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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
6章 勇者たちの、記憶にも記録にも残りそうな体育祭 (前編)
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第56話 奪われる前に奪え!



 主に女子の黄色い歓声と、主に男子の「リア充爆発しろ」の怨嗟(えんさ)混じりの怒号を全方向から受けながら……。


 鈴守(すずもり)をお姫さま抱っこした俺は、トラックを疾走していた。



 向けられる声援の中には時折、「ゆーしゃ! ゆーしゃ!」ってからかいも混じってるが……。

 それ、言われ慣れてるんで気にならん――むしろ馴染む。哀しいことに。



 いや、それはいいんだけど……もう俺、この先もアダ名『勇者』で確定だよなコレ。


 まったく、何の因果だ……。




 ――さて、それはともかく……。




「その……ごめんな、鈴守。勝手なことしちまって」



 ずっと顔を伏せている鈴守が、もしかしたら怒ってるのかも知れないと思って、そんな風に声をかけると……。


 鈴守は、そのままふるふると首を横に振った。



「お、おキヌちゃんの仕業て、分かってるから。それに――」


 鈴守は顔を上げる。



 そして……多分、今の俺と同じくらいに真っ赤なその顔で――。


 優しく、嬉しそうに、はにかんでくれた。



「は、恥ずかしいけど――嬉しかった、から。

 手、繋いでくれたんも……こうやって、抱っこしてくれるんも」


「……う、うん……」



 や、ヤバい、心臓が止まるかと思った……。


 なんてカワイイ顔で、なんてカワイイこと言うんだ……。



 こうやってお姫さま抱っこなんてしてる時点で、鈴守のあったかさと柔らかさを直に感じてブッ倒れそうなのに!



 一応、異世界で、捕まってる女の子を助けることは何度かあったし、おんぶも抱っこもしたことあるんだけどなあ……。


 そのときは、亜里奈(ありな)にしてやってるのと同じ感じで、まるで気にならなかったのになあ……。



 鈴守だとゼンゼン違う――もちろん、良い意味でだ!


 心臓が止まるんじゃなきゃ、逆に鼓動が速くなりすぎて破裂しそうだ!




「あの、ほんで……う、ウチ、重ないかな……?」


「そ、それはゼンっゼン大丈夫。余裕。――っていうか……」



 これだけは絶対ちゃんと言っておかなければと、重さはキッパリ否定して――俺は足を止める。


 舞い上がっていた気分が、すーっと落ち着きを取り戻していく。



「問題は、こっちの方じゃねーかな」



 俺たちの前には――。


 白組の九人のうち、3年生の女子二人を除く男子七人全員が、般若みたいな形相で立ちはだかっていた。


 そいつらは、他の紅組のメンバーには見向きもしない。



 つまり……完全に、俺と鈴守狙いってわけらしい。




《おーーーっと、これはぁーーーっ!

 白組男子たちが勢揃い、壁となって公認カップルの前に立ち塞がったぁーーっ!

 リア充許すまじ、と滲み出るその怨嗟のオーラからして、もはやこれは呪いの壁だーーッ!


 ――さあどうする、赤宮(あかみや)裕真(ゆうま)! いやさ『勇者』よ!

 迫る賊どもの魔の手から、愛しの彼女を守り切れるかーーーっ!?》




 ……おキヌさんがノリノリで実況を入れてくれるが……。


 なんかもう、完全に俺たちメインの競技と化しちゃってないか、コレ。



 でも、会場すげー盛り上がってるし……いい、のか……?



「赤宮センパイ!」



 俺たちを心配したのか、そう声をかけてきてくれたのは――借り物らしいカバンを肩から提げた白城(しらき)だ。


 それに対して俺はただ、アゴで先を示して応じる。



「……俺たちのことはいいから先に行け、白城。

 コイツら、こっちにしか興味ないみたいだからな。今なら楽にゴール出来るぞ」



「……その通りだ!

 どっちみち、トータルじゃオレたち白組が大量リードなんだからな。ザコには興味は無い。

 そんなところを狙ってセコく点数稼ぐぐらいなら――」


「そうだ、赤宮!

 リア充のキサマから、そのカワイイ彼女を分捕(ブンど)る方が重要だ! クソったれが!」



 おい……血涙流しそうな勢いで言うなよ……。


 なんか、ちょっと悪いことしてる気になるじゃないか。



 でも――。



「……アホぬかせ……!

