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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
22章 〈世壊呪〉をめぐり、めぐる運命たちのその先は
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第321話 ゆえに、JK忍者は決断するしかない



 ――その名も、烈風鳥人(れっぷうちょうじん)・ティエンオー……。


 猛禽の頭部を模したような兜(っぽいの)、両手両足の鉤爪付きの具足、そして背には輝く翼と孔雀みたいな尾羽――。


 そんな、名前の通り、『鳥人』って感じの格好で現れた武尊(たける)くんは。



 見た目ばかりじゃなく、まさしく『変身ヒーロー』みたいに――。



凛太郎(りんたろう)としおしおねーちゃんにゃ、指1本触れさせねーからな……!

 テメーら、オレが相手だ! いっくぜー!」



 そう宣言して、〈呪疫(ジュエキ)〉の群れに飛び込んでいったかと思うと……。

 アタシが、1体を相手するにもあれだけ苦戦したってのに。



 誘導弾みたいな軌道を描き、分身までするナイフを投げて貫いたり――。


 背中の翼から放たれる、無数の光弾で撃ち抜いたり――。


 光の刃を伸ばしたナイフで斬り裂いたり――と。



 逆に、圧倒的な強さで……〈呪疫〉たちを、瞬く間に駆逐していく。



 ……あー、うん……そりゃあね?


 クローリヒトが赤宮(あかみや)センパイだとして、それを『師匠』だなんて呼んでるぐらいなんだしさ?

 もしかしたら武尊くんも『少しぐらいは』超常的なチカラを手にしてるのかも……って、その程度の予想はしてたよ?


 なんせさっき、アタシを助けるのに、凛太郎くんが『魔法』を見せてくれたんだし?


 けどさー……。



烈風閃光(れっぷうせんこう)ぉ……(しっ)(ぷー)(けーん)ッ!」



 ――武尊くんの放った、光の刃の高速突進突きで……。

 ついに、最後の〈呪疫〉が貫かれ、そのままチリになって消滅した。



 うん、けどさー……。


 ………………。


 なにコレ、ガチじゃん!

 ちょっとした異能力が〜……なんてレベルじゃない、ガチの変身ヒーローじゃん!



 いや、何て言うか、もう……。

 さすがのこの美汐(みしお)ねーさんも、呆然とするしかないってもんだよ。



「……お?

 やっぱしだ、アイツらが原因だったんだな〜」



 武尊くんの言う通り、〈呪疫〉たちが全滅したからか……。


 まるで辺り一帯を閉じ込めてるみたいだった、奇妙な暗さはやわらぎ(それでも天気が悪いから暗いは暗いけど)、漂う瘴気のようなものも消え去っていた。


 空気も、気配も……何事もなかったみたいに元通り、だ。



「しおしお、大丈夫?」



 ふと我に帰れば、衝撃の展開の連続に、思わず座り込んだままだったアタシを……。

 先に立ち上がっていた凛太郎くんが心配してくれている。


 反射的に『大丈夫』と答えようとして――。

 でも改めてちゃんと、足の調子を確かめてみた。


 ……うん、(くじ)きはしたけど……そんなに大したケガでもなさそうだ。



「……ありがと、大丈夫だよ。ちょっとヒネった程度だから」


「ありがとう、こっちこそ。

 ――助かったの、しおしおのおかげ」



 表情こそ、いつも通りで変わらないけど……どこか柔らかな感じに、ペコリと頭を下げてくれる。



 うん――さすがにそんな風に言われると……なかなか嬉しい、かな。

 父さんの説教覚悟で、奥の手まで出し切った甲斐もあったってもんだね。



「でも、そんなアタシも、凛太郎くんにかばってもらったし……。

 そもそも武尊くんがいなきゃ、どーにもならなかったかも、だからねー」



 言いながら、武尊くんの方を見ると……ちょうど、変身を解いて元の姿に戻ってるところで――。


 そのとき、光になってほどけた装備が、集まって形を成したのが――なんと、インコのテンテンだった。



 ……なるほど、ね。

 すっごい賢いインコだとは思ってたけど……そもそも、フツーの鳥ですらなかった、ってことか。



 あ〜、もう、ホントに……。

 驚きの事実が連続で発覚し過ぎて、キャパシティ超えちゃうっての……!



