第357話 進化せよ聖鈴、響け聖音! その名はアウレオラ!
――それ、本当は『杖』じゃないんじゃ……?
ウチの〈織舌〉を指しての、白城さんのその言葉に――ウチは肩越しに、すぐさま聞き返してた。
「白城さん……なんか分かるんっ!?」
この、鈴守家に伝わる聖具の〈織舌〉が、実は見たまんまの『打撃武器』やない――って言うんは、ウチも知ってることやけど……。
でも、その『真の姿』となると、ウチどころかおばあちゃんも知らんくて。
鈴守宗家がそれを秘密にしてるんは、あらかじめ知ってたからって、それだけでどうにかなるもんやなく――逆に、〈巫女〉としてのチカラがあれば自然と扱えるはず、いうことみたいで。
やから結局、ウチの力不足が一番の問題なんやろうって……これまでその正体を知ることのないまま、ウチは今もこうして、同じやり方で戦ってて。
やけど――さっき、カネヒラが言うてた。
おばあちゃんは、今回のシルキーベルスーツのアップデートで、〈織舌〉との親和性を高めた、って。
ウチには、それがどういうことかは分からへんし、〈織舌〉を握ってても、今までとの違いとかは特に感じられへん――。
やからこそ、ウチと違て、正真正銘の『魔法少女』な白城さんやったら、何かウチでは気付かれへんようなことに気付いたんちゃうかな、って思って。
ウチが、〈織舌〉を本当の意味で使いこなす――そのための手掛かりが、白城さんの言葉の中にあればって、そう願いながら。
ウチは白城さんに、簡単に〈織舌〉の事情を説明した。
「……なるほど、『真の姿』……ですか。道理で」
「こんなん、誰かに答え教えてもろて、どうにかなるもんやないって分かってる――。
でも、せめて切っ掛けがあれば、って……!」
白城さんとは、お互い背中合わせに、周囲の〈呪疫〉を牽制しながら……話を続ける。
「そうですね……まあハッキリ言っちゃえば、わたしだってその〈織舌〉が本当は何なのかを見抜いたってわけじゃないです。
ただ……違和感というか、使い方が間違ってる――そんなイメージがあって」
「使い方が……間違ってる?」
「ん〜……なんて言うのかなあ……。
そうですね、強いて例を挙げるなら……『鞘に収まったままの刀』かな。
センパイはそれを、『そういうもの』だとそのまま捉えて、殴って使ってる感じなんですよね。
もちろん、刀を鞘に収めたまま振るっても、一応武器にはなりますけど……。
でも、それが刀であるのなら――『本質』は、鞘の中……ですよね?」
「……鞘に収まったままの、刀……」
ウチは、手の中の〈織舌〉を見下ろして――白城さんの喩えを反芻する。
もちろんそれは、これが実は仕込み杖みたいなもんで、刃が隠れてる――て直接的な意味やない。
でも……その喩えは、なんやろう、ウチの中でしっくりきた。
なんか、大事なことを掴めそうな――そんな気がした。
「ありがとう、白城さん……!
教えてもろたこと、意識して――やってみる!」
「――はい! わたしで出来ることなら、お手伝いしますから……!」
そう答えた白城さんは、早速とばかりに、〈邪疫〉の方へと踏み出して――。
その間を塞ぐような位置におった〈呪疫〉たちを薙ぎ払い……もう一回、ウチに道を拓いてくれた。
そのうえで、改めてウチを振り返り――槍を、穂先とは逆の石突きの方を向けて差し出してくる。
「――センパイっ!」
それで、意図を察したウチは、白城さんに向かってダッシュ。
差し出された槍の柄に飛び乗って――。
「お願いっ!」
「行きますっ!」
白城さんが、槍に飛び乗ったウチを――投げ飛ばすみたいに、上空へと跳ね上げるのに合わせて。
ウチも槍の柄を蹴って――ロケットみたいに、一気に高く宙へ飛び出す!
狙いは――ズバリ、〈邪疫〉の核の一つ眼、魔石のカケラの集合体……!
何を試すにしても、どうせやったら一番効果がありそうな場所を狙おう――て、ウチらの考えが一致した、その結果で……!
そんで、もう一つ、どうせやったら――!
「――我、打ち鳴らすは聖音、打ち祓うは呪怨――!」
ウチは、そんな聖句とともに、全身の霊力をスーツを通して展開――周囲にそれを、〈鐘〉として幾つも形成していく――!
