表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
23章 そして、運命は収束点――勇者たちの黄昏へ
327/367

第325話 まるで明けない夜のような、黒く暗い朝に



 ――8月9日、金曜日。


 今日は昨日から引き続き、空が一面、分厚い黒雲に覆われてて……。

 朝なのに、太陽が昇るのを忘れてるか、それとももう落ちてるかってぐらいの暗さだった。


 正直、目が覚めてすぐ、枕元のスマホで時間を確認し直したくらい。



 ……こういう天気は、やっぱり気が滅入るな……。


 何より、今朝はまた、奇妙な『夢』を見ちゃったから――。



「あ、アリナぁ、おはようごじゃいまふー」



 あたしが起きたのに気付いて、床のお布団の上で、アガシーも寝ぼけ眼を擦りながら身を起こしていた。


 ……確か前に、〈人造生命(ホムンクルス)〉の身体だから実は眠らなくても平気、とか言ってたのになあ……。


 なんかもう、どっからどう見ても、ただの寝ぼすけな小学生だ。



「うん、おはよ。

 今日の朝ゴハン、千紗(ちさ)さんが作ってくれるって言ってたけど、任せっきりなのも悪いし……手伝いに行こっか」


「いえしゅ、まむぅ〜」


「……ぬいぐるみに敬礼するな」




 ――それから……アガシーと2人で、千紗さんの朝ゴハンの準備を手伝って。


 パパにママ、お兄にハイリアさんと、みんなでいっしょに朝ゴハンを済ませて。



 その後は、パパとママはお仕事、お兄とハイリアさんは〈あま〉のお手伝い、千紗さんはドクトルさんのところへ……と、みんなそれぞれ、やるべきことを始めて――。



 結果、差し当たって今朝は、お手伝いも用事もないあたしは……なんか一人、取り残されるみたいな形になってしまった。



「……ふぅ……」



 実はアガシーも、今日は昼間はお手伝いがないから、いっしょに何かしてよう――と思ったんだけど。


 朝岡(あさおか)と約束があるとかで、ついさっき1人で出かけていっちゃって。



 まあ、うん……ドクトルさんのことの調査とか言ってたはずだから、約束って言っても別にその、デートとかじゃないってのは分かってるんだけど……。

 それにどのみち、何の『チカラ』もないあたしには、手伝えるようなことはないってのも分かってるんだけど……。



 ……でもやっぱり、ちょっと……。


 取り残されてるような、さびしいような……そんな感じもしないこともない――かも知れない、って言うか。

 ……ほんのちょっぴり、だけど。



「………………。

 …………もし…………」



 ――もしアガシーが、聖霊じゃなかったら。

 ――もし朝岡が、テンテンと契約してなかったら。


 あたしが、こんな気持ちになることもなかった……のかな。



 それとも……。

 そんなの、なくっても――――



「…………って……!

 なにヘンなこと考えてるんだか……!」



 あたしは、首をフリフリ、つまんない考えを頭から追い出して……また一つ、タメ息をついた。



 でも……ホントに、これからの時間をどうしようかな……。



 宿題はだいたい済ませてあるし、特に見たいテレビもないし、1人でゲームするのも気が乗らないしで……。


 そんな中、重すぎる天気のせいでうっすら暗くて、もの静かなリビングのソファに、ぽつんと1人で座ってると――。



 ふと、思い出してしまったのは……今朝に見た『夢』のこと。



 それは、今までにも見てきた――あの黒い影に追われる夢と、雰囲気は同じだったけど……。

 これまでとは、まるで違う感じになってきていた。



 ――そもそも、あたしは、もう逃げていなかったんだ。



 これまで追いすがって来ていた影を、闇を、逃げずに立ち止まって受け入れる――どころか。


 そんな『あたし』が、もうまずあたしじゃなく……。

 すでにその闇と溶け合って、とても大きな、同じモノになってるような感じで。


 だからむしろ、そうしてやって来る闇を受け入れるのが、正しいような気がして。

 それがやっぱり、一番安心出来るような気がして……。



 でも――心の片隅に、それに流されちゃいけないって、危機感があって。

 でも――そんなことない、これでいいって気持ちの方が、どんどん大きくなってて。



 そして……それだけじゃなく。


 最後には……他よりもさらに、もっとずっと昏く澱んだ闇のカタマリが、あたしと溶け合い始めていて――。



 その闇のカタマリは、夢の中のあたしより、ずっと弱くてちっぽけなハズなのに――。


 それが囁く言葉が、ひたすら恐ろしくて……なのに同時に、耳を傾けずにいられないぐらい、甘く魅力的な気もして――。



「…………ッ!」



 ぼんやりした『夢』なのに、その感覚だけは鮮明に――そう、闇のカタマリの囁きが、頭の中で反響するみたいにまで思い出せてしまって。


 反射的にゾクリとした身体を、思わず両手で掻き抱く。



 ……これが、アガシーとテンテンが以前に話してた、〈闇のチカラ〉のせいなんだとしたら。

 あたしは、本当に……どうなっていくんだろう――。



「――って!

 ダメだダメだ……!」



 思わず弱音を吐きそうになった自分自身を……あたしはブンブン首を振りつつ叱咤する。



 ……奇妙でもゾッとしても、どうせ夢……!

 だいたい、身体の調子が悪いとか、そんなことはないんだから……!



