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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
4章 勇者に、そんな覚悟はいらない
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第34話 勇者兄妹と万事抜かりないニセ妹



「もしも〜し、兄サマ、起きてます〜?」



 恐ろしいほどわざとらしい猫なで声で……。


 赤宮(あかみや)シオンとか名乗ったアガシーは、放心状態の俺の頬をぺちぺちと叩く。



「ふむ……どうやらわたしのあまりの愛らしさにモエつきたようですね。焼死!」


「あーあー、焼き切れたよ確かに……思考回路がな」



 物騒なセリフとともに、可愛らしいポーズを取ってみせるアガシー。



 うん……その平常運転なウザさに、俺の脳みそもようやく復活してきた。





 そんなところへ――。


 今度こそ間違いなく聞き慣れた声とともに、ホンモノの妹がやって来る。




「アガシー、お兄起きたー?

 ――って、うん、起きてるね。そしてやっぱりバッチリしっかり困惑してるね……」


「おい亜里奈(ありな)、コレっていったい――」



 俺は、等身大のアガシーをいぶかしげに見ながら、亜里奈に尋ねる。



 ……実際のところ、アガシーが等身大で実体化すること自体はそう不思議でもない。


 もとが、聖霊という精神的な存在であるため、魔力を使えばそのあたり結構融通を利かせられるからだ。

 現に向こうの世界でも、町娘になりきったりしていたこともある。



 ……とはいえ、等身大、かつ実体化となると、魔力消費量はバカにならない大きさになるハズなんだが……奇妙なことに今のコイツからは、そんな気配がまるで無い。


 本当に人間に変化したかのようだった。



「あ〜、うん……なんかね、ここのところアガシー(このコ)、隠れてコソコソしてたでしょ?

 何をしてるのかと思ったら……コレが目的だったみたいで」



 亜里奈は、自分と肩を並べる、満面の笑みの金髪少女をちょいちょいと指さす。



「だってー、せっかく来たんですから、わたしだってこっちの世界の生活を楽しみたいじゃないですかー。

 ……と、いうわけで!」



 等身大のアガシーは、そう言ってその場で、クルリと優雅に回ってみせる。


 ――とっさに腰を落とす亜里奈。


 対して、反応の遅れた俺は――顔面に、アガシーの長いポニーテールのビンタをまともに食らってしまった。……こそばゆい。



「どーですか! どっからどう見ても、ただの可愛すぎるJSでしょうっ!?」



「自分で言うな。……というか、そのゴツいもの引っ提げたホルスターは置いとけ。

 小学生はソーコムピストルなんざ装備出来ん」



 俺がビッと指摘すると、アガシーはぶーぶー口を尖らせながら、自動拳銃(オートマチック)が突き刺さったホルスターをベルトごと取り外した。



「…………で?

 一体全体、なにがどうなってるんだ? ちゃんと説明してくれ」



「えーっとですね……。

 勇者様のアイテム袋の奥に、いざってときの身代わりになるから――って渡されていた、〈人造生命(ホムンクルス)〉の雛形が残ってるのを見つけまして……」



「あ? ああー……そう言えばもらったっけな、そんなの……。

 確か、死ぬような目に遭ったら身代わりになってくれるアイテム――だったか。

 でも、スゴい貴重品だなんて言われたから、うっかり使ったらもったいないって、アイテム袋の奥の方にしまい込んでた――んだっけ……?」



 アガシーの言葉を頼りに、つたない記憶を探り、俺は首を傾げる。



 すっごい貴重で、しかも非売品とか言われると……どれだけ有用なアイテムでも、使うのをためらってしまう庶民的貧乏性勇者なのだ、俺は。


 しかし、あげくに、存在すら忘れてアイテム袋の肥やしにしているのだから、それこそもったいないの極致である。……ちょっと反省。



「そう、それです。アイテム袋の肥やしになっていたそれを丹念に成長させて、わたしが同化したのがこれ……この姿ってわけなのです!」



 嬉しそうに言って、また一回転。


 さっと屈む亜里奈、マトモに食らう俺。……こそばゆい。



 ……だが、なるほど……そういうわけか。



 基礎が『ほぼ人間』の〈人造生命〉なら、魔力の消費なんてほとんど必要なく、恒常的にこの姿でいることも出来る――と。



 いや、でも……ちょっと待てよ?



