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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
24章 そこに願いがあるのなら――4度目も勇者になるしかない
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第341話 星は、落ちない――それが〈魔王〉であるから



「……ハイリア。

 わたしたち魔族と、人族との違いは、何だと思う?」



 ――あるとき、幼馴染みで婚約者でもあるシュナーリアに呼び出された余は。

 唐突に、そんな問いを投げかけられた。



「ふむ。先祖が、かつての(いくさ)の勝者か敗者か――であろう」


「まったく、キミは……もう少し可愛げのある答えはないものかなー。

 ……でもま、(おおむ)ね正解だよ。

 魔と人は、双方の古い伝承で、よく悲恋として謡われる物語があるように……その垣根を越えて、子を成した者たちもいるわけでさ。

 要するに、生物的観点から言えば、わたしたちは本質的には同じ――西の都に住んでるか、東の村に住んでるか……あるのは、そんな程度の違いってことだ」



「……で、それがどうしたというのだ?

 確か今日は、『まったく新しい魔法理論』とやらについて、呼び出されたはずだがな?」



「ん? だから今まさに、その理論のことを話しているんじゃないか」



 ことん、と首を傾げるシュナーリア。


 見た目だけは幼い此奴(こやつ)がそうすると、無垢な子供のようにも見えるが……実際にはそんな可愛いものではない。

 此奴のそれは、「分からないことが分からない」といった類のものだ。


 ……まったく、天才というやつは……。



「……余の思考を、お前と同じ物差しで計るなと、いつも言っているであろうが。

 順を追って一から、正確に詳しく説明しろ」


「ん〜? 詳しく説明……ねえ。

 ――それ、逆なんだよハイリア」



 余の苦言に、シュナーリアは……。

 しかし己を省みるどころか、ふふん、と得意気に鼻を鳴らした。



「わたしがこれについて最も言いたいのは、だよ?

 むしろ、頭やら言葉やらで、あーだこーだと説明付けるな、ってことなのさ。

 特にハイリア、キミはいっつも、余計に考えすぎるきらいがあるからなあ――」




 ――それはいつも通りの、彼奴(あやつ)の頭の中では完結している、無茶苦茶な理論に基づく物言い。

 そのときは、改めて(渋々ながらの)説明を受けて……。


 それでも、何とはなしに『そういうもの』と、ある程度は理解したつもりで――そう、あくまで『つもり』程度で、実際には半ば聞き流したような形だった。


 しかし――こちらの世界へ来て。

 古書店〈うろおぼえ〉で様々な魔術書を読み、その根底にある共通性を思い――。


 そこから亜里奈(ありな)のためにと、〈封印具〉の術式の書き換えに、他の世界の『魔法』をも取り込むことを考え……。

 己の閃きを頼りに、その術式のため、悪戦苦闘するうちに。


 余はようやく、あのとき、シュナーリアが言わんとしていたことを、本当の意味で理解し始めた気がした。



 そして――今、こうして。

 そのようやく追い付いた理解のもと、異世界の『魔法』の奥義に触れた余は……。


 ついに『それ』を、確信するに至ったのだ――。



「……ほう、クローナハト君……まさかキミが〈魔王〉とはな……!

 つまりキミは、かつてクローリヒト君に破れ……それゆえに彼に付き従っていると、そういうことか?」



 ――星のカケラの一撃により、かなりのダメージを被り……しかしそれを押し殺して仁王立ちする余に比べ……。


 さすがに将軍の方は、まだまだ余裕を感じさせる。



 だが……ようやく、此奴に〈マーシア定式〉まで出させたのだ――。

 余こそ、ここが正念場というものよ……!



「フン。敗者として付き従った、か……この余が?

 我らを甘く見るなと――そう言ったはずだぞ、将軍?


 〈勇者〉と〈魔王〉の行き着く先はそれしかないと――。

 その発想こそがまさしく、将軍、キサマの〈勇者〉としての限度だな」



 不利な状況にあっても、なお、不貞不貞(ふてぶて)しく――将軍の発言を、鼻で笑ってやる。

 ただ、それは別に、自らを奮い立たせるための空威張りというものでもない――余の本心から出た言葉だ。


 対して、意外にも将軍は……「なるほど」と、それを素直に受け入れた。



「そう言えばキミは、クローリヒトを友と、そう呼んでいたな――。

 ならば、今の私の発言はさすがに礼を失したか……謝罪しよう。

 そして――」



 ……ぶわりと、将軍のマントが自然にはためく。

 無論、風ではない――将軍が、身の内に練り上げる魔力を、一層高めたのだ。



「……かつて〈魔王〉と呼ばれながらも、人と絆を結び……。

 こうして、己の信念と誓いに拠って立つキミに、敬意を表し――。


 私もまた、本気で相手をさせてもらおうじゃないか……!」



「――よかろう。そうこなくてはな……!」



 応じて余もまた、己の魔力を――限界まで高めていく。

 そうして――。


 やはり、〈マーシア定式〉らしき魔法の構築に入る将軍と同時に、余も高位魔法の詠唱へと入る……!



