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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
23章 そして、運命は収束点――勇者たちの黄昏へ
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第331話 その電話は、勇者を始まりの地へと導く



「……あっ」



 千紗(ちさ)の手から転がり落ちたペンが、病室の床で乾いた音を立てる。



「ああ、いいよ、俺拾うから」


「ご、ゴメン……ありがとう」



 慌てて椅子から立とうとした千紗を制して、足下に転がってきていたペンを拾い……返しながら、俺は。



「……大丈夫?」


 と、そう尋ねずにはいられなかった。



 ――もうしばらくしたら用事で家に戻る千紗と交代で、ドクトルさんの付き添いでもしようと病室にやってきていた俺は……。

 とりあえず昨日のように、千紗と夏休みの宿題を進めていた――んだけど。


 そんな、ほんの小一時間程度の間に、千紗がこうしてペンを取り落とすのはもう2度目だったからだ。



 それでなくても、今日の千紗は朝からどことなく、思い詰めてるような感じに見えたしな――さすがに、何かあるのかと心配にもなるってものだ。


 けれど、やっぱりって言うか――。

 千紗は「大丈夫」と、何でもない風を装って笑うだけだった。



「たまたま、ホンマにたまたまやから……!

 ペン連続で落としたぐらいで大ゲサやなあ、裕真(ゆうま)くん……そんなこともあるて」


「んー……だったらいいんだけど……」



 ゼンゼン何にもない、って感じじゃないんだけど……本人がそう言うなら、あんまりこっちから追求するのも良くないかな……。


 そう思って、それ以上そのことを話すのは止めて、またしばらく宿題に向かっていると――。



 その合間に、何度か俺の方を窺うようにしていた千紗が……ポツリと尋ねてきた。



「裕真くん……亜里奈(ありな)ちゃん、なんか悩んでたりとか――してへんかな?」


「――え?」



 今度は、俺がペンを落としそうになるのをとっさに掴み直し――向かいの千紗の顔を見る。



「あ、えっと……!

 そう言うても、昨日いっしょにお風呂入ってたとき、なんとなーく……もしかしたらって、ちょっと思っただけやねんけど……」



 俺が思った以上に真剣な顔をしていたからか――千紗は自分の発言を否定するみたいに、小さく両手を振った。



「亜里奈に何か、そんな素振り……あったの?」


「あ、ううん……いかにもそれっぽいのは、何も……」


「じゃあ、体調が悪そうだった、とか?」


「ううん、それも大丈夫――やと思う」



 続けて、俺が確認していくと……そのどちらをも否定した千紗は、申し訳なさそうに眉尻を下げる。



「……な、なんやゴメンな……裕真くん。

 こうやって確認してたら……やっぱりウチのカン違いみたいな気、してきた。

 ――もしかしたら、ウチがおばあちゃんのこととかでいろいろ考えてたせいで、心配した亜里奈ちゃんが気ぃ使(つこ)てくれたりしたんが……。

 ウチからしたら、悩みを隠してるみたいに見えただけ、なんかも……」



「ん、そっか……。いやでも、謝ることなんてないって。

 むしろ、亜里奈のこと、気に掛けてくれてありがとう。

 朝からちょっと思い詰めてる感じだったのも、これを言おうかどうかで悩んでたんじゃない?」


「え? あ――うん、そんな感じ……かな」



 ちょっと曖昧にうなずく千紗。


 ……んー、それだけじゃないってこと、かな……。



 まあ、それにしても――。


 もしかしたら亜里奈が、自分が〈世壊呪(セカイジュ)〉であることに気付いて――それで動揺していたりしたんじゃないかと思って、ついつい前のめりに食いついちまったけど……。

 どうも、そういうわけでもなさそうだ。


 ……でも、そうだよな……。

 今朝の亜里奈だって、特別おかしな感じはなかったんだし……。


 ひとまず、亜里奈のことについては早とちりだったみたいで、少しホッとする。



 ……とはいえ、それはともかく、亜里奈ももう小6だ。

 俺相手じゃ言いにくいような悩みぐらい、実際にあったっておかしくないわけで――。


 そういうところ、同性で年も近くて……何よりアイツが、姉として慕ってる千紗に、少しでいいから力になってもらえたらな……って。


 そんなことを、ちょっとお願いしておこうかと思った――そのときだ。



 テーブルに出していた俺のスマホが、ブルブルと震えて着信を告げた。

 相手は――



「……(まもる)? ゴメン千紗、ちょっと出てくる」


「あ、うん」



 千紗に一言断って、スマホを手に病室を出る。


 そして、電話をしていても迷惑にならなそうな場所まで移動して……通話をタップ。



「――もしもし、衛?」



 そう言えば……おキヌさんが昨日、衛のところに晩メシを作りに行くって話してたっけ。


 しかも、そのイベントにはイタダキも便乗してたわけで……。

 あの頂点ヤローのことだ、泊まって夜通しゲームした挙げ句、「もうちょっとでコレ、クリア出来んだよ〜……!」とか何とかぬかして、今もまだ居座ってたりするかも知れない。


 ……となると、だ。

 この電話だって、衛のスマホを使って、イタダキが掛けてきてるって可能性もあるんだよなー……。



 タダでさえウザいイタダキの、ロクに寝てないハイテンションとか、相手してられねーよな……と、警戒しながら出た電話は――。



『あ、もしもし、裕真?』



 ……幸いにして、ちゃんと衛本人からだった。



『ゴメン、もしかしてドクトルさんのところだった?

