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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
6章 勇者たちの、記憶にも記録にも残りそうな体育祭 (前編)
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第54話 聖霊、山賊応援団長就任決定



「……お頭……現状、我ら山賊団はことごとく討ち死に、敵が圧倒的優勢です」


「ウタちゃん。そりゃあ、ウタちゃんの情報網に頼らずとも、見りゃ分かるってモンだよ」



 演劇部の小道具からちょろまかしてきた、毛皮のコートっぽいものを羽織る絹漉(きぬごし)あかねは、点数の掲示板を苦々しげに見つめる。



 体育祭が始まって、はや数種目が終わったが……点数差は歴然としていた。


 単純な勝ち負けだけなら、今のところ全部負けと言い切って間違いない。



「んー……やはり、2年だけじゃなく、1年に3年までも、運動神経良いのが白組に集中してるってのはツラいなー……」


「……さっきの障害物競走のイタダキくんなんかは、良い線いってたんですけどねー」


「アイツ、もともと運動神経は悪くないからな。勝てるハズだったんだよ――」



 チッ、とあからさまな舌打ち。



「それをあのザンネン頂点野郎、ぶっちぎりだからって調子乗りやがるから……!」



 障害物競走に出場した摩天楼(まてんろう)イタダキは、単独1位なのを良いことに、平均台渡りの際、カッコをつけてポーズを取り――。


 足を滑らせて股間を強打、転げ回って悶絶するうちに最下位に転落するという、歴史的ザンネンっぷりを存分に披露したのだった。



「……で、マテンローのヤツはどうしてる?」



「現在、妹の見晴(みはる)ちゃんに付き添われて保健室に退がってます。

 ですが、まったくもって大したことなく、すぐにでも戦線に復帰出来そうです」


「アイツ、心身共にムダに頑丈だからなー。

 ……まあとりあえず、今度同じようなバカやったら、見晴ちゃんだけ没収して更迭だ。

 あのほんわか聖女は、ヤツには過ぎたるものよ」


「賛成です。愛くるしい少女は、我らの共有財産であるべきです」



 ――沢口(さわぐち)唄音(うたね)と絹漉あかねは、改めて固く握手を交わした。



「……ところでお頭。その小道具のコート、暑くないですか」


「うん、ふわもこがめっちゃ暑い。アイス食べたい」



「……ほんなら脱いだらええのに……」



 座って二人のやり取りを見ていた鈴守(すずもり)千紗(ちさ)がそう言葉を差し挟むも、額に汗を浮かべた当の本人は大きく(かぶり)を振る。



「山賊団の頭領たる者、()()()()()格好しなきゃだよ!

