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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
23章 そして、運命は収束点――勇者たちの黄昏へ
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第329話 半分は獣の一匹狼の、残るもう半分



「――行くよ、キャリコ! 〈執行(エクゼクト)〉!」


「ワガハイ、張り込みまくりから帰ってきまくったばかりなのに~……」



 お嬢の呼びかけに、文句タラタラに応じて――その背中側から現れたキャリコが、空中で一回転。

 その身体から放たれた白い光の玉を掴み、お嬢は右手の虹色の籠手にはめ込む。


 すると、お嬢の手の中にその光が移り、長く伸び、形を成して――シンプルな細身の槍と化した。


 ――お嬢の変身パターンについちゃ、多少は見せてもらったことがある。

 髪の色も白のままのこれは、基本スタイル――武器は、〈力ある棘(マギアスタ)〉だったか。



「――黒井(くろい)クン」


質草(しちぐさ)……いいな、テメーは手ェ出すなよ。

 いくらお嬢でも、オンナ相手に2人がかりじゃカッコつかねえからな……!」



 オレは質草にそう言い置いて、メットを脱ぎ、バイクを降りると……。

 少し離れた場所に移動してから、自分の中の『血のチカラ』を解放する。


 ……変身したお嬢相手に生身のままじゃあ、さすがに勝負にならねえからな……!



「――おおおオオオッ!!!」



 〈人狼〉としての本性を顕わにすれば……人としての雄叫びは、そのまま狼としての遠吠えと化す。

 合わせて、おやっさん特製の、魔力をそのまま鎧状に硬化して全身に纏う、魔導具のチカラも発現し――。


 オレもまた、ガチの戦闘用の姿に変身した。



「お嬢ぉ……多少のケガは覚悟しろよ!」


「黒井くんこそ――!」



 オレたちは、ほぼ同時に、互いに距離を詰め合って――振り下ろされる槍と、打ち上げる拳をぶつけ合わせる。


 ――天気のせいで薄暗ェ中、色鮮やかな火花が散った。



 その光が、イヤに目に焼き付きやがる。


 オレの中に燻る迷いに、照り返しやがる……!



「チッ、クソったれがァ――!」



 ……ったく、この期に及んでオレってヤツぁよ……!

 やるって決めたンだろォがよ!!!



「オオオオォッ!!!」



 迷いだの躊躇いだの、しぶとくしがみつく弱え心を……吐き出し、奮い立たせるのに、力の限りに吠え――。

 オレはお嬢の槍を目がけ、思い切り固く握り込んだ渾身の拳を打ち込む!


 ――ひたすら鈍く重い金属音とともに……受け止めた槍ごと、お嬢の身体が後方に吹っ飛んだ。



「――くぅっ……!」



 異世界を救うほどになったお嬢とは、やはり地力に大きな差がある。


 なら……長期戦は不利だ。

 ケンカ慣れしてねえお嬢が実力を出す前に、一気に畳みかけ、一撃入れて意識を奪うしかねえ……!


 お嬢にケガぁさせたくねえが――それも含めて、やるなら一撃だ……!



 吹っ飛んだお嬢が体勢を整える前に距離を詰め――。



「うぅらぁぁぁッ!!!」



 武術で言う『縮地(しゅくち)』に近い動きで、一息に懐に入り――ボディブローで意識を刈り取る……!


 ――はずが……。



「甘く――見ンなあっ!」



 なんと、お嬢は――その一撃を、まるでかわそうとも防ごうともしねえで。


 根性比べとばかりに、マトモに食らいながら――槍から放した片手でオレの顔面に、カウンターで拳を叩き込んできやがって……!



 ――ゴォンッ……!



「がぁッ――!」



 耳っつーより、頭ン中に直接響く強烈な衝撃とともに……足が、たたらを踏む。


 星が飛ぶ視界の中、かろうじて確認すれば――。

 お嬢も、多少は効いてやがるみてえだったが……オレよりもいち早く、踏み止まり――。



「ゼッッタイに、行かせないから――!

 こんなバカなことは……止めるからッ!!」



 さっきとは逆に、オレの方へ踏み込みながら――穂先とは逆の(いし)()きでの、槍の連続突きを繰り出してくる。



「ク、ソ――がァ……っ!」



 オレは、それを拳で打ち払いつつ、かわそうとするも――。

 恐ろしく速い上に、時折、柄を使っての薙ぎ払いまで取り混ぜてきやがって……。


 とてもさばききれるようなモンじゃなく、石突きが、柄が、何度もオレの身体を打ち据える。



「ゼッタイに……!

