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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
23章 そして、運命は収束点――勇者たちの黄昏へ
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第330話 それは、かつて〈勇者〉だった、子を持つ父の矜持か



「……ったく、お嬢に諭されるとかよぉ……オレもヤキが回ったモンだぜ」


「そうですか? わりといつものことじゃないですか?」



 ――なんだろう、わたしとしては結構な大ごとだったのに……。


 黒井(くろい)くんとの勝負を終えて、〈常春(お店)〉に戻る間……黒井くんも質草(しちぐさ)くんも、わりといつも通りな感じだった。



 ……感情があふれて、ベソまでかいたわたしがバカみたいだ。



 ああ……うん、もちろん、分かってる。

 黒井くんたちが、意識してそうしてるんだ、ってことぐらいは。


 でも――やっぱり、さすがにちょっと恥ずかしいというか……。

 うん、まあ、黒井くんたちを止められたから、いいんだけど――ね。



「……お父さん、ただいまー」



 とりあえずは、最悪の事態は避けられた――。

 その安堵感を噛み締めながら、お店に戻ると。



 お父さんは……〈庭園〉の様子でも見に行ってるのか、店内にはいなかった。



「あ? おやっさんは……地下の方か?」



 続けてぞろぞろと、黒井くんたちも入ってきた――ところで。



 ――キィィィン……。



 何か……微かな、耳鳴りのような音がして――って!

 この感覚は……!



「――お嬢!」

「これは……!」



 同じような、黒井くんたちの慌てた様子の声に、わたしもうなずき――キャリコに確認を取る。



「キャリコ、これって――!」



「……間違いなし、結界でありまくり――ここに『閉じ込める』タイプの。

 しかも、なかなかに強力でありまくり。


 しかして、これは――どうやら、お嬢。


 お嬢たちが店に帰ってくるのが、結界の『発動のトリガー』として仕掛けられまくっていたようで」



 ぴょいと、テーブルに飛び乗ってのキャリコの言葉に……黒井くんが「はあ!?」と顔をしかめる。



「ンだよそれ? 敵襲ってンなら分かるが、オレたちをトリガーに、ここへ閉じ込めるって、一体何の――」


「! おやっさん!」



 素早く反応した質草くんが、お店の奥の方へ行こうとして――そして、足を止める。

 その、見開かれた糸目の先にあるのは……カウンターの上の、書き置きっぽいメモ用紙。


 ……反射的に近寄って、拾い上げたそれに、お父さんの字で書かれていたのは――。



『後のことは私に任せておきなさい。

 大丈夫、〈世壊呪(セカイジュ)〉の女の子の命を奪うような真似はしない』



「なに、これ……。

 お父さん、どういうこと……っ?」


「まさか、おやっさん――。

 何する気か知らねえが、オレたちが出てる間に1人で行ったのか!?」



 弾かれたように、きびすを返した黒井くんがお店のドアに取り付くけど――。



「――ンだこれ……! ビクともしやがらねえぞ!」


「当然でありまくり。

 ワガハイ、言いまくり……ここへ閉じ込めるための、強力な結界でありまくると」



 キャリコの言うように、黒井くんがドアを押したり引いたり、軽く体当たりまでしても――本当に、微動だにしない。



「まさか、とは思いましたけど……。

 これはやはり、おやっさんは――」



 質草くんが、珍しく顔をしかめながら……そんな言葉をこぼすのを、わたしは当然、放っておけなかった。

 掴みかかりそうになるのを抑えて――でも思わず強い調子で詰め寄ってしまう。



「質草くん、どういうこと……?

 何か知ってるの……っ!?」


「………………。

 以前、おやっさんから聞かされたことがあるのですが……」



 どう話そうかと逡巡したのか、わずかに間を置いてから……質草くんは、努めて冷静に口を開く。



「……〈庭園〉を存続するのに、次善策として、〈世壊呪〉を犠牲とする以外の方法が、もう1つだけあるそうです」


「――えっ!?」「あぁんっ?」



 質草くんの言葉に、わたしも黒井くんも、間の抜けた声を上げてしまう。



 ……だって、それが本当なら……。

 わたしたちがこんな、悩みに悩んで、右往左往する必要も――って。


 ――違う、そうじゃない……!

 ホントにそんな都合の良いものがあるなら、お父さんが黙ってる理由がない……!


 だから、それはつまり――。



 まさか――と、わたしの背筋を、冷たいモノが走り抜けた。



 お父さんがそれを、手段の一つとして大っぴらに話さなかったのは――!




「まさか――まさか質草くん、それって……!」



「……そうです。それは、『別の犠牲を用意』すること。

 理屈としては単純です……要は、別の誰かが、〈世壊呪〉の持つ世界を滅ぼすほどの膨大な魔力を吸い上げ、代わりに、その命ごと〈庭園〉の礎の触媒となればいい――というわけです。


 ただし、〈世壊呪〉だからこその膨大な魔力を、そうでない者が取り込むわけですから……誰でもいい、というわけではありません。

 己の限界以上のチカラを、暴走しないように制御出来る――そう、魔力の扱いに相当に長けた者であることが、絶対の条件となります。


 ――つまり、この場合は……」



「――――っ!」


「……おやっさん……なの、か?

 じゃあ何か!?

 おやっさんは――自分が死ぬ気で出て行ったってのかよ!?」



 思わず、息を吞むわたしの前で……黒井くんは、質草くんの肩を掴んで揺らしていた。



 なんでよ、お父さん――なんで……!


 せっかく、黒井くんたちを思い止まらせたのに……!

