第323話 見習い勇者と男子高校生たちの、バトルごっこ的修行風景
「……で? イタダキ、今日も泊まってくの?」
――今日は僕の家で、イタダキと沢口さんも参加しての、おキヌさん主催の夕食会を開いてもらって。
相変わらず絶品な、おキヌさんの豆腐料理の数々を、ありがたーくしっかりと堪能して……。
で、夜になったし、おキヌさんと沢口さんを駅まで送って――戻ってきてしばらくしてもまったく帰る様子の無いイタダキに、僕は冷蔵庫を開けながら尋ねる。
「おう、まあな!
一人暮らしで退屈してるテメーのために、このオレ様が遊び相手として居残ってやるぜ! 頂点的気遣いに感謝しろよ!」
「いや、そのゲームから手が離せないだけじゃない?」
イタダキが今夢中になってプレイしてるゲームは、僕の家の本体にダウンロードしたものだから、『貸す』ってわけにはいかなくて……。
なので、いっそこのままプレイし続けてクリアしてやる――って、そんな気合いがムダにダダ漏れだ。
まあ、それはいいんだけど……。
正直、イタダキが居座ってると、エクサリオとしての行動は起こせないわけで。
白城さんの証言もあって、疑いが濃くなってきた裕真が……本当に目を付けた通りに〈クローリヒト〉なのか。
そのあたりを、改めて探ってみたいとも思ってたんだけど……。
「……まあ、いいか……」
事が事だけに、慎重に見極める必要もあるわけだから、あんまり焦って行動しない方がいいだろうし。
それに、何だかんだで、やっぱり友達と一緒にいるのは楽しいわけで。
この世界を守らないと――って、そんな使命感も再確認出来るから……ね。
……願わくば、あくまで僕の考えすぎで――。
裕真ともまた、こうして気兼ねなく、一緒にバカなことを楽しくやれたらいいんだけど――。
「――あ、衛ぅ!
飲みモン探してンなら、オレにもなんか取ってくれよ!」
「……はいはい。
ホント、イイ根性してるよねー、イタダキってばさ」
イタダキの要求に苦笑しつつ、コーラを取ろうとしたところで――玄関のチャイムが鳴った。
こんな時間に誰が……と、いぶかるのも一瞬、すぐに答えを思いついた僕がドアを開けると――。
そこに立っていたのは、想像通りの人物だった。
……近所に住んでる従弟の武尊だ。
「――おっす、衛兄ちゃん!
今日はちゃーんと言われた通り、チャイム、連打しなかったぜっ?」
「いや、それが当たり前だからね――って言うか、今日もやったらさすがに叔母さんに報告するところだったよ。
……で、こんな時間にどうしたの?」
僕の質問に武尊は、手に提げていた大きなビニール袋を、「これ」と掲げて答える。
「なんか、とーちゃんの知り合いから、夏みかんがいっぱい送られてきてさー。
かーちゃんが、衛兄ちゃんのトコにも持ってってやれ、って」
「へえ〜……うん、ありがたくいただくよ」
持つとズシリと重いビニール袋を受け取りながら……僕は、武尊がそれだけじゃなく、木刀をベルトに差していることに気が付く。
それに、珍しくインコのテンテンが一緒じゃないことも――って、まあ、テンテンについては単純に、夜だからかも知れないけど。
「で、武尊、そんな木刀持ってるってことは……今からまた『修行』?」
「うん、まあね!
なんつーか、今日、ちょっと色々あって……。
もっと強くならなきゃなー、って思ってさ!」
「……ほっほ〜う? 修行、ってか〜」
ふと気付けば、玄関口までやって来ていたイタダキが……何かしたり顔で、僕と武尊の会話に口を挟んでくる。
そして、いかにも名案ってばかりに、大きく手を打った。
「っしゃ! ちょうど気分転換に身体を動かしたかったところだしな……!
武尊、この頂点たるオトコが、お前の修行に付き合ってやんぜ!
――あ、衛、当然お前も参加だからな?」
* * *
――イタダキ兄ちゃんと衛兄ちゃんが、オレの『修行』に付き合ってくれるっていうから……。
いっぺん家に帰ったオレは、もう1本あった木刀を持って……オレたちの家のちょうど真ん中あたりにある公園に向かう。
テンにも来るかって誘ったけど、鳥があんまり夜でも平気な顔して飛んでたら怪しまれる――って断られたから、やっぱり1人でだ。
……でも、なんかそんな、いかにもそれっぽいこと言ってたけど……。
テンのヤツ、かーちゃんが買ってきた、いつものとは別のカボチャの種を夢中で突っついてたからなー……。
多分、ホントの理由はそっちだよな。
「……お、来やがった来やがった。
思ってたより早えじゃねーか」
……公園には、当たり前だけど、いっぺん家に帰ったオレよりも、兄ちゃんたちの方が先に来ていた。
「……ンで? 『修行』って、何からやるんだ?」
「んー、まずはやっぱし素振りかなー。
あんまし、何回って決めてねーんだけど……。
とにかく振る! めっちゃいっぱい振る!」
イタダキ兄ちゃんの質問に、オレは木刀を1回、思い切り振って答える。
「いや、めっちゃいっぱい、って……。
あんまりやりすぎると身体壊すんだから、ほどほどにしなよ、武尊。
まあ、でも――それなら、せっかくだし打ち込みにしようか。
――僕が横から見て、姿勢とかチェックするから……イタダキ、受けてあげてよ」
「おう、いいぜ!
