表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
24章 そこに願いがあるのなら――4度目も勇者になるしかない
357/367

第355話 だから、4度目も勇者になる



「……言ったろ――(まもる)

 まだ、勝負はついてない――ってな……!」



 ――オレと軍曹に向かって振り下ろされるはずだった剣を受け止めて。

 そのまま、衛兄ちゃんごと後ろに弾き飛ばしたのは――。


 そう、衛兄ちゃんにやられたはずの……師匠で――!



「し……師匠おぉ〜っ!」


「勇者様っ!」



 もう、なんかめっちゃ、ワケ分かんねーぐらいにカンドーしちまってるオレと軍曹が呼ぶと、師匠は身体半分だけ振り返って――笑ってくれた。



「おう、遅くなって悪かった。

 ……何にしても2人とも、今までよく頑張ってくれたな」


「へ、へへ……! あったりまえだろ……!」



 こんなのゼンゼン大丈夫って、強がろうとしたけど……。

 師匠が来てくれたって思ったら、なんだろ、安心しちまったのか――。


 オレは、ペタンってその場に座り込んじまった。


 なんか、急に足に力が入らなくなったって言うか……ヒザが笑ってる、みたいな……。



「……アーサー!? 大丈夫ですかっ!?」


「だ、大丈夫……。

 ゴメン軍曹、なんか急に力、抜けちまって……」



 すぐにオレの身体を支えてくれた軍曹に、オレは、なんか情けない顔で、情けないことを言っちまう。



《仕方あるまい。ろくな実戦経験もないところに、あれほどまでに格上の相手と戦っていたんじゃからな……受けるプレッシャーは並大抵ではない。

 むしろ、ここまで良く保ったとすら言えるじゃろ》



 オレの頭の中で、テンがそんなことを言って……。

 それに合わせて、師匠も、オレに向かってうなずいてくれた。


 ……だから、オレは……。



「………っ………。

 師匠……あとは――お願い!

 ぜってー……! ぜってー、衛兄ちゃんを止めてくれよ……!」


「――ああ、任せろ。絶対だ」



 オレに向かって、もう一度うなずいて――。

 師匠は、衛兄ちゃんの方へ振り返った。



「本当に……まさかだよ、裕真(ゆうま)

 ムリヤリ、ケガを押してここまで来た――ってわけでもないみたいだね……」


「ああ。正直、あの最後の一撃は効いた……マジでヤバかったよ。

 ――コイツが、俺の信念に共感して、助けてくれなきゃな」



 衛兄ちゃんの質問に答えながら、師匠はあの呪いの鎧に手を当てた。


 ――って言うか、アレ……なんか、今までと雰囲気変わってね?



「驚きましたね……。

 〈クローリヒト変身セット〉の呪いが、キレイさっぱり無くなってるじゃないですか。

 ……いいえ、それどころか……このチカラは……。

 まるで、勇者様を助ける――その想いが、そのまま鎧になったかのような……!」



 オレを支えたまま、まんまるにした青い目で師匠を見ながら……軍曹がそんな風につぶやく。



「それって、もしかして……。

 アレの呪いを、なんつーか、師匠が改心させてチカラに変えて……逆に最強の鎧にしちまった、みたいな?」


「……言い得て妙、ですね。

 呪いを祓っただけじゃ、きっとこうはならないでしょうから」



 うおお……マジかよ……ッ!


 衛兄ちゃんに追い詰められてヤベーところで、呪われた装備まで味方にしちまうとか……!

 しかも、最強の鎧に生まれ変わらせてとか……!


 すっげえ……! やっぱ師匠はすげーよ……!



「……まあ、いいよ。

 どのみち、裕真……キミが来たところで、何が変わるわけでもないんだからね――」



 師匠が無事で、ここまで来たことには驚いてた衛兄ちゃんだけど……。

 今はもう落ち着いた様子でそう言って――すぐ後ろの、アリーナーの方を見た。



 泡みたいなのに包まれちまって……。


 目を閉じてひざまずいて、祈ってるようなカッコの、アリーナーを。



「……まるで、〈繭〉だな……」



「僕も……そう思うよ。

 これを見れば、もう、猶予らしい猶予もないことは分かるだろう?