そう、どうせやったら――。
いっそ、最強の技をぶつけて、どこまで通用するかも試したろうって。
込めるチカラが大きい方が、〈織舌〉の『鞘の中』を知覚しやすいかもやし……!
「祈りは祈りと手を取り、声となり――!」
周囲に形成した霊力の〈鐘〉……そのうちの1つを、〈邪疫〉の頭部との間に設置したウチは――。
「打てよ〈織舌〉! 響けよ〈聖紋〉っ!!」
その宙に浮く霊力の〈鐘〉を、〈織舌〉で叩いて打ち鳴らし――。
〈鐘〉が共鳴、鳴り響くその聖音で〈邪疫〉の動きを封じると同時に……〈鐘〉を打った反動でもう一段高く飛び上がって。
「いっっ……けぇーーっ! 〈千織の聖鐘〉ッ!!!」
杖としての〈織舌〉やなく、その内側、『鞘の中』を意識しようと集中しながら――霊力を込めて。
〈邪疫〉の一つ目に、大上段から思いっ切り叩き付ける!
――――はずが……。
ウチの霊力による、幾つもの〈鐘〉が共鳴しての聖音――。
それだけやと、完全には相手の動きを封じきられへんかったみたいで……!
「――――っ!?」
呪縛をムリヤリ引き剥がした〈邪疫〉の右拳が、ウチ目がけて飛んできて――。
振り下ろす途中やった〈織舌〉を間に挟んで防御、何とか直撃は避けるけど……。
「あぐっ――!」
そのまま、ウチは――振り抜かれた拳で、激しく地面に叩き付けられた。
「センパイッ!?」
「ひひ、姫ェェ〜〜ッ!!!」
「ただちにサポートに回りまくりっ!」
――あまりの勢いに、地面でバウンドするウチ。
その無防備なスキを狙って、さらに〈邪疫〉が伸ばした影で追い打ちしようとするんを――。
白城さんが、キャリコくんに乗ったカネヒラが、それに直芝さんて人の銃弾が……思い思いに牽制して、ウチを助けてくれた。
「……大丈夫ですかっ!?」
「う、うん……直撃はせえへんかった、から……なんとか。
――でも、ありがとう、みんな……。
ウチ、助けられて……ばっかり、やね……」
大丈夫って示すのに、軽口っぽく言いながら……ウチは歯を食いしばって、痛みと痺れが残る身体をムリヤリに起こす。
……やっぱり……今のままやと、ウチの攻撃が通用するとは言い難い。
それに――今の一連の動きでも、ウチは特に何かを掴めたわけやなかった。
〈織舌〉が、『鞘に収まったままの刀』やとしても……それで聖なる〈鐘〉を鳴らす以上、そのイメージからは逃れられへんで……。
そう、だって、鐘や鈴を鳴らすこと……。
それが、『舌』って道具の『本質』やから――――って。
「…………本、質…………」
……そのとき。
白城さんが教えてくれた、その一言が――。
ウチの胸の奥に、今度こそ……すとんと落ちた。
そうやん――本質……!
あらゆる魔を祓うという〈聖鈴〉の『舌』から創り出された――それがこの聖具〈織舌〉。
でも、それやったら……なんで、聖具になってるのが〈聖鈴〉の方やないのか?
なんで、『舌』の方だけなんか……?
よくよく考えたら、ヘンな話。
けど、その答えは――単純なことで。
ウチが実際に、〈千織の聖鐘〉でやってたことにも通じてて――。
そう、つまりそれは……鳴らす鈴や鐘が『無い』んやなくて。
『必要ない』――って言うこと……!
さっきも、霊力で形成した、実体の無い鐘を鳴らしたみたいに――。
〈織舌〉そのものが……。
あらゆる空間に聖音を響かせる、〈聖鈴〉でもある、いうことで――!
形あるものを打ち鳴らさずとも、自らが聖音を織り成し、歌う――まさに、『舌』……!
それこそが――この〈織舌〉の、『本質』なんや……!
「そう、なんやね……。
分かった――〈織舌〉っ!」
ウチは、改めて〈織舌〉を構えると、これまで以上に――精神と霊力を集中。
そして、それを――ようやくホンマの意味で理解した『本質』へと繋いでいく。
そうしたら……そのチカラは。
これまでよりも、ずっとキレイに、スムーズに……心地良く、流れ込んで。
でも、やからこそウチの霊力は、これまでにない早さで……吸い上げられるみたいに消耗していって……!