 アンタらはもちろん、仮に魔王やら神サマやらが出てこようが、鈴守は渡さねーよ!」



 俺と、壁を成してる野郎どもの間で、火花が散る。



「――ってことだから、行け白城。

 で、ついでに、出来れば先を行ってる白組女子二人に略奪かましておいてくれ」


「……分かりました!」



 ためらうのもわずか、うなずいた白城は――すぐさま、俺の前に立ちはだかる連中の脇を抜けて走り去った。


 合わせて、様子を見ていた他の紅組の面々も、一様に先を急ぐ。




 それを見送った俺は、鈴守と視線を交わし――笑い合った。




「さーて……やるか鈴守。

 ちょーっと無茶しちまうかもだけど……いいか?」


「ええよ、大丈夫。

 要は――『借り物』のウチが、地面に落ちへんかったらええんやんな?」



 さすが鈴守、良い度胸だ――ますますホレちまうよ。



「――んじゃ、逆転劇の始まりだ……!

 テメーら、俺と鈴守の前に雁首並べて立ち塞がったこと、後悔させてやるよ!」


「それはこっちのセリフだ!

 調子に乗ってこんな場所でイチャついたこと、後悔させてやらぁっ!」



 白組男子の一番奥に控える、借り物の竹刀をハチマキで結んで背負った、ガタイの良い3年生――確か空手部の部長さんだったか。


 その指示で、まず1年生と2年生の二人が左右から同時に摑みかかってくるが――。



「……その文句は、本部テントのちんちくりんに言ってくれ――よ、っと!」



 それを寸前まで引きつけたところで、俺は一気に地面スレスレまで姿勢を落としつつ……退がるのではなく逆に、二人の腕をくぐるように前進。


 そして、間をすり抜けざま――鈴守が素早く、二人がジャージのポケットに適当に突っ込んでいた、借り物の定規と文庫本を奪い取った。



「――え?」「は……っ?」



《……ハぁイ、そこの二人!

 借り物奪われたら失格ですよ~っ! ほら、どいてどいて!》



 おキヌさんの放送と同時に、近くにいた係の生徒が、困惑する二人を退場させた。



 同時に――場内に、大歓声が沸き起こる。



 だが……なんの。まだまだここからだろ!



 さらに、俺たちの一瞬の早業に度肝を抜かれている1年生二人に、こちらから一気に近付くと――。


 出し抜けに鈴守が身を乗り出し、右の1年生の目の前で、パン!と両手を打つ。



 いわゆる『猫だまし』ってやつだ。



 1年生がそれに気を取られた一瞬のうちに俺は――。


 鈴守のヒザ下を支えていた方の腕を、俺自身のヒザを上げて入れ換えざま、前に伸ばし――握っていた絵筆を奪い取った。



「――――あっ!?」



 左の1年生も一瞬は驚いたようだが、すぐさま、俺の手から絵筆を奪い返そうと肉薄してくる。


 そこに――。



 カウンター気味に、その1年生が右手で握る借り物の小型の水筒を狙い……鈴守が抱っこされたまま足を伸ばしていた。


 そして――ピッタリのタイミングで、水筒の底を爪先でソフトに蹴り上げる。



 すぽんと1年生の手を抜けて、宙に舞い上がった水筒は――



 1年生の反撃を、身を翻してかわした俺たちの手元へ……落下した。




「「「 ぅおおおおーーーーーッ!!! 」」」




 さて、これで――四人。残りは三人……!



《おおーーっと、なんと、一瞬で四人から強奪ーーーっ!!

 この山賊カップル、奥手のくせして手が速い! 手グセが悪いッ!!》



「――やかましいわ! 人聞きの悪いこと言うな!

 そもそもこのルール決めたのアンタだろーがっ!!」



 ……思わず俺は、おキヌさんの放送にツッコんでしまう。




 しかし――さすがにもう奇襲も効果が無いだろう。


 さらに、残るはリーダー格の3年に、確か、柔道部の猛者の2年二人――。




 むしろ、本番はここから――ってわけだな。






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― 新着の感想 ―
[一言] フェイクのアイテムを握ってる場合もあるから気を付けて!!(゜Д゜;)
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