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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
24章 そこに願いがあるのなら――4度目も勇者になるしかない
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第350話 守るべきものを、絶対に、守りたいから



「ちぃっ……!

 ったく、次から次へと……どうなってやがる!」


「文句を言うヒマがあったら、しっかり働いて下さいね――っと!」



 ――消耗し、戦えない状態の余とサカン将軍を守る形で展開した、ブラック無刀とポーン参謀が、絶え間なく現れる〈呪疫(ジュエキ)〉を相手に戦い続けている。


 数がそこまで多いわけではないが、どうやら――1体1体がこれまでよりも、時間とともに徐々に強くなってきているようだ。



「2人とも、もうしばらく堪えてくれ……!

 私も、あと少し回復すれば……何とか手を貸せそうだ……!」


「おやっさん、そんな状態じゃ無茶っすよ……! ムリはしねーでくれ!

 ――なーに、めんどくせえってだけで、オレはまだまだ余裕っすから!

 こんな程度の乱戦、今までやってきたケンカと同じようなモン――ってな!」



 将軍の言葉に応じながら――ブラックは、アッパーで浮かせた〈呪疫〉を、追撃のストレートで砕き散らした。



「――あ、じゃあボクもちょっと休憩していいですか?」


「あぁ!? ざっけンな、テメーはもっと働け!」


「まあまあ。

 アレです、本気なら明日から出しますから、ってことで」


「い・ま・出・せ・よ!

 ……つーか、ンなことぬかしてやがる時点で余裕しかねーだろが!」



 ――漫才のようなやり取りを続けながらも、ブラックとポーンはなかなかの連携で〈呪疫〉どもを追い払う。


 ……ただ恐らく、実際は此奴(こやつ)らも、そこまで余裕があるわけではなかろう。

 あるいは一見不真面目にも見えるやり取りも、此奴らなりの士気の保ち方なのかも知れぬな。



 さて――そして余が、この状況下でどうするか……だ。



 嘘偽りの無い本音としては、動けるようになり次第、余も亜里奈(ありな)を捜しに出たかったところだが――。

 この〈呪疫〉の出現具合からしても、亜里奈の状態がさらに悪化しているのは間違いなかろう。


 で、あれば――。


 むしろ、捜し出すことそのものはハルモニアに任せ――余は、『その先』をこそ見据えるべきか……!



「――ブラックにポーンよ!

 まだ今しばらくは、キサマらだけで耐えられるのだな!?」



「あぁ!? 誰に言ってやがる、余裕だっつってンだろが!」


「えぇ? ボクは言ってないんですけどねえ……」


「そう言えるのを余裕っつーんだろうがよ!」



 2人の期待通りの返事を受けた余は――将軍を呼びつつ、自らの指先に、残っている魔力を集中。


 それを使い、地面に焼き付けるように……記憶にしっかりと刻みつけてある、亜里奈を救うための〈術式〉を描き出していく。



「クローナハト君、もしかしてこれは……」



 将軍の問いに、余は〈術式〉やそれに伴う注釈を、ひたすらに魔力で描き続けながらうなずいた。



「そうだ。先の余との約束、覚えているな?

 時は一刻を争うのだ――。


 今ここで、我らの知識と経験を総動員して、これを完成させるぞ……!」








     *     *     *




 ――オレと軍曹は、一度リアニキと合流しようってことになって、師匠んちに戻るところだったんだけど……。


 その途中、オレたちの学校の近くまで来たとき――。



「……待って下さい……!

 屋上の方に……スゴいチカラを感じます……!」



 マジな顔した軍曹が、そう言って屋上を見上げながら立ち止まった。



《うむぅ……確かに……!

 どうも、あたり一帯の瘴気が集中しておる感じでもあるし……。

 しかもどうやら、今はここいらが〈霊脈(れいみゃく)〉の(かなめ)になっておるようじゃぞ……!》



 続けてテンのヤツも……羽をバタバタさせながら、オレの頭の上で軍曹に同意する。


 で、オレも――2人に言われてあらためて屋上の方を見たら、なんか、胸がザワザワして……!



「どうする、軍曹――行くか?」


「――ええ。状況がはっきりしませんし、無謀かも知れませんが……。

 妙な胸騒ぎもします、放ってはおけません……!

 けどアーサー、あなたはこのまま戻ってもらっても――」


「じょーだんじゃねーっての。

 ……1人で戦わせねーって、言ったろ?」



 オレの顔を見てくる軍曹を……オレも、ニラむぐらいの気持ちで見返してやる。


 そうしたら軍曹は、しょーがない、って感じで小さく息をついた。



「……分かりました、行きましょう。

 でも、なんかマジにヤバいって感じだったら、さっさとケツまくって逃げますからね!」


「おうよ!」



 上で何が待ってるか分からないし――ってことで。


 この場で、オレはティエンオーに……。

 そして軍曹は、黒い甲冑と仮面に蝶の羽、それといつものよりゴツい二挺拳銃の――クローアスターに変身。


 2人して、空を飛ぶ――ってよりは、大ジャンプみたいな感じで、一気に屋上に飛び上がった。



 ……そしたら、そこには……!



