第320話 烈風鳥人、因縁の相手へのリベンジなるか?
……凛太郎としおしおねーちゃんの助けに入る、そのちょっと前――。
オレは、第2グラウンドの端っこで、『宝石のカケラ』みたいなものが光ってるのを見つけて。
今朝、〈天の湯〉で会った、バイクのにーちゃんが言ってたやつかなって思って近付いたら……テンに、《触るな!》って、めっちゃマジな調子で注意されて。
そしたら、それに合わせるみたいなタイミングで……周りが急に暗くなって、なんかヤバい気配がし始めて――。
落ちている『宝石のカケラ』の下から、ブクブクブクって吹き上がった『闇』が……。
そのカケラを取り込むみたいにして、人間の形になったんだ……!
そう……人間の形をした〈呪疫〉に――!
「コイツ……!
なんか、前にガッコで出た赤いヤツみたいな……!」
でも、その〈呪疫〉が普通のヤツと違うのは、人間の形ってことだけじゃなかった。
それよりも目立つのは、全身に、小さな石みたいなのをちりばめてることで……!
「あれって、まさか……。
さっきのみたいな、『宝石のカケラ』……!?」
《……いや、アレは『宝石』なんぞではない……!
間違いない、この気配……! やはりか!》
オレの肩に移動したテンが、何か分かったみたいな、すげー緊張した声でつぶやくのに合わせて――。
「ク、クカ、クカ――カ……!
オ、覚エッ、覚エテ……イ、イ、イル、イル――ゾ……!」
聞いてるだけで、すっげー気分が悪くなる、気持ち悪ィ『声』で……!
人型の〈呪疫〉が、しゃべりやがった……!
――ってか……!
ビミョーに雰囲気変わってるけど――このムカつく『声』としゃべり方って……!
《……うむ、そうじゃ……! こやつは――》
「あのときの――っ! 生きてやがったのかよ!」
そうだ、コイツは……!
1ヶ月ぐらい前、オレが初めてテンのチカラを借りて、変身して戦った……!
「〈邪心剣グライファン〉――っ!」
「コノ、ケ、気配……! カ、風ェ……!
オオ、覚エテ……我! 我ハ、オ、覚エテェ……ッ!」
そうか、アレは『宝石』じゃなくって……多分、アイツの核だった〈魔石〉のカケラなんだ……!
それをちりばめた〈呪疫〉が、黒板を爪でキーキーするみたいなイヤさがある声で応える――けど。
……なんかコイツ、様子がおかしくねーか……?
《……これは……。
もしかすると、こやつ……自分が何者なのかすら、分かっておらぬのではないか……?》
「へ? なにそれ、『きおくそーしつ』とか……?」
《――と、言うよりも……。
見ての通り、ヤツは一度、木っ端微塵に砕かれとるじゃろ?
本来ならそのまま消え去るはずが……》
テンは、インコのまま首をふるふるって振った。
《あまりにも強い『執念』がゆえに、再び形を成そうと、砕かれた己のカケラ同士が寄り集まり……。
そうして、かろうじて元の意識『っぽい』ものは再現されたものの、やはり所詮は継ぎ接ぎの紛い物――。
完全に元通りとなるはずもなく……結果、その執念や渇望のみが一人歩きするような形で、己たる意志を無くしてしまっている――と、そんなところじゃろうな》
「……えーと……つまり?」
《………………。
いっぺん死んで、ゾンビ化しとるよーなモンってことじゃよ!
じゃから様子がおかしーの! わーったか!?》
おぉー、なるほどなー……!
確かにコイツ、そんな雰囲気だもんな……!
「なんだよ〜、なら初めからそう言やいーじゃん!」
《……こっの……! 言うに事欠いて、儂が悪いみたいにィ……!
これじゃからガキんちょっつーのは〜……ッ!》
イライラした様子で羽をバタバタさせるテン。
そんなにイライラしたら、羽が抜けてハゲるんじゃね?……とか思ったけど、言ったらヤベー気がしたからやめといた。
つか、だいたい、そんな場合でもねーし……!
「……にしても。
だからコイツ、こんな、初めっから混乱してるみてーな感じなのか……」
《……うむ……。
今、こうして姿を現したのも……何らかの考えを持ってのことではなく、記憶に残る儂らの気配に反応しただけ――といったところじゃろうよ》
「……邪魔……邪魔、邪魔ヲ――覚エテ……!
ワワ我、ちから、ちからヲ……! ハ、破壊、ヲ……ッ!
我ノ――我ノ、モ、求ムルヲ……! 邪魔ヲォォ……」
ブキミな声を撒き散らしながら……グライファン『だった』ヤツは。
腕を、もともとのコイツ――大きな剣みたいな形に変えて、オレに近付いてくる……!
《……己というものは喪おうとも、そのチカラと破壊への渇望だけは忘れぬか……!
まさに妄執――そのザマ、むしろ不憫よな……!
――よし、ゆくぞアーサー……今度こそ、ヤツに引導を渡してやれッ!》
「おうっ! いっくぜー……!」
――前にコイツと戦ったときは、結局、リアニキに助けてもらって何とかなった感じだけど……!
オレだって、あのときより強くなったんだ!
相手が弱ってる感じなのが、ちょびっと引っかかるけど……今こそ、リベンジだぜ!
オレは、縦笛の袋にしまってたナイフ――風の宝剣〈ゼネア〉を掲げる。
「――来い、ガルティエンッ!」
《うむ……! 生命運ぶ風のチカラを、我が主に――!》
それに合わせての、テンの契約の言葉とともに……!
オレの身体を、激しく吹き荒れる――でもあたたかい風が包み込んで――!
「烈風鳥人……ティエンオーッ!!」
テンが変化した装備をまとってティエンオーに変身したオレは、そのままバッチリ決めポーズを――
「――って、うぉわっ!?」
……取ろうとした、その瞬間!
グライファンがスゲー勢いでこっちに突っ込んで、大剣の腕を振り下ろしてきたから――あわてて飛び退いてかわす!
「ちょ、ンだよコイツ……!
決めポーズ取る前に攻撃とかルール違反じゃねーか!……ムカつく!」
《いや、むしろそれが普通じゃろ……アホか》
でも――やっぱりだぜ。
前はコイツ、ヤベーぐらい強いって思ったけど……今は違う。
この間戦った、エクサリオの分身に比べりゃ……!
それに何より、ホンモノの勇者の師匠に比べりゃ……!
……こんなヤツ、ゼンゼン大したことねーっての――!
「凛太郎としおしおねーちゃんも心配だからな……!
一気に行くぜっ!」
ゼネアにチカラを集中、光の刃を延ばしつつフトコロに飛び込んで――。
「オオオ! ジャ、邪魔、邪魔ヲォォ!」
「おせーっての!」
オレを追い払おうと、横に薙ぎ払ってくる大剣を――走り高跳びのバーを飛び越える要領でかわしざま、さらに蹴り飛ばしてやって、体勢を崩して……!
「烈風閃光ぉ……台・風・剣ッ!!!」
そのスキに一気に――『じゅーおーむじん』に光の刃で叩っ斬る、必殺のラッシュを食らわせる!
「ギィッ!? ギィィィッッ!!」
ただの〈呪疫〉なら、これだけで終わるんだろーけど……。
さすがに、魔石のカケラでグライファンのチカラも宿ってるからか、まだトドメにならなくて。
「ギィィ……ッ! オオオオォォッ!!!」
大ダメージ受けてイヤがりながらも……やられたらやりかえすって感じに、オレのラッシュの終わりに合わせて、ムチャクチャに