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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
24章 そこに願いがあるのなら――4度目も勇者になるしかない
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第339話 元勇者と元魔王、その信念の導く道は



「……なるほど。

 キサマら〈救国魔導団(きゅうこくまどうだん)〉は――どこからか、〈世壊呪(セカイジュ)〉の真相に至ったと言うことか」



 一般人が結界外へと隔離されたことで、本来の人気(ひとけ)がすっかりと途絶えた〈(あま)()〉の駐車場で……サカン将軍とまみえた余は。


 当然、将軍自身を警戒しつつ……その感覚の網を、周囲へも広げる。



 どのような経緯で〈世壊呪〉へ辿り着けたのかは知らぬが――此奴(こやつ)らにとって、今が正念場であるのは間違いないのだ。


 つまり――ここへ、将軍一人でやって来ているはずもない。

 周囲に、仲間が潜んでいると考えるのが妥当であり――。


 ゆえに、前に出て来た親玉に気を取られ、スキを突かれて亜里奈(ありな)を奪われるような失態を演じぬためにも……警戒は怠れん、というわけだ。


 しかし――



「……心配しなくていい。

 ここへ来ているのは、私一人だ」



 将軍の口から紡がれたのは、そんな余の心中を見透かしたような言葉であった。



「それを、素直に信じろ、と?」


「そもそも私は、キミたちと戦いに来たのではないからな」



 余の警戒を解こうとするように、戦意はまるで見せず……。


 将軍は、至って穏やかな物言いで語り始める。



「――先に言ったように、私が求めるのは、〈世壊呪〉の少女の、そのチカラだけ……。

 命まで奪おうという気はないのだ」


「ほう? 良く言うものだ。

 キサマらは目的のために、〈世壊呪〉を犠牲にするつもりであったはずだが?」



 余が、鼻を鳴らしつつ口を挟むと……。

 将軍は、うつむき加減に小さく首を振った。



「そうだな……その通りだ。

 確かに、私たちは――いや、私は、ずっとそうするつもりだった。

 ……非情であろうとも、それしか手段がなかったからだ。


 そして、そのために覚悟も決めてきたつもりだった、が……。


 意志薄弱と罵られるのを承知で言えば、やはり――いざとなれば、踏ん切りをつけられるというものでもないらしい。

 それも、犠牲とする相手が、年端もいかぬ少女となればなおのこと。


 ――かと言って、『異世界よりの迷い子に憩いの地を』……その願いを捨て去るわけにもいかん。


 そこで……私は。

 少女の命を守り、目的も遂げるための――次善策を使う決意をしてな」



 顔を上げた将軍は、真っ直ぐに余を見据えてくる。

 鉄仮面の向こうから――余を射貫くかのごとく、強い眼光で。


 口では何とでも言える……と、そう切り返したくもなるが――。

 なるほど、この『眼』……。


 アルタメアとはまた別の世界であろうと――此奴が〈勇者〉と呼ばれたのも伊達ではない、と言ったところだな。

 少なくとも、嘘をついている感じではない、が……フム。


 次善策、か――。



「つまり、代わりに己の命を使おうと――そういうことだな?

