第347話 戦え、魔法王女! 穿て、天と虹が奏でるハーモニー!
――これまでの攻撃は、鎧や盾に阻まれて、やっぱりダメージらしいダメージにはなってなかったんだろう。
余裕を持って身構えている国東センパイと対峙しながら……わたしは、ゆっくりと一つ、深呼吸。
……キャリコの真の姿、〈虹帝アダマルギトゥス〉のチカラは、強大だけど、その分わたし自身の消耗も激しい。
一応、今のところはこっちが一方的に押してる感じだけど……。
だからって、大したダメージにならない攻めを繰り返しても、戦いが長引いてわたしが不利になるばかりだ。
なんとかして、一撃、大きいのを入れないと……!
「……やはり、ガツンと食らわせる必要がありまくり――であるな」
「珍しく気があったね。
で、キャリコ――頼める?」
「致し方あるまい、主の御為とありまくれば。
……我輩、A5ランクの良いお肉で手を打ちまくりである」
「…………。
ちょっとだけお高いネコ缶でガマンして」
「む……ご近所のお嬢さん方に振る舞うにあたり、5缶」
「そんなにはいらないでしょ……どんだけ侍らす気だ。
あと、高校生のお小遣い考えてよ……3缶」
「「 ……………… 」」
「「 ――4缶で! 」」
交渉成立――と同時に、わたしは〈天冠戴く穿槍〉を握る手に力を込め、キャリコは勢いよく地を蹴った!
瞬間――わたしたちは光と化して、センパイに襲いかかる。
キャリコの七色の尾が、合わせて宙に虹を描く!
「はああっ!」
さっきと同じく――けれどより強く、鋭く、四方八方からセンパイを攻め立てる。
やっぱり、なかなか有効打には繋がらないけど……。
センパイもまだ対応しきれないのか、相変わらず防戦一方だ。
これなら、巧くスキを突けば今度こそ一撃が――って、そう思った瞬間。
「――それが、キミの重大な欠点だよ」
守勢にあるセンパイが、盾でわたしの突きをそらしながら……冷たく言い放った。
そして――。
「――え――!?」
その瞬間、センパイの裏側――完全な死角に回りこんだはず、なのに……。
わたしたちの目の前には、長剣を振りかぶるセンパイがいて――!
「――――ッ!」
反射的に、すぐさま『速さ』を超えた動きで、改めてそのスキを狙うも――そこにも、反撃の姿勢に入ったセンパイが……!
「なん――で――っ!」
さらに回り込み、さらに逆を狙い――って。
1秒にも満たない時間に、何度も何度も方向を変え、裏を攻めても――。
……そのすべてで、センパイはわたしたちを完全に捉えていて――!
「――ここまでだ――」
――刹那。
わたしたちの『光』を掻き消すような――閃光がはしる。
それは、一瞬のうちにあらゆる方向から襲いかかっていたわたしたち――その『すべて』を、同時に斬り裂く……幾重にも重なりに重なった、剣閃。
「ぎゃうっ――!?」
「お嬢っ!?」
もろに、逆に反撃を食らう形になったわたしは――キャリコの背からも落ち、勢いよく屋上のコンクリートを転がる。
……センパイは、10を超える分身で……。
残像も含めた――わたしたちの軌跡『すべて』を、一度に断ち斬ったんだ……!
「……〈迅剣・天狼荒截〉」
絶好の機会なのに、倒れたわたしに追い打ちを仕掛けることもなく……センパイは。
どうしようもないぐらいの余裕をもって、剣を下ろし――わたしが、側に駆け寄ってきたキャリコにしがみつき、槍を支えにしながら、起き上がるのを待つ。
「……白城さん、キミは確かに〈勇者〉として、実戦を経験してきたのかも知れない。
だけど――圧倒的に、戦士同士の駆け引きに疎すぎる。
恐らく、そんなものが必要ないような相手ばかりだったんだろう。
だからだ――キミの攻撃は、いかに速くても、たやすく読める。
簡単に対処出来るんだよ。
……死角を生み出すたび、キミは常にそこにいてくれるんだから――ね」
言ってくれるね、センパイ……!
理屈はそうでも、だからって、アレはそんなカンタンに対応出来るようなモノじゃないでしょうに……!
「いいんですか、センパイ……。
わたし、まだ白旗、あげてないのに……そんなこと、教えちゃって……?」
戦闘用ドレスのおかげで、バッサリ斬られた――ってわけじゃないけど、思い切り木刀で身体をブン殴られたような衝撃に、痛みに、歯を食いしばりながら……。
虚勢を張って、あえてちょっと笑ったりしつつそう聞くと――。
センパイは、変わらず腹立つくらいに余裕のまま……小さく首を振った。
「……問題無いよ。言ったよね? 万に一つしか負けはない、って。
大体、今こうして僕が教えたからって、キミがこれまでの戦いで身に染みついた動きは――そう簡単に修正出来るものじゃないから」
「なるほど、それはそう……ですよね。
でも、だからって――。
そんなの、諦める理由にはならないし――!
