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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
22章 〈世壊呪〉をめぐり、めぐる運命たちのその先は
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第324話 勇者の彼女と妹が、一緒のお風呂で知ること気付くこと



 ――あたしと千紗(ちさ)さんは、晩ゴハンの後片付けを、お料理のことについていろんな話をしながらいっしょに済ませて……。


 で、そのまま、次は2人でお風呂に入ることになった。


 昨日はアガシーに譲ったからね――今日はあたしの番ってわけ。




「あ〜……お風呂、気持ちええなあ……」



 そして今、あたしと並んで湯船に浸かる千紗さんは……へにゃ〜っとした顔になってた。


 いつも穏やかで優しくて、でも凜ともしている千紗さんの、そんな気の抜けた表情が……うん、かわいい。


 そのことを正直に告げると――千紗さんは、あわてて自分の顔を手で包む。



「ふえっ!? うう、ウチ、そんなだらしない顔してたっ?」



 そんな仕草がまたかわいらしくて、あたしはクスクス笑いながら否定してあげる。



「大丈夫です。今の表情も含めて、ただかわいらしいだけだから」


「うう……。

 亜里奈(ありな)ちゃんにはかなわへんなあ……」



 やわらかく、困ったような微苦笑を浮かべる千紗さん。


 そんな様子は、あたしが憧れてた優しいお姉さんそのものって感じで……こうしていっしょにいるってだけで、嬉しくなってしまう。



 ……それに……。

 千紗さんって、側にいてくれると……すっごくなごむんだよね。


 こういうの、包容力って言うのかなあ。


 お兄ってばホントに、良い人に出会ったよね……。



 ……対して、あたしは……どうなんだろ。

 見た目も性格も、千紗さんみたいにかわいくないもんなあ……。


 それに、どうも最近は……。

 〈闇のチカラ〉だとか、厄介なモノにまで関わっちゃってるみたいだし……。



「………………」



 あたしも、千紗さんとお兄みたいな素敵な恋って――出来るのかな……。



「…………?

 亜里奈ちゃん、どうかしたん?」


「え? あ、ああその、ごめんなさいっ!

 ……千紗さんのその髪、サラサラでキレイで、うらやましいなー……って」



 ボーッとしてたところに声を掛けられたあたしは、とっさに……。

 お湯から出した手で、そっと千紗さんの黒髪に触れながら、そんな言い訳をする。


 ……まあ、言い訳と同時に、本心でもあるんだけどね。


 あたしの、クセが強い上に、頼りなげに細くて色も薄めな髪と比べたら――。

 千紗さんの髪って、ホントにスゴくキレイだから。



「亜里奈ちゃんは、自分のクセっ毛があんまり好きやないんやったね」



 落ち着いた声でそう言いながら……今度は千紗さんが、お風呂入るのに頭の上に纏め上げている、あたしの髪に手を伸ばす。



「ウチは、亜里奈ちゃんのクセっ毛も、可愛らしくてええと思うねんけどな。

 裕真(ゆうま)くんと同じ、このちょっと色が薄い感じも……光に透かしたら、琥珀みたいでキレイやし」



 目を細めた千紗さんは、その言葉通り、まるで大切な宝石を扱うみたいに……あたしの髪をとっても優しくなでてくれた。



「もちろん、やっぱりクセが無い方がいい――て思って、髪に手を入れるんも、亜里奈ちゃんの自由やけどね。

 でも、そうするにしても――自分の身体のこと、根っこからは嫌わんといてあげてほしい……かな」


「……千紗さん……」



 千紗さんの、その諭すような言葉は……。

 何だか、すごく――あたしの胸に響いた。



 ……自分の身体のことを、嫌わないで――か……。



「うん、まあ――」



 ――と、そこで一つ、いきなりカクンとうなだれた千紗さんが……。

 なんか急に、さっきまでと違った虚ろな微笑みを浮かべながら、自分の胸元に手を当てる。



「未だにしょっちゅう『中学生』扱いされて、それをつい気にしてまうウチなんかが、『なに言うてんねん』って感じやけどねー……」



 そして、フフフ、って――魂ごと抜け出してそうな、乾いた笑い声をこぼしてた。



「だ――だだ、大丈夫ですって! まだこれからですって!」



 ついさっきまで励まされてたハズのあたしだけど――反射的に、瞬時に、フォローする側に回っていた。


 いや、だって、これを見過ごすわけには……!



 で、あたしのフォローを受けた千紗さんは――生気の戻った瞳で、縋るようにあたしを見る。



「そ――そうやんね?

 中学2年生のときから、身体測定の結果、ほとんど変わってへんねんけど……。

 でも、これからやんねっ?」


「――――え」


「え…………?」



 ……マジですか、って思った。正直言うと。


 で、でも、ここでそれを口にするわけには……!



「そそ、それも、将来のジャンプアップのための助走期間ってやつですよ!

 高く跳ぶには長い助走が必要、ですから! きっとそう!」


「あ、ありがとう、亜里奈ちゃん!