 ゼッタイに、亜里奈(ありな)ちゃんのところへなんて行かせないから――っ!」


「クソ……ったれ、がぁ……ッ!」



 ……にしても、だ――。

 お嬢が、ここまでオレのやることに反対してくンのは、初めてかも知れねえな……。



 嵐みてえな猛攻に押されながらオレは、その向こう――お嬢の、マジで必死の形相を改めて目にして……。

 フッと、そんなことを思っちまった。



 ――お嬢が、いかにも『しっかりした妹』ヅラして、オレを『ダメなアニキ』とばかりに、あーだこーだと口うるさく小言を言ってくるのは、ガキの頃からだ。


 だが……それでも。


 オレのやること、生き方を、真っ向から否定することは決してなかった。

 いつも通り文句は言っても、ガチに干渉してくることだけはしなかった。



 その理由を、オレは……。


 当たり前だが、オレたちが実の兄妹じゃねえからだとか……オレみてえな野郎には、どうせ言ったところでムダだから、とか……そんな風に思ってるからだろうって考えてたが……。


「……チッ……」


 そうじゃなかったのかもな――。



 けどよォ……。

 なら、なおのこと――ここで退くわけにゃいかねえっつンだよ!!!



「――っらああああっ!!!」



 何とか来るのを見切った薙ぎ払いを、思い切り頭を下げて潜り抜けざま――今一度、渾身のボディブローを放つ!


 ――が。


 まるで、初めからそれを予期していたように……薙ぎ払いを振り切らず、途中で止めたお嬢は。

 刹那のうちに槍を切り返し――そればかりか、軌道も変えてオレの足下を狙ってきやがって……!



「――――ッ!?」



 跳んでかわす間も、防ぐ間もなく。

 オレは、キレイに足をすくわれ――ブザマに後頭部からアスファルトに落ちた。



「がぁっ……!」



 それを逃さず――お嬢は、倒れたオレをまたいで見下ろし。


 荒い息をつきながら……槍の穂先を、オレの喉元に突きつけてきた。



 ――勝負アリ、か……。



「……クソったれ、が……」



 心底から、自分に向かって……舌打ち混じりの悪態を吐く。


 合わせて、鬱陶しいぐらい真っ暗な空から……ついに雨まで降ってきやがった。



 ――ったく……。

 いいのを1発顔面にもらってンだ、しみるじゃねーかよ……。


 ……なンて、どうでもいい文句を口の中でぼやいてたら――だ。



「こっの、大バカぁ……っ!

 なんで――なんで、こんなバカなことしようとするの……っ!」



 オレを見下ろすお嬢は……くちゃくちゃな顔をしていて。

 だから、オレの顔に落ちてきているのは――。


 雨なんかじゃなく……お嬢の、涙だった。



「……バカなことじゃねえ。

 赤宮(あかみや)の妹には気の毒だが、オレの故郷と家族を守るには――」


「それがバカだって言ってるんじゃんかあっ!!!」



 オレの反論を、絶叫で遮る――と同時に、また涙がパタパタとオレの顔を打つ。



「なんで――なんで分かんないんだよぉ……っ!

 黒井くんたちが、わたしやお父さんの代わりにって、その手で亜里奈ちゃんを犠牲にして――それで〈庭園〉を、家族を守れるって……!


 ――そんなので、誰が幸せになるって言うんだよぉっ!!!」



 お嬢は、槍をかなぐり捨てて……。


 むしろ、そんな武器モノより、オレにとっちゃよっぽど凶器的に心を抉ってくれるモノを――ぼろぼろと零してきやがる。



「そんなマネして、わたしたちが……!

 『黒井くんのおかげだ』って喜ぶと思ってるのかよ!? 感謝すると思ってるのかよ!?

 ――バカにするなあっ!!!


 黒井くんが、守るだのなんだのぬかしてる『家族』に――わたしたちは!

 わたしたちは、入ってないのかよお……っ!


 黒井くんたちが――家族が、ヒドいことをしたら哀しいって……!

 ヒドいことをさせてしまったら哀しいって、わたしたちの……!