 士気に関わる! 多分!」



「『ふわさしい』って何ですか、ふわもこだからって。暑さでネジ飛んでますよ。

 もう、水分補給はちゃんとしてください、士気どころか死期に関わりますから。

 ――で、お頭、今後の戦略は?」



「まあ……問題無いよ。このままで。

 押されてるとはいえおおむね想定内、そもそも『本番』はここからだからね……そうだろう、ウタちゃん?」



「――ですね。トップエース二人の活躍に期待しましょう……」



 ニヤリと、いかにも悪人っぽい笑みを浮かべた二人の視線が、なぜか自分に集中している気がして――。



「???」


 鈴守千紗は、困惑気味に首を傾げるのだった。










     *     *     *




 ――2-Aの応援スペースまでやって来たはいいけど、案内役の(まもる)さんは行っちゃったし、さあどうしようかって、アガシーと二人立ち尽くしてたら……。



 ワイワイと盛り上がっていたお兄さんお姉さんたちが、こちらに気付いた。



 う…………。


 面識の無い、しかも年上の人たちの好奇の視線にさらされると、さすがに場違いじゃないかって、緊張しちゃうな……。


 番台に座って、お客さんの相手をするのとはまた別だから……。



 しかも、助けを期待してさっと見渡しても、そもそもお兄がこの場に……いない。


 知り合いのイタダキさんや見晴ちゃんも……いない。



 うわ、これはタイミング悪いときに来ちゃったかなー……って思ったら。




「あ! 亜里奈(ありな)ちゃん、アガシーちゃん!」




 まさに渡りに舟、あたしたちに声をかけてくれたのは……千紗さんだった。


 千紗さんは笑顔で、怪訝な顔をするクラスの人たちに、あたしたちのことを説明してくれる。



 その途端……。


 なんだか知らないけど、みんなが大歓声で迎えてくれた。



 ……なんかその中には、「こんな妹がいるとか、赤宮(あかみや)裕真(ゆうま)許すまじ」なんて、怨念じみた声もいくつか混じってた気もするけど……。



 やがて、そんな沸き立つお兄さんお姉さんが左右に割れて……。


 その向こうから、一人――。



「おおっと、これは……まさかこんな逸材がいたなんてねえ……」



 あたしよりほんのちょっと背が高いくらいの、なんか、毛皮のコートっぽいのを羽織った小柄なお姉さんが……近付いてきた。


 なんか……エラそう、って言うより…………うん、暑そう。



「お二人さんが、ウワサに聞く、赤みゃんのシスターズだって?

 ――ようこそ、我ら2-A山賊団のアジトへ!

 団員の身内……しかも揃って飛びッ切りの美少女とくりゃあ、もう大大大歓迎ってやつだぜ!

 なあ、ヤローども!!」



「「「 いえーーーいっ!!! 」」」



 そのお姉さんが音頭を取ると、クラスの人たちが一斉に声を上げる。



 ……なにこのお姉さん(ちっちゃい)の求心力……。



 ――あ、そっか。


 そう言えばお兄が教えてくれたことあったっけ。



 そう……つまり、この人が〈おキヌさん〉なんだ。なるほどなあ……。




「……ったく、赤みゃんも人が悪いぜい。

 こんな愛くるしいシスターズをこれまで独り占めしていやがったとは……!


 ――あ、アタシはこの2−A山賊団の頭領やってます、絹漉あかね。

 おキヌって気軽に呼んでくれればいいよ。


 それと、実家は名前の通りに豆腐屋なんで、そっちもまとめてよろしく!」




 おキヌさんは、スッと名刺みたいに豆腐屋さんのチラシを渡してきた。


 えーと、なになに……?



『このチラシをご持参いただくとお会計5割引!

 さらに! お好きな豆乳ドリンクを2つプレゼント!』


 ……か……。



 ――ここで営業挟んでくるのもスゴいけど、そもそも、メチャクチャお得だよコレ……!


 うん、今度、絶対寄らせてもらおう……。



 そんな大変お得でありがたいチラシを、大事にポケットにしまったあたしは……。


 さっき一応千紗さんが紹介してくれてたけど、あらためてちゃんと自分からもおキヌさんに自己紹介をする。


 ……で、アガシーにもさせようとしたら……。




「………………」


「………………」




 アガシーとおキヌさんは、無言でしばらく向かい合い……。



 そして、そうかと思うと――いきなりガッシリと握手を交わした。




 ……え? ちょっと待って?


 なに二人とも、その『分かり合った者たち』みたいなさわやかな笑顔……。




「アガシー君、キミのような逸材を待っていたのだ……!」


「わたしも、居場所を見つけたような気分ですぜ、お頭!」




 二人は握手をしたまま、首脳会談みたいなポーズでみんなに写真を撮られてる。




 …………なんだコレ。




 やがておキヌさんは、貫禄たっぷりにアガシーの肩を叩いた。




「……アタシは頭領として、皆を鼓舞する必要があるんだけど……。

 ザンネンながら、競技にも出なきゃだし、解説者として本部テントにも行ったりしなきゃだしで、わりと忙しくって……常にここにいるわけにはいかないんだよね。


 そこでだ、アガシー君――。


 キミをアタシの代わりとして、我ら2-A山賊団の応援団長に任命したい!

