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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
24章 そこに願いがあるのなら――4度目も勇者になるしかない
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第351話 いかに黄金が強く輝くとも――見習い勇者たちは引き下がらない



 ――僕だって、迷いがまったくない……と言えばウソになる。



 それはそうだ、いかに〈世壊呪(セカイジュ)〉――世界に災いを為す存在だとしても、亜里奈(ありな)ちゃんはまだ幼い子供……。

 本来なら、一番に守られて然るべき存在なんだから。


 いかに世界のためでも、そんな彼女を斬ることに、迷いが生まれないはずもない。


 だけれど……むしろ、だからこそ――僕は、覚悟を決めなくてはならないんだ。

 世界そのものを、ここに住まう多くの人々を――守るために。



 ――そして……。


 その罪を――他の誰かに押し付けるのではなく、僕自身が引き受けるために。



 しかも――亜里奈ちゃんはあの幼さで、自らが犠牲になることを覚悟した。

 大人でもそんなの、そうそう出来ることじゃないのに――だ。


 それも、世界のためというばかりじゃなく……。

 手を下す僕の負担をも、少しでも減らせれば……という、思いやりすら込めて。



 なら……僕は、迷うことなんてあっちゃいけない。



 そう――そんな、気高い覚悟を決めた亜里奈ちゃん相手だからこそ――。

 僕が、迷いに剣を鈍らせるようなことは、あっちゃいけないんだ……!


 そして、それは……武尊(たける)たちにおいても同じこと――。



「……(まもる)兄ちゃんも! アリーナーも!

 ぜってー、間違ってる――ッ!

 だから、ぜってえ……止めるッ!!!」


「大事な友達を放っておけないのは分かるよ――武尊。

 ……だけど、それじゃただのワガママだ。

 それじゃ、結局は何も救えない――。

 世界も、彼女の覚悟も踏みにじる、ワガママでしかないんだよ……!」



 彼女の尊い『覚悟』を知ってなお、何の目算もなく――。

 ただ『犠牲にはしたくない』という理由だけで、それを邪魔するようなマネを、させるわけにはいかない……!



「ぅらあああっ! 烈風閃光(れっぷうせんこう)けーーんっ!!」



 武尊が、雄叫びとともに――。


 アガシオーヌの、二挺拳銃による魔力弾の援護射撃を伴いながら、短剣から伸ばした光の刃を振りかざして突撃してくるのを。


 特に構えもせず、飛来する魔力弾を拳で打ち払いついでに……神剣エクシアで軽く横薙ぎに一閃。

 身体ごと、剣圧だけで後方に弾き飛ばしてやる。



「あがっ……!」



 そうして、床で一度跳ね、近くまで転がってきた武尊を……助け起こすアガシオーヌ。



「アーサーっ!」


「いっつつ……! だ、だいじょーぶ……!

 ――つーか、何だよあの動き……! この間と段違いじゃねーか……!」


「なにせ、今度は『本体』ですからね……。

 それに、どういうわけだか、盾を使ってないってことは……初めっから、本来のスタイルってわけですし……!」



 吹っ飛び方だけはハデだったものの、大したダメージにもなっていない武尊は……アガシオーヌと言葉を交わしながら、すぐさま、僕に向かって短剣を構え直す。



「………………」



 正確には従弟(いとこ)とは言え、感覚としては弟みたいだった武尊から、こうして敵意を向けられるのは――いくら何でも、良い気分なハズがない。


 そして……アガシオーヌも。


 未だに、彼女と、僕の知るアガシオーヌとのギャップが埋まらないのだけど……。

 かつて、アルタメアを救うために共に戦ったことを思えば、やはりこうして敵対するのには心苦しさもある。


 それに……。


 ガヴァナードの真の力を引き出すための、『役目』を担った彼女なら――。

 あのとき僕に、『それが役目だから』と語った彼女なら。


 自らを犠牲にしてでも世界を救うという亜里奈ちゃんの覚悟を、理解出来ると思っていたのだけど……。

 今の彼女では、そうもいかないみたいだ。



 ともかく……どのみち。



 僕が〈勇者〉の使命として、亜里奈ちゃんを斬れば――それが、世界を守るためだとしても。

 武尊やアガシオーヌばかりでなく、亜里奈ちゃんに関わる誰とも――もう、以前のような関係には戻れないのは明白だ。


 だから……結局。

 僕がこうした立場になることもまた、仕方のないことなんだ――。



「――衛兄ちゃんッ!

