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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
24章 そこに願いがあるのなら――4度目も勇者になるしかない
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第342話 元勇者もまた、〈魔王〉の光に希望を見るか



「しかし、本当に……本当に、私の〈マーシア定式〉を、見ただけで理解し……。

 さらに有言実行、この場で自らの魔法へと組み込んでしまうとはな……」



 ヒザを突いた状態から、僅かに顔を傾けて、将軍は余を見上げてくる。


 ……そこには最早、完全に、戦意などは感じられなかった。



「一応余も、事前に勇者から、メガリエントの魔法について多少は学んでいたというのもある。


 それに――余には、かつて……。

 世界は異なっても、『魔法』の本質は同じはずだと――そう理論付け、極意を伝授した者がいたので、な。


 ――そう……まるで。

 こうして、それが必要になる時が来るのを、知っていたかのように」



「……そう、か……。

 なるほど、私は自らが魔法理論を組み上げるほどに熟練したことで、驕っていたのかも知れないな……。

 私に出来ないことが、他の誰かに出来るハズもない――と。


 しかし……やはり、本物の天才というのはいて――。

 私などでは、及ぶべくもなかった――と、そういうことか……」



「それで良かろうよ。

 あんな『天才』がそう何人もいては……困る、色々とな」



 ……思わず、空を見上げながら余は、そうつぶやく。


 ここは結界の中、しかも現実でもまだ日中な上、黒雲に覆われて……星など見えないのだが――な。



 そんな余に対し、何か自身も思うところがあるのか、「まったくだ」と笑いながら同意し――将軍は。

 改めて、その場に座り直しながら……大きくヒビの入った鉄仮面を、脱ぎ捨てた。



「ともかく、あれほどに完璧な形での『答え』を見せられてしまってはな――私はこの通り、『兜を脱ぐ』よ。

 異世界の〈魔王〉でも……分かるかな?」


「……ああ、敗北宣言だな。

 ふむ……では、もう……余も、気を張る必要は――ある、まい」



 言うと同時に、緊張の糸が切れ――余もまた、一気にその場に崩れ落ちる。



 あれほどの大魔法を身に受け、さらに己の魔力も、限界を超えに超えて酷使したのだ……。

 正直、さすがに立っているのも限界であったからな……『敗北宣言』はありがたかった。



 ――しかしまったく、この〈人造生命(ホムンクルス)〉の身体も、良く保ってくれたものだ。



 まあ、『誰も犠牲にせぬ』と言った手前、余が率先して倒れるわけにもゆかぬし……。


 なるほど、そういう『気合い』こそが、最終的に物を言うのだと思えば――アルタメアで勇者が、ボロボロになりながらも余と三日三晩渡り合えた理由も、分かろうというものだ。



