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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
4章 勇者に、そんな覚悟はいらない
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第36話 勇者と彼女で黒みつまめを



 ――学校の最寄りである、堅隅(かたすみ)駅前商店街。



 歴史自体は結構長いはずだけど、最近全体的にリニューアルしたことで、小綺麗で明るい雰囲気が作られ……。

 その中に、オシャレな新しい店と、実にシブい昔ながらの店が見事に調和して軒を並べている、活気あるアーケードだ。


 ……その、新しい店の一軒。


 草庵とかをイメージしたような、いかにも「和」を重視しているのが分かる、品の良いデザインのこじんまりしたお店――。



 メタル甘味処〈世夢庵(せむあん)〉にて、俺と鈴守(すずもり)は向かい合っていた。



「……こないだおキヌちゃんらと来たときは、結構混んでたけど……。

 今日は空いてて良かった」



 鈴守の言う通り、放課後というタイミング上、いつもならもっと混んでいてもおかしくないのだが……今日は珍しく、空席の方が多いぐらいだった。



 まあ……店内BGMに、〈スチールメイデン〉を爆音で流してるせいかも知れないが。



「……ケーゾーさん……今日、奥さん店に出てないでしょ?」



 注文を取りに来た、精悍なお兄さん――店主の柴本(しばもと)景三(けいぞう)さんに、流れる激しい音楽を指差すようにして言うと、恥ずかしそうに笑った。



「あー……分かる?」



「そりゃ分かりますって。よりによってスチールとか、奥さんいたら絶対怒るじゃないですか……それもこの爆音」



「……やっぱりダメかな」


「や、俺はいいですけど……」



 ちらりと鈴守を見る。


 顔をしかめてやしないかと思ったが……案外、普通だ。



「? ウチ? こういうのもキライちゃうよ?」



 なんせ、爆音でとにかく激しい音楽が流れてるわけで――実は気を遣ってるだけなんじゃないかとも思ったが、本当に気にしていないようだ。



 ……さすが鈴守、懐が深いなぁ……。



 うん、けど……。



「やっぱり、〈ヘイローウィン〉ぐらいにしといた方がいいんじゃないっすかね」



「そうか……裕真(ゆうま)くんが言うならそうするか。

 ――で、ご注文は?」



「俺は……まあ、やっぱり黒みつまめ(ブラックダイアモンド)で」



「そちらの彼女さんは?」



「あ……!

 う、ウチも同じので、お願いします!」



「オーケイ。じゃ、ちょっと待っててくれよー」


 笑顔で言って、奥へ引っ込むケーゾーさん。



 あらためて鈴守を彼女と紹介した覚えはないが、それを細かく追求することなく、けれど無視することもなく……さりげなく応対するその振る舞い。さすがだ。



 そして……。



 俺の『彼女』と言われて、ちょっと恥ずかしそうに、でも自然に反応してくれた鈴守……!


 う、嬉しい……! 嬉しすぎる……ッ!