 兄ちゃんはさ、マジメだから……!

 マジメに、間違った〈勇者〉なんてやろうとすっから!

 だから、こんなことになってンだよ……っ! わかんねーのかよ!」


「間違った――か。言っただろう、武尊。

 それは、現実を見ないで、掲げた理想だけを無責任に追い続けるワガママだ。

 だいたい、僕が間違っているのなら――これまで、5度も世界を救えたはずがないだろう?」


「けどさ――っ!」



 武尊は再び、光の刃を伸ばして斬りかかってくる。

 先ほどよりも、ずっと速く、鋭くなったそれを――神剣で一撃一撃、丁寧に受け流していく。



「アリーナーのことだけじゃねえ……!

 ドクトルばーさんを眠らせたりとか――それで千紗(ちさ)ねーちゃんにツラい思いさせたりとか……!

 どんな風に言ったって、そんなのやっぱり悪いことじゃねーかよ!

 なのに、そんなことまでしなきゃいけねーってンなら……!

 ――ンなの、〈勇者〉なんかじゃねーだろっ!!」



 アガシオーヌが、絶妙のタイミングで僕の動きを邪魔するように、鎧の関節部分を狙って撃ち込んでくる魔力弾。

 それによって生じた、僅かなスキを突いて攻勢に出る――と見せかけて、武尊は。


 その動きに思わず反応してしまった僕に、呼吸を合わせ――。


 絶妙のタイミングで後方に飛んで間を外し――それによってスキを広げられた僕へと、振りかぶった短剣を投げつけてくる。



「――いっけえっ! 〈陣風穿(じんぷうせん)〉ッ!」


「プラス、物理的エンチャントですよっ!」



 激しく渦を巻く風をまとい、さらに、後方からアガシオーヌの魔力弾に蹴られて加速する短剣。

 一点突破の貫通力を備え、超高速、渾身の力で飛来するそれを――。



 ――キィィィン……ッ……!



 しかし僕は、神剣の柄頭で……軽々と、上空へ跳ね上げてやった。



「――っ! ウソ、だろ……!?」



 呆然といった感じに、上空に消えた短剣を目で追う――。

 そんな武尊に僕は、先の問いかけの答えを返す。



「そうだね……確かに、ドクトルさんや鈴守(すずもり)さんには悪いことをしたと思う。

 あの魔導具による眠りは、身体に悪影響が出るようなことはないけど――だったらいいのか、ってわけでもないしね。

 だからもちろん、事が済めば、ドクトルさんの状態も元に戻すし、合わせて謝罪もするつもりだよ。


 ――ただね、武尊……。


 誰も傷つけない、悲しませない、何も犠牲にしない――。


 そんな理想だけじゃどうにもならないからこそ。

 僕のような、〈勇者〉がいるんだよ……!」



 武器をなくした武尊に、一歩一歩、ゆっくりと近付く。


 それに合わせて、武尊はジリジリと退がり……その動きを援護するように、アガシオーヌが彼の名を呼びながら魔力弾を連射してくる。


 けれど……そんなのが、僕に通用するはずもない。


 当たったところでどうということもないけれど……ムダだと知らしめて戦意を奪うためにも、あえてすべてを、剣で、拳で――叩き落としてやる。



「……分かってるよ、それぐらい! でも、そうじゃねーだろ!

 そんな『どうにもならない』ことを、『どうにかしてくれる』のが――!


 それが、本当の〈勇者〉じゃねーのかよッ!」



「そうだ。だから、どうにかするんじゃないか――。

 1人でも多くの人を、より確実な方法で、守り、助けるために……!

 1人でも、犠牲となる人を減らすように……!」


「その、『1人でも』って初っぱなのトコが間違えてンだって――!