そもそも、やってみなくちゃ分かりませんけどね!!」
わたしは、自分自身にハッパをかける意味も込めてそう吼えると――。
身体をもたせかけていたキャリコの背に、再び飛び乗る!
「……行くよキャリコ、第2ラウンド……!」
「ここから一気呵成に大逆転しまくり、であるな……!」
「やれやれ。
ガムシャラにやればなんとかなる、ってものでも――」
バカの一つ覚えのように、三度、虹を軌跡に描きながらの突進を繰り出そうとするわたしたちに……呆れた、とばかりに首を横に振るセンパイは。
でも――すぐさま、弾かれたように後方を振り返る。
「――――!?」
……それもそのはず。
そっちからは、たった今わたしが召喚したばかりの、雷光が形作る鎖鎌……〈暴虐の双鎌〉が、円盤形の稲妻と化して飛来してきているからだ……!
さらにそこへ、挟み撃ちを仕掛けるようにわたしたちも突撃する――と、見せかけて!
直前で軌道をずらして、センパイの視界から消えれば――!
その後ろには、わたしたちを追うように飛んできていた――同じく召喚したばかりの〈水舞う連弩〉が浮かんでいて……。
センパイ目がけて、超高圧の水弾を雨あられと連射する!
――これが、すべての『色』を内包する虹、その王たるチカラを持つキャリコだからこその……他の獣神たちの能力の同時召喚だ!
もちろんわたしたちも、それらの合間に混じり――センパイに一斉攻撃を仕掛ける!
「……理解してもらえなかったかな。
そうして、手駒と手数を増やしたところで――」
けれどセンパイは、驚いたのも一瞬のこと――。
機械のように正確に冷静に、〈水舞う連弩〉の水撃を盾で受け止め……。
高速で不規則な軌道の〈暴虐の双鎌〉を、たやすく剣で斬り飛ばした。
そして――。
「決定打であるキミは、やはりそこにいるってことを――!」
ここぞとばかり、渾身の一撃を見舞おうとしていたわたしを……。
返す刀で、キャリコごと一刀のもとに斬り伏せた――!
……って、そう思ったでしょう?
なのに――あまりに手応えが無くて、驚いたでしょう、センパイ?
「! これは――」
……そう、その通り。
今、センパイが斬ったのは――ただの幻だよ。
虹は、光の反射で生まれる――それ自体が一つの『幻』のようなもの。
だから……実体を持った幻を見せるのも、幻の中に実体を隠すのも、得意技なんだよ。
そう、だから――!
本当のわたしが、どこで何をしているかと言えば――っ!
「――なに……!」
センパイの目が――光の反射で姿を、魔力を隠していた、わたしの方へ向けられる。
――さっき、キャリコに乗り直した場所のまま……。
キャリコとともに、光の槍にありったけの魔力を注ぎ込んでいた……わたしへと。
みなぎる魔力によって、ある意味本当の『光速』回転ドリルと化し……。
その勢いで目も眩むばかりの光が大渦を巻き、それが描き出した長大な虹の螺旋を纏う――〈天冠戴く穿槍〉……!
そんな、一撃必殺のチカラを、今まさに振りかぶった――わたしへと!
……そうだよ、センパイ!
すべては――この最強最大の一撃を、確実にぶつけるための……布石だよっ!!!
「いぃっっけえええーーーっ!!!
〈天虹の大響進曲〉ッッッ!!!」
わたしが投げ放った――ううん、むしろもう撃ち出したと言う方が正しい――。
そんな、槍という形態さえ超えて、巨大で圧倒的な、光と虹の螺旋と化したエネルギーは……。
空間を穿ち、貫き、すべてを――盾を構えたセンパイすらも、強大にして極大な己の光の渦中に呑み込み――。
直線上の物質どころか、音も時間も消し飛ばしたような……目も眩む、七色の静寂の果てに――ようやく。
世界を、わたしたちの知る……元の姿へと、返してくれた。
……もう身体中、どこもまるで力が入らなくって……ズルリとキャリコから滑り落ちるわたし。
次いでキャリコも、いつもの三毛猫に戻って……べたんとHの字にだらしなく伸びる。
本当の本当に……完全に、全力を出し切った。思いっ切りぶつけてやった。
うん、だけど――――。
「……やられたよ。
白城さん、キミは本当に――想像以上の使い手だった。
二度も侮ったことは……謝ろう」
そう言いながら、ゆっくりとわたしに近付いてくるセンパイは……。
もう腹も立たないぐらい、金ピカのままだった。
……あ、でも完全に無傷――ってわけでもない、か。
どうやら、あの盾だけでも……消し飛ばせたみたいだから……ね。
「……まったく……どれだけなんですか、センパイは……。
こういうの、チートって言うんですか……?