 およそ受け取りきれぬであろう、膨大な〈世壊呪〉の闇の魔力を、己の命を代償に奪い、制御し……そのまま自ら人柱として、『目的』のための触媒となる、と」


「! なぜ、それを……」



 余が、此奴が言わんとしていることを予測して告げてやると……。

 将軍は、思った以上に素直に、驚きを露わにした。


 ……フム、やはりか。


 そこに思い至ったのは、余もまたつい先ほど、同じようなことを考えてしまっていたから――でもあるわけだが……。


 まあ、なぜ、と問われたからと、そこまで語ることもあるまい。

 それよりも――。



「ともかくも、襲撃の意志はないと言うのなら――だ。

 サカン将軍、キサマ……余に手を貸す気はないか?」


「手を、貸す――だと?」



「その通り。

 ……余は現在、〈世壊呪〉のチカラだけを分離、封印するための術式を構築しているのだが――あと一歩というところで手詰まりでな。


 しかし、余の魔術知識だけでは限度があっても、将軍、キサマの、魔法世界メガリエントの奥義たる知識が加われば……道も開けようというもの。


 そしてそれが可能ならば、キサマの望むように――分離した闇のチカラだけを、魔法の触媒として利用する……そんな術にも繋がるはず。


 ――ゆえに、だ。サカン将軍。

 余に、キサマのその知識を以て協力せぬか?」



「なるほど……な」



 余の提案を噛み締めるように……ゆったりと顎を撫でさする将軍。


 そうして、出て来た答えは――。



「だが……残念ながら、そもそもその手法が、まずもって不可能なことなのだ。

 ゆえに、その話に乗ることは出来ない」



 ……しかし、否、であった。



「……ほう? どうしてそう言い切れる?」



「極めて単純な話だ――私自身が、そうした手を試したからだよ。


 ……私もこれまで、『世界の迷い子』を保護し続けてきた身の上――昔から多少なりと、他世界の魔法的なものに触れる機会はあった。

 ゆえに、それを巧みに取り込むことで、〈世壊呪〉を犠牲にすることのない手段が導き出せはしないものかと、実際に試行錯誤を繰り返したのだ。


 そうして辿り着いたのが――『不可能』という結論なのだよ。


 もっとも、単純な術式程度なら、異なる世界の魔法でも、融合させることが出来るものもあった。

 が、しかし……〈世壊呪〉の巨大なチカラを扱うような、繊細かつ高度に複雑化した術式ともなれば――やはり、不可能と断じざるを得ない。

 『魔法』と一括りにしても……それはやはり、キミと私のそれがまるで別物であるように、決して同軸上で交わるものではないのだから。


 あるいは――。

 世界の隔絶を超えての『魔法』の深奥に、何らかの共通性を見出し、さらにそれを理論化したもの……そんな下地でもあれば、話は別かも知れないが――。


 ……当然、そんなものは夢物語――有り得ることではないのだ」



 ――その真摯さゆえにか、余と真っ向から視線を交わしたままに……。

 蕩々と、将軍は持論を語った。



 なるほど、此奴は此奴で、そうした研究も進めていたか。


 そして……余もまた同じであればこそ、その結論に行き着く気持ちも分からぬでもない。

 もし、ゼロの状態からこの問題に取り組んでいたならば……余とて、やはり『不可能』と断じたやも知れぬな。



 だが――生憎(あいにく)と、余は『ゼロから』ではなかった。

 それゆえに、その一歩先へと行くことが出来た。



 ……そう、余の中には――。

 その『夢物語』を確かな形にした――常に前を、先を、見続けてきた……。


 そんな、『本物の天才(シュナーリア)』の理論が存在するからだ。



「それに――だ、クローナハト君。

 万に一つ、キミがそうした有り得ないような理論を手にしているとしても……」



 将軍はついと、視線を赤宮(あかみや)家の方へとずらす。



 さすがに、こう近くまで来れば――。

 僅かながらでも、滲む闇のチカラを帯びてしまっている今の亜里奈に……此奴が気付かぬはずもないようだ。



(くだん)の少女の状態を予測するに……それほど猶予は無いと見るべきだろう。

 ……いきおい、有用な理論の下に協力したとて、新たな魔術式を組み上げるような時間があるはずもない。

 だからこそ……私の目的を遂げるためにも、少女を救うためにも――。

 このまま私が、その子の〈世壊呪〉のチカラを受け取るしかないのだ」



 そう言い切った将軍が、改めて余を見据える。

 ――決意……ただそれしかない眼で。



「――クローナハト君。

 そうして、私と協力しようとも考えるぐらいならば……このまま、私を見過ごしてはもらえないか。


 何度も言うが、私は、決してその子に危害は加えない。


