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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
24章 そこに願いがあるのなら――4度目も勇者になるしかない
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第344話 小さな者たちの、意志、願い、存在理由



 ――(まもる)兄ちゃんの正体が分かって……でも、師匠といっしょに居場所が分からなくなって。


 これからどうするにしても、危なくなるかも知れないからって、軍曹が凛太郎(りんたろう)を家に帰して――。


 で、その後、『探偵なら、師匠たちのこと調べられるかも』って提案したオレが、しおしおねーちゃんに電話してたんだけど……。



「……どうでした?」



 オレが、電話切るのを待ってたみたいで……すぐ、軍曹が声を掛けてきた。

 出来れば良い報告ってのをしたかったんだけど――オレは、首を横に振る。


 ……結局、しおしおねーちゃんでも、師匠と衛兄ちゃんの居場所は分からなかった。



 それに「そうですか」って答えて、公園のベンチに腰を下ろす軍曹は――オレとおんなじように、すげー残念そうだ。



「あなたが言うように、『探偵』のバイトしてるしおしおねーさんなら、あるいは――と思いましたが……」



 ホントは、『探偵』よりレベル高そーな『忍者』なんだけど……。

 そんなしおしおねーちゃんでも、ダメだった――っくしょ〜……!



「しおしおねーちゃん、師匠も衛兄ちゃんも、どっちのスマホも壊れてるんじゃないかって言ってた」


「あの2人が本気でぶつかり合ったとしたら、充分有り得る話ですね……。

 あるいは、強固な結界でも敷いていて、それが電波とかも遮断してしまっているのか……」



 難しい顔で、軍曹が考えてることを口にする。


 それを見てたら……ふと、思いついた。



「あ、そう言えばさ……!

 軍曹と師匠って、『けーやく』みたいなので繋がってるって言ってなかったか?

 それで、お互いの居場所が分かったり連絡出来たり……そーゆーの、ねーの?」



 良い考えだと思ったんだけど――軍曹は、困ったような悔しいような顔をする。



「もともとは、そうだったんですけどね……。

 でも、わたしがこうして、『赤宮(あかみや)シオン』として生活するようになって――それに、勇者様自身も、最近はわたしを介さないガヴァナードの扱い方を模索してるからか……。

 その、〈剣の聖霊〉としての『契約』が、薄れてきてるような感じで……。

 ――ともかく、あなたが言うようなことがうまく出来ないんですよ……」



 それは……きっと、軍曹にとっては良いことなんだ、って思う。

 少なくとも、オレはそうだし――師匠だってそう言うハズだ。


 でも……今はむしろ、その『契約』がちゃんと強く残ってれば、って状況で。

 それって、誰より軍曹が一番、もどかしいって思ってるんだろーな……。



 ……せっかく軍曹、ちゃんと『赤宮シオン』になってきてたのに……!


 なのに、前のままなら――みたいに、今を否定するみてーなこと、思わなきゃいけねーとか……!



 ――くっそ……ッ!

 それもこれも、全部、オレが調子に乗って、衛兄ちゃんに正体バラすようなことしたからだ……!



「……ゴメン、軍曹……っ。

 オレが――オレがバカなことしなきゃ……っ!」



 反射的に、オレは頭を下げちまう。

 ……それがいきなりだったから、頭に乗ってたテンが、落ちないようにあわてて飛び上がった。



「……もう、そーやって、さっきから何回謝ってるんですか。

 やっちまったことは仕方ないって言ってるでしょーに。

 ――てか、キサマがそんなだと調子が狂う、シャンとしろ!」



 ベンチから立ち上がった軍曹は、いつもの調子でそんな風に言ってデコピンしてくるけど……。

 その声もデコピンも、何て言うか……優しかった。


 ……いや、今だけじゃねーか……。


 軍曹って、結構ムチャクチャするし、アリーナーに怒られるぐらい口悪ィけど……。

 ホントは、なんだかんだで優しーんだよな……。



 ――そうだ。


 衛兄ちゃんがエクサリオで……アルタメアの初代勇者アモルだってのは、きっと、軍曹の方がずっとずっとツラいんだ……!


 だからオレが、あれこれヘコんで頭下げてる場合じゃねーよな……!