「そもそも、〈人造生命〉なんて魔法で創られたモンだ、短期間にそこまで成長させるとなると、結構な魔力が養分として必要だったんじゃないのか? けど――」



 ……そう、だけど、これまでアガシーがそこまで魔力を消費していた気配はないし、契約で結ばれている俺から勝手に持っていった様子もないのだ。


 いったいその魔力をどこから調達したんだと思っていたら……。



 アガシーは、あっけらかんとした様子で、亜里奈を指さした。



「そりゃもちろん、アリナから借りましたよ? こっそりですけど」


「……はあ!?

 亜里奈からってお前、何考えて――!」



 何の訓練もしてない一般人――しかもこの世界の現代人の魔力なんて、それこそ雀の涙程度のハズだ。


 それをムリに吸い上げたりすれば、ヘタすりゃ身体や精神にまで悪影響が出かねない。



 思わず声を荒げる俺に、しかし当の亜里奈までが、


「――らしいよ?」


 ……と、けろりと言ってのけた。



 いや、お前は事情を知らんから仕方ないだろうが、魔力ってのは――。



「あ〜……もしかして勇者様、気付いてなかったんですか?」


「気付いてない――って、なにが」



「アリナの魔力ですよ。言っちゃなんですが、アリナの潜在魔力、勇者様の比じゃありませんよ?

 ちゃんと魔法使いの修行したら、あっさり大賢者とか呼ばれそうなレベルです。

 だから借りたんですよ魔力。……当たり前じゃないですか」


「え……そうなのか?」



 俺が視線を向けると、亜里奈はあいまいに首を傾げた。



「らしいよ? まあ、あたし自身よく分からないし、MPいっぱいあっても魔法覚えてないから意味がない――みたいなものだと思うけどね」



「わたしは初めて会ったときにすぐ分かりましたよ?

 さすが、勇者様の妹ってだけのことはあるなーって感心しましたもん。

 ……なのに、まさか勇者様が気付いてなかったとは……ヒきますわー……」


「わ、悪かったな!」



 いやだって、まさか亜里奈にそんな素養があるなんて……思いも寄らないに決まってるじゃないか。


 勇者って言っても人間なんだから、魔力とかにそこまで敏感でもないし……。



 けど、まあ……それなら、亜里奈に悪い影響が出たりって心配は無いか。



 あ、いや、別の意味では心配だけどな……。


 なんせこの聖霊と来た日にゃ、青少年への悪影響のカタマリというか……。



「……ふーむ……」



 俺はあらためて目を上げ、並んだ小学生二人を見比べる。



 ……正直、事情を知った俺でさえ――このうちの一人が実は人間じゃないなんて、とても信じられなかった。


 そりゃこのJSモードのアガシーは、(黙ってさえいれば)アイドルもかくやってレベルの美少女だが……逆に言えばそれだけで。


 人としての違和感なんてものは、外見上はまったく無いと言っていいだろう。



「しかしまあ、ホント……そもそもが人間の身代わりになるほどの〈人造生命〉を素地に使ったとはいえ、よくもこれだけちゃんとした『人間』になったものだよな……」



 その造形について、アガシーが手を入れたというなら、それについては素直に感心するしかない。一種の職人技だ。


 まあ……『美少女フィギュアだ!』とかなんとか、ヘンな情熱を振りかざしてただけ、って可能性もあるにはあるけど。



「……それだけじゃないよ、お兄。

 どうも、周りへの根回しもカンペキみたい」



 呆れたように言って亜里奈が、アガシーの着ている、自分と同じ制服を引っ張る。



「……根回し?」


「ほら、お兄……パパの従兄弟(いとこ)智久(ともひさ)おじさん、知ってるでしょ?