 ――わたしたちの気持ちは、どうでもいいって言うのかよぉっ!!!」



「…………お嬢…………」



 ――ああ、そうだよな。


 お嬢がこれまで、グチグチ小言は言いつつも、オレの生き方に過剰に干渉してこなかったのは……。

 本当の兄妹じゃねえからとか、言ってもムダだからとかじゃねえ――。



 血の繋がりなんざなくても――。

 オレを、『家族』として、信用していたから――なんだな。



「……チッ……。

 だから、本当のバカやるのだけは見逃しようがねえ、ってか……」



 そして、結局……。

 そうした想いの上でも、わずかなりと迷いのあっただろうオレに――。


 お嬢のこの気迫をはね除けることなんざ、出来やしなかったってことか……。



「そうだよ、バカだよ、ホントにどうしようもなくバカだよ……っ!

 大体、威勢良いこと言っといてさ、いつも何かと甘い黒井くんが……!

 亜里奈ちゃんを手に掛けるとか、出来るわけないじゃない……!」


「それはどうだろうな。

 ……言ったろうが? オレが優先するのは、『家族』だってな……」



 このクソったれな空でさえまだ泣いてねえのに、大荒れにベソをかきまくるお嬢が、オレを解放するみたいに数歩後退(あとずさ)ったのに合わせて……立ち上がる。


 お嬢はそれを、止めようとはしなかった。



 ……ったく……よぉ……。



「――おい、質草ぁ! テメーはどう思う!」



 オレは首を巡らせ、バイクの上に、まるで見物客と言わんばかりの姿勢で座っていた質草のヤローに話を振る。


 返ってきたのは、あのいつもの嫌みったらしい余裕めいた笑みと……大ゲサに肩をすくめながらの、


「どう思うも何も。

 ……ただでさえ負けたのに、女の子に泣かれたんですから……もうどうしようもなく完全敗北じゃないですか?」


 ……という、他人事のような軽い答えだった。



 ハッキリ言ってムカつく。ムカつくが――。



「……だよなァ。

 ったく、これだから、オンナってのは手に負えねえんだよ……」



 同意見のオレは、タメ息混じりに……。

 しゃくり上げ続けるお嬢に近寄り、軽くデコピンを食らわせた。



「おらお嬢――いつまでもブサイクな泣き顔さらしてンじゃねえよ」


「えっぐ……ぶ、ブサイクって言うなあ……!」



「マジだからだろ。

 そんなクシャクシャな顔が許されンのなんざ、赤ん坊ぐれえなモンだっつーの。

 ――おら、いい加減泣き止めっての……帰ンぞ、〈常春(トコハル)〉に」



「えぐ、く、クシャクシャ言うなあ――――って。

 え? 帰る……の?」



 今までがウソ泣きだったンじゃねえかってぐらいに、ピタリと涙を止めたお嬢が……きょとんとした顔で、オレを見返す。



「……言ったろーがよ、カンペキにオレの負けだ、ってな。

 ったく、ケンカで勝った上に、ヒキョーなテぇまで使いやがって」


「な……! ひ、ヒキョーってなんだよ……!」


「――ただし、だ!」



 オレは、お嬢の泣き腫らした顔に指を突きつける。



「あくまで一時的に、だ。ギリギリまで、お嬢の言ってた万に一つの可能性ってやつに乗っかって、様子を見てやろうってだけだ。

 本当にどうしようもなくなったら、そのときは……。

 オレは、どう言われようとやるべきことをやる――忘れるなよ?」



 そう言い切って――お嬢の返事なんざ聞く気もないとばかり、背を向けてバイクの方へ。



「……黒井くん……ありがとう……」



 お嬢のその一言を背中で聞きながら、人狼化を解くオレは……。



「チッ……ったく」


 自分でも、微かに口元が歪んでるのが分かった。




「オレの半分は、(ケモノ)でも……。


 結局、もう半分は――人、ってことかよ」






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― 新着の感想 ―
[一言] 涙の説得、良かったです ^0^/ ボコボコ殴り合うシーンも爽快感がありました☆彡
[一言] うーん……個人的には、もっとちゃんと殴り合って欲しかった…… あ、個人的には、なんですが。 無防備な小学生女子(知り合いの妹)を殺るというシビアな前提なので。 でもとてもボンクラさんらしい…
[一言] うむむむ…… なるほど、と思わず唸ってしまう闘いでした! ですよね。 ふたりの性格を考えたらこうなるのはうなずける……! そして白城さん…… ほんといい子! 黒井くん負けて当然ですね(笑) …
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