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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
5章 ただのデートとお買い物なら勇者も魔王も必要ない
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第46話 三つ巴の戦場に推参〈魔法剣士〉



「……まあ、ある意味、良かったって言えばそうなのかもなぁー……」



 ――柿太刀(かきたち)神社の裏手、鎮守の森の奥……そこそこに開けた空き地に張られた『結界』。



 クローリヒトとしてそこに乗り込んだ俺は、先客を見据えながら――誰にともなくつぶやいた。






 昼食後……俺は鈴守(すずもり)と二人、のんびりと柿ノ宮(かきのみや)を散策しつつ、いくつかの美術館と個展を見て回った。



 正直、俺は芸術なんてものとは縁遠い人間なので、何が良いのか分からない作品も多かったけど……。


 こんなことも割と詳しい鈴守が、イヤな顔一つしないどころか、楽しそうに、俺の子供みたいな感想を聞き、いろいろと教えてくれるのが、俺としても楽しくて仕方なかった。



 お陰で、一番の目的は美術のレポートのためだったけど……銀行強盗に巻き込まれた前回と違って、だいぶデートらしいデートになったと思う。



 そうして、帰ってからレポートを書くために、ちょっと休憩がてら手近なファストフード店に寄って、パンフやチラシ片手に、見たものや感想をまとめた俺たちは……。


 日も傾いてきたけど、せっかくだし、帰る前に柿太刀神社にお参りでもしていこうって話になって……。



 ここで――そう、ここでなんとか、当初の予定通り、ちょっとだけでも手を繋いだり出来れば……!



 ……なんて、密かに決意を固めて席を立った俺に――。


 スマホを見た鈴守は、両手を合わせて一言。



「あ――ゴメン、赤宮(あかみや)くん!

 ウチ、おばあちゃんの急用でちょっと行かなあかんくて……!

 ホンマにゴメンな、また学校で!」



 そして――呼び止める間もなく、大慌てで立ち去っていってしまったのだった。




 その後、ファーストフード店内で女の子に走り去られるという、大いに気マズい空気を存分に味わった俺は……。


 直後に感じ取った、〈魔〉の気配を追い――こうしてクローリヒトとして、この結界へとやって来たのである。



 ……そう――だから、ちょうど良かったのだ! 鈴守に急用が出来てくれて!


 でなきゃ、俺から鈴守に『ゴメン』しなきゃいけないトコだったからな!



 結局手を繋げなかったなー、とか、残念がってやしないさ、ゼンゼンな!



「ちくしょー!」



「……何と言うか、今日は荒れているな……クローリヒト君」



 俺の視線の先――ゾウぐらいの体躯がある双頭の魔犬を引き連れたサカン将軍が、ぽつりとそんなことをつぶやいてくれやがる。



 ……余計なお世話だ。まったく……!



(……に、しても……。

 悪いなアガシー、呼び出しちまって。亜里奈(ありな)と遊んでたんだろ?)



 俺は、手の中の聖剣にちらと目を落とす。



 ――『テメーでケツも拭けんのか、このクソ虫が!』


 ……とか、グチグチと恨み言が飛んでくるかと思ったが……。

 意外にアガシーの反応はサッパリしていた。



《まあ、しょーがないでしょう。これもお仕事ですからねえ。

 ゲームの途中だったらガン無視したでしょうけど……たっぷり遊びましたし》


(そうか――良かったな。

 まあ、その辺の話はまた後で聞くとして……今はこっちだな)



 言葉の通り存分に遊んだんだろう、機嫌が良さそうなアガシーの様子を素直に喜びつつ……俺はあらためて、サカン将軍の方に注意を向ける。



 魔犬は伏せって動かないが……恐らくは、ああしてゆっくりと〈霊脈(れいみゃく)〉を汚染しているんだろう。



 それが、今のところ〈世壊呪(セカイジュ)〉第一候補の魔王のヤツとどう繋がるのかは、具体的には分からないけど……。


 チカラの流れが、その居場所を正確に指し示すようになるとか……そういうことなのかも知れない。



 とにかく――。



 〈呪疫(ジュエキ)〉のこともある。


 ヤツら〈救国魔導団(きゅうこくまどうだん)〉は大義のためって言い張るだろうが、〈霊脈〉の汚染は極力防いでおくべきだよな……。



「さて……将軍。

 前に言った通り、アンタたちが〈世壊呪〉を望む以上は――」



 サカン将軍たちに向かって、戦闘態勢を取ろうとしたそのとき――。


 俺は……いや恐らく将軍も、お約束のように結界内に飛び込んでくる気配を察した。



「……やっぱり来たのか」



 俺と将軍は、揃ってそちらを見やる。


 ……空から急降下してきたのは――当然、シルキーベルだった。




「――悪の魔の手から人々を守るため!