「っ!?――――アリナっ!」


「エクサリオ!――じゃねー……(まもる)兄ちゃん……っ!」



 ――そう……!

 なんか、フェンスの前で立ち尽くしてるアリーナーと……。


 そして、その側に……!

 そんなアリーナーを守ってるみたいな、黄金の騎士――衛兄ちゃんがいた……!



「……誰かと思えば……。

 ティエンオーに、クローアスター……いや、武尊(たける)と――そうか、アガシーちゃんか。

 お互いに、この姿で会うのは……以前、僕が魔導具で生み出した分身体で戦ったとき以来――かな」



 地面に突き立てた剣に手を置いて……衛兄ちゃんは、オレたちの方に向き直る。

 でもアリーナーは……オレたちに気付いてねーのか、ムシしてるのか……フェンスの向こうを向いたまんまだ。


 ……いや、って言うか――!



《アーサー、あの娘の〈闇のチカラ〉……急激に膨れあがっておるぞ……!

 このままでは……!》



 テンに言われるまでもなく、オレなんかでも、アリーナーがなんかすげーヤバいチカラをまとってるのは……肌がピリピリするみたいな感覚で分かった。


 で、オレなんかでそうなんだから、衛兄ちゃんだってもう、誰に聞かなくたって分かっちまってるはずだ――。


 アリーナーこそが、〈世壊呪(セカイジュ)〉なんだ、って……!



「衛兄ちゃん……アリーナーをどうするつもりだよ!」


「……武尊。僕が、〈世壊呪〉をどうしようとしていたか……知ってるだろう?

 そして、それは――相手が亜里奈ちゃんだからと言って、変わるものじゃない」



 衛兄ちゃんは、オレたちとアリーナーの間に立ちはだかったまま……はっきりと、そう言い切る。


 けど――



「……本当に、それでいいんですか――『アモル』」



 そこへ、軍曹がその名前で呼びかけると……驚いた感じに、そっちに顔を向けた。



「どうして、僕のことを?

 キミが〈剣の聖霊〉なのはこの間知ったけど、かつて僕がガヴァナードを使うときに頼ったのは、キミじゃなく――」



「いいえ、それがわたしなんですよ――アモル。

 まだ心らしいものが無かったあの頃と違って、わたしという人格が定着しちゃいましたからね……別人みたいに見えるのも分かりますけど。


 アルタメアの〈剣の聖霊〉は……。

 この二千年ほど、ずっと、わたししかいないんです」



 軍曹は、仮面を取って、投げ捨てて……真っ直ぐに、衛兄ちゃんを見返す。



「改めまして――お久しぶりです、アモル。

 わたしが……あなたにこの名をいただいた、アガシオーヌ本人なんですよ」



 そんな軍曹に、衛兄ちゃんは……本当に驚いてるみてーだった。



「……そう――だったのか。

 そう言えば、キミは初めて会ったとき、『どこかで会ったか』って聞いたっけ」


「ええ。こうして思い出すまで、ずいぶんかかりましたけどね……。

 子供だったあなたは大きくなってるし、そもそもわたしにとっては、二千年も前のことでしたから」


「僕は……まだ少し、戸惑っているけどね。

 本当に、あの頃とはあまりにも印象が違うものだから」



 言って……衛兄ちゃんは、ゆっくりと頭を振る。



 ……そんで、なんか、そんな2人のやり取り見てると……ちょっと。

 ほんのちょっと、イラッとするみたいな――そんな気がして。


 だから、オレは――軍曹と初代勇者のことを聞いたときから言いたかった文句を、反射的にぶつけていた。



「――そんだけかよ……兄ちゃんっ!

 二千年だぞ!?

 兄ちゃんがやらせた『お役目』に、軍曹、ずっとずっと縛られてたんだぞッ!?

 師匠が解放するまで、ずっとずっと、二千年も――ッ!!」



 言いながら――ううん、口に出して言ってるからか、余計にハラが立ってきて……!

 思わず、勢いで殴りかかりそうになっちまうのを、オレの前に手を伸ばして制したのは――。


 その、軍曹本人だった。



「――いいんです、アーサー……そのことは」


「で、でも軍曹――っ!」


「それよりも――」



 オレに、これ以上言わせない調子で――。

 軍曹はまた、衛兄ちゃんを真っ直ぐに見据えた。



「……世界のための最善手だからと、アリナを犠牲にする――。

 それで、本当にいいんですか? アモル。


 本当に、そんな〈勇者〉を望んでいたんですか?――シローヌは!」



「………………」



 軍曹が、オレの知らない名前を出した、そのとき……。

 突き立てた剣に置いていた衛兄ちゃんの手が、ピクリと動いた。


 でも、それはほんの一瞬のことで――何事もなかったみたいに、兄ちゃんは口を開く。



「僕は――これまでも、これからも……。

 彼女の遺した言葉に誓った通りの〈勇者〉であり続ける――それだけのことだよ」



「ですけど――!」


「――それに」



 もっと何か言おうとした軍曹に、かぶせるみたいに強くそう言って――。

 兄ちゃんは、首だけ動かして……後ろの、アリーナーを振り返った。



「完成した〈世壊呪〉を、僕が斬ること――。


 それは、他でもない……。

 彼女自身の願いでも、あるのだから――」



 …………え…………?