「……(そら)(みや)(そら)諸王(しょおう)(かしず)く王……!

 (みそ)ぎて神殺(みそぎ)(みささぎ)御捧(みささ)ぎ――」



 将軍が、その巨大な魔力を解きほぐし――数式を以て答えを導くかのように再構成していく様子を、目に焼き付けながら……余が詠唱するのは。


 かつて……亜里奈の身体を借りて、初めて〈クローナハト〉として参戦した際に使ったもの――。

 こちらの世界で言う『超新星爆発』を模した最高位の破壊魔法だ。


 ただし、あのときは目くらましのための『ハッタリ』でしかなかったが……。



 ――今回は、いわゆるガチというやつだ……!



 これならば、今の余ではいかんせん魔力に劣り、かつての威力は出せずとも……それでも、一撃のもとに状況を逆転することも出来よう――が。



「残念ながら、私の方が一歩早かったようだな……!」



 余が、詠唱を完成させるよりも僅かに早く――将軍が、勝ち誇ったように右腕を掲げる。


 その腕の、呪文が刻まれた革の籠手が鈍く輝き――天を仰ぐ手の平には、再構成された魔力が陣を成し――。


 そしてそれとともに、火炎が、水流が、凍気が、雷光が、土塊が、疾風が、光輝が、暗黒が――。

 様々な自然のチカラが、渦を巻いてその一点へと引き寄せられていく。


 そして、本来ならぶつかり、互いが互いを打ち消し合いかねないそれらが……。


 将軍の手になる術式と、その魔力によって――融合と反発という矛盾を、それゆえに発生する巨大なエネルギーとともに内包しながら、『一つ』となる……!



「――――ッ!」



 余は咄嗟に、己が魔法のために練り上げていた魔力をすべて、障壁へと変換して前方に展開。


 その瞬間――



「……これで、終わりだ……!

 〈混沌より生まれし明星(あかぼし)〉――っ!」



 将軍の手から放たれた光球は、余に向かって炸裂し――。


 ……刹那、音が消え。光が消え。身体の感覚が消え……。



 そして――微かにして、ひたすらに長く感じる『空白』のその後……。



 世界すべてが、余、ただ一人を圧し潰すかのような――圧倒的なまでの、あらゆる色を帯びた光の奔流に襲われる……!



「ぬ――ぐ、ああ…………ッ!!!」



 単なる爆発などではない、融合と反発という『矛盾』に――その有り得ないエネルギーの暴威に、余は障壁で身を守ってなお、千々に引き裂かれるような衝撃を受け……。


 気付けば、その身は大きく宙を舞っていて――。


 そうと知って数秒後、ようやく……受け身なぞ取れるはずもなく、背中から無防備に地面へと落ちた。



「がっ、は……っ!」



 ――肺に残っていた空気が抜ける。咳き込む。

 思わず、身体は息を求めるも――まともに呼吸が出来ない。出来るはずもない。



 ……凄まじいまでの威力、だ……。

 この身体、内も外も、相当なダメージを被っただろう……。


 痛みなぞとうに超越していて、それすらはっきりと分からぬほどだからな――。



「これで、勝敗は決したな。

 私の勝ちだ、通らせてもらうぞ――」



 きっぱりと、そう勝利を宣言し。

 その上で、こちらへと一歩を踏み出そうとした将軍。


 ……だが、その足はすぐに止まる。



 なぜなら、その行く手を遮って――。

 余が、ゆらりと…………立ち上がったからだ。



 そして――口の中の血を吐き捨て、なおも不敵に、笑ってやる。



「生憎だがな……将軍よ。

 余は、余が認めた〈勇者〉でなければ……負けは、せぬのだ。決して。


 そう、余は――〈魔王〉なのだから……な」



 己が誇りと、信念と、誓いと――そして、意地と、『気合い』を以て。

 余は、身体の各所から上がる悲鳴を黙殺し……堂々と、将軍に立ちはだかった。



「…………。

 これ以上は無駄だと、分からないのかね?」


「たった今、言ったばかりであろう?

 〈魔王〉たる余は――〈勇者〉にしか屈さぬと」



「――――そうか。

 分かった、ならば――今度こそ。

 その意地とともに、キミの意識を刈り取ってやろう……!」



 決意を込めた調子で、そう言い放ち――。

 将軍は再び、魔法の構築へと入る。



 ……しかし――此奴の魔法技術、さすがと言うべきか、実に見事なものよ。



 余が以前より、メガリエントの『魔法』に見ていたのは――。

 アルタメアのそれと比して、属性の複合を『主属性と副属性』といった形ではなく、『同位で行う』ことに優れている点だ。


 そして――先の魔法。

 たった2つですら極めて繊細であろう属性複合を、あれほどの数、同時に制御した〈マーシア定式〉……。


 まさしく、芸術と呼ぶに相応しい術式であった。



 そして、それこそが……余が欲していたものでもあり――!




