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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
23章 そして、運命は収束点――勇者たちの黄昏へ
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第326話 守るべきものを、ともに守る者とは



 ――風呂屋の浴場掃除ってのは、実に大変だ。


 基本的には営業時間の終了後にやってしまうわけだけど……。

 〈天の湯(うち)〉はそれに加えて、朝の営業準備中にも、お湯を張ったりする前に、設備の点検とかも兼ねてもう一度軽く掃除をする。



 お客さんがケガしたりしないよう、設備が壊れたりしてないかチェックするのはもちろんのこと……。

 身体をキレイにするための風呂屋が、そもそも汚いなどもってのほか――ってわけだ。



 それを幼い頃から、ばっちゃんにも母さんにも厳しく叩き込まれたこともあり……軽くとはいえ、見落としとかは出ないようにしっかりと、掃除と点検を済ませた俺は。


 その足で、作業終了の報告も兼ねて裏手のボイラーの方へ回る。



 基本的に、うちのボイラーの番をしているのはじっちゃんなんだけど……今日、そこに置かれた椅子に座っていたのは、手伝いのハイリアだけだった。



 ……しっかしまあ……。

 ムキ出しの配管やら機械盤やらが並ぶ、飾り気のカケラもない雑多な空間に、この美人ってのは……何とも違和感があるというか、逆に妙に芸術性を感じる取り合わせというか。



「じっちゃんは?……って、ああ、一服にでも行ったか?」


「うむ。先ほど、今のうちに……とな」



 ……うちのじっちゃんは、仕事前と仕事終わりだけにタバコを吸う。


 もともとは結構なヘビースモーカーだったらしいけど、うちの母さんが生まれたことで吸う数を減らして……さらに初孫の俺が生まれると、完全に人前で吸うのを止めて、今のスタイルになったらしい。



「余は別にタバコなぞ気にせぬのだし、席を外されずとも良いのだがな」


「ああ……まあ、確かにお前のことを気遣ってるってのもあるだろうが、それだけじゃないさ。

 こういうところはやっぱり基本、火気は禁物だし……気を抜かないよう、仕事場で一服はしない――って、じっちゃんのこだわりもあるんだよ」



 俺は、裏庭の方へ続く出入り口を見やりながら言う。



「……なるほど、いかにもじじ殿らしい」



 俺の視線を追って、そう感慨深げにつぶやいた……と思うと、改めてハイリアは俺を見やる。



「――ところで勇者よ。

 今日はキサマ、これからどうするのだ?」


「俺の予定か? そうだな……。

 とりあえず、昼過ぎには一旦、病院の方へ行くよ。

 千紗(ちさ)が、今日も実家の方へ寄る用事があるらしいから……代わりに、少しの間だけでもドクトルさんの様子を見てた方がいいかな、って」



 俺は、朝に顔を合わせたときの、千紗との会話を思い返しながら答える。



 ……朝の千紗、なんかちょっと思い詰めてるような雰囲気があったからな……。


 俺が心配そうにしてるのに気付いたのか、すぐにいつも通りの穏やかな感じに戻ったけど……やっぱり、ドクトルさんが心配なんだろう。


 なら、差し当たって何かすることがあるわけでもない俺は、所詮気休め程度でも、ドクトルさんに付いててあげて……千紗の負担を減らせれば、と思うわけだ。



「ふむ……そうか。

 聖霊は……アーサーたちと、昨日の調査の続き――だったな」


「ああ。昨日の今日で、また新しい事実が出てくるかは分からんけど……。

 でも昨日だって、凛太郎(りんたろう)の思いも寄らない活躍があって、貴重な情報が得られたわけだから……もしかしたら今日も、って、ちょっと期待しちまうよな」



 なんせ、情報の出所がネコなんだからなあ……。

 実際これ以上、どこまでの情報が出るのかなんて、分かりようもないけど。


 でも仲介者があの凛太郎ってだけで、なんか妙に期待値が上がっちまうんだよなあ。



「――そして、今日は確か夕方まで、亜里奈(ありな)の番台の手伝いも無かったはずだな。

 うむ、ならば……余は、自室で術式の研究をさらに煮詰めているとしようか。


 場合によっては、〈封印具〉を使うよりも先に……一旦、亜里奈の状態をやわらげ、時間を稼ぐような処置をする必要があるやも知れぬからな。

 それに……今の亜里奈の側に、誰も付いていないというのはマズかろう」



 腕を組み、至って真剣な様子でハイリアは言う。



 そうだな……。


 今みたいな状況じゃなきゃ、むしろコイツが付いてるってことに、保護者としては落ち着かない気持ちにさせられるところだが……。


 グライファンの生死がどちらであれ、亜里奈に大きな悪影響が出るかも知れない、って現状だと……俺なんかより魔法に詳しいコイツの方が、いざってとき、ずっと頼りになるだろうしな。