 ……いや、それどころか、そうして私がその子のチカラを受け継げば――〈世壊呪〉としての運命からも解放されるはずだ。

 その子を、これまでひたすらに守り続けてきたキミたちとしても――決して、悪い話ではないだろう?」



「………………」



 なるほど、悪い話ではない――か。

 確かにその通りだな。


 亜里奈を救うため、サカン将軍は犠牲となるわけだが……同時に、将軍の目的も達せられるのだ――。


 数的取引として考えれば、見事にプラス。

 特に我らとしては、何ら損は無いとすら言えるだろう――。



「…………分かった。

 確かに、余が提案した形で、キサマの協力を得ることは出来ぬようだ」


「――理解してもらえたか。では……」



「もっとも――サカン将軍。

 余は、キサマを通すこともまた……出来ぬがな」



 有無を言わせぬ調子で、そう宣言し――。

 余は改めて、将軍の前に立ちはだかる意志を示す。



「何を言っている? どういうことだ?

 クローナハト君、私は――」



 そんな余を、不可解だ、と言わんばかりの将軍の態度に――余は。


 かつては〈勇者〉であったはずの者が――根本的なところで、過ちを犯していることに。

 しかしそれをこそ、唯一の正しさだと信じていることに――



「己が身を犠牲に、我らをも救ってやろう――か。

 ――思い上がるなよ、人間風情が……!」



 ……ふつふつと沸き上がる、苛立ちをそのままに。

 〈魔王〉としての覇気を、言葉とともにぶつけてやる。



「そして、甘く見るなよ――我らを!


 我が友、クローリヒトは誓った――出来うる限りのすべてを守ると、すべてを救うと……!

 それは即ち、翻って、友たる余の誓いでもある。


 なればこそ――!


 サカン将軍……キサマがその身を犠牲にするのを、見過ごすわけにはゆかぬ。

 自らが犠牲になればと、その思い上がった過ちを見逃すわけにはゆかぬ……!


 ……不可能だと? 時間があるはずもない、だと……?


 〈勇者〉とは――そもそも!

 その『不可能』を、どこまでも諦めぬ者ではないのか――!」



 ……そう。

 今の此奴、サカン将軍は――決して、前を見てはいない。


 ゆえにそこに、赤宮裕真(ゆうま)が持つような、真に〈勇者〉たる輝きなどあるはずもない。


 そして、そのような者に、術式組成を手伝わせたところで……我らの求めるような結果が出るはずもない。



 それは、知識の問題などではない。


 前を――未来を。その先を……!

 自ら切り拓き、進もうともしていない輩に――共に先へと続く道を、生み出せるわけもないからだ……!



「言ってくれるな。

 つまり、キミは――私のやり方を認めるわけにはいかない、ということか。


 だが……それでどうする?


 私にも信念がある、邪魔をするというなら、キミを倒してでも先へ進むつもりだが……。

 キミは私と戦い、それでどうすると言うのだ?

 私を止めたとて、〈世壊呪〉の侵食まで止まりはしないのだぞ――?」



 余に、その信念とやらを真っ向から否定された将軍が……戦意を滾らせ始めた。


 対して、余は――仮面から覗く口元を歪め、笑みを浮かべてやる。



「……言ったであろう?

 キサマの協力を得られぬのは、あくまで『余の提案した形で』だ。

 ならば、別の形でキサマを協力させるだけのこと――」


「別の形で――だと?」


「その通り。

 なに、この戦いの中で――キサマが、余を討たんと放つ魔法と相対する中で……」



 怪訝そうにする将軍の前で。

 余は、大仰にマントを翻し――〈魔王〉たるチカラを解き放ちにかかる……!



「そう――今、この場で。

 将軍、キサマが不可能と断じた理論を、完成させてやろうというだけのことよ。


 ――キサマも含めた、すべてを救うためにな……!」






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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔王なのに、すごく勇者の仲間らしいところ。 勇者と志を一つにしているのに、ものすごく、魔王らしいところ。 立ちふさがる魔王がかっこよすぎる。
[一言] めっちゃ盛り上がってきましたね! 魔王様と裕真くんはやっぱり良いコンビ、と改めて思いました。 そしてハイリアさん何する気なのか…… 続きがめっちゃ気になります!
[一言] ひょっとして、誰よりも勇者の何たるかを知っているのは、魔王なのでは!?(名推理)
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