「……イエシュ、マムっ――!」



 気合い入れ直しって気持ちで、オレは勢いよくビシって敬礼した。



 でも――。

 気合い入れたって、とにかく、師匠たちのいるところが分からねー、ってのは変わらねーわけで……。



「――これからどうする、軍曹……?

 師匠たちが行きそうなところ、手分けして捜してみるか?」


「おバカなこと言わないで下さい。却下」



 早速、ってオレが出した提案を、軍曹はすげーマジにバッサリ却下しちまう。



「……ハッキリ言って、エクサリオとしてのマモルくんの強さはケタ違いです。

 わたしとあなただと、組んで戦っても、まともに勝負になるかすらアヤしい。

 しかも……向こうは、わたしたちの正体を知ってるんですよ?

 ――そんな状況で、分散行動とか……愚策もいいところです」


「――っ……!

 でもさ……早くしねーと、師匠が……!」


「分かってます、でも……あの勇者様のことです、そうカンタンにやられたりはしないって信じてますし……。

 それに、居場所が特定出来るのなら、正面切って戦う以外に何らかの手を講じることも可能ですが、それが無理となると……。

 そうですね――。

 このまま当てもなく捜すより、一度戻って、合流すべきでしょうか」


「戻って合流って……リアニキと?」


「ええ。まったくもって忌々しく不本意ですが――わたしたちの中で、勇者様に続く実力を持っているのも、悪知恵が働くのも、あのクソイケメン魔王ですし」



 ふんっ、と小さく鼻を鳴らす軍曹。


 ……で、そうかと思ったら……オレを見ながら、「それよりも」って話を変えてくる。



「ついつい、あなたも頭数に入れてしまってましたけど……アーサー。

 あなたはこれ以上、無理してわたしたちに付き合う必要はないんですよ?

 あれだけ仲の良いマモルくんと戦うのなんて――ツラいでしょう?


 それに、マモルくんだって……。

 いちいち邪魔をしなければ、あなたと争うようなことはしないでしょうし」



 軍曹の、すげーキレイな青い目が……真っ直ぐに、オレを見つめてた。



 ……軍曹は、マジだ。

 マジで、オレをこの先の戦いから遠ざけようとしてる――オレのことを心配して。


 でも――でもさ……!



「でも……それ言うならさ、軍曹だって同じじゃんか。

 軍曹だって、名付け親って言ってた、初代勇者と戦うの……アリーナーを守るためっつってもさ、やっぱしツラい――だろ?」


「…………それは…………」



「それにさ、オレ、難しいことは良く分かんねーけど……。

 いくら必要だったとしても、ケガはさせてないとしても、すぐに起こせるんだとしても――ドクトルばーさんを眠らせたりしたのは、『悪ィこと』だと思うんだ。


 でさ、オレ……もっとちっちゃい頃、衛兄ちゃんに、『悪いことをしたら、ちゃんとごめんなさいって謝らなきゃダメだ』って教えられたんだ。


 だから――オレは、衛兄ちゃんと戦う。


 衛兄ちゃん、オレなんかよりずっとクソマジメだから……〈勇者〉の使命だとか、そーゆーのに一生懸命になりすぎちまってて、それで、こんなことしたんだろうけど……。

 でも、それでもやっぱり、悪ィことは悪ィことだから。


 ……衛兄ちゃんが、オレに教えてくれたみてーに。

 今度はオレが、それを教えてやらなきゃ――!」



「…………アーサー…………」


「それにオレ、エクサリオの言ってることより、師匠の方が『正しい』って、そう思ったんだし……。

 アリーナーも、ゼッテー守らなきゃいけねーし……。

 ――あと……。

 軍曹を、1人で戦わせられねーもん……オレが付いてなきゃな!」



「……え……わたし?」



 軍曹は、一瞬、目を丸くして自分を指差したと思うと……。


 怒ったみたいに、いきなりそっぽを向いちまった。



「へ、へっぽこ新兵(ルーキー)が、いっちょ前に上官の心配してんじゃねーってんですよ!

 生え揃ってないガキんちょと一緒にするなっつーんです! 歯が!」


「歯、もうすぐ生え揃うっつったじゃん。

 ――てかさ、オレと軍曹ってチームじゃねーの? こないだも一緒に戦ったし」


「……上官と部下、だ! わーったか!?」


「お、おう……イエシュ、マム」



 ……なんか、ミョーに力入ってる軍曹の気迫に押されて、オレはカクンと首を縦に振る。



「まったく……!

