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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
6章 勇者たちの、記憶にも記録にも残りそうな体育祭 (前編)
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第52話 体育祭に臨みて――山賊団2-A出陣!



 ――なんやかんやで、一週間が過ぎ……。


 迎えた日曜日、今日はついに体育祭だ。




 まあ、『なんやかんや』で一(くく)りにしてしまったけど、なにも起こらず平々凡々な日々だった……ってわけでもない。



 鈴守(すずもり)と二人きりでデート――はさすがにムリだったけど、放課後みんなで寄り道して遊んだり、家の手伝いをしたり、亜里奈(ありな)と一緒にアガシーの社会勉強(なんか色々)に付き合ったり……。



 また、クローリヒトとしても、二回ほど出動(?)する機会があった。


 基本、〈呪疫(ジュエキ)〉の処理で……相変わらずというか、毎度の連中と鉢合わせしたが、結局のところいつも通りの痛み分け。



 まあ、だけどそれは、当然と言えば当然だろう。



 敵対してはいるものの、お互い信念に基づいて行動しているわけで……全員、他者に害を為すだろう〈呪疫〉の処理を優先しているように、『邪魔するヤツはブッ殺す』なんて物騒な思想を掲げてるわけじゃないからだ。



 いや、まあ、実際のところ、〈救国魔導団(きゅうこくまどうだん)〉にしろ、シルキーベルたちにしろ、いざとなればそれも辞さないって覚悟をしてるんだろうが……。



 あいにく、この俺が、それを絶対に許さない『不殺』の覚悟をしてるからな。



 ヤツらが、その考えを改めるまで――。


 誰も犠牲にしない、本当の答えが見つかるまで――。



 それまで、〈世壊呪(セカイジュ)〉を守り抜こうって俺がいる以上、どちらの陣営にも、死者なんて出させやしない。もちろん俺だって死ぬ気はない。


 そう、そんなバカバカしい犠牲は出さない。――絶対に、だ。



 ちなみに、その中でシルキーベルだけでなく、ブラック無糖――いや無刀か、あのオオカミ頭と、ノーマル――もとい、能丸(のうまる)ともり合ったが……。



 ――っていうか、コイツら揃いも揃って間違えやすい名前してるなよ……どっちも、間違えるとすぐキレるあたり一緒だしさー……。



 まあそれはともかく……。



 そうして感じたのは、意外にもブラックが強いということだった。


 『魔導団』にいるのはどーなのよ、ってぐらい肉弾特化の戦い方だが、ホンモノの獣のような素早さとカンの良さは侮りがたいものがある。



 それにシルキーベルについても、初めて会ったときがウソのような成長ぶりだ。


 多分、あの魔法少女衣装自体も改良されて性能が上がってるんだろうが、それ以上に本人の成長が著しい。



 まあ、敢えてゲーム的に言うなら、レベル差が大きい相手なら、入る経験値も多いってことだろう。


 俺ってある意味、ボスキャラみたいなもんだしなー……。



 さすがに、まだまだ実力に開きはあるが……俺のクローリヒト装備に対して、絶対的に強い、一撃必殺級の〈聖〉のチカラを持ってるから、やっぱり油断は出来ない。


 銀行のときみたいにナメてかかったら、今度こそ一撃で戦闘不能になりかねないってわけだ。





 そして、能丸は――――――普通だった。うん。








 ――さて、それはさておき。



「あ、お兄、今日は後であたしたちもそっち行くから。お弁当持って」



 今日は母さんが早くから用事で出かけているので、亜里奈が朝食の準備をしてくれたんだけど……。


 その、用意されたソーセージや目玉焼き、ついでにサラダを、トーストにまとめて挟んで豪快にかぶりつく俺に、ついでにコーヒーまで煎れてくれた亜里奈が告げたのは――そんな意外過ぎる予定だった。