 おしぼりをさらにぎゅーっとしぼりながら、思わず感激に打ち震えてしまう俺。



 そして、幸いにして……というべきか。


 そんな俺の妙ちくりんな動きより、鈴守の興味は店内BGMの方に向けられていた。



「……あ、音楽変わった。

 これ、〈ヘイローウィン〉? ウチでも名前ぐらいは聞いたことあるけど……」


「あ、ああ、うん、そう。

 ……『守護霊伝』か……鉄板だなー」



 とりあえず、今の発言で鈴守がそれほどメタルに詳しくないことは分かった。



 うん……〈スチールメイデン〉が大丈夫だったなら、メタルも結構イケそうだけど……。


 だからって、良く知らないことをあんまりアツく語っても、ドン引きされるかも知れないから、気を付けないとな……。


 まあ……俺だって、本気で『語れる』ほど詳しいわけじゃないけど。



「そう言えば赤宮(あかみや)くんて、ここの店長さんと知り合いなん?」



「ん? ああ……ケーゾーさん、昔うちの近くに住んでて、歳は一回りぐらい離れてるけど、俺の母さんと姉弟みたいに仲が良かったらしいんだよ。

 ……で、今でも家族ぐるみで付き合いがあるってわけ」



「そ、そうなんや……ふーん……」


 ……今、鈴守、さりげなく小声で「うらやましい」って言ったような……。



 ああそうか、ここの数量限定抹茶プリン――通称エメラルドソードに目の色変えてたもんな、この間。


 よし、いずれさりげなくプレゼントしよう……決まりだ。



「それで……どうしよか、美術のレポート。

 やっぱりこの辺で美術館とか個展言うたら、柿ノ宮(かきのみや)の方になるん?」



「そうだなあ……高稲(たかいな)の方に出れば、個展ぐらいあるかも知れないけど……やっぱりちゃんとした美術館もあって、数が多そうなのは柿ノ宮かな。

 ……ほら、名前に宮って付くとおり、あそこには『柿太刀(かきたち)神社』って結構大きい神社があってさ。

 『柿』が『描き』に、『太刀』が『立ち』と『絶ち』に通じるってことで、絵とか文とか、何かを描く仕事をする人が、昔からよくお参りしてたらしいんだよ。

 これから身を立てようって人も、理由があって筆を絶とうって人も、今後とも御加護がありますように、って。

 ……で、そんな経緯から、あの辺には芸術関連の施設が多く集まるようになった――って話だったかな」



 どうでもいい話をしちゃったかな……と思ったが、鈴守は楽しそうに目を輝かせてくれていた。



「へぇー……! さすが地元っ子、よう知ってるね!」



「……つまんなくなかった?」



「ううん、ゼンゼン! ウチも、そういう由来とか知るん結構好きやもん。

 神社とかお寺行ったら、由来書いてある看板とかじっくり読んでもうて……気が付いたら一緒に来てた友達とはぐれてるとか、何回もあったよ?」



 はにかみながら、でも楽しそうに話してくれる鈴守。



 俺に気を許してくれているのが分かるその、何気ない、自然な姿に――。


 あらためて、俺はドキッとした。




 あ~……やっぱり、俺はどうしようもなく、このコが好きなんだなあ……。




 今さらながら、そんなことをしみじみと思い直してしまう。



「……? どうかしたん?」


「いや、やっぱり鈴守といると楽しいなあ……って」


「! う、うん……ウチも……!」



 思わずポロリとこぼれた本音に、鈴守はちょっとだけ赤くなって微笑んでくれる。



 そう……これだよ。


 この笑顔が見たくって、これを心の支えにして――だから俺は、魔王との厳しい戦いも乗り切れたんだよなー……。



 ………………。



 そう言えば魔王のヤツ、未だにウンともスンとも反応がないけど……ペンダントの中でいったい何をしてやがるんだか……。


 意外に居心地良かったりするのかね? 封印具ってやつは。




「あー……ごめんよ、お邪魔するようで悪いけど、お待たせ」



 いかにもイイ雰囲気(……多分)な俺たちの間に、申し訳なさそうな笑顔を浮かべてケーゾーさんが割って入る。


 そして、看板メニューでもある、涼やかなガラスの器に盛られた黒みつまめを俺たちの前に置くや、すすっと下がっていった。



「……あれ? アイスクリーム乗ってる……?」


「あー……多分、サービスしてくれたんじゃないかな」



 チラリと厨房の方を見やると、サムズアップするケーゾーさんが見えた。


 ……まあ、実際には、『おアツかったもので』とか、そんな茶目っ気だろうけど。



 丁寧に「ありがとうございます」と、ケーゾーさんの方に頭を下げてから、スプーンを握る鈴守。



「……そういえば、なんでこれ、ブラックダイアモンドって名前なん?」


「ああ……曲名から取ってるんだよ。ここのメニューで変わった名前が付いてるのは大抵そう。

 ほら、エメラルドソードだって」


「そうなんや……どっちも、ヘヴィメタルバンドの?」


「そうそう。色んなバンドから。

 ……ああ、それで、美術館行く話だけど――」




 ――アイス入り黒みつまめをつつきながら……今度一緒に柿ノ宮の美術館に行こうって話を詰めていく俺たち。



 なんだか、柿ノ宮なら、鈴守には行ってみたかったお店があるとかで……それを盛り込むと、あんまり迷うこともなく、計画はとんとん拍子に決まっていった。



 うん……前のデートは散々な結果だったし、今度こそ、当日もこうやってスムーズであってほしいもんだけどなあ……。



 俺が、そんななかば職業病じみた一抹の不安に駆られていると……。



 何人かの女の子がお客としてやって来たらしく、入り口のあたりがにわかに騒がしくなった。


 やっぱり甘味処だからなあ……お客さんも女の子が多い――って。




 ……ちょっと待て?


 なんか、今、あまりに聞き慣れた声がしたような気が――。




「よお、いらっしゃい、亜里奈(ありな)ちゃん、見晴(みはる)ちゃん。そっちの子は――」


「どーも、初めまして!

 アリナの再従妹(はとこ)の赤宮シオンです! アガシーって――」



「――――ッ!?」


 思わず、ガバッと入り口の方に身体ごと振り返る俺。



 その視線の先に立つ三人の小学生は――俺に気付くと、三者三様の笑みを浮かべた。



 イタダキの妹、見晴ちゃんは、いつものふんわりとした優しい笑顔を。


 我が実妹、亜里奈は、恐らくは鈴守にも気付いた上で、よそ行きのまぶしい笑顔を。



 そして――小学生に擬態しやがっている、かの聖霊サマは。




「おや〜? 奇遇ですねえ、兄サマぁ〜……?」




 良いオモチャを見つけた、と言わんばかりの――。


 一見愛らしいが、俺にはそれと分かる邪悪な笑顔で……ペロリと唇を舐めるのだった。






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― 新着の感想 ―
[一言] せ、せっかくのおでぇとが……波乱の予感(゜Д゜;)
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