『……つまりだね、ハイリア。

 魔法と呼ばれるものは、きっと、本質の本質、根源的に同じなんだよ。

 それを、思考やら認識やらで、先入観を持つから、理解を遠ざける。


 ――そう、カンタンなことなんだ。


 あるがままを受け入れて……己の延長線上に捉えてやればいいだけなんだよ』




 ――フン、それを簡単などと(のたま)うのは、お前ぐらいのものだ……シュナーリア。


 だが……こうして、何度も目の当たりにすれば。

 何度も、身を以て学べば……。


 余のような凡人とて、『理解』は出来る――!



「……(そら)(みや)(そら)諸王(しょおう)(かしず)く王……!

 (みそ)ぎて神殺(みそぎ)(みささぎ)御捧(みささ)ぎ――!」



 ――余もまた、同じく魔法の詠唱に入る。


 己の中の魔力をひたすらに振り絞り、この身体の限界を、先の先まで超える勢いで――高く、どこまでも高く練り上げていく……!


 そうして――同時に……!



「…………!?

 それは――まさか……!?」



 余の動きに、そして魔力の流れに――将軍が、明らかな驚愕を面に出した。



 ……そうであろうよ。

 まさか、己の奥義としていた『術式』を――。


 異世界の住人たるこの余が、正確に――。

 なおかつ、余自身の魔法をも詠唱しながら構築するなどと。


 そのようなことは、夢にも思わなかったであろうからな……!



「愚かな、そんな付け焼き刃で、どうにかなるとでも――!」


「これも言ったはずだぞ……将軍。

 この戦いの中で、キサマが不可能だと断じたそれを、完成させてやるとな――!」



 徹底的に己の魔力を――燃やし、練り上げ、注ぎ込み、紡ぎ、織り出し……!


 星の終わりを表す余の魔法と、先ほどの、星の誕生を表す将軍の魔法……。

 その二つの高位魔法を重ね合わせ――



 新たなる〈一つの魔法〉を……構築する!



「……其の名、絶星(たえぼし)! 言祝(ことほ)殊吼(ことほ)耀(かがや)き、断末魔(だんまつま)(ひかり)――!


 そして、その先に――!


 (めぐ)る命受け継ぎし、新たな星よ――今こそ輝けッッ!!!」



「ぬぅ――っ……!」



 咄嗟に、練り上げていた魔力を、防御へと回す将軍。



 そもそも、先の詠唱勝負は、将軍の術式を観察するために敢えて遅らせたのだ――。


 その枷を解き放ち、さらにすべての魔力を叩き込んでの余の構築速度に、油断していた将軍が敵うはずもなく……!



 先ほどとは逆転し、守勢に転じた将軍へと――余は。

 高く掲げた手を握り込み――



「……〈天宮(てんきゅう)星終(さいはて)にて――」



 今ここに、完成した……〈一つの魔法〉を解き放つ!



「――生まれいずる星命(いのち)〉――ッ!!!」



 ――瞬間……。

 世界は、ひたすらに眩い閃光によって、何もかもが白く白く、塗り潰され――。



「ぬ、ぐ……!」



 時間も空間も、すべてが白に止まった世界の中――。


 完全なる白は、今度は一気に小さく……小さく。

 己が世界をも、その腕に抱きつつ、ただただ小さくなり……。



 やがて――その反動に、どこまでも広く大きく、弾け飛ぶ。



「! ぐぅお、おおお――ぉぉッ!!??」



 それは……果てを迎えた星が、散りゆき――。

 そしてその混沌の輝きより、新たな星が生まれ出る……星の命の廻り。


 ――いと高き、星の世界の……終わりと始まりの、大いなるチカラの具現。


 死と生の、融合と、反発と――そして、循環。

 それがもたらすエネルギーは……今の余の魔力程度でも、充分過ぎるほどの威力となって――。



 やがて、完全なる白き世界が薄らぎ、一瞬の幻と消えた果てに――。



「…………こん、な――。

 まさ、か……本当、に…………!」



 あまりの威力に、周囲が抉れ、陥没した大地の中心で。

 (くう)もまた、元に戻ろうと旋風(つむじ)を巻いて吹き荒れる中――。


 将軍は、防御姿勢のままに……地を踏みしめていた。



 しかし、ややもすると、その両腕をだらりと下げ――。



「……くく……ははは……っ!

 〈勇者〉とは……不可能を決して諦めない、か……!


 なるほど、私では…………敵わぬ、わけだ……!」



 そのまま、ゆっくりと……力無く、地にヒザを突く。



 そして――余は。

 そんな将軍に歩み寄りつつ、静かに見下ろすのだった。




「……当然だ。

 そう、余は――〈魔王〉なのだからな」






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― 新着の感想 ―
[一言] そこで謝罪しちゃったり物わかり良いところのある将軍に、いいおやっさんみを感じます……! 負けはしましたが満足なのではないでしょうか。
[良い点] 魔法戦自体もかっちょええけど、戦いの内容にメッセージ性があるのが、これまた堪らなくかっちょええですな! 平たく言うと、将軍は分からせられたわけですが、同時に希望も見出だしたかもしれませんね…
[一言] スパロボだったら魔法の演出で2分くらいかかるパターンのやつ!(迫真)
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