――っしゃ、大いなる頂点が胸を貸してやる! 挑戦してきやがれ!」
オレが持ってきたもう1本の木刀を受け取ったイタダキ兄ちゃんが、それを掲げるみたいに持つのに目がけて――。
「よーし、いっくぜーっ!」
オレは、早速木刀を打ち込み始めた。
――そうして、イタダキ兄ちゃんへの打ち込みをしばらく続けて……途中で、受け手が衛兄ちゃんに交代。
軸がブレてるとか、振りが雑だとか、ちょこちょこ小言言われながら、それもしばらく続けたら……ちょっと休憩、ってなった。
……まあ正直言っちゃえば、兄ちゃんたちじゃ、オレのホントの『修行』の相手は出来ないんだけどさ……。
でも――
「……にしても武尊ぅ、お前、よく動くじゃねーか! やるな!」
「へへっ、そーゆーイタダキ兄ちゃんだって!
すぐバテるって思ってたけど、ケッコー体力あるよな!」
「ったりめーだ、オレ様はアニキで頂点たるオトコだからな……!
年下のガキんちょどもに、ブザマなトコ見せるわけにゃーいかねーんだよ!」
「……そう言えば、イタダキって三人兄妹の長男になるんだよね。
裕真が前に、『弟と妹が優秀だから、一番上がザンネンでも摩天楼家は大丈夫』とか言ってたけど」
「ああん? ンのヤロー……!
そりゃテメーもだろうが、っつーンだよ!」
「あははははっ!
テメー『も』って、それダメじゃん、イタダキ兄ちゃん!
認めちゃってるじゃん!」
でも……なんかこうやって、兄ちゃんたちに相手してもらうの……やっぱ、なんかいいよな!
すっげー楽しい! テンション上がるぜ!
……つっても、ザンネンながら、ヒーローとしての『本気』は、見せてあげられねーんだけどさ!
――で、その後も、何セットか同じような打ち込みをやった後の、休憩中……。
イタダキ兄ちゃんが、今度は木刀持ってヘンなポーズとか取り始めた。
「イタダキ兄ちゃん、それ、何やってんの?」
「お〜……いや、さっきの裕真と兄弟の話で思い出したんだけどよ。
ガキんとき、裕真とか他のツレとバトルごっことかしたときよー、テレビとかゲームとかに出てるヤツのマネするだけじゃ物足りなくて……。
なんかみんなして色々、オリジナルでテキトーなヒーローとか怪人とか考えて遊んでたなー、ってな」
「あー! それ、すっげー分かる!
オレも、友達とか凛太郎と、そーゆーのやるし!」
「……お、やっぱお前もか、武尊!
だよなぁ、バトルごっこにゃ、なりきりが必須だよなぁ!」
「僕の周りは……オリジナルまではやらなかったけど。
でも確かに、なりきってのごっこ遊びはやったねー」
落ち着いた調子の衛兄ちゃんと違って、イタダキ兄ちゃんとオレはどんどん盛り上がっていく。
「そーいやオレ様、ガキの頃、山のてっぺんの『最高峰』のこと、〈サイコ砲〉ってすっげーキャノンとカン違いしてたんだよなー!
……ほれ、山がパカッと開いてよー、そっからビームが出る! みてーな」
「え、なにそれ、かっけー!」
……なんかすげー強そう、って思って、オレがそう言ったら。
さらにノリノリになったイタダキ兄ちゃんが……ポーズっぽい構えを取った。
「くっくっく……ぃよーし……!
発射準備に入った〈サイコ砲〉を止めたければ、この世界の頂点に座す魔人〈エベレスト〉を倒すのだな! かかってくるがいい、ボウズ!」
「……いや、それじゃフツーに山だよね……擬人化?」
――なーんて、衛兄ちゃんのツッコミも、まるで気にしねー感じのイタダキ兄ちゃん……やるな!
ってわけだから、オレも、それに付き合うことにした!
……でも、ワリーけど、オレはマジのヤツだからなー……カッコ良さが違うぜ!
「っしゃ、いっくぜー、エベレスト……!
〈サイコ砲〉は、この〈烈風鳥人・ティエンオー〉が止めてやるぜっ!」
ついでに、ちゃんとポーズもキメる……!
まあ、もちろん、変身まではしねーけどさ! テンいねーし。
「おー……決めポーズ付きかよ! やるじゃねーか!」
「へへへ、イタダキ兄ちゃん――じゃねーや、エベレストにゃ負けねーぜ!」
木刀を手に、向き合うイタダキ兄ちゃんに笑ってそう返してると……。
衛兄ちゃんが……なんかちょっと、驚いたような顔でオレを見た。
「特撮とかあんまり詳しくないんだけど……最近の流行りのキャラ?
それとも、武尊のオリジナル?」
「もっちろん、オリジナル! カッケーだろっ?」
……だって、なんせ『ホンモノ』なんだもんな……!
でもそれを言うわけにはいかねーから……どーだ、って感じに、サムズアップだけすると……。
「……そっか、オリジナルか〜……。
いやあ、よく思いつくものだよねー」
衛兄ちゃんは、感心したみたいな顔で――笑ってた。
――それから、イタダキ兄ちゃんとの、せってーだと地球が半分ぐらいブッ壊れたことになってる超バトルごっこのあと、また衛兄ちゃんに打ち込みを受けてもらって……今日の修行は終了。
これぐらい、師匠とかリアニキに相手してもらうのに比べたら、準備運動みたいなモンだけど……。
まあ、今日はマジの戦いもしたんだし、ちょうど良かったってぐらいだよな!
「……それに、楽しかったし!」
オレは、兄ちゃんたちと別れて家に帰りながら、今日一日のことを思い出して……。
しおしおねーちゃんを助けたみてーに……兄ちゃんたちも、なんかあったらオレが守らねーとな、って――。
……そんな気持ちを、また新しく決意したんだ!