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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
23章 そして、運命は収束点――勇者たちの黄昏へ
335/367

第333話 かつての〈勇者〉に名を、今の勇者に生をもらって



 ――かつてのわたしは、名前なんていらないと思っていました。

 いいえ、いる、いらない……どころか、自分には関係のないことだとすら。



 だって、わたしに与えられた役目は、聖剣ガヴァナードのチカラを引き出すことで……。


 そのために剣と同化し、『わたし』が消えてしまう以上――名前なんて、あったところで誰も呼びはしないのですから。


 なのに、生まれたばかりのわたしに――その少年は、〈アガシオーヌ〉という名をくれました。



「こっちの世界に来て聴いた、昔話の登場人物から取った名前だけど……。

 なんとなく、キミのイメージにピッタリな気がして」



 ……そう、恥ずかしげに苦笑しながら。



「ですが……わたしのお役目に、名前は必要ありません」


「……うん、確かに役目とは関係ないかも知れないけど……。

 でもさ、その、うまく言えないけど……名前が無いと、キミは本当に『それだけの存在』になっちゃいそうだから。

 キミはキミだって、そういう証――みたいなの、あった方がいいと思うから」


「そうですか……。

 良く分かりませんけど、ありがとうございます」



 あのときは、本当に意味が分かっていなかったわたしが、首を傾げれば……。

 子供の彼は、けれど子供とは思えない力を込めた眼差しで……自分の握った拳を見つめていました。



「僕に、もっとチカラが――誰にも負けない強さがあれば。

 もしかしたらキミに、こんな役目をさせないで済んだのかも知れない。

 ……だけど、何としても……!

 何としても魔王を倒して、アルタメアを救うには――!」


「はい……そのためにこそ、わたしは生まれたのですから。

 あなたが気に病むことはありません――マスター」



「――ありがとう……アガシオーヌ」





 ――マリーンの似顔絵を見たことをきっかけに、鮮明に蘇った記憶……。


 その中のアモルは、優しく、強く、真面目で……どことなく哀しげで。

 そして、それらすべてを上回るほどの使命感を――その小さな身体で背負っていました。



 そう――〈勇者〉としての使命感を。


 それは、『〈勇者〉であること』にこだわるエクサリオに、確かに通じるものがあって――。



「……あなたは、ずっと――〈勇者〉であり続けてるんですね……アモル。

 わたしも含めて、その名を守るために自らを捧げた者たち――そのすべてに報い続けるために、と……」



 そう、その中でもきっと……。

 シローヌという女性の魂に報いる、そのためにこそ。



 異世界に飛ばされてきたまだ子供のアモルを、実の姉のように親身に世話し、そして――その危機に際し、己の命をなげうって助けたというシローヌ。


 後の世に、〈勇者〉のために命を捧げし聖女として神格化され、語り継がれることとなったその彼女は――。



《ずっと、みんなを守る心正しい〈勇者〉であってほしい》



 ……そんな言葉を遺したと、伝えられていて。

 そして実際わたしも、アモル本人からそうした話を聞いていたのですが……。



「……アモル……きっと、そうじゃないんですよ……」



 当時はわたしも、アモルと同じようにしか、その言葉を解せませんでした。


 心正しき〈勇者〉であること――何よりそれこそが、『多くの人々』を守る道……彼女のような犠牲を減らす道であるのだと。



 でも……違うんですよ、アモル。

 わたしも、勇者様に会って――ようやく理解したんです。



 本当に大事なのは――〈勇者〉の名なんかじゃないんだ、って。

 守るべき存在は――数を数えるようなものじゃないんだ、って。


 ……そう、シローヌの本当の願いは――きっとそっちの方なんだ、って。



 だから……アモルが、頑なに、シローヌの願いを『守り続けている』つもりでいることを思えば……。

 わたしはことさらに、やるせないような気持ちになります。



 でも――だからと言って。

 ……いいえ、だからこそ、わたしは――。


 彼のやろうとしていることを、見過ごすわけにはいきません。



 わたしは……勇者様たちとともに、アリナを守り抜くと――。

 決して、誰も犠牲にはしないと――そう、誓ったんですから……!



 そのためにも、感傷に浸ってばかりではいられません、行動しないと……!



 決意を新たにしたわたしは、まずは、とにかく勇者様に連絡を――と思い、スマホを取り出しますが……。

 その最中、視界を過ぎるのは――茫然自失というていで立ち尽くす、アーサーの姿でした。



 ……そう――ですよね。


 わたしはまだ、アモルがエクサリオであることは以前から知っていただけに、受けるショックも多少はマシなんでしょうが……。


 アーサーにしてみれば、まさか、幼い頃から仲良く過ごしてきた従兄(いとこ)の『(まもる)兄ちゃん』が、対立し、戦ったことさえあるエクサリオの正体だなんて――まさしく青天の霹靂というやつでしょうから……。

 それは……ショックも大きいでしょう。


 そもそも、受け入れることすら難しいかも知れませんね……。



「……アーサー……」



 思わず、電話する手も止めて、声を掛けると――。

 それに気付いて、わたしの方を見るアーサーは……「どうしよう」と、今にも泣き出しそうな情けない表情でつぶやきました。


 もちろんそれは、マモルくんがエクサリオだったことに対しての「どうしよう」だと思ったのですが――。

 よくよく見れば、なんでしょう……雰囲気がそんな感じじゃなかったので。


 どうしたんです、と努めて優しく問いかけると……。



 アーサーが声を絞り出すようにして告白したのは、とんでもない事実でした――!