 ……そうやんね、きっとそういうことなんやんね……!」



 あたしの、根拠ゼロの超無責任な発言にも、千紗さんは『よし』ってばかりに、お湯の中でグッと両手を握り締めていた。


 ……あ、あ〜……うん、まあ……大丈夫、だよね?



 なんせ千紗さんには、千紗さんがどんな体型だろうと、ゼッタイに『好き』を1ミリも揺るがさない――お兄っていう、無敵の彼氏がいるわけだし。

 それに、こういうのがまた、千紗さんの――あたしでもかわいいって思っちゃうところだし。


 ――でもまあ、あんまり引っ張るわけにもいかないから……。


 この話題はさっさと打ち切ろうと、あたしはシャワーの方を指差すのだった。



「じゃ、じゃあ千紗さん、そろそろ身体、洗いましょう!

 まずはあたしが、千紗さんのお背中流しますから!」







     *     *     *




「……それでですね、お兄はその日も、あたしの世話があるから、って友達の誘いを断ったんですよ」


「う、うん……それでっ?」



 ――ボディソープを染みこませた柔らかいタオルで、優しくウチの背中を擦りながらの亜里奈ちゃんの話に、ウチはちょっと気もそぞろに相鎚を打つ。


 その理由は……もちろん、さっきの失敗のせい。


 亜里奈ちゃんが感じてるコンプレックス、ウチは本心から全然大丈夫――どころか、可愛いって思ってるんやし、それをちゃんと伝えて励ましてあげられたら……って考えたんやけど……。



 まさか逆に、ウチが情けないトコ見せた挙げ句、励まされることになるやなんて〜……。



 うう、恥ずかしい……。

 『お姉さん』らしさ、ゼロどころかマイナスやん……。



「あの〜、千紗さん? 大丈夫ですか?」


「――あ、ご、ゴメンな、ちょっとボーッとしてたかも……!

 亜里奈ちゃんに背中洗ってもらうんが、こんなに気持ちいいって思わへんかったから……!」


「もう……あたしにそんなお世辞言っても、なーんにも出ませんよ?」



 実際に良い気持ちやったから、それを言い訳になんとか押し通したけど……。



 ……あかんあかん、気持ち切り替えな……!

 亜里奈ちゃん賢いから、ウチのこの後悔に気付いたら、またそのことも気にしてまうやろうし……!

 ここでしっかりせな……! うん!


 ウチはいっぺん、ペチンと自分のほっぺたを両手で叩いて――改めて、後ろの亜里奈ちゃんに話しかける。



「えっと……小学校の頃、裕真くんが……亜里奈ちゃんのお世話があるから言うて、立て続けに友達の誘いを断った――んやんな?

 ……それで、どうなったん?」


「あ、はい、それでですね――」



 もし間違ってたらどうしよう思たけど、今確認した内容で大丈夫やったみたい。

 ……ちょっとホッとした。


 ちなみに、今、亜里奈ちゃんがウチに話してくれてるんは……『裕真くんがイタダキくんと仲良くなった』きっかけのこと。


 うん、まあ、そういう言い方したら、2人ともが揃って『仲良くなんかない!』って否定するんやろうけどね。



「お兄それで、『つまんねーヤツ』って言われちゃって。

 まあ、それについては、そこまで気にしなかったらしいですけど……。

 それに加えて、『ジャマな妹だよな』みたいなこと言われたとき――お兄、キレちゃって。

 ……相手が何人もいるのも構わず、そのまま大ゲンカになっちゃったんです」


「……裕真くんが……」



 小学生やから、その友達も、本気でそんなこと思たんやなくて……。

 『つまらない』て言う落胆を、悪態の形でうっかり口に出してもうただけなんやと思う。


 で、裕真くんもまだ小さかったから、ガマン出来へんかったんやろうなあ……。



 うん、でも――やっぱり裕真くんやね。


 そんな小さい頃から、亜里奈ちゃんのことホンマに大事にして――しっかりお兄ちゃんしてたんやなあ……。



「それで、そのとき……。

 『頂点のアニキが、下のガキのメンドー見てやンのは当たり前じゃねーか』って……1人でケンカしてたお兄に加勢してくれたのが、イタダキさんだったってわけです。

 で……もともと、2人ともクラスは同じだったんですけど、それまではあんまり接点もなかったのが……そのことがあってから、何だかんだでよくいっしょにいるようになって、今に至る――と、そんな感じですね」