「――う、く……っ!」
はっきり言うて……ツラい。キツい。
今までにない霊力の消費に、意識ごと持っていかれそうになる。
……こんなんで……ウチに、この『本質』を使いこなせるん?
〈鈴守の巫女〉としては、及第点ギリギリの、劣等生の……ウチが?
――ううん……違う。そうやない……!
おばあちゃんが、スーツのアップデートで〈織舌〉との親和性を高めたんは、きっと『千紗なら』って、ウチを信じてくれたからで――。
それに、今この場で……白城さんたちもカネヒラも、ウチを信じるからこそ、こうして助けて――任せてくれてる。
そして――何よりも。
ウチには……裕真くんが。一番大好きな人が。
すべてを信じてくれたって、自負がある――ッ!
やったら……出来へんとか、ムリとか――ありえへんやんッ!!!
「う――――ああああああっっ!!!」
ウチは、魂ごと込める勢いでありったけの霊力を絞り出し、声を限りの雄叫びを上げて――〈織舌〉を高々と頭上に掲げる。
それは、まばゆく輝き、光となって――――!
「えっ? センパイ、これって……!」
「おおおお、ひひ、姫ェェ〜ッ!
つつ、ついにィ〜……ッ!」
「ほっほう、これはこれは……!
ワガハイ、アツくなりまくり……ッ!」
……今なら――ああ、これが『そう』なんやな、って……分かる。
ウチの手の中で、ついに、ウチにとっての『本当の姿』になった〈織舌〉は……いわば、燦然と輝く〈光のリボン〉やった。
そして、それを……ウチは。
くるっと首の後ろを大きく回すような形で……そっと身に纏う。
そうすれば――。
初めから、それこそが本来あるべき形みたいに、スーツと光のリボンは違和感無く同調して――。
〈織舌〉に注ぎ込んだウチの霊力が、何倍にも増幅されて返ってきたみたいに――身体の隅々まで、清浄なチカラになって駆け巡る……!
「うわ……すごい! この光のリボン、天女の羽衣みたいで……!」
「おおお、姫ェェ〜〜〜ッ!
麗しい、麗しいですぞォォ〜〜〜ッ!
あまりの麗しさに、拙者、天に召されそうでござるゥ〜……ッ!」
白城さんとカネヒラが、生まれ変わった気分でおるウチを、そんな風に評してくれる中……。
その向こうに、不意を突こうとしてる〈呪疫〉を見つけたウチは――。
「――てぃっ!」
自分でも信じられへんぐらいの速さで、一気に接近――高速ローリングソバットを繰り出す。
……これまでも、霊力を集中させての〈聖紋〉を身体に刻んで、肉弾攻撃を〈千織の聖鐘〉のシメに使ったりもしたけど――。
今のウチは、それをさらに強力にしたものを、常時、発動してるような感じで。
そんなウチのソバットを受けた〈呪疫〉は……。
そのインパクトと一緒に鳴り響く、人の耳にはほとんど届かへん澄んだ聖音に祓われて――瞬く間に、消滅した。
――うん、いける……! 分かる……!
これやったら、打撃でも、絞め技でも、投げ技でも――すべてにおいて。
ウチは聖音を、浄化のチカラとして直接、相手に響かせられる……!
だって、〈織舌〉を宿したウチ自身が――。
今、あらゆる魔を祓う〈聖鈴〉になってるねんから……!
手応えを感じて、拳を握り締める――。
そんなウチを、側に駆け寄ってきたキャリコくんが見上げて。
「……我がお嬢が、先に天女の羽衣と形容しまくった、その頭の後ろをぐるりと円を描いて巡る光のリボン……。
それは同時に、聖者が背負う『後光』や『光輪』のようでもある――」
そう表現しながら……ニヤッて。
なんか、すごい威厳のある感じに、笑った。
「うむ、ならばここに――由緒ある魔法王女の導き手たるこの我輩が、相応しき名を与えまくり、であるな。
それはまさしく、この間テレビで観た『聖者の光輪』が如し――ゆえに!
生まれ変わったキミは……アウレオラ!
そう――〈シルキーベル・アウレオラ〉である!」