?」


「アイツの諜報機関めいた地獄耳は参考にならん」


「まあな……っていうか、ほとんどの女子にはすぐにバレたけどな。

 『見てれば分かる』って」


「女子ってのは怖ェなー。

 …………ンで――その――どこまでいったよ?」


「お前の想像もしてないレベル」



 ……あ、牛乳噴きやがった。きったねーなあ……。



「お、お前っ、それは――ッ!」


「……さっきの競技で初めて手ェ繋いだ。そんなとこだ」



「………………」

「………………」



「…………なるほど。

 ムカつくが、確かに想像してなかった。――ヘタレめ」


「やっかましい。

 ……だからおキヌさんたちが、これだけのイベントをやらかしてくれちゃったんだよ」


「あ〜……ま、そりゃなぁ……。

 そりゃおキヌにしてみりゃ、やきもきもするかー……」


「なんせあの性分だからな」



 俺の返答に、イタダキはなぜか、やれやれと言わんばかりの大きなタメ息をつく。



「まー…………いいや。それならそれで」


「…………?」



 なんだ……イタダキのくせして、妙に含みのある言い方しやがって。



「――しっかし、そっか、鈴守かあ…………。

 うむ……化粧っ気も飾りっ気も無いし、髪型もおかっぱまっしぐらなシンプルなボブ、服装もおとなしめと、全体的に地味な感じで――。

 しかも、さすがに発育不良代表のおキヌよりはマシとはいえ、中学生みたいな体型で、ムネもあるとは言えねーし――って。

 おい、裕真(ゆうま)、お前ってもしかしてソッチ系が趣味だった?」



「ふん、俺が好きなのは幼女でも熟女でもねーよ。〈鈴守千紗(ちさ)〉だ」



 俺がキッパリ言ってやっても、イタダキは特別茶化しも驚きもしない。



「……ま、お前ならそう答えると思ってたわ。

 ガキの頃から、そーゆー恥ずかしいセリフ、デロデロ出してたもんなー」


「デロデロってなんだ。そのイカレた言語センスで汚いモンみたいに言うな。

 ――鈴守はな、お前が想像出来ないほどに可愛くて良い子なんだ、っての」



「……あん? いや、別に悪いって言うんじゃねーよ。良いと思うぜ? 鈴守。

 子供体型で地味っつっても、それが清楚な感じでいいってヤツも多いだろうし……もともとの顔立ちとか、実際結構カワイイ方だし。

 それに何よりアイツ、すっげーイイやつだもんな。

 ……正直言って、お前なんかにゃ、ヒジョーにもったいねえ」



「――悪かったな……俺だって、ちょっとそう思わなくもないんだよ」


「そりゃそうだろ。ホンっっトにもったいねーもんなあ……」


「うっさい。

 ……って、実はそれ、相手が誰でも言ったんじゃないのか?」


「ったりめーだろ?

 まず、彼女って存在自体がお前にゃもったいないからな!」


「なんだそれ。ひがみか?」


「甘く見ンなよ。やっかみだ」


「一緒だっての……。

 ああ、なら、お前も告白とかしてみたらどうだ?

 野上(のがみ)とか山内(やまうち)とか田川(たがわ)とか、お前のこと『悪くない』って言ってたぞ?」


「――ゼンブ小学校のときのクラスメイトじゃねーか! そんとき言えよ!」


「いや、ナイショって言われてたし」


「じゃあ、なおさら今になって言うんじゃねーよ!」


「5年も経てば気の迷いも晴れただろうし、時効かなーって」


「気の迷いってなんだコラ!

 だいたい裕真、テメーはなあ――」




 ……その後も。


 俺とイタダキは、バカなやり取りにさんざん花を咲かせ――。



 やがて、戻りが遅いのを心配して探しに来た、見晴(みはる)ちゃんと亜里奈(ありな)に見つかって。



 ちゃんと味方を応援しろ、と……二人揃って、アニキの威厳ゼロでお説教されながら、応援席に戻るハメになったのだった。






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― 新着の感想 ―
[一言] ある意味、告白だったな( ´∀` ) もはや時効な告白だったけど( ´∀` )
[良い点] >……あ、牛乳噴いた。きったねーなあ……。 私的には最高の青春描写です (`・ω・´)b gj !! 難しい青春は解りにくいとか言ってみます(暴言)
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