「おい、クローナハト君……大丈夫、なのか?」


「――問題ない……さすがに、消耗し切ったというだけだ。

 しかし――」



 応えながら、同じくヒザを突いた余は……改めて、将軍の素顔を見る。


 それは――見慣れた、というようなものではないが、見知った顔だった。



「まさか将軍、キサマ――。

 いや、貴公の正体が……〈常春(トコハル)〉のマスターとは、な」



 ……なるほど、であれば、先日〈常春〉で昼食を摂ったときに感じた、場の『魔力的違和感』にも納得がいく。


 つまりはあの辺りに、〈救国魔導団(きゅうこくまどうだん)〉が、異世界の迷い子たる魔獣などを匿っている空間があるのだろう。


 そして――つまりは。

 かのハルモニアが、将軍の娘であるということは――だ。


 その正体は……。



「まったく、世の中は狭い……ということか。

 いや、あるいは――こうしたものを指して、必然とでも言うのか……」


「確かにな。大した奇縁だよ」



 思わずこぼした余の一言に、将軍も苦笑をもって応じた。


 まあ、そもそも〈勇者〉という存在は、どうも厄介事と縁が深いものらしいからな……。



 ――さて、それはともかく……だ。



「……ところで、将軍。

 先に貴公が言ったように、余としても〈世壊呪(セカイジュ)〉については、少しでも早い対応が必要だと感じている。


 ゆえに――だ。


 改めて、すぐにでも、余が〈世壊呪〉のチカラを封ずるために組み上げていた術式……その完成に手を貸してもらいたいのだが?」



 ……実際のところ、先ほどの〈一つの魔法〉の成功により、欲していたいわば『足りないピース』は埋まったと言えるので、余一人でも完成出来なくはないだろう。


 だがそれを、より早くに、より安定したものにしようとするなら……やはり魔法に精通した人手が欲しい、というのが正直なところだ。



 それに――今の将軍ならば、きっちりと『未来』を見てくれるであろうし、な。



「ああ、もちろんだ。

 キミへの詫びと、そして私の目を覚まさせてくれた礼も兼ねて――全力で協力すると約束しよう」


「……助かる。では――」



 早速、と立ち上がろうとするも……想像以上に消耗している上に、一度気を抜いたせいか、途方も無く身体が重く――まともに動かん。



 いや……しかも、それだけではなく――!



「っ!? これ、は……!」


「気を付けろ、クローナハト君……!」



 結界内に、黒い気配を感じたかと思うと……。

 地面から幾つも、染みのように広がった影が、盛り上がり、形を成し――。


 〈呪疫(ジュエキ)〉となって、我らを取り囲む……!



 これは……まさか、亜里奈(ありな)の状態がまた悪化したのか!?

 あるいは……アーサーが遭遇したグライファンが……!?


 ……いや、どちらにせよ――!



「亜里奈……ッ!」



 すぐにでも、亜里奈のもとへ戻らねば――!


 そう気が逸るも、身体はまともに動かず、魔力もほぼ枯渇した今では……!



 ――いや、諦めるな……!



「……将軍、貴公はどうだ、まだ戦えそうか……!?」


「正直、厳しいな……。

 この状況では、今、結界を解くわけにもいかないしな……!」



 余と将軍は、ヒザを突いた姿勢のまま、どちらからともなく背中合わせになる。



 ……まだだ、諦めるな。

 何とかして、此奴(こやつ)らを討ち祓う術を――!



 そう、余が思考を巡らせていた――そのとき。



 我らに向かって、ジリジリと包囲を狭めていた〈呪疫〉の、その後ろから――。

 いきなり、幾つもの火球が飛来し……2体を同時に焼き尽くす。



 さらに、続けて――。



「……っらあ、どきやがれッ!」



 疾風の如く突っ込んで来た黒い狼が、その拳と蹴りでもう2体を消滅させたかと思えば……。



「邪魔を――しないでっ!」



 最後に、ドレス型の戦装束の娘が、槍を振るって同じく2体を薙ぎ払った。



 ――そうして、包囲の一面を切り崩し、我らの前へと姿を現したのは……。



 そう、道化師姿のポーン参謀に、〈人狼〉のブラック無刀、そして――。


 将軍の娘、魔法王女(マギアレギナ)ハルモニアの3人だった。



「……で、これって……いったい、どういう状況なのっ?」



 一旦我らの近くに集まり、残りの〈呪疫〉を警戒しながら……困惑した様子のハルモニアが、誰にともなく尋ねる。


 それに、余がいち早く答えた。



「その前に、一つ聞かせよ。

 お前たちは、何の目的でここへ来た? 亜里奈を狙ってか?」


「違います、バカなことしようとするお父さんを止めるためです!

 亜里奈ちゃんもお父さんも、どっちも犠牲になんて出来ないから!」



 勢い込んで、ハルモニアが即座に答える。



 ……なるほど。

 そもそもの人間性から、問題はなかろうとは思っていたが――うむ、これなら任せられるか……!



