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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
23章 そして、運命は収束点――勇者たちの黄昏へ
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第335話 黒曜の鋭き輝きは、黄金を穿つに至るか



「……アガシーちゃん、なんかあったんかな……」



 ――電話口で裕真(ゆうま)くんのことを訊いてきたアガシーちゃんは、なんか妙に切羽詰まったような様子やった。


 本人は『何でもない』て言うてたけど……そこはかとない不安が頭をもたげる。



 もちろん、亜里奈(ありな)ちゃんのことが分かってから、ただウチが神経質になってるだけ――って可能性もあるんやけど……。


 でも、いくら気にはなっても――今はまず、ウチにも真っ先にやらなあかんことがあるから。

 とにかくそのためにも、まずは急ぎ足で家に戻る。



 昨日に引き続き、今日もちゃんとジムが活動してることにちょっと安堵しながら……裏手から居住スペースに、さらに仕掛けを起動して地下研究施設へ。


 逸る気持ちを抑えつつ、『第1研究室』のドアをくぐると……。



「……あと、もうちょっと……!」



 その正面、メインコンピューターのディスプレイに表示された、進行度を表すバーは……変身スーツのアップデート完了まで、あともう少しだけ時間がかかることを示してた。



 あとちょっとだけやのに――って思いつつ、でももう少しやねんから、と。


 落ち着くために小さくタメ息をつきながら……ウチは、コンソール席に腰を下ろす。



 そんで、このままただ待ってるだけも何やし……。

 この先の準備も兼ねて、スマホを取り出して、カネヒラのアプリを起動。


 昨日そうしたみたいに、スマホごとコンソールに置く。



「おおお、姫ェ〜!

 今日もまた、その麗しきご尊顔を拝し奉り……!

 嗚呼、身に余る光栄に拙者、もはやこの人生に悔いなど――っ」



「………………」


「………………」



 あえて、ニッコリ笑いながら無言を貫いてたら……。

 コンソール画面の中のカネヒラは、大慌てで背筋を伸ばして、また不釣り合いな軍人っぽい敬礼をくれた。



「く、悔いなどございませぬ――が! がが、が、しかし!

 姫にお任せいただいた仕事は、キチンとやり通す所存にございますゥ〜!」


「うん、そうしてくれる?」



 ニッコリは崩さず、あえて抑揚を消した声でクギを刺してから……。


 改めてウチはカネヒラに、昨日の夜、亜里奈ちゃんに〈世壊呪(セカイジュ)〉の証を見たことを話した。


 やから、マジメにやってな?……って意味も込めて。


 そしたら、カネヒラは――。



「いい、いえす御意ィっ!

 ……で、では姫ェ! 早速、関連しそうなファイルを提示いたしまするかっ?」



 大マジメな顔(ロボットやけど)で、そんなことを言うた。


 反射的に、首を傾げるウチ。



「え? 早速も何も、アップデートまだ終わってへんけど……?」


「そそ、それでしたら!

 スーツそのもののアップデートより一足早く、アクセス権限の更新の方は完了しておりましたので……っ!」


「――ホンマにっ!?」



 その疑問に対しての、カネヒラの予期してなかった答えに――。


 ウチは思わず、椅子を蹴り倒しそうな勢いで立ち上がっていた。







     *     *     *




「裕真、僕は……今度こそ、キミのその命を奪うぐらいのつもりでいく。

 ただ……もし。

 キミが〈世壊呪〉について、素直に話すつもりがあるなら――」



「それが〈勇者〉としての情けだ……ってか?

 俺の答えなんて、分かってるだろ?


 ――それにな、心配はいらねーよ。


 俺たちがやるのは、ケンカだ――。

 俺はお前を斬らないし、お前に斬られてやるつもりもない」



 最後通牒とばかりに、余裕をもって問いかけてくる(まもる)に……俺は。


 向こうにとっては挑発にも等しいだろう――けれど、俺にとっては当たり前すぎる答えを返してやった。


 対して衛は……黄金の兜に隠された頭を、小さく横に振る。



「そもそも、ここで素直に考えを改めるようなら――か。

 それにしても、惜しい話だよ。

 その、頑固なまでのキミの甘ったるさが、〈勇者〉としての覚悟に通じていれば――って思うとね……!」


「それはお互い様だろ。

 お前だって、バカみてーに〈勇者〉なんぞに固執しやがって……!」



 ゆっくりと――しかし驚くほど自然な動きで構えを取る衛に……俺もまた、合わせる。



 ……正直、冷静に戦闘能力を判断すれば、まだまだ衛が圧倒的に上だろう。


 その上、前の戦いで大負けしたとき、一度、鎧の『声』を聞いちまったせいか……俺のこの鎧の呪詛みたいな怨嗟が、以前と違ってハッキリと頭の奥に響くようになっている。


 もっとも、『声』そのものについては、戦闘に集中すれば無視も出来るが……またコイツらが、この間みたいに俺を直接邪魔してこないとも限らない。



 だけど、不利な条件ばかり揃ってるわけじゃない。


 今の俺なら、ある程度は自分の意志で――〈創世の剣〉としてのガヴァナードのチカラを引き出せるはずだからだ。



 それに……だ。

 こう言っちゃなんだが、そもそも、有利不利なんてそう大した問題じゃない。



 衛に宣言してやったように、俺がやるのは、殺し合いじゃなくケンカ――。


 そしてケンカは、単純な強さよりも、気合いと意志で決まるモンだからな……!



「固執……だって?