「……分かった。

 亜里奈のこと――くれぐれも頼む」


「無論だ、任せておくがいい。

 なにせこの余は――」



 魔王だからな……と。


 冗談めかして、口元に微かな笑みを浮かべつつ……ハイリアは静かにうなずいた。








     *     *     *




 ――病室で眠るおばあちゃんは……良くも悪くも、今日も特に変化はない。



 ウチは、窓際の方に移した椅子に座って、自販機で買ってきたミルクティーを開けながら……変わらず真っ暗な空の様子に、小さくタメ息をつく。


 それが、まるで――ウチの中の不安感を、そのまま表してるみたいやったから。



 昨日の夜、一緒にお風呂に入ったことで知った――亜里奈ちゃんの秘密。

 亜里奈ちゃんこそが、〈世壊呪(セカイジュ)〉やった、っていう事実……。



 そのことについて、昨夜も、今朝も、ここに来るまでも――そして今も、ウチは考え続けていた。



 ……こうして知ってしまえば、クローリヒトが、『絶対に守る』て考えを頑なに変えへんかったんも理解出来る。


 ううん、もちろん、他の人やったらいいとか、そういうんやないけど……。


 でもまさか、まだ小学生の女の子――それも身近な、ウチにとっても大事な女の子やなんて、思いもせえへんかったから……。



 おばあちゃんのことがあって、どんな人でも犠牲にしたらあかんって――それは『守る』ことにはならへんって、そう決めたウチやけど……。


 それはやっぱり間違いやなかったって、改めて実感した。



 けど――その方針はいいとして、ウチはどうするべきなんやろう……。

 そのことをずっと考え続けてるわけやけど、答えは出えへん。



 亜里奈ちゃん自身に注意を促す……いうのは、もちろん却下。


 いざとなったら、ちゃんと全部教えてあげなあかんのかも知れへんけど……昨日の様子を見てても、〈世壊呪〉については気付いてへんみたいやったから……。


 事実を告げてヘタに自覚したりしたら、状態が悪化するていうか……〈世壊呪〉としての覚醒を早めたりする可能性がある。

 それに対して、注意したから言うて、悪化を食い止められるもんなんかどうかも分からへんわけやし……。


 何より、それを知って亜里奈ちゃんが受けるショックを思うと……!


 もう明らかに、リターンの不確実さのわりに、リスクばっかりが大きい。



 裕真(ゆうま)くんに事情を話して協力を仰ぐ……ていうんも、迷ったけど――やっぱり止めた。


 裕真くんのことやから、正直に話せばきっと信じてくれるし、協力もしてくれるやろうけど……。

 でも結局今の状況やと、肝心の『何を協力してもらうか』がはっきりしてへんから……どうしようもない。



 ……なんせ、ウチが知ってるのは、〈世壊呪〉を『祓う』方法だけで……そしてその〈祓いの儀〉を行うことで、亜里奈ちゃん自身も無事な保証は――どこにもないねんから。



 やから、能丸(のうまる)さんに何とか連絡を取って力を貸してもらう――っていうのも、出来へん。


 能丸さんは、〈世壊呪〉の危険性を重視して、祓うのが一番と考えてるんやから……迂闊に亜里奈ちゃんのことを話すべきやないって、そう思うから。



 同じく、〈鈴守(すずもり)宗家〉に相談する――いうのも危険やと思える。


 おばあちゃんの話からしたら、宗家はウチが〈鈴守の巫女〉として〈世壊呪〉を祓うことを一番に望んでるらしいし……そのためやったら、それこそ犠牲なんて(いと)えへんはずやから。


 はっきり言って、宗家が一番、〈世壊呪〉の性質についての情報を持ってるハズなんやけど……そんな理由もあって、ヘタに接触も出来へん。


 ある意味、ウチのやろうとしてること――〈世壊呪〉を祓ったりせずに何とかする、いうんは、背信行為みたいなもんなんやし……。



「………………」



 こう考えていくと……。

 やっぱり、今、無条件にウチの味方になってくれると確信出来るんは、クローリヒトだけで――。



「……皮肉やなあ……」



 缶を開けただけで、口を付けずにいるミルクティーに目を落としながら……ポツリと、そんな一言がこぼれ出た。



 ……初めて会ったとき……〈呪〉のチカラをまとっていた彼を、ウチは敵と判断した。

 それから実際、立場の違いから、敵になったし……何回も戦ったけど。


 結局、ホンマに正しいことを、信念を持って終始貫いてたのは彼で――。



 そして今では、一番の味方やと、そう信じてるんやから……。



「でも……どうやったら会えるんやろ……」



 敵対してたときは、イヤってぐらい、出動するたびにカチ合ってたのに――。

 会いたいと思うと、まるで出会えへんねんもん……。


 まあ、おばあちゃんがこんなことになってもうたし、出動する機会からして無いねんけど……。

 しかも今は、そもそも変身出来へんし……。



「そう考えたら――」



 ウチは、ようやくミルクティーを一口含んで……そのまま、視線をおばあちゃんに向ける。



 ……やっぱり、現状を打開するカギになりそうなんは――研究所のメインコンピューター、やね……。



 シルキーベル変身スーツのアップデートとともに与えられるハズの、アクセス権限……。

 それで閲覧出来る情報に、何らかの、ヒントに繋がるものがあってくれたら――



 ……ううん(ちゃ)う、そこに何かあってくれへんと……!

 お願いやから――!



 ウチは、祈るような思いで……部屋の壁掛け時計を見上げるのだった。




 アップデートが終わるまでは――あと、約4時間……。






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― 新着の感想 ―
[一言] 更新のたびにぎゅるんぎゅるん正体がそれぞれにわかっていて、もうおおおおおおと絶叫したくなります。 これ正体がみんなフルオープンになった時に、衛が孤立感(結局誰も自分の正しさをわかってくれな…
[一言] そろそろ鈴守さんと裕真も、お互いの正体に気づきそうですよね、なんとなく。 この4時間くらいで、何かが起こる……!? しかし最後の最後まで気づかないのもまた美味しいです(笑)
[一言] パーフェクトシルキーベルの誕生を正座して待っておきます。
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