 思わず喉につっかえそうになった即席サンドイッチをまずは飲み込み、あらためて俺は「マジで?」と眉を寄せる。



「いやいや、そりゃ一般観覧席も用意されるんだし、絶対来るなとも言えないけどさ……。

 子供じゃあるまいし、家族が見に来るとかさすがに恥ずかしいぞ。

 それにほら、弁当ぐらい、コンビニでパンでも買っていけばいいし、確か学食だって開いてるはずだし……」



「うん、まあ、あたしもそう思うんだけど……」



 言って、亜里奈はリビングの隅の方を見る。


 そこには……。



 体操服にハチマキという、気合いたっぷりの格好をしたJS擬態聖霊が、フンスフンスと鼻息荒くスクワットに励む姿があった。



「……あのコが、行く気満々だから」


「敢えて見ないようにしてたんだが……アレはやっぱりそういうことなのか」



 まあ……アイツにしてみれば、このテの催事なんて、もの珍しくて仕方ないだろうしなあ……。



「あ〜……一応言っとくが、アガシーよ。

 どんなに気合い入れても、お前の出る枠は一切ないからな?」


「――ンなんですとっ!?」



 心底意外という顔で、俺を振り返るアガシー。


 ……やっぱりコイツ、出場までする気でいやがったか……。



「当たり前だろうが、町内でやる運動会じゃないんだし」



「ハ〜ミコン坊〜主が出っるぞ〜……ってあの軍隊式シゴキランニングはっ!?」



「なんちゃって軍曹、そもそも体育祭とはそういうモンではない。

 ……っていうか、何でよりによって替え歌の方なんだ……」



 俺がドきっぱり否定してやると、アガシーはガックリとその場に崩れ落ちた。



「まあ、お兄……そういうわけだから」



 レンジでチンしたホットミルクを手に、俺の向かいに腰を下ろす亜里奈へ曖昧にうなずき返しながら……俺はもう一度アガシーの方を見る。



 早くも立ち直ったソイツは、今度は応援団の真似事みたいな動きをしていた。


 ムダにキビキビしている。




 ……ま、コイツが楽しみにしてるんなら仕方ないか……。




 そんな風に微笑ましく思う反面――。



 コイツが来ると、観客席でもスゴい目立つだろうなー……。



 ――と、何とも空恐ろしく感じたりもするのだった。




 うーん、面倒なことにならなきゃいいけど……やっぱムリかなあ……。








 ――さて。


 そんなこんなで、亜里奈たちよりも一足先に家を出、いざ登校すると……。


 まずはみんな体操服に着替えてから、改めて教室に集合する形になった。



 着替えたことで、いよいよ体育祭という『戦闘』が開始されるのだと、みんな気分が昂ぶっているのか……。


 クラスの空気には、普段には無い、独特の高揚感が感じられる。



 ちらっと様子を窺ってみると、鈴守も珍しくちょっとテンション高めな感じで……楽しそうに、周囲の女子と談笑していた。


 うん、その珍しい感じも、体操服姿も、どちらもまたカワイイな――じゃなくて。



 やっぱり……というか、おキヌさんたちは、俺にしたような『何か企んでます』な話は、鈴守には通してないようだ。


 つまりこれは、何があってもまず俺がしっかりしろ、その裁量で対応しろってハッパをかけられてるようなモンだと思われる。




 普段はヘタレで結構だが、いざってときに決められない真のヘタレにはなるな――。




 おキヌさんたちの俺への総意としては、多分、そんなところだろう。


 だからって、結局、何を企んでるのかは未だ分からずじまいだが……。



 ……ともあれ、それに対する妙な緊張――っていうか、警戒心のようなものもあるにはあるけど……今、俺の心を占めているのは、やっぱり、体育祭へのワクワク感だった。


 教室の熱気にあてられるみたいに、ふと気付くと俺自身、思った以上にテンションが上がってきてるのが分かる。



 ……まあ、そりゃそうだよな。


 なんせ、俺が待ち望んだ日常イベント、それも大きいものの一つなんだし……。



 俺だって、そりゃ楽しくなるってもんだ!