 それに、そう……お兄たちは今でも〈世壊呪(セカイジュ)〉を守るためにって戦ってるんだし、それでなくても、千紗さんとドクトルさんが大変なときなんだし――。


 夢のこととかで不安になっちゃってるだけの、特に何も出来ないあたしが……それもこんなときに、お兄たちにカンタンに甘えちゃうわけにはいかないんだ。


 あたしが騒ぎ立てて、手間を掛けさせちゃったせいで……今お兄たちが向き合ってる事態が、悪い方向にいっちゃうことだって、あるかも知れないんだから――。



「うん、だから、あたしは……大丈夫。

 きっとこんなの、大したことじゃないんだから……!」



 あらためて、自分にそう言い聞かせて――。


 どうせなら、何かしていた方が気が紛れそうだし……。

 いっそ、気晴らしになりそうな――そう、なにかお菓子でも作ってよう……なんて思って、立ち上がったところで。



「…………?」



 なんだろう、そう……『気配』? みたいなものを感じた気がしたあたしは――。


 その出どころ――庭に面した窓に近付いて、カーテンを開ける。



 すると、その庭と呼ぶほどでもない、うちの小さな庭には……。

 1匹のネコがちょこんと座ってて、あたしの方をじっと見ていた。



 蝶ネクタイみたいなリボンをした……三毛猫だ。


 飼いネコ……だろうけど、ご近所さんのネコで、こんな子は見たことない。



 ……っていうか……。


 そもそもこの子、ホントにネコなの? って、疑問に思っちゃうような……そんな、妙な迫力めいたものを感じて……。


 とにかく、なんとなく目が離せなくて――見つめ合うようにしてると……。



『……なるほど、である。

 可憐なる乙女……やはりキミが、そうであるのか――』



「…………え?」



 そのネコが……あたしに向かって、話しかけてきたような気がした。



 え、もしかして……。

 あたし、またソファで寝ちゃって、夢でも見てる……?



『……夢――そう、これは夢を見まくりのようなもの、であるな。

 我輩(ワガハイ)は所詮、ただのネコ――言葉を話すハズもないゆえに』



 あたしをじっと見たまま……ゆっくりと、しっぽを左右に揺らすネコ。



『だが、そもそも……人の一生など、まさに夢の如くである。

 ゆえに乙女よ、キミはまた……。

 そう、新たな、もっと良い夢を見直すだけ――そう思うのが良いのである』


「……え? え……?」



 ネコは、なんだか哲学めいた謎かけみたいなことを言う――って、ううん、ホントに言ってるのかは分からないんだけど……。



『……さて、このことについて我が主がどう思い、どの道を選ぶかは知る由も無いのである、が……。

 少なくとも我輩はこれまで、数知れぬほど多くの命の流転を目にしまくってきたのであって。

 ゆえに……乙女よ。

 我輩にとってはキミもまた、貴賤なく、ただ一つの命に過ぎぬのである――』



 そして、くるっときびすを返したネコは……でも最後に、って感じに、首だけでもう一度あたしを見て――。



『可憐なる乙女よ――。

 キミの次に見る夢が、より優しく、幸せなものでありまくらんことを』



 そのまま、ひょいっと軽々と塀に飛び乗り、越えて……あっという間に姿を消した。



「………………」



 あたしは……ネコだったけど、キツネにつままれたような気持ちで……そのまましばらく立ち尽くしていた。



 テンテンの例もあるし、異世界のことも知ってるんだし――しゃべる動物がいること自体は、あたしでもそこまで驚くことはないはずなんだけど……。


 今のネコは……なんだかホントに、夢か幻を見たような――そんな気分だった。



 テンテンの『念話』を聞いてしまったときとは違って、まるで現実味を感じなかったって言うか……。


 ネコの『声』だって、あらためて思い返せば……。

 はっきり聞こえたってよりも、『そんな風に感じた』ってぐらいだし……。



「…………」



 窓を開けて庭に降りてみるけど……当然そこに、『しゃべるネコがいた』なんて痕跡が残ってるはずもなくて。



 ヘンな夢を見てるせいで、たまたま見かけたネコがしゃべったように感じた――だけ、なのかな……。



 ネコが姿を消した、その後を追うように視線を上げれば……塀の向こうに広がる空は、本当にどこまでも真っ黒で。


 それはまるで夢の中の光景が、そのまま現実の世界にまで広がっているみたいで――。



 そして……ふっ、と。


 なんだろう、何かに呼ばれているような――どこかに行かなきゃいけないような、そんな気持ちが急に胸に湧き上がってきて――。



「……っ……!」



 この蒸し暑さなのに、ゾッと冷たいものを感じたあたしは……。


 あわてて、その感覚を振り切るように、逃げるように――家の中に駆け戻るのだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] キャリコ…… ばっちり気づいておったのか…… そして亜里奈ちゃん、いよいよな感じですね! どこまで闇落ちするのか…… 今からドキドキです! その前にまず、闇落ちする亜里奈ちゃんってのが想…
[良い点] 裕真や鈴守さんも気を使っているけど、亜里奈のが一番胸に来ますね! これを裕真が知ったら「バカヤロー」とか言って泣きそう(ヤローじゃないけど)。 そしてキャリコの言っていること、長い視点で…
[一言] おっ、猫が本気出してきた。 カネヒラのようなポンコツではなかったか。 ……残念。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