「凛太郎、しおしおねーちゃん、だいじょぶだったか?」



 で、改めてアタシたちの方に駆け寄ってきた武尊くんが、そう聞いてくるのに対して――。



「ん」


「ヒーローのおかげでね。

 ……ありがと、烈風鳥人ティエンオー?」



 ニヤッと笑いながら、そう呼んであげると……。



「へへっ……2人とも、無事で良かったぜ!」



 武尊くんは、嬉しそうに恥ずかしそうに……鼻の下を擦りながら無邪気に笑った。





 ――それから……。


 そこらに散らばってるはずのPPKの空薬莢……そのままにしとくと色々と面倒なんで、アタシからお願いして、2人に拾うのを手伝ってもらいながら――。



 改めて、アタシたちは……期せずして明らかになってしまった、自分たちの『正体』を。

 こうなった以上は――って、自然と語り合うような流れになっていた。



 なので、まずアタシが、自分から……。


 ドクトルさんの昏睡の原因について調べてたこと自体はホントだけど、正体は探偵のバイトなんかじゃなくて、『忍者』だって教えてあげたら――。



「――うおおお〜っ!!!

 ま、マジでっ!? ねーちゃん、マジで忍者!? ホンモノのっ!?

 くぅぅぅ……すっげーーー! かぁーっけええぇーーっ!!」


「浪漫」



 ……2人揃って、めっちゃくちゃ目をキラキラされてしまった。

 やっぱ、男子で小学生ともなると刺さるのかねー……こういうの。


 実際は、そんな良いモノじゃないけどさー。

 そもそも、アタシはキライなんだし……。



「それで――」


 薬莢を1つ拾い上げながら、小学生たちに話を振ろうとした、その瞬間――。



《……では次は、(ワシ)らが語る番、じゃな》


 頭の中に直接、小さい男の子のような、女の子のような……中性的な声が響いてきた。



 何事かと反射的に顔を上げたアタシ、その目の前には――『今のは自分だ』と言わんばかりに、羽をパタパタさせて滞空しているテンテンがいて……。



「てか、まさか……ホントに? 今の、テンテン?」


《いかにも、儂じゃよ。

 これは〈念話〉っつってな、偉大なる儂のすげーパワーを使って、直接お主の精神に語りかけておるのじゃ。

 ――あ、ちなみに先に言うとくが、儂ってば、うら若き鳥系乙女じゃからな? ジジイじゃないからな!?

 そのあたり、くれぐれも間違えんよーに!》


「あ、うん……分かった」



 つまりはコレ、いわゆるテレパシー的なものらしいけど……。

 なんか普通にまくし立てられたみたいな感じで……その勢いに、こっちも普通に、カクンとうなずいてしまった。


 一応知識として、ラッキーんトコの三毛猫キャリコが言葉を話す――っていうのを(実際には聞いたことないけど)知ってたから、まあ、そこまでの驚きはないけど……。


 いやはや……まさか、インコ(っぽいの)と、こんな形で会話することになるなんてねー……。



 ――ともかく、そうして……。


 きっと武尊くんだと話が脱線しまくった挙げ句に余計なコトまで話しちゃいそうだし、凛太郎くんはそもそも無口で感性が独特だからやっぱり説明下手っぽいし――ってことだと思うけど。


 改めて、本名を〈ガルティエン〉と名乗ったテンテンが主体になって、彼ら自身のことを語ってくれた。


 それを要約すれば……。


 ――故郷となる別の世界から迷い込んできたテンテンを、武尊くんが助けてあげて……そのお礼に、武尊くんがさっきのようなバケモノに襲われたのを切っ掛けに、戦うためのチカラを貸すようになった。


 ――そうして〈烈風鳥人・ティエンオー〉(命名は武尊くんらしい……テンテンはなんかイヤそうな感じだった)になった武尊くんは密かに、いかにも変身ヒーローらしく、ときどき現れて人を襲ったりする、〈霊脈(れいみゃく)〉の澱みから生じるあの〈呪疫〉の被害を抑えるべく、戦っている。


 ――武尊くんの相棒の凛太郎くんはそのヒミツを知っていて、変身は出来ないけど、その才能を見込んだテンテンが、アタシを助けるのに使ったような、異世界の『魔法』を教えている。


 ……と、いうことらしい。



「……なるほどねー……」



 ちょうど話に区切りがついたところで、座ったままだったアタシは一度立ち上がり、腰を伸ばして……大きくうなずいた。



「じゃあさ……そんな武尊くんが『師匠』って呼んでるってことは……。

 赤宮センパイも、なんか同じようなヒーローだったりするの?」


「――え? いや、えっと、師匠は……」


「師匠、ゲームの。あくまで。

 ティエンオー知ってるの、自分だけ」



 アタシのさりげない問いかけに、どうやって答えようかと考えてるのが丸わかりな武尊くんを遮って、キッパリと言い切る凛太郎くん。



 うーん……さすがのフォローだね。

 まあ、もうここまで色々分かっちゃうと……。


 そんなことをする意味は、無いに等しいんだけどさ?