「……というわけで、僕たち2-Aは紅組なー」



 改めてみんな席に着いたところで、自身もジャージに着替えてきたマサシン先生から、全員に赤いハチマキが配られる。



 ――うちの学校の体育祭は、全学年込みで、紅組と白組の二つに分かれて争われるんだけど……。


 今回は、ABC組が紅、DEF組が白と、分かりやすい形になったようだ。



 確か、組み分けは毎年、生徒会か何かのクジ引きで決まってるって話だったと思う。


 しかし、この分け方は……。



「ん〜……かーなり不利なんじゃねえか? オレたちって」


「……だよなあ」



 イタダキの疑問に、俺はすぐに同意する。


 ……というか、クラスのみんなも同じように感じたようだ。あちこちでざわめきが起こっている。



 なぜなら……。


 体育祭でもっとも戦力になるだろう運動部のエースは、男女問わず、知っている人間だけでもそのほとんどが、D組以降に集中していたからだ。



 しかし――。



「まあ、この頂点を極めしオトコ、イタダキ様にとってはいいハンデってやつだがな!」



 ……イタダキのこのアホ丸出しの発言が、実はうちのクラスの総意に近いらしい。



 不利と知って不満をもらすどころか、むしろ、教室内の熱気はいや増していた。



 ――相手にとって不足なし、敵は強いほど燃える――!



 まさにこんな感じだ。男女問わず、なんともオトコ前なクラスである。


 そしてそれは、俺も同じなわけで……。



 おもむろに(委員とかでもないのに)教壇に上がったおキヌさんの――



「よーーし、お前らっ! ニューーゲーートに行きたいかぁーーっ!!!」



 ……などという、『元ネタ分かるヤツいるのか?』って感じの、まったく関係ないウルトラなクイズっぽいかけ声に、



「「「 おおーーーーーっ!!! 」」」



 ――と、クラスのみんなと一緒になって、拳を突き上げて応じてしまっていた。



 あれ、でも……ニューゲートって監獄じゃなかったか?

 ていうか、もう無いんじゃなかったか?



「そうか、行きたいか……でもそれはいずれ自費で行ってくれ」


「「「 おおーーーーっ!!! 」」」



 さらに声を張り上げて応じる俺たち。……もう何でも良いのか。



 そしてだからニューゲートは監獄だって。しかも無いんだって。


 ……まあでもいいや。もう何でも。




「よーしよし、いいか、ヤローども……! こっからが本題だ!

 敵の白組は、優秀な戦士を多く揃え、その勝利への地盤は堅牢にして盤石、負ける気なんざ、これーーーっぽっちもないだろう!


 だがしかぁしッ! だからこそツブしがいもあるというものだッ!


 ――いいかッ!! 臆するなッ!!


 今からわたしらは『賊』だ!

 お行儀良く、幸運が転がり込んでくるのを口を開けて待つイイ子ちゃんじゃない! 賊だ!

 欲しいモノは力ずくで奪い取る――山賊だ!!


 ヤツらが、絶対安泰と高を括り、のほほんと掲げていやがる、『勝利』という名の宝冠――!

 これより我ら一丸となり、全身全霊! 何が何でもブン盗ってやンぞーーーッ!!!」




「「「 うおおーーーーッ!!! 」」」



 おキヌさんの檄に応じ、(とき)の声を上げる俺たちは――。



「っしゃーーー!!! ではいざゆかん、決戦の地へ!!!

 ヤローども、我に続けーーーーッ!!!」



 拳を突き上げ、颯爽と教室を後にするちんちくりんな旗印に、続々と付き従うのだった……!







「あー、えーとみんな、一応担任の僕に付いてグラウンドに……って、ダメだこりゃ」



 ……嘆息するマサシン先生を放っぽり出して。






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[一言] さっすがおキヌさん!! そこに痺れる憧れるゥ!!
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