「よかろう、合格だ白城(しらき)――いや、ハルモニア。

 余は、そんなお前の父親を諫めたところだが、互いに少々アツくなりすぎてな、今は揃って満足に動けん……!


 ゆえに、頼む――。

 今すぐ、此奴らを突破して、亜里奈を保護してくれ……!」



 余は震える腕を何とか持ち上げ、赤宮(あかみや)家の方を指差す。



 今は一刻を争う、ここでいちいち疑問を差し挟まれては困るところだったが――。

 幸いにして、ハルモニアの察しは良かった。


 迷いらしきものはほとんど見せず――。

 「分かりました」とうなずくや、直ちに動き始める。



「それで、亜里奈ちゃんはどこに!」


「居間から動くなと言ってある!」


「――よし行け、お嬢!

 おやっさんたちのガードはオレが引き受ける!」



 ブラックの言葉も受けながら、小さく手を挙げたハルモニアは――。

 また新たに湧き始めた〈呪疫〉を槍で薙ぎ払いつつ、素早くその合間を駆け抜けていった。



「ではポーン……キミには、私のこの結界の修復を頼みたい。

 〈呪疫〉が現れている今の状況で、結界が壊れるような事態は避けなければ……!」


「分かりました。

 ――いやしかし、ついさっき結界解除に奔走したと思ったら、今度は修復とは……」


「ガタガタ言ってねえで、おやっさんの指示通り仕事しろ!」


「だから、分かってますってば」



 〈救国魔導団〉の3人のやり取りを聞くとはなしに聞きつつも、余の注意は赤宮家の方へ向いていた。


 少なくとも相手が〈呪疫〉なら、ハルモニアなら問題ないはずだが……。



「――おい、テメー。

 確か、クローナハト……だったな?」



 唐突にブラックから掛けられた声に、余は視線だけをそちらに向ける。

 ブラックは、手近な〈呪疫〉を拳で打ち抜いてから……余を振り返った。



「おやっさんを止めてくれたこと、一応、礼を言っとくぜ。

 テメーがいなきゃ、間に合わなかったかも知れねえんだしな」


「……本当にすまなかった、みんな」



 将軍が、そこに謝罪を差し挟んでくるが……ブラックは小さく首を横に振る。



「ま、オレだって1人で突っ走ろうとしたんだ――おやっさんに堂々と文句言える立場かっつーと、微妙っすから。

 ただ、お嬢には――バカやらかしたこと、後でしっかり、頭下げてやって下さい。

 ……ビンタの一発はもらう覚悟で」


「ああ……そうだな、本当に」



 将軍は、口元に微かな笑みさえ湛えながら……小さくうなずいた。



「――ともかくブラックよ、余への礼なら不要だ。

 余は余で、朋友クローリヒトとの、『何者も犠牲にしない』という誓いを守っただけのこと。

 それに……結果として、貴重な協力が得られたわけだからな」


「ああ? ンだそりゃ――」



 さらに、近寄ってきていた〈呪疫〉を倒しつつ、ブラックが疑問の声をあげたその瞬間――。



「――センパイッ!!!」



 〈呪疫〉を蹴散らしながら……血相を変えたハルモニアが戻ってきた。


 ――それも、1人で……!



「どうした、亜里奈は――!」



 一目で何かが起こったと分かるその様子に、たまらず尋ねれば――。

 それに被せて、ハルモニアが張り上げた声は――悲痛なものだった。



「いないんです……亜里奈ちゃん!

 気配からしても、隠れてるとかじゃなくて……!


 家のどこにも――いなくなっちゃってるんですよぉっ!」






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― 新着の感想 ―
[一言] ありなちゃん……っ!? これはやはり……?
[一言] どんどん正体バレしていますが、肝心の主人公の知らないところで、というところが、クライマックスに向けて溜めに溜めまくっていると感じますね(笑)
[一言] いよいよヤツの完全復活か!?
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