 なんで……分からねーんだよッ!!!」



 武尊が、そう吼えた瞬間――。


 僕が、空高く弾き飛ばしていたはずの彼の短剣が――稲妻のような速さで、僕の頭上へと空を裂いて降ってくるのが分かった。


 ――まさか、という意表を突いた……鎧よりも装甲の薄い、兜を狙っての一撃。


 当然、それがこの兜を貫通することはなくても……。

 直撃によって、僕の頭を、脳を揺らし……大きなスキを作ることが出来るだろう。



 ……それはまさに、千載一遇のチャンス――。



 けれど、それも――。

 相手が、僕でなければ……の話だ。



 僕は、大上段に構えた神剣の刃で――降ってくる短剣を、見ずとも捉えて。


 そのまま、袈裟斬りの要領で……武尊じゃなくアガシオーヌ目がけて、短剣を思い切り打ち返してやった。



「――え……」


「軍曹ッ!!!」



 短剣を操れる自分でも、到底勢いを殺しきれないと悟ったんだろう。

 狙い通りに武尊は、とっさにアガシオーヌの前に飛び出して――。



「があ――っ!!」「ぁうッ!?」



 それでも弾丸のように飛来する短剣の威力は止めきれず――。

 2人まとめて、もつれ合うように弾き飛ばされ……床の上をしばらくゴロゴロと転がって、ようやく止まった。



「あ……アーサー! アーサーッ!? 大丈夫ですかっ!?

 何やってるんですかっ、なんでわたしなんか庇って――!」



「だ、だい、じょうぶ――だ、っての……! これ、ぐらい――っ!

 それ、と……! なんか、とか言うんじゃねーよ……自分のこと……!

 ――ったく、軍曹ってよ……!

 ときどき、そーゆーとこ――ある、よな……!」



 アガシオーヌに、心配ないと示すためだろう――。


 武尊は、自分の胸――刺さることはなく、装甲で止まっていた短剣を握り直し……必死に、ヒザ立ちの状態まで起き上がる。

 ただ、そのヒザも震えていて……今の一撃が、かなり効いたことは明白だ。



「それは――っ!

 それは、わたしが本質は聖霊だからです!

 この身体が壊れても死ぬわけじゃないからです!

 なのに……!」


「ンなの、カンケー、ねーっての……っ!

 だいたい、あそこで、ボーッと見てたん、じゃ……!

 師匠に、怒られちまうぜ……!」



 なんとかヒザ立ちにはなったものの、そこからはなかなか動けずにいる武尊と……そんな武尊を支えるアガシオーヌに、僕は、ゆっくりと近付く。



「残念ながら、その『師匠』も……キミたちを助けに来ることはないよ」



「――――っ!?

 そうです、アモル、あなたが勇者様を呼び出したはずなのに、ここにいないことが不思議でしたが……まさか……っ!」



 武尊を支えたまま、僕に銃口を向けるアガシオーヌ。

 ……それが、ムダな足掻きだとは分かっていても。



「安心しろ――と、そう言っていいのかは分からないけど。

 さすがに、命までは奪っていないよ。

 もっとも、常人なら間違いなく致命傷となるほどのダメージだ……しばらくは動けないだろう」


「っ……! 師匠、が……」


「じゃあ、こっちも幕引きにしようか――」



 明らかな、意気消沈の色が垣間見えた2人を前に……僕は、神剣を大上段に構えた。


 これ以上は、それこそ弱い者イジメのようなものだ。

 長引かせず、ひと思いに一撃で気絶させてあげるのがいいだろう……。



「――おやすみ、武尊、アガシオーヌ……」



 神剣に闘気を込め、振り下ろしの衝撃波を放とうとした――その瞬間。


 刹那……風を切るような音が、微かに聞こえたと思ったら――。



 ――――ギィィンッ!



「――ッ!!??」



 いきなり、神剣が――何かが高速でぶつかったような、驚くほど強い衝撃を受け……弾き飛ばされそうになる。


 なんとか、手放さずには済んだものの……そのせいで、よろけるように身体まで大きく流れた。



「……なんだ、他に誰が……!」



 周囲に誰もいないことは、気配で分かっている。

 そこで改めて視線を巡らせても……やはり、屋上には他に人などいない。


 だけど――!



 ――――ガギィィィンッ!



「くぅっ……!」



 ――また神剣が、握るこの手が痺れるほどの衝撃を受けた。

 神剣にも僕自身にも、ダメージになるようなものじゃないけど……!


 そして、その謎の襲撃を、僕が警戒している間に――。



 武尊はアガシオーヌとともに、体勢を整えていたのだった。



「へ、へへっ……!

 そっか、きっとこれって――!」



 ……何やら訳知りな感じに――そんなことをつぶやきながら。






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― 新着の感想 ―
[一言] しばしば衛のキャラに共感できる私は、きっと心が汚れているんでしょうね (;^_^A
[一言] 武尊明らかに成長してますね! 見ていて清々しいです! しかし衛には負けちゃうかぁ…… まーそれは当然でしょうが(酷) そして前回の感想返信と改稿も含め、ありがとうございます! それでこそ衛!…
[一言] 読者「アーサーのほうが勇者っぽいな」
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