 破邪の鐘で正義を打ち鳴らし、世に平和の天則を――!」


「だから、やらなくていいってば!」



 あの武者ロボ使い魔が、今までと違うテノールのいい声で名乗りを上げようとするのを、シルキーベルが必死になって抑え込む。



 ……相変わらず締まらんヤツらだなー……。



 なんか、つい生温かい目で見守っていると……シルキーベルは早速、俺と将軍、両方を相手に出来るような位置を取り、身構えていた。



 ……と、いうか……。



「まったくもう……もう……っ! なんでこんなタイミングで……っ!」



 ……何があったんだか、あちらさんも大層機嫌が悪そうなんだが……。



 しかしとりあえず……あのヘルメットに音声変換とか偽装みたいな機能がついてるのか、注意して聞いても、声の感じは白城(しらき)とはまったく別物だ。


 まあ、どう見たって正体を隠してるんだし、そんなカンタンに分かるハズもないか……。



「何と言うか……キミも今日は荒れているな、シルキーベル君」


「いつも通りですっ!」



 どう見てもいつも通りでなさそうな声音で言い切るシルキーベル。



 しかしそうしてから、アツくなってる自分に気付いたのか、バツが悪そうに可愛らしい咳払いを一つ。


 ――あらためて、気を取り直した様子で俺と将軍を見やった。



「……あなたたちの企みは、必ず止めてみせますから」



 そんなシルキーベルの言いように、俺は小さく首を横に振る。



「生憎だが俺は、〈救国魔導団(コイツら)〉と組んだ覚えはない。

 ……それどころか、むしろ――」


「そう……敵同士だな、我々は。残念ながら」



 心底残念そうに、俺の二の句を継ぐサカン将軍。



「……え……?」


 シルキーベルは、困惑した様子で俺たちを見比べる。



 うん……やっぱり、俺をヤツらの一味だと思ってたんだな……。


 まあ、当然と言えば当然か。それについては弁解した覚えもないし。



「ちなみにシルキーベル。

 お前は、アイツら……〈救国魔導団〉の目的を知ってるのか?」



 ふと疑問に思った俺が尋ねると……。


 シルキーベルは油断なく俺と将軍、両方に注意を払ったまま、慎重にうなずいた。



「別世界から迷い込んできた者を保護するため……でしたよね。言い分は。

 そのために、〈世壊呪〉なんてものを利用しようとするあたり、手法についても、また理念についても、信用出来ませんけど」



「……だろうな。キミたちのような『狩人』は、穢れはすべて、徹底的に祓ってしまえばいい、そうすれば問題など起こらない――そういう考えだからな」



 シルキーベルの発言に、真っ向からの皮肉をぶつける将軍。



「でも……それは事実です。

 ――それで、クローリヒト」



 強い口調で言い切ったシルキーベルは、次に俺に言葉を向ける。



「あなたはどうなんですか。何を目的に――」


「――守るためだ」



 シルキーベルの質問を途中で遮って、俺はきっぱりと宣言してやる。



「〈世壊呪〉を――その意志を無視して、自分たちの都合だけで、利用したり、滅ぼしたりしようとするヤツらから……な」



「………………」



 全員、顔を隠しているわけだから、実際に目元が見えるわけじゃないんだが……。


 サカン将軍も、シルキーベルも、俺に鋭い視線を向けているのが分かる。




 ――クローリヒトは、〈世壊呪〉の正体を知っている――。




 これまでははぐらかしてきたが、今の発言でさすがに、どちらにも、そう認知されたことだろう――。


 まあ、まだ、『ブラフかも』って疑いぐらいは残ってるだろうけどな。




 ともかく、これで――。



 〈世壊呪〉を……そのチカラを手にし、大義を成そうという〈救国魔導団〉と。


 〈世壊呪〉を……その〈呪〉の本質を危険視し、破壊しようというシルキーベルと。



 そして――〈世界を滅ぼすチカラ〉を持ったアイツを、守り抜こうって俺と――。




 三者が、はっきりと完全に、三つ巴の構図になったってことだ。




 ……さて、それで今、この状況でどう動くか――。



 恐らくは俺たち三人が三人とも、同じ考えを持ったそのとき――。




「――――!」




 まったく予想外の――新しい気配が一つ、凄まじいスピードで結界の中に走り込んできた。


 俺たちは揃って、そちらに首を向ける。



「ま、間に合った……かな?」



 その張本人で……どこか気の抜ける、そんな台詞を吐いたのは――。


 いわゆる和風の、『大鎧』を現代風にアレンジしたようなプロテクターを纏い、大刀と脇差しを()いて、これもまた和風の印象がある仮面で顔を隠した――。



 そう、まさにシルキーベルの使い魔ロボを人間化したような……『武者』だった。



 そして武者は、俺たち三人を見比べると……。


 ささっと素早く、シルキーベルの近くに移動する。



「あなたは――。

 あ! まさか……っ!?」



 何か思い当たることがあるのか、そんな言葉をもらすシルキーベルに応えるように――。


 武者は二刀を抜き放ち、俺とサカン将軍に――歌舞伎で大見得を切るように、ポーズめいた大ゲサな構えで、その切っ先を向ける。



 そして――。




「正義の鐘を響かせ、世に平和をもたらす我が朋友シルキーベル――。

 その背を守るにこの一刀、その敵(ほふ)るにこの一刀……!


 ()疾風一刃(しっぷういちじん)()紫電一閃(しでんいっせん)

 〈魔法剣士・能丸(のうまる)〉! ここに推参っ!!」




 当のシルキーベルさえ置き去りにするような勢いで、そう高らかに名乗りを上げるのだった。






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[一言] ついに、ヤツが……これは面倒臭くなっていくぞぉ(゜Д゜;)
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