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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
23章 そして、運命は収束点――勇者たちの黄昏へ
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第336話 多くを守るための力、すべてを守ろうとする意志



 ――カネヒラによれば、シルキーベルスーツのアップデートはまだ完了してへんけど、ウチの『情報アクセス権限』については更新済みやそうで。


 やったら……ってウチは、早速、前に来たとき気になってたファイルを閲覧することにした。



「カネヒラ、確か、〈シルキーベル活動記録〉ってファイルがあったやんな?

 まずは、その内容から表示してくれる?」


「いい、いえす御意ィ〜!

 では、こちらをご覧いただきたく〜っ!」



 コンソールに映るカネヒラが、大ゲサな身振りで指し示すのに合わせて……。

 そのコンソール画面内に、いろんなグラフと一緒に――いくつかの文字タイトルが表示される。


 おばあちゃん、活動記録の名の通りレポート形式にして、内容をまとめてたみたい。


 ……こういうの見ると、普段の脳筋ぶりとは裏腹に、やっぱり科学者やねんなあ――って思う。



「コンソールを、タッチ形式で操作出来るようにしてありまするので……。

 どうぞ、ご自由にご覧下さいませ、姫ェ……!」


「うん、ありがとう」



 カネヒラの案内に従って、おばあちゃんのまとめたレポートを、順に目で追っていく。



 ただ、言うても、内容は〈シルキーベル活動記録〉なわけやから……。

 そのシルキーベル本人のウチは、知ってることがほとんど。


 やから基本的には、ここ数ヶ月の出来事を思い返すみたいなもんやったけど……。



「……〈祓いの儀〉についての考察……?」



 そのサブタイトルが、やっぱり目に付いた。


 〈聖鈴(せいりん)の一族〉として、そして〈鈴守(すずもり)の巫女〉として――〈世壊呪(セカイジュ)〉を祓うために行うのが、代々伝わってきたその〈祓いの儀〉なわけやけど……。



 だからこそそれは、伝統であると同時に一族の本質なんやから……基本的には、『考察』をわざわざ入れる余地はない、って言える。


 ううん、むしろ、ヘタにそんな疑問を差し挟むべきやない、みたいな……。



 ウチも、これまでは〈鈴守の巫女〉としての使命とセットで、『そういうもの』としか思ってなかったけど……。



 昨日のカネヒラの話からしても、ウチが思ってる以上に鈴守宗家を敬遠・警戒してるらしかったおばあちゃんやから……。

 この〈祓いの儀〉について、何か新しい事実を見出したんかも知れへん。


 そんで、もしそれが、〈世壊呪〉そのものやなくて、そのチカラだけを祓うような方法に通じてるんやとしたら……!