 どうか、そのムダにみなぎるエネルギーで、うちの連中を奮い立たせてやってくれまいか!」




 山賊団の応援団長って……『だんだん』言っててなんかややこしいなあ……。



 しかも、ムダってキッパリ言われちゃってるよ、アガシー?


 まあ、うん、まさしくその通りなんですけどねー……。



「……謹んで拝命いたしやす!

 このアガシーにお任せあれ、お頭ぁ!」



 でも当のアガシーは、意気揚々とその提案に乗っかっていた。



 ……まあ、見た目も性格的にもひたすら目立つアガシー(このコ)が来るって時点で、なにか起こるだろうなー、とは思ってたけど……。


 まさか、こんなことになるなんてねー……。



 本人は楽しそうだし、別にいいんだけど……。



 お兄はまた苦労が増えるなあ……。ご愁傷さま。





 ……その後すぐ、「アタシ次、競技の解説だから」と、忙しそうに駆け足で立ち去っていくおキヌさん。


 代わって、早速アガシーは、クラスの人たちと気炎を上げ始めた。



「ぃよーし、者どもー!

  お頭より託されし、この赤宮シオンに続けぇーーーいっ!!」



「「「 うおおーーーっ!!! ジーーーク、シオンッ!!! 」」」



 ……うわあ……なに、このノリの良さ……。



 思わず圧倒されて、ぼーっと様子を見ていると……。


 すごい申し訳なさそうな顔で、千紗さんが謝ってきた。



「……ゴメンな、亜里奈ちゃん。

 おキヌちゃん――ううん、みんなもか、今日はまた一段とテンション高くて……」



 あー……そう言えば、千紗さんとおキヌさんって特に仲が良いんだっけ。お兄情報によると。



「ううん、大丈夫です。

 ……っていうかむしろ、アガシーのこと受け入れてもらえて、ホッとしてます。

 えっと、ほら……あのコ、なんて言うか――変わってるから」


「あはは、それは、まあ……。でも、スゴいええコやと思うし」



 優しい笑顔で言って、優しい目で……はしゃぐアガシーを見る千紗さん。


 その横顔は、本当に優しくて、あたたかで……すごい可愛い。




 ……あー、これは……お兄が惚れちゃうのも分かるなー……。




「あ……そう言えば千紗さん、お兄、どうしたんですか?

 今やってた競技には出てなかったみたいですけど」


「赤宮くんやったら、次が出番やから、入場門の方に並んでるよ」



 あたしの問いに答えて、千紗さんは、ハイ、とジャージのポケットから出したプログラム表を渡してくれる。



 それによると、次は……どうやら、『借り物競走』みたい。



「借り物競走かー……」



 ふとつぶやくあたし。


 すると、それに続くみたいに、競技案内の放送が入った。




《では――続きまして!

 次のプログラムは借り物競走――》



 あ……この声、おキヌさんだ。ホント忙しい人なんだなあ……。




《――と、なってますが………………ンなモン、生ぬるいっ!


 借りるってなんだよ! 甘ちゃんか!

 欲しいモノは力ずくだ! 盗れ、奪え、かっさらえ者どもッ!!


 ……と、いうわけで……。


 特別ルールを追加したスペシャルエディション!

 借り物――ならぬ、『略奪競走』を開始いたしまーすっ!》




「…………え?」



 思わず目を瞬かせるあたし。


 今の、聞き間違い……じゃないよね?



 一方、「面白い!」とばかりに会場は大盛り上がり――。



「まーたおキヌちゃん、ヘンなムチャ突っ込んだんやな……?

 もう……お遊びで済んだらええけど……」



 対して隣の千紗さんは、困ったように引きつった笑みを浮かべていた。




 そして……なぜだろう。


 なんだかあたしは、そのとき千紗さんに――




  『他人事じゃないですよ』




 ……と、言いたくなったのだった。






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[一言] コロニー地球に墜としちゃう級の衝撃!?(゜Д゜;)
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