「あー……なんか分かるなあ。

 イタダキくんて、結構真っ直ぐなトコあるしね」



 なんか、その場面が容易に想像出来て……つい、頬が緩む。



「まあ……いつ頃からか、お互いに、『仲良し』扱いされるとすっごいイヤがるようになりましたけど。

 ……でもやっぱり、お兄もイタダキさんも、今でもお互いが、一番気の置けない友達なんですよねー、きっと。

 なのに、いっつもあのケンカ腰ですもん……男子ってヘンですよねー」


「ふふ、そやね。

 けど、男の子のそういうところ……ええなあ、とも思うなあ」



 ウチが、あの2人のいつものケンカ腰のやり取りを思い出しながら、ちょっと笑いつつそう言うと……。


 ぬるめのシャワーで、ウチの背中の泡を洗い落としながら……亜里奈ちゃんも、「実はあたしもちょっとそう思います」て、はにかんでた。



 ――さて、そうして、亜里奈ちゃんがウチの背中をキレイにしてくれたから……今度はウチの番。



 亜里奈ちゃんのタオルを受け取って、ボディーソープを染みこませて……うっすらとだけ日焼けした、健康的に白くてキレイな、小さい背中に向かう。


 うーん……昨日、アガシーちゃんの身体を洗ってあげたときも思ったけど……。

 ぷにぷにで、モチモチで、スベスベやなあ……。


 ウチは身体鍛えてる分、どうしてもある程度筋肉質になってるやろうから……うん、やっぱりちょっと、うらやましい――。



「……大丈夫ですよ?

 千紗さんもぷにぷにで、ゼンゼン筋肉質とかじゃありませんから」


「――ふぇっ!?」



 心を見透かされたみたいな亜里奈ちゃんの一言に、ウチはつい、ヘンな声出しつつ顔を上げる。


 そこには、肩越しにイタズラっぽく笑う亜里奈ちゃんの顔があった。



「なんとなーく、そんなこと考えてるような気がしたから。

 えへへ、当たってました?」


「うう〜……。

 ホンマ、亜里奈ちゃんにはかなわへんなあ……」


「あ、でも今の、ホントのことですよ?

 千紗さん、あれだけ運動神経も良いのに、この身体のどこに筋肉あるんだろ、って感じでしたから」


「う、うん……ありがとうね」



 亜里奈ちゃんのことやから、気も遣ってくれてるやろけど……そういう風に言うてもらえると、やっぱり嬉しい――。



 ……って、あかんあかん!

 そんなことよりも、まずはちゃーんと背中をキレイに洗ったげな……!



 そう決意も新たに、タオルを手に亜里奈ちゃんの背中に向き合ったウチは――。




「…………え…………?」




 そこで…………文字通りに、息が止まった。


 ううん、息だけやなく――世界の何もかもが、止まったように感じられた。




「…………なん、で…………」




 ――なぜなら。

 そこに――亜里奈ちゃんの背中に、うっすらと浮かび上がっていたのが。



 ……ウチが――。

 ウチの一族が、〈祓うべき存在〉として追い続ける〈世壊呪(セカイジュ)〉――。


 その証たる、〈紋様〉やったから……!




 ……え、ちょ、ちょっと待って……。


 ほんなら、なに……?



 まさか…………。

 まさか、亜里奈ちゃんが……〈世壊呪〉……?


 この世を滅ぼしかねない災い――祓うべき、モノ……?




 そんな――そんなんって…………っ!




「……千紗さん? どうかしました?」



 亜里奈ちゃんの(いぶか)しげな声に――ウチはハッと我に帰る。



 ……あかん、今はとにかく――平常心でおらな……!


 亜里奈ちゃんの様子からして、〈世壊呪〉のこととか、何も知らへんのやろうし――!



「あ、ご、ゴメンな!

 ウチからは、どういう話をしたらええかなーって、ちょっと考えてて」



 ――信じられへんような事実に、考えることがいっぱい出て来たんが、逆に幸いしたんか……。


 ウチは、あれこれ考えるのは後回し――と、すっぱり思考を切り換えて……そっと、タオルを亜里奈ちゃんにあてがう。


 そんで――



「そうや、やったら……。

 ウチとおキヌちゃんが仲良くなったときの話でもしよっか?」


「あ、それ、興味あります!

 ……よかったー、ここでまた、お兄との馴れ初めでノロケられたらどうしようかと思いましたよー」



 〈世壊呪〉ていう、過酷な運命なんか知る由もなく。


 そう冗談めかして、無邪気に笑う亜里奈ちゃんに、同じく精一杯に元気よく笑い返しながら――。



「えっとね……おキヌちゃんと初めて会ったんは、もちろん、こっちに来てからやねんけど――」



 ウチは、ゆっくり、優しく……その小さな背中を、磨き始めた。



 考えることはいっぱいやけど、とにかく今もこれからも、たった一つ――。




 ……この子を、ゼッタイに守ってあげな――って。


 その想いだけは手放さへんように……しっかりと、心に握り締めて。






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― 新着の感想 ―
[一言] 遅ればせながら失礼します。 鈴守さんの心に、さらなる負荷が……。 重力崩壊とかサライェボ事件とかみたいな、抑えきれずにとうとう……って感じの章でした。 (ついでに言うなら嵐の前の……って…
[一言] おおお…… ついに。 鈴守さんが肝心なところではしっかりお姉ちゃんで感動しました! そして割かし、しっかりサービス回でもありました(笑)
[一言] 22章完結お疲れ様でした! あの2人で風呂ってやばいんじゃねって思ったらやっぱりな展開になったのですね。 オムライスさんも感想で仰っているとおり、裕真と鈴守さん、この2人がどう動くのかが気…
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