 でも、まあ、ともかく……その様子なら、決意は固めてるみたいですね。

 ――分かりました。

 なら、一応頭数に入れておいてあげます。一応!」


「おう、任せろ!

 アリーナーを守るためにも、師匠を助けるためにも……衛兄ちゃん、ガツンとやってやんなきゃな……!」



 ――そう、それと……言わねーけど、軍曹のためにも。


 だってさ、軍曹がアルタメアで、ずっとずっと〈剣の聖霊〉をやってたのって――初代勇者、つまり衛兄ちゃんのせいってことだろ?


 いくら、そのときの衛兄ちゃんにしたら、アルタメアを救うためにそうするしかなかったんだとしても――。

 それってやっぱり、何かアタマに来るンだよな……!


 そのせいで、すげー長い間軍曹が一人っきりだった、って思うとさ……!



 だから――いくら衛兄ちゃんが強くても、負けるもんかよ……!


 ゼッテー、1発はブッ叩く――!







     *     *     *




 ……ハイリアさんには、居間にいろって言われた。

 あたしだって、もちろんそのつもりだった。


 言いつけを守って、じっとしていた――はずだった。



 だけど…………。



 気が付いたとき、あたしは……ここに。

 うちの学校の――屋上にいた。



 ……ううん、完全に『いつの間にか』ってわけじゃない。

 あたしには……なんとなくだけど、ここに向かっていた記憶がある。


 それは、呼ばれてるようでも――あたし自身の、意志のようでもあって。



 見えない手に引かれるように、心の内側から押されるように……。



 ちょっとチカラを込めて触れれば、簡単に穴の空いた、結界を抜けて。


 きっとみんな、あたしの異様な気配を本能的に察して、近寄らないからだろう……まるで人気(ひとけ)のない道を通って。



 そうして、今、あたしは――東祇小の屋上(ここ)にいる。



 フェンスの隙間から下を見れば――通称〈第2グラウンド〉の方に、まるであたしを見据えてるような……そんな気配がする『影』が、徐々に集まって、大きな形を成し始めていて。


 空を見上げれば――分厚い黒雲が、あたしの頭上で渦を巻いているのが分かる。



 そう……あたしがここに来たのは、今、ここが一番『近い』からだ。


 〈霊脈(れいみゃく)〉の澱み、宙に散る穢れ、『影』が内包する妄執……それら闇と負のチカラを集めるのに、今、最も『近い』から。



 あたしが――『完成』するのに、近いから。



「そっか……そういうことだったんだ……」



 ……ここへ来て――自然と、いろいろなことが理解出来た。


 ううん、もしかしたら……。

 とっくに気付いていて、目を背けていただけだったのかも知れないけど。



 お兄たちが、あたしに何も話さなかった理由。

 最近の体調が、良いような悪いような、奇妙な感じだった理由。

 誰かは知らないけど、うちに結界まで張って押しかけてきた理由。


 そして――――あたし自身の、存在理由…………。



 何だか、妙におかしくなって……気付けば、あたしは笑ってた。

 自分でも分かるぐらい、どうしようもなく乾いた――力無い笑い。


 ……だって、こんなの、笑うしかないよ。



 あたしが――世界を救う〈勇者〉の妹の、あたしこそが……。


 世界に災いを為す存在、そう――



 ……〈世壊呪(セカイジュ)〉、だったんだから。






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― 新着の感想 ―
[一言] おおおお!? 亜里奈たんがついに……!? っていうか、もう!? いずれは来るだろうと思ったんですが、今とは思ってなかったんで…… ビックリして4度見しちゃいました(笑)
[一言] 闇落ち展開キターーー!!!! 世の中には幼女の闇落ちに興奮する業の深い層もいるとかいないとか(メガネくいっ)。
[一言] つ、ついに亜里奈たんが……ッ!! そしてアーサー。 「ぐちゃぐちゃ抜かしてんじゃねー!!」的なやつ。 うむ……これは強い。そこには実にシンプルな真理が存在するのだ!!
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