 ヨーロッパの方に住んでる――」


「ああ、もう何年も会ってないけど――って、まさか……!」



「そ。アガシー(このコ)、おじさんの娘って身分をご丁寧にも偽造して……うちの一家に預けられたって設定で、矛盾が出ないよう、ムリなく見事にうちに潜り込んだってワケ」



 あのおじさん、結構何でもアリな自由人だからなあ……連絡もそんな頻繁にはないし、確かに、利用するにはもってこいだろうけど……。




「ふっふっふ、下調べから準備まで、ずいぶん時間かけましたからねー。

 ただ幻惑魔法でダマすだけ――なんて下策は取らず、ちゃーんと各種公的書類なんかも揃えたんですよー?

 今日から転校生として、アリナと同じ学校にも通いますしね!


 ……と、いうわけで……。


 わたしは今日から正真正銘、ユーマ兄サマの再従妹(はとこ)、赤宮シオンです!

 略してアガシーと、いつも通りにお呼び下さって結構ですけどね?」




「略して……だと、『アカシー』なんじゃないのか?」



「それだとタコで有名な関西の一都市みたいじゃないですか。

 ……そこはほら、向こうの国では発音の関係でそう呼ばれてたとか、いかにも帰国子女っぽいコト言っておけば、学校の自己紹介とかも何とかなると思いますしー」



 うん、まあ……確かに、日本人ってそういうところあるけどな……。



「……父さんと母さんは?」


 ちらりと目配せすると、亜里奈はゆっくり大きく首を横に振る。



「もちろん了承済み。おじいちゃんもおばあちゃんも。

 あのおじさんならさもありなん――ってね。

 あとは、みんな、『驚かせたいから』ってこのコの言葉にすんなり乗っかって、今まであたしたちに黙ってたみたい」



 そこまでされたらもう何も言えない、といった感じの亜里奈。


 いや、俺としても同じ気分だ。



 しかし――。


 アガシーめ、まさかこれまで、素知らぬ顔でこんなとんでもないコト企んでやがったとは……!



「あ、でも勇者様、わたしはわたしでちゃんと聖霊として分離出来ますし、勇者様との契約の絆はちゃんと繋がったままなので……。

 不安に駆られてビビる必要はないぞ、新兵ルーキー!」



「別の意味で大いに不安だってーの……」





「……ちょっとー! みんな何してるの!? 遅刻するわよー!!」



 言いたいことはまだまだ色々あったが……。


 階下からの母さんの怒鳴り声に、そのすべてをひとまず飲み込む。



 そして俺はタメ息一つ、これだけは――と亜里奈に告げた。



「亜里奈、すまんが……コイツのこと、よろしく頼む」



 亜里奈は、しょうがないなあ、と口では言いながら……。

 けれども、どこか楽しそうだった。



「いい、アガシー?

 ちゃんとあたしの言うこと聞かないと……分かってるよね?」


「い、イエシュ、マム!

 では、勇者――もとい、兄サマ。またね〜?」



 慌ただしく部屋を出て行く女児二人。



 残された俺は、何だかまだ夢見心地で――のろのろと制服に着替えながら。






 『わたし一人で、すべての人を幸せに出来る――迷う余地などないでしょう?』






「……まったく。だから言ったろうが」




 思わず、頬を緩めて――。


 脳裏を過ぎった、かつて聞いた言葉に対して……悪態をついていた。






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― 新着の感想 ―
[一言] 義理の妹なんざ萌えるだけだろうが!!(阿良々木暦(ォィ それはともかく……アカシー。 でっかい刀剣振り回す男塾二号生も連想しちゃう( ´∀` )
[一言] >すっごい貴重で、しかも非売品とか言われると……どれだけ有用なアイテムでも、使うのをためらってしまう貧乏性勇者なのだ、俺は。 わかり味が深すぎて笑えました。 ラストエリクサーは貴重だからと…
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