 電話、大丈夫かな?』


「ああ、それは大丈夫。

 ……んで、どうかしたのか?

 ちなみにだけど、イタダキが未だに部屋に居座っててウザいから、俺も道連れにしようとか――そういう話は却下だからな?」



 俺が先んじてクギを刺すと、電話の向こうで衛は笑う。



『なるほど、そういう手もあったねー。

 そうだよ、そうすればお昼は買い置きしてた袋麺じゃなく、裕真に何か作ってもらえたのになあ』


「いやお前、それ、俺を便利に使い過ぎだろ……」



 ちょっと前に衛の家で、俺たち男子どもだけでやった鍋パーティーのことを思い返し……反射的に頬が引きつる。

 あのときは結局、鍋の用意どころか、軽食作りまでやらされたもんなあ……俺。



『まあともかく、イタダキならもう帰ったから、そこのところは安心していいよ』


「……ならいいんだけどさ。

 で? それじゃ、本題は?」


『ああ、うん、それなんだけど……』



 そこで一旦、間が空く。

 言いづらいことなのか、言葉を選んでいるのか……。


 ともかく、少ししてからまた聞こえてきた衛の声には――ここまでとは違って、真剣な調子が感じられた。



『実はこれから……ちょっと、2人で会って話がしたいんだ。

 相談――っていうか』


「……俺とか? 電話じゃなく?」


『そう、裕真、キミと。

 電話じゃなく、直に……ね』



 ……ふーむ……電話じゃしづらい相談――とかか?


 ああ、もしかしたら……実家絡みのことかも知れない。

 旅行中に剣道勝負して、衛から直に、じいさんとの確執について打ち明けられたの……俺だもんな。


 うーん……今日も千紗の代わりに、ドクトルさんについてるつもりだったけど……。

 さすがにそういう真剣な話なら、無下にも出来ないか。



「分かった、構わねーけど……場所はどうする?

 イタダキも帰ったってことなら、俺がお前の家に行けばいいのか?」


『それなんだけど……待ち合わせでお願い出来るかな?』



 そう前置きして、衛が告げたのは……。

 特別なランドマークでも何でもない、とある高架下の空き地だった。


 周囲に何か施設があるわけでもないし、主要道路からは外れてるしで、あんまり人も来ないような場所だ。今日みたいな天気ならなおさらだろう。


 ただ……実は俺としては、それなりに思い出深い場所でもある。



 なぜかと言えば――そこは、俺が〈クローリヒト〉になった場所。

 初めて、この日常の世界での非日常……そう、シルキーベルという魔法少女と遭遇した場所だからだ。


 ……と言っても、そんなことは衛には関係ないわけだけど。



「……ってか、なんでまたそんな場所なんだ?」


『そうだね……。

 話をするついでに、いつかみたいに手合わせをお願いするかも知れないから、かな』



 なるほど……やっぱり、だな。


 衛の答えに、俺は内心うなずく。



 おキヌさんも衛のこと、ちょっと心配してたけど……。


 もしかしたら、ドクトルさんがこうして入院するのを見た上に、お盆も近付いてきたことで……衛の中で、じいさんに対しての心境の変化があったのかも知れない。

 たとえば、一度実家に帰って、改めてじいさんと向き合ってみる気になったとか……。



 その想いを整理したり、踏ん切りをつけるために、以前も勝負した俺と、拳ならぬ剣を交えたいってことなら……俺に断る道理はない。


 おキヌさんにも衛のこと、『頼む』って言われてるし――。

 だいたい、それでなくても……友達なんだからな。



「……分かった。

 それじゃあ、そういうことで――また後でな」


『うん――また、後で』



 そのあいさつをキリにして、俺たちはお互い、ほぼ同時に電話を切っていた。



「……さて、と……」



 そして俺は、その足ですぐにドクトルさんの病室に戻ると――。

 千紗に、衛との電話の件を告げた。


 衛との約束を果たすとなると、当然この後、千紗の代わりをするわけにもいかないから。



「……ゴメン千紗、ここまで来ておきながら何だけど……」



 頭を下げる俺に、千紗は――むしろ『そんな気を使わなくても』とばかりに、両手と首をブンブン振る。



「ええよ、そんなん! 大丈夫やから気にせんとって?

 そもそも、それやったらウチこそ、おばあちゃんに付き添っとかなあかんねんから。

 ――やから、それより……国東(くにさき)くんの相談、ちゃんと聞いてあげてほしいかな」


「ありがとう。もちろん、そうするよ」



 広げていた宿題や筆記用具をしまい、手早く荷物をまとめて病室の出口に向かう俺を……。

 千紗も、わざわざ席を立って見送りに来てくれた。



「……じゃあ、行ってくる。

 話が済んだら、また連絡するよ」


「うん、行ってらっしゃい。車とか、気ぃつけてな?」


「ありがとう。千紗も、帰るときは気を付けて」



 ドアの前で、優しい笑顔と一緒に手を振ってくれる千紗に、手を振り返して――。


 俺は、病室を後にしたのだった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 衛がどういう話の切り出し方をしてくるのかが、まず楽しみですね! “ついでに手合わせ”とか言ってますが、高確率でそうなる可能性を見越してそうで、電話越しにやる気がビンビン伝わってきます。 …
[一言] 超好形のイーシャンテンだったのに、親リーを喰らった気分!(迫真)
[一言] おっー、額面通り本当に話し合いをするか楽しみですね。 互いが正体をばらし合いながらもバトルに入る熱い展開が来るか(笑)。
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