 それにね、裕真――。

 キミにはツラい話だろうけど、亜里奈(ありな)ちゃんは覚悟を決めているんだよ。


 ……まだこんなに幼いのに、誰も犠牲にしたくないって。

 〈世壊呪(セカイジュ)〉となった自分一人の命で、みんなも、世界も守れるのなら――そうしてほしいって。


 そんな、気高いまでの覚悟を見せられたら――僕も、迷うわけにはいかない。


 そこで迷えば、きっと、その覚悟を踏みにじることになるから。

 きっと……亜里奈ちゃんをさらに苦しめることになるから。


 だから裕真、僕は――。

 世界を守るため、亜里奈ちゃんの覚悟と願いを無下(むげ)にしないため――。


 他の誰かに押し付けるんじゃなく……僕自身が罪を背負い、この手を下す、って。

 ――そう、決めているんだよ」



「…………そうか…………」



 衛兄ちゃんの言い分に、師匠、どんな風に言い返してくれるのかって思ったら――。

 ゼンゼン、怒ったりとかなくて……静かに、そう言ってうなずくだけで……!


 そんな、まるで衛兄ちゃんの言葉に納得したみたいな態度に、思わず、どうしたんだよ――って文句を言いそうになった、その瞬間。



「おい、亜里奈――」



 師匠は、衛兄ちゃんから視線をずらして――アリーナーの方に呼びかけた。



「ムダだよ裕真、もう亜里奈ちゃんに僕らの声は――」


「――亜里奈ッッ!!!」



 ……一瞬、ビクってなった。


 呼ばれてるのはアリーナーなのに、オレも軍曹も――衛兄ちゃんさえも。



 それぐらい、迫力のある――師匠の、怒ったみたいな声だった。



 ――ううん、違う……!

 それで反応したのは、もう1人いた……!



「…………お、兄…………?」



 アリーナーだ……!

 さっきまで、オレたちの声とか、ゼンゼン反応しなかったアリーナーが……!


 うっすら、目ェ開けて……師匠、見てる……!



「……やっぱり、聞こえてたな」



 オレたちみんなが驚く中、師匠だけは当然って顔で――ガヴァナードを床に突き刺して、小さく、やわらかく笑う。


 それで、何を言うのかって思ったら……。



「――ごめんな、亜里奈」



 真っ先に……アリーナーに謝った。



「お前を怖がらせないように、ヘタに刺激しないように――って、お前と〈世壊呪〉のこと、今まで黙ってたけど……。

 当のお前からしたら、きっと……何も知らないからこそ、こんなことになって、余計に怖かったよな?

 何よりも、お前自身のことなんだから、勝手に決めずにちゃんと話してほしかった……って思うよな?


 だから……ごめん、だ。


 結局俺は、お前のこと――必要以上に子供扱いしちまってたのかもな。

 ……お前だって、一日一日成長してて――いつまでも子供じゃないのに、な」



「……お兄……」



「だからな――亜里奈。

 もし、本当にお前が……『自分を犠牲にしてでも』って決めたのなら。

 心の底から、本気で……そうしたい、それが一番だって思うのなら。


 ……俺は、それを尊重することも考えなきゃいけないんだろうな――」



「――なっ……!」


「勇者様、何を――!」



 師匠の、信じらんねー言葉に――オレも軍曹も、思わず声を出すけど……!

 師匠自身は、それに何の反応もしないで……アリーナーを真っ直ぐに見つめてた。


 その顔が、あんまり真剣だから、オレたちももう何も言えねーで……。

 ただ、師匠たちのことを見ていることしか出来なかった。



「……うん、そうだよお兄……あたしは――」


「本当に本気で、お前は、そう思ってるんだな?」



 泣きそうな笑顔で、うなずこうとしていたアリーナーをさえぎって――。

 師匠は、すげー強い口調で繰り返す。



「そ、そんなの……だって……!」


「……それしかないから、か?

 俺が聞いてるのはそういうことじゃない。

 亜里奈……お前自身が、心の底からそれを望んでいるのか――だ」



 ……師匠の言葉は……なんかまるで、怒ってるつーか……叱ってるみたいに聞こえた。

 こんな状況のアリーナーにそれって、キツいんじゃねーのかよ……って思ったら。



「そんなの――そんなの……っ!