 クローリヒトたちとの接触で、新しい道が開けるかも――って可能性、限りなく低いのかも知れないけど、まだ試してすらいないのに……!



「……さっきのボクらと同じですよ。

 おやっさんも、それが一番良いと信じてるんです。


 きっと、おやっさんのことだ――ボクらが出て行った本当の理由も察していて、追いかけたお嬢に、キッチリ止められることまで計算していたんでしょう。


 だから、こうしてカンペキな形でボクらを封じ込めることが出来た――自分を追いかけてきて、邪魔をしないように。自分がすべてを終わらせるために。


 小さな女の子を犠牲にするぐらいなら、まずはその案を出した自分が――なんて、まったく、元勇者のおやっさんらしいじゃないですか……!」



 強い口調で問いに答えた質草くんは、肩を掴む黒井くんの手をはね除けて――その場にしゃがみ込み、床の上に指を走らせ始める。



「……ともかく、結界の解除を始めます。

 おやっさんが強く組み上げたものとなると、一筋縄ではいかないでしょうが……」


「解除だぁ? ンな悠長なことやってる場合かよ!

 それなら、一気に力尽くでブチ破った方が――!」



 拳の骨を鳴らしつつ、勢い込んでドアに向かう黒井くんを――「落ち着いて下さい」と、質草くんは鋭く呼び止める。



「あのおやっさんが、ボクらが追いかけてこないように――と、決意を込めて仕掛けた結界ですよ? 力尽くなんかでそう簡単に破れるわけないでしょう。


 それに……おやっさんはおやっさんで、出向く先は人気の無い荒野じゃなく、昼間の人家なんです――無関係の人間を巻き込まないため、標的と確実に接触するため……そして何より、クローリヒトたちの抵抗を受ける可能性を考えれば、それなりの範囲に、かなり強力、かつ特殊な結界を敷く必要があるはず。


 ……つまり、ある程度は時間的猶予もあるんです。

 無茶をするぐらいなら、その分の体力を……最悪、おやっさんを、さっきのお嬢のようにブン殴ってでも止めるために、温存していて下さい」



「チィッ……!」



 質草くんの説得に、渋々でも納得したみたいで……。


 黒井くんは舌打ちとともにドアを1発、八つ当たり気味に殴るだけに留めて……テーブル席の端に腰を下ろした。



「……オレに、なんか手伝えることは」


「なら、適材適所ってことで、コーヒーでも煎れてて下さい。

 むしろ、黒井くんよりもお嬢……ボクを手伝ってくれますか?」


「――えっ? あ、う、うん……分かった」



 質草くんに言われて、思わずわたしはハッとなって……慌てて、側にしゃがみ込む。



 ……わたし、ボーッと突っ立ってるばかりで……。

 何してるんだろ……こんなときに。



「……しょうがないですよ」



 作業を続けながら……質草くんは、わたしに小さく語りかける。



「こんなことになれば……そりゃあ、お嬢の立場なら、混乱して思考が追い付かないのも当然でしょう」


「……質草くん……」


「なので、しばらくはとにかくボクの指示通り、結界の解除作業に集中して下さい。

 こういうときは、何かに没頭してるのが一番です。

 ……あとは、黒井くんが煎れてくれるコーヒーで落ち着きましょう」



 そう言って、質草くんは――カウンターの向こうへ行っていた黒井くんをチラッと確認し、普段通りの……ちょっと余裕を持った笑みを見せてくれた。



 そっか……黒井くんも、あんな指示に妙に素直に従ったと思ったら……。

 質草くんの言わんとしていることを察して、わたしのこと、気に掛けてくれたんだね……。



「……ありがとう。

 さっきは泣いちゃうし……ホント、わたしってば……!」


「言ったでしょう? しょうがないって。

 それよりも、落ち込んでるヒマはありませんよ?

 ……少しでも早く結界を解いて、おやっさんを追いかけなきゃならないんですからね」



 質草くんの、そんな励ましに……。

 わたしは、自分の手に目を落とし――うなずいた。



「うん――そうだよね。

 ……今度は、お父さんを――バカな真似するなって、ひっぱたいてやんなきゃ……!

 ホントに、うちはみんなして、勝手に暴走してばっかりなんだから……!」


「その意気ですよ。

 さて、じゃあテーブルの上にふんぞり返ってる、偉大なネコ様にも手伝ってもらいましょうか?」



 わたしの答えに満足したように、小さくうなずき返した質草くんの呼びかけに応じて……キャリコも、ぴょんと飛び降りてきた。



「やれやれ……仕方なしまくり。

 ワガハイとしても、ここに閉じ込められまくっていては、近所のお嬢さん方のところへ通いまくれないゆえに〜」


「オーケー、それじゃ2人とも、ボクの指示に合わせて、タイミング良く、少しずつ……魔力をボクの描く陣に流し込んでいって下さいね。

 ――焦らないで、少しずつ……ですよ?

 どのみち、すぐには終わらない長丁場です、力みすぎないように……」



 質草くんの指示に、改めて、床の方へ意識を向けながら……わたしは。


 お父さんも、ゼッタイに止めなきゃ――って、決意を固めていた。




 ……そうだよ、残ってる可能性を試しもせずに、犠牲が出る方法を選ぶなんて――。


 そんなのが、良いわけがないんだから……!






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― 新着の感想 ―
[一言] それぞれの勇者の志が明確に見えてて胸熱展開です!!!  今後が気になって夜しか眠れません!!
[良い点] す [一言] おやっさあああああああん!!!!!(ブワッ)← まさぺ ふと見れば、前話改稿されたんですね! バトルに迫力が出て大満足でございます!
[一言] めちゃくちゃいいっすね!
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