「ど、どうしよう軍曹……! オレ、オレ……!

 衛兄ちゃんがエクサリオだなんて、そんなこと、ゼンゼン思わなかったから……!


 だから昨日の夜、修行に付き合ってくれた兄ちゃんの前で……!


 オレ――オレ、ティエンオーの名前、思いっ切りバラしちまった……!」



「――ン、な……っ!?」


《なんじゃとぉうっ!?》



 わたしに続いて、テンテンも初耳とばかりに驚きの声を上げます。



 ……なるほど……つまりは。

 テンテンがいれば、いくら親戚相手でも迂闊(うかつ)なことはするなと、注意したハズで……。


 彼女の居ない間の出来事だったってわけですか――いかにも間の悪いことに……!



武尊(たける)がティエンオーなの、知った――ってことは、軍曹……」


「そうですね……。

 ティエンオーが、そしてその正体だったアーサーが、『師匠』と呼ぶ人物……。

 うちの勇者様こそがクローリヒトであると、そう勘付いてる可能性も高いですね……」



 マリーンの呼びかけに、わたしはうなずいて推測を述べます。

 同時に、素早くスマホの操作を再開して……今度こそ、勇者様に電話。


 そうして、繋がるのを待つ間――



「アーサー……やっちまったことは仕方ありません。

 迂闊なマネをしでかしたのは、確かにペナルティものですけど……相手が相手だけに、気を抜いたのも分からなくもないですし。

 それに……今は、あなたのお仕置きよりも、この事態の収拾を図る方が先決です。


 だから――しっかりして下さい。


 ――キサマらへっぽこ新兵(ルーキー)なんざ、ミスがお仕事みたいなモンだからな!

 そんな程度は織り込み済みなんだよ、上官ナメんな!……ってところです」



「……ぐ、軍曹ぉ……」



 マモルくんの正体に自分の失態と、二重のショックで悲痛極まりない顔をしているアーサーに、励ましを兼ねたハッパをかけておきます。


 ……まあ、差し当たってのお説教は、いずれテンテンがしてくれるでしょうし。



 けれど、その間呼び出し続けていた電話は――。

 まさかの、『電源が入っていないか、電波の届かない場所に――』という機械音声のアナウンスに繋がる始末で。


 イヤな予感が、ぞわぞわと背中を上ってきます……。



「アーサー! マモルくんに電話だ!

 今どこでどうしてるのかってだけ、さり気なく聞き出せ!」


「――お、おうっ!」



 とっさにアーサーに指示を出しつつ、勇者様の今日の予定についてアタマを巡らせ……ふと思い至って、続けてチサねーさまにも電話。


 今度は――すぐに繋がりました。



「――もしもし、チサねーさまですかっ?

 あの、ゆう――じゃない、兄サマ、そっちにいませんかっ!?」


『……え? 裕真(ゆうま)くん?

 ううん、裕真くんやったら――そうやね、1時間ぐらい前に、病院出て行ったよ?』


「予定を変えて――ですかっ?

 何かあったんですかっ?」


『そんな、何か、て言うほどのことやないよ?

 ……ただ、相談があるって、電話で呼び出されて……国東(くにさき)くんに。

 それで、待ち合わせ場所に――ってだけで』


「――な――っ!」


「……ダメだ、軍曹!

 電話、衛兄ちゃんに繋がらねーよ……っ!」



 事情を知らないチサねーさまの声は、いつも通りに優しく穏やかで――でも、その内容の意味するところに絶句する中……。


 立て続けに、切羽詰まった様子のアーサーの声も耳に届いて――。



『……あの、アガシーちゃん、大丈夫? どうかしたん?』


「あ、い、いいえ、何でもないです!

 ――それでチサねーさま、その待ち合わせ場所って……」


『あ、ゴメンね、そこまでは……』


「で、ですよね〜。

 ……あ、ごめんなさい、いきなりヘンなこと聞いちゃいまして。

 ええ、ぶっちゃけ大した用事でもないんで、気にしないで下さいね〜。

 ――ってことで、んじゃ、失礼しまっす!」



 チサねーさまに余計な心配をかけないように、最後は努めて明るく振る舞って――でもこれ以上ヘタに突っ込まれないよう、さっさと電話を切ります。


 ……にしても、これは……つまり……!

 マモルくんが、勇者様がクローリヒトだと気付いてる可能性が限りなく高いってことで――!



「……シット……! 先手を打たれたか……!」



 アリナが聞いたら、また「言葉遣い!」と怒られること間違いなしな単語を――わたしは。


 今回ばかりは冗談じゃなく大マジメに……舌打ちとともに吐き捨てていました。






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― 新着の感想 ―
[一言] 全ての鍵を握っているのはハイリアかもしれぬ(笑)
[一言] 3周年と333話おめでとうございます! アガシーの思い出…… 泣けますね。衛くんも、アガシーに名付けた頃にはきっと、守るべきものを数だけで数えるようなことはしなかったでしょうに。 その頃の気…
[良い点] ようやっと気付いたけど、そのときには既に……的な展開で緊張感がある点ですね! 同時に、裕真がヒーローなのに「裕真があぶない!」みたいになってるんですけど(笑) 衛が強すぎるからそういう印…
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