 だって、そうしなきゃ……!

 そうしなきゃ、お兄も、みんなもぉ――っ!」



 今までとゼンゼン違う雰囲気で――そう、ツラそうに声を荒げるアリーナーの目には……涙が、浮かんでて。

 そんで、その様子を見た師匠は――打って変わって。


 そんなアリーナーを褒めるみてーに……すげー優しい顔をした。



「……そうだな。お前はそういう子だよ。

 でも、だからこそだ――。


 俺には、本音を言っていい。

 頑張りすぎるぐらいなら、ワガママを言って、甘えていいんだ。


 こうして、自分は二の次で他者を優先してしまう、優しいお前の。

 本当はさびしがりで怖がりなのに、それを隠そうと強がって……でもだからこそ、人一倍他者を大切にする、思いやりのあるお前の。

 いつでも、いつまでも、支えになってやるために――。


 12年前、お前がこの世に生を受けたときから……ずっと。これからも。

 ――俺は、お前の兄貴でいるんだから」



「!……お、にぃ……っ……!」



「……だからな、亜里奈。

 改めて俺を、お前の兄貴でいさせてくれ。


 お前が困ったとき、無条件に安心して頼れる――。

 俺がお前を信じるのと同じぐらい、お前にも信じられる――。


 ……そんな兄貴で、いさせてくれないか?」



「――っ!

 お、おにぃ……! おにぃちゃ……っ!」



 アリーナーは……すっかり、泣いてた。

 涙をポロポロこぼして、顔をくしゃくしゃにして。



「……ああ。なんだ?」


「ごめ――ごめんな、さい……っ……!」



 そんな風に、アリーナーが謝ると……師匠は、困ったみてーに笑った。



「あ〜……ったく、バカだなあ……だから先に俺が謝ったのに。

 お前が謝ることなんてないんだから、とにかく全部引っくるめて、俺のせいにしちまえば良かったんだぜ?


 ……まあ、でも……それがお前、だもんな。

 

 さて、言ってみな?

 ――亜里奈、お前の……本当の心を。願いを」



 あらためて、師匠にそう言われて……アリーナーからは。


 もう止められないって感じに、涙といっしょに……必死の声が、溢れ出た。



「……あたし――あたし、やだ……!

 死にたく、ない……死にたくないよおっ――!


 まだやりたいこと、あるもん……っ!

 みんなと、いっしょに……いたいもん……っ!


 だから――だから、まだ、生きていたいよおっ……!


 助けて――お兄ぃ……!

 お願いだから……助けてよぉ――っ!!!」



 アリーナーの、ホントの願いそのものの……ビリビリ来る、心からの叫び。


 それを受けて、師匠は――自信満々の、笑顔を見せた。



「――おう、任せとけ。


 知ってるだろ? 亜里奈。

 お前の兄貴が……いったい何者なのかを、な」



 そうして……今度は、衛兄ちゃんの方に向き直って――。



「裕真、キミは――っ!

 そうして彼女の心を掻き乱すのが、どれだけ残酷なことだと――!」


「関係ねーよ。

 俺が衛、お前を止めるし――亜里奈を〈世壊呪〉になんてさせやしないからな」



 激しく首を振りながら、衛兄ちゃんが出した……怒ってるみてーな、ツラそうな声を――あっさりとはね除けちまった。



「――これまではな、衛……。

 俺はお前と違ってな、もうまっぴらゴメンだ――って、思ってたんだ。


 けど、な……こうしてここに、〈願い〉があるのなら――」



 そして師匠は、蒼い光を放つガヴァナードを握り直して……。

 床から抜きざま、天高く、大きく掲げて――。



「……俺も、それに応えて――。

 亜里奈を、お前を、そして世界を救うために……!」



 最後に、その切っ先を――衛兄ちゃんに突きつけた……!



「この4度目も、勇者になるしかないだろ――!」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 最高のタイトル回収です!!! いつも楽しませてもらってます!!ありがとうございます!
[一言] ここに真のブラコンが覚醒した……! これはもう勝つっきゃありませんね! すばらなタイトル回収回でした!
[一言] 超クールなタイトル回収回でした……!!!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