「……亜里奈(ありな)ちゃんを、助けられるかも知れへん……!」



 そう思たら――レポートの内容を、必死に追いかけずにはおられへんかった。



 ただ……結論から言えば。

 残念やけど、そんな都合の良いことに触れてるわけやなくて――。


 おばあちゃんの考察ていうのは、〈祓いの儀〉の根幹そのものについてやった。



 これまで、お父さんが世界各地で収集・研究してきた、様々な魔術知識を通しての〈祓いの儀〉の解釈と――そして、その実質的な『効果』について。


 ファイルの中には、いろいろと、ウチなんかやと意味が分からへんデータもいっぱい羅列されてたけど、何とか要約したら……。



 おばあちゃんが推測したのは、〈祓いの儀〉は〈世壊呪〉を消滅させるんやなくて……。

 別の世界へ『追いやる』ものなんやないか――ていうことみたい。



 それでも、この地球からは『無くなる』わけやから、実質『消滅した』ようなもんやけど……。


 それが結局『他の世界へ送りつける』ものやとすれば――とても危険な存在を、目に付かへん場所に不法投棄するようなもんやから……。

 手段として、いろいろと問題があるんちゃうか――って、おばあちゃんは考えてたみたい。


 ……やのに、〈巫女〉に〈祓いの儀〉を行わせたがるあたり、宗家は何か別の思惑があるんやないか、とか――。



 とにかく、ウチが〈祓いの儀〉を行うことには、データを集め、考えれば考えるほど疑問を抱いたみたいで……。


 ウチが、宗家の意向に盲目的に従って〈世壊呪〉を祓うんやなく……別の方法を模索する方に考えが傾いてるのを、歓迎するようなことが書いてあった。

 宗家の真意はどうあれ、出来れば孫娘のウチにそんな問題のあることはさせたくない――って。



 ……ううん、ウチのことを想ってくれてる内容は、ここだけやなくて……。



 全編にわたって、色んなところに……。

 決して、〈巫女〉としての才能が優れてるわけやないウチが、それでも頑張ってること――。


 そして、その頑張りを、何とかして助けたい、支えたいって――少しでもウチの助けになるようにって。


 スーツの改造やアップデートを初めとして、色んな手を――それこそ、ウチが知ってる以上の手を尽くしてくれてたこと……それが分かる記述が、いっぱいあった。



「……おばあちゃん……」



 おばあちゃんが、ウチのことをちゃんと考えてくれてたんを……一生懸命ウチを助けてくれてたんを、改めて知って――胸が、ギュッてなった。



「……! そうや、能丸(のうまる)さん……」



 ウチの助けに――って言うたら、能丸さんもそう。


 おばあちゃんは、ウチの手助けのためにスカウトしてくれたわけやけど……今おばあちゃんは連絡をつけられへんし……。



「…………うん」



 さすがにこのまま放っておくわけにもいかへんと決意して、ウチは――。

 さっきはあえて読まずに飛ばした、『〈能丸〉について』の項目をタップする。


 今の状態やと、能丸さんとは考え方の違いがどうしても出てくるから、協力を頼むのは難しいかも知れへんけど……おばあちゃんの現況を伝える必要はあるかと思って。


 ……以前、一方的に正体を知るのはフェアじゃない――みたいなことをおばあちゃんに言われたこともあって、ちょっと罪悪感を感じながら、開かれたページに目を通したウチは――。



「…………え…………?」



 思わず、絶句した。



 〈能丸〉を任せるにあたって、適役を捜すのにおばあちゃんは……。

 その手段の一つとして、前にうちの地下を使ってみんなでやった、テストの勉強会――その余興でやった『腕相撲大会』を利用してて。


 そこで使った台には、『霊力測定システム』が仕込まれてて――。

 それで測定された霊力が、一般人の平均よりはるかに高かった2人が……候補として名前が挙がってて。



 それが……裕真(ゆうま)くんと、国東(くにさき)くんで。


 結果としては、より霊力が高かった国東くんの方が、選ばれて――。



「……まさか、ほんなら……。

 国東くんが……能丸さんの、正体…………!?」








     *     *     *




「――いくよ」



 盾を手放し、ゆっくりと両手で神剣を大上段に構えた(まもる)が、そう言い放つや否や――。



「――――ッ!?」



 『間』に入る動作も、空間そのものも省略したような速さで――俺の頭目がけて、稲妻のような斬撃が落ちてきていた。


 とっさに何とかガヴァナードで受けるも……一瞬のうちに、このまま止め続けられる力じゃないと悟った俺は。

 刃の上を滑らせるように、かかる力を逸らしつつ、脇に脱出する――が。



「甘いよ」



 あらかじめそこを狙っていたらしい衛の――強烈な前蹴りを食らってしまう。



「っぐ……!」



 半ば本能的に飛び退き気味だったおかげで、なんとかクリーンヒットは逃れたものの――。

 骨が軋むほどの衝撃に、刹那、息は詰まり、体勢も崩れる……!


 当然、衛がそれを見逃すはずもなく――即座に。


 直接触れてもいないのに、あまりの剣圧に地面を抉りつつの、逆袈裟斬りが目前に迫り――。

 そしてそれを何とか上体を反らしてかわしても――さらに、返しの袈裟斬りからの連続攻撃が押し寄せる。


 まともに息が出来ないなら、いっそ止めて――その一撃一撃、すべてが空を断ちそうな連撃を、ガヴァナードで打ち、払い、逸らし……!