ホント、やってられませんよ……」
その場にへたり込んだまま、わたしは思いっ切り悪態をついてやった。
……すると、意外にもセンパイは小さく首を横に振る。
「いや、見事な大技だったさ。身代わりに盾を失わなかったら――僕だって、無傷とはいかなかっただろう。
ただ、残念ながら……白城さん。
僕もまた、キミと同じく、『光』の守護を受けた〈勇者〉なんだよ。
――それがどういうことか、分かるだろう?」
……そっか、そういうことか。
よくよく考えれば……当たり前の話だ。
わたしのこのチカラは……そもそも、魔法王国ティラティウムを守るために、『邪悪』な〈闇のチカラ〉を退けるためのもの――。
つまり同じ〈勇者〉相手だと……本来の威力は発揮出来ない、ってわけだ――。
逆に言えば、どうしてだか、いわゆる『呪われた装備』みたいなのを使ってる――。
もう今となっては戦う理由なんてない赤宮センパイ――クローリヒトに対してなら、もっと効果的だったってことなんだから……。
――大した皮肉だよ、ホントに……。
「……ホント、どうして……」
近付いてくるセンパイを……わたしは、必死に見上げた。
ちょっとは怖い顔でニラんでる――つもりだけど、それがどれほど出来ているかは分からない。
「どうして、それだけ強いのに……。
もっと、良い道を……捜そうと、しないんですか……っ!」
「……愚問だよ。
僕は――僕が思う、最も良い道を選んでいるんだから。
そのためにこそ、もっと強くなろうとしているんだから」
わたしを見下ろしながら……突き放すような物言いで答えるセンパイ。
兜の隙間から垣間見えた、そんなセンパイと目が合った――そのとき。
わたしは……ふと、察した。分かった気がした。
それは、きっと……わたしも、似たようなもの――だったから。
赤宮センパイが好きで、鈴守センパイを超えて、選ばれたいって思いながら――。
その実、2人ともが――仲良くしてる2人そのものが好きで、ずっとそうあって欲しいとも願っていた……そんな、わたしと。
……そう。
国東センパイ自身は、きっと気付いてないだろうけど――。
「ねえ、国東センパイ……。
センパイは……〈勇者〉として、多少の犠牲が出ようとも、確実に世界を守るって言いながら――それを信念に掲げながら。
実は……願ってるんじゃないですか……?
そんな自分の信念を打ち砕いて……本当の意味で、世界が――そして自分が救われる道を……今ある世界が、今のままに続く道を……。
誰かに、示してほしい、って……!」
わたしが、意識が途切れそうになるのを堪えながら、必死にそう訴えかけると。
国東センパイは……まさか、と言わんばかりに、小さく鼻で笑った。
「もし、そうなら……僕はどうして、なおも強くなろうとするんだい?
誰かに、救ってほしいと願うなら――まったく矛盾してるんじゃないか?」
……うん、そう言うと思ったよ……センパイ。
わたしは、せめてもの反撃とばかりに……鼻で笑い返す。
「そりゃそうですよ。もともとの想いが、矛盾してるんですもん……。
――だからね、センパイ。
センパイが強くなろうとしてるのは……無意識で、自分の心の、本当の願いから目を背けるため――。
間違ってるかも知れないって、今の信念を……間違ってないって言い聞かせるため。
その道を、強引に、力尽くにでも進むため……なんじゃないかなあ……」
「………………」
「そうすればするだけ……結局は、それを打ち砕いてくれる――。
そんな、『本当の強さ』への憧れが、大きくなるばかり……なのにね」
「…………掴んでみせるさ、僕は……。
この道の先に、『本当の強さ』をね――」
わたしの前で、センパイは……ゆっくりと、剣を引いた。
そして――
「……おやすみ、白城さん」
勢いよく、鋭く――剣を突き出す。
それは、寸止めだったけど……圧縮された衝撃波が、わたしの胸を打って……。
――ガシャアンッ!
「ぅ、ぐ……っ」
為す術なく吹っ飛び、屋上端のフェンスに背中から叩き付けられたわたしは……。
そのまま、ずるりと崩れ落ちて……。
……………………。
うん、でも……色んな意味で、一矢は報いられた……かな。
センパイ、いくら否定しても――今のわたしの言葉、きっと、無かったことには出来ないよ?
だけど――これ以上は、わたしじゃムリみたいだ。
そう、あとは……。
この先、みんなを助けるのは――――
「……本当の勇者の、仕事……ですから、ね……」
わたしは、脳裏に――わたしが知る、一番の〈勇者〉の姿を思い描きながら……。
視界を覆う闇に、すべてを委ねて――その中に、意識を手放した。