 アリーナー自身が、斬られることを望んでる――って?


 ンな、バカなことって――!



「――おい、衛兄ちゃん!

 なんでアリーナーがンなこと言うんだよ、ウソついてンじゃ――!」



「……ウソじゃないよ、朝岡あさおか



 オレが、文句を言い始めたその瞬間――。

 すげー静かで……でも同時に、なんかすげー迫力を感じる声で、そう言って。


 アリーナーが……ゆっくり、オレたちの方を振り向いた。



「だって……それが、一番良い方法なんだから。

 あたしが自分で考えて……そうしようって、決めたんだ」


「――ハァ!? 何言ってンだよ!」



 ンだよ……ンだよそれっ!

 納得いかねー……! ぜってー、納得なんか出来ねーっ!



「バカなこと言ってンじゃねーよ、アリーナーっ!

 諦めンなよ! ンなのが、一番良いわけねーだろーがよッ!」


「そうですアリナ! アーサーの言う通りですっ!

 わたしたちが助けますから!

 絶対に絶対に助けますから、だから――っ!」



「…………ありがと、2人とも。

 ホントあなたたち、いつの間にかすっかり仲良くなったもんだよね……」



 必死になるオレたちに比べて、アリーナーは……なんか、すげー穏やかで。


 笑ってるみたいな、泣いてるみたいな……何とも言えねー顔をしてた。



「そんなあなたたちは、あたしにとっても大事だから――さ。

 うん、大事なケンカ友達と……妹分。

 だからさ、あたしだって……2人を絶対守りたいって思うんだ。


 ……でもね、あたしのチカラが暴走しちゃったら、とてもじゃないけど止められないって――あなたたちだけじゃなく、みんなに取り返しの付かない迷惑をかけるって。

 誰よりも、あたし自身が分かっちゃうから。


 だから、これで良い――ううん、こうするしかないんだよ。

 ……ゴメンね……」



 オレと軍曹を交互に見て、そう告げたアリーナーは……。

 その場に両方のヒザを突いて――まるで祈るみてーに、両手を胸の前で組み合わせる。


 そしたら……なんかその身体が、うっすら光る、泡みてーなモンに包まれて……!



「お――おい、アリーナーッ! おいってばッ!」


「アリナ……! アリナ! アリナぁッ!!!」



 ……オレたちがどれだけ話しかけても――返事をしなくなっちまった……!

 まるで、オレたちを拒絶するみてーに……!



「……〈繭〉に入ったと……さしずめ、そんな感じか」



 そんなアリーナーを見て……今までオレたちが説得しようとするのを、黙って見ていた衛兄ちゃんが、改めてオレたちに向き直った。



「……聞いての通りだよ。

 亜里奈ちゃんはもう……覚悟を、決めているんだ。

 自らが犠牲になってでも、世界を――みんなを守るって、覚悟を……!


 そして僕は――だからこそ……!

 こんなとき最も残酷な『迷い』を持つことなく、その覚悟に報いなきゃならない――!


 だから武尊、キミたちは――」



「――ざっけんなああッッッ!!!」



 衛兄ちゃんの言葉に……オレは、考えるより先に、思いっ切り怒鳴ってた。



「アリーナーが犠牲になればいいとかさ……!

 ンなの、一番良い方法なわけねーだろッ!

 ぜってー……ぜってーぜってー、ぜっっってえええ、認めねーーーッ!!!

 そうだろ、軍曹ッ!!!」


「――当ったり前です……!

 アリナみたいな至高の美少女犠牲にしてまで存続する世界に、意味なんざこれっぽっちもねーっつーんですよ!

 もうどうしようもなく最高にシットですよ……ッ!

 シットシットシット!!!」



 オレの呼びかけに応じて――軍曹も並んで、一歩を踏み出す……!


 そして――!



「……それじゃあ……どうするんだ?」


「「 決まってる――ッ!! 」」



 衛兄ちゃんに向かって――揃って、同時に。


 オレは宝剣ゼネアを――そして軍曹は、エアガンの二挺拳銃を……構えた!



「「 力尽くで、止めるだけだ――ッ!!! 」」






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― 新着の感想 ―
[一言] >アレです、本気なら明日から出します こういう人リアルにも沢山いますよね (;^_^A 今日やれよ!っていつも強く思います。
[一言] ううむ…… 『本人の望み』 を明らかに少々安心して振りかざしてるらしいエクサリオに、めちゃもにょります…… それでいいんかお前! いや、たぶんそれでいいから、誰に止められてもここまで来ちゃっ…
[一言] 覚悟していたかもしれませんが、この一連の流れは衛にとっては堪えるでしょうね。 見知った人間にことごとく否定されてますから。 誰にも理解されない孤独な勇者道、と書くと聞こえが良いかもしれません…
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