 けど――



「……そっか。

 まあ、そりゃそうだよねー」



 アタシが口にしたのは……そんな、彼らの言い分を肯定する言葉だった。



 ――さっきアタシが明かしたのは、あくまで自分が忍者ってことだけで。

 彼らが明かしたのも……多分、細部に多少の脚色はあると思うけど、自分たちの正体だけ。


 つまりお互いに、そこから遡っての、自分たちが関わってる他の人の正体には触れないようにしているわけだ。


 けれど……アタシの方は。

 彼らの側が秘密にしている、その『関わる人の正体』についての情報を握っていて。


 だから、その気になればアタシは――。


 こうして、確証に近い事実にも触れた以上……そのあたりを巧みに突いて、彼らが隠しているものを暴き立てるのも、不可能じゃないってことになる。


 そして、まさにそれが、『忍者』としてのアタシのお仕事――。



 ……なんだけど――さ。



「なあ、しおしおねーちゃん……。

 オレたちの正体のこと、誰にも言わねーでくれよな?

 ――このとーり、お願いっ!」



 アタシを拝むみたいに……下げた頭の上で、パンッと両手を合わせる武尊くんに、アタシが返した答えは――。



「んー……それなら、アタシが忍者ってことも、誰にも言わないでよ?

 アガシーちゃんや亜里奈(ありな)ちゃんにもだよ?

 アタシの友達のラッキーにもだよ?

 ……ゼッテー、だからね?」



 イタズラっぽい笑顔をオマケにつけての、『ナイショ』返しだった。






 ――そのあと、もう送る必要もなくなった小学生2人と別れたアタシは。


 足のケガをかばって、のんびりと、この変装をしたとき用の軽自動車が置いてある駐車場までの道を歩きながら……。


 今日の自分の『決断』について、思いを巡らせていた。



「……なーんて、そんな大したものでもない、かあ〜……」



 それは――武尊くんたちを追求しなかったことだけじゃなく……。


 今日のこの出来事で明らかになった、彼らの正体。

 及び、ほぼ確定となった、クローリヒトの正体。



 そんな、アタシに求められていた『お仕事』の成果を――。

 少なくとも、アタシからは報告せずにおく、と……そう決めたことだ。



「だって、しょうがないよねえ……。

 黙ってるって約束、しちったし」



 もちろん、約束したから報告しない――じゃあ、忍者なんてお仕事は成り立たない。


 だけど――今回は。


 もしかしたら、襲われた原因が彼らの方にあったのかも知れないけど――。

 それでも結果として、アタシは。


 彼らに……『命を救われた』わけで。



 だから……たとえ子供だろうと、それは恩人との約束。


 そんなものを一方的に反故(ほご)にするような不義理なマネは――。

 そして、そんな彼らがヒミツにし、守ろうとしたものを掠め取るようなマネは――。


 さすがのアタシでも、気が引ける。



 ……非情に徹し、任務を遂行するのが忍者の正しい在り方だとしても――だ。



「……てか、今どきそんなの流行んないし。

 受けた恩は返すのが道理でしょ、ってね……」



 まあ、そうは言いながらも……お仕事を投げ出すような形になることに、ゼンゼン抵抗がないわけでもない。


 アタシだって一応はプロだし、それに――間接的にでも協力してる〈救国魔導団(きゅうこくまどうだん)〉には、ラッキーがいるんだから。



 だから、これは……アタシなりの、落としどころだ。



 武尊くんたちのヒミツを守るために、〈救国魔導団〉の邪魔をするようなことはしない。

 けれども、アタシから情報を上げることもしない――っていう。



「……ま、ただの日和見(ひよりみ)、って言われたら、返す言葉もないけど」



 どんよりした空を見上げながら、でもカラリとぼやくアタシの脳裏を過ぎるのは――。

 別れ際に、武尊くんが満面の笑顔で言ってたセリフだった。



『……オレもねーちゃんも、相手は違うかもだけど、悪いヤツと戦ってるんだもんな!

 これからもおたがいに、ヒミツはナイショで頑張ろーぜ!』



 もちろん、忍者ってのは、悪の組織と戦う正義の味方――ってわけじゃない。

 でも……無邪気にそんな風に言われて、悪い気はしなかったっけ。


 そう、だから――



「……んだね。

 正義のヒーローなら、交わした約束は守らなくちゃ……ね」



 色んな感情がこもりにこもった大きなタメ息と一緒に、アタシの口からこぼれ出たのは――そんな一言だった。






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― 新着の感想 ―
[一言] さっすがしおしおちゃんー! それでこそ、しおしおちゃんですよね! 筋は通す! 内緒の約束って仲間感があっていいですよねー。
[一言] おおう。気付けばJKも正義の味方の仲間入り。 次の戦闘では忍術が駆使される予感(笑)。
[一言] しおしおがこういう風に決断したことが、結果的にとはいえ自分の身を守ることになったというのは、なかなかに皮肉ですねえ。
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