「――っああああっ!」



 垣間見えた僅かなスキに、こちらからも反撃の斬り落としをねじ込んでやる。


 だがもちろん衛も、それをまともに食らうほど甘くはなく――。

 籠手を使って受け流し、軌道を逸らしつつ……あえて密着状態まで接近し、神剣の柄頭で俺のアゴをカチ上げようとする。


 食らえば、致命傷ではなくとも、頭を揺さぶられてヤバいことになるだろうそれを――。


 俺は反射的に、衛の具足を蹴り飛ばし……その反動を使って微妙に距離を開け、直撃だけは避ける。

 ――が、鼻先を空を圧してかすめるそれは……。



 俺の被る仮面マスクだけをムリヤリ弾き飛ばし――高々と、宙を舞わせた。



 そのまま、たたらを踏むように何とか間合いを取った俺に対し……衛も、追撃する気はなかったのか、上段に構え直しつつ残心ざんしん


 ……鈍い音を立てて、その合間に、黒い仮面だけが転がり落ちる。



「分かってはいても、そうして素顔を見ると……。

 改めて、やはりキミは裕真なんだと思ってしまうね」


「……見慣れた顔で悪ィな。

 とりあえず、おかげさんで……息をするのはラクになったよ」



 俺は、乱れた息を整えるのを隠さず……唇の端の血を拭いながら、そんな軽口で応じた。



「しっかし、まともに勝負出来るようになったと思ったら、まだこれか……。

 ホントに強いよ衛、お前は。


 でも、だからこそだ――もったいないんだよ。

 この間も言ってやったように、お前が安易に〈勇者〉の名に逃げているのが。


 ――どうしてだ?


 お前がじいさんに言われた、『本当の強さ』……それが、この先にあると思うからか?

 〈勇者〉の名にこだわり――〈世壊呪〉をも滅ぼすその先に、道があると信じるからか?」



「――そうだよ。

 僕は……僕が〈勇者〉であるようにと、その命をも投げ出した人たちのために――願いを託しての犠牲を無にしないために、〈勇者〉であらねばならないんだ。


 そのために、時として、非情な決断をしなければならないとしても。

 それは、1人でも多くの人を、確実に守るために……避けては通れない道なんだ。


 ……そして、その道を、覚悟を持って進む先にこそ――。


 より多くの人を、より確実に守るための『本当の強さ』がある……それが必然じゃないか?」



 まっすぐに見つめながらの俺の問いかけに……。

 衛は、いつぞやと同じような答えを、キッパリと返してくる。


 だが、それは――。


 エクサリオとしてだけでなく、衛としても見た俺には……また違ったものに感じられた。



「そりゃあな、俺だって、『本当の強さ』なんてものを、こうだ、って断定出来るような人生経験は積んでねーさ……所詮、まだまだガキだ。


 だけど――断言出来ることもある。

 それはな、衛……。


 お前のその道の先には……お前の求めるものも、犠牲となった者が願ったものも――どちらもありはしないってことだ。


 ……確かに、何かを守るのにチカラが必要なときもあるだろう。

 けどな……チカラだけで守れるものなんて、そんなに多くはないんだぜ?」



 俺の答えに、黄金の兜から覗く衛の口元が、微かに歪んだ。



「……知った風なことを言ってくれるね。

 けれど、そう言うキミもまた……〈世壊呪〉を守るため、そしてキミの主張こそが正しいのだと、僕をねじ伏せるため――そのチカラを振るうんだろう?」



「カン違いすんな、ねじ伏せる必要なんざねーよ。

 それは、エクサリオだろうが国東衛だろうが関係ない。


 歪んでいようとも〈勇者〉として、誰かを、何かを守りたいと願うお前なら。

 きっと、自分自身で気付くはずだからな――」



 答えながら、俺は――。

 強まる衛の闘気を、真っ正面から受け止めつつ……改めて、構えを取った。



「だから、そのために……俺は、お前も守り抜く。救い出す。

 お前がこれ以上先に進んで――取り返しのつかないところまで行かないように。


 お前がその過ちに気付くまで、お前を阻み、戦う――。


 ……それこそが、俺のケンカだ」






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― 新着の感想 ―
[一言] 影の薄い能丸、懐かしいです……。 そして、裕真らしいですねー! 友情があるからこそのケンカ! どっちも頑張れーーー!
[一言] 鈴守さんにも今まで忘れられていたのか。 能丸の影の薄さよ。
[良い点] 鈴守さんも、真相に近付きつつある一方でバチバチにやりあう野郎ども! は、早くきてくれー(最近こればっか 笑) 冗談はさておき、「一方その頃」的な場面転換が活きていましたね~! 挿し込まれ…
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