 それはキミが、〈勇者〉の重みを真に理解していないからだろう……!」


「お前こそ、本当に『重い』のが何なのか――そこから目を逸らすんじゃねーよ!」



 いつかのように、俺たちは同時に――。

 遠間から、闘気を乗せた剣閃による衝撃波――〈閃剣(せんけん)竜熄(りゅうそく)〉を放つ!


 そのときは、互いに相殺するだけだったそれが……今回は。


 俺の放ったものが、僅かに上回り――呑み込み、逆流するように衛を襲った。



「――っ!」



 小さな舌打ちが聞こえたと思ったときには、衛は凧型盾(カイトシールド)を巧みに使い、衝撃波を外に受け流していたが――。

 その間に俺は、一気に間を詰めながらの瞬速の突きを繰り出す。


 そして衛がそれも、盾を軌道にねじ込むようにして防ごうとするのを――。



「――いっけえっ!」



 身体に残していた余力を解き放ち、自分自身を弾丸として蹴り出すように再加速。

 盾に邪魔をされるよりも僅かに早く、一気にその内側へと切っ先を滑り込ませる。


 だが、そこは衛も歴戦の勇者だけあって……。


 すかさず、的確に身体を仰け反らせ――。

 俺の突きを、あえて鎧で受けつつ……その強固さを利用して軌道を上方に逸らし、威力を殺す。



 ――黄金の鎧と、その表面を削るガヴァナードの間に走る、華々しい光と音。


 思わず見とれそうにもなる、それらの美しさに気を取られれば――しかしそこで終わりだ。



「「 ――おおおッ! 」」



 当然、俺も衛も、すでに次の動きに入っていて――。


 切っ先を跳ね上げられたところから、すかさず柄を握り直しての、袈裟懸けの斬撃に切り換える俺に対し……。

 衛もそれを見切ったらしく、僅かに退がりながら俺の胴を薙ぎ払いにかかる。



 ――前回までの俺なら、攻撃を中断して即座に回避に移る必要があっただろう。

 だが……!



「っらあああ――ッ!」



 ほんの僅か、一瞬とも呼べないほどの間に。

 微かながら、こちらが速いと判断した俺は――!


 そのまま、剣を振り抜くように衛の右肩を鋭く打ち据え――。



「な――!?」



 その衝撃に、勢いが鈍った衛の薙ぎ払いを、返す刀で打ち返し――。

 さらにそこから、回転しながらの渾身の後ろ回し蹴りを、胸元にお見舞いしてやった。



「……くっ……!」



 衛は、数メートル弾き飛ばされ――たように見えるが、実際は自ら飛んで衝撃を殺したんだろう。

 バク宙のように空中で回転、しっかりと足から地面に降り立った……。


 かと思うと、地面を蹴ったかどうかも判断出来ない速度で、ふたたび肉薄してきていて――。

 俺も即座に、考えるよりも早く迎え撃つ!



「「 〈迅剣(じんけん)群狼狩羅(ぐんろうしゅら)〉ッ! 」」



 分身で同時攻撃する秘剣を、タイミングまで同じに繰り出す俺たち。


 そして、互いの分身5体がまったく同時にぶつかり合い、周囲に文字通り火花を咲かせる中――。

 俺たちも再び刃を交えつつ交差、さらに振り返りざま激しく剣を斬り結ぶ。


 そこから一瞬のうちに数合を打ち合い――その中で、不意を突いての衛の盾打撃(シールドバッシュ)に、俺が蹴りを合わせて反撃したことで、互いに距離が離れ……。



 そこでようやく……一旦、仕切り直しとなった。



「……俺の動きに納得いかない――ってところか? 衛」



 お互い、一つ息をついて、構えを取り直す中……俺は問いかける。

 無視されるかと思ったが、衛は「そうだね」と素直に肯定してきた。



「正直、予想外だよ……ここまでやるなんて、ね」


「いいや、別におかしなことでもなんでもないんだぜ?

 俺が、自分よりずっと強いお前と……これまで、何度戦ったと思ってるんだよ?」



 俺の答えに……兜から覗く衛の口元が、笑みの形を取った。



「……なるほどね。

 ゲームで言えば、レベル差が大きければ、それだけ入る経験値も多くなる――と、そんなところか。

 つまり裕真、キミは――。

 これまで、ただ負け続けてきただけじゃなかった……ってわけだ」


「そして、お前は……そんな当たり前のことすら忘れるぐらい、その『チカラ』に溺れちまってたってわけだ」



「……言ってくれるね。

 ただ、裕真……キミのチカラを見誤っていたことは、素直に認めるよ。

 さすがに、3度異世界を救ってきただけのことはある。


 だけど、それでも――」



 衛は、盾を一度大きく持ち上げ……そして、手放す。

 すぐさま光に包まれたそれは、地面に落ちる前に――空に溶けるように姿を消した。



「やはり、キミは……僕には勝てない」


「さあ、どうだろうな……?」



 対する俺も、ガヴァナードを握り直し――。

 その切っ先で衛を見据えるように、深く、しっかりと構えを取った。



「だってさ、追い込まれれば追い込まれるだけ強くなる――。


 それが、勇者ってモンだろ?」






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― 新着の感想 ―
[一言] 衛の強さはこんなもんじゃない!……と私は思っています。 ゲームの経験値の例えも面白かったです!
[一言] おっ、裕真くんなにげに強くなってますね……! ゲームの喩えにちょっと笑いました。確かにケンカ(笑)
[一言] カネヒラ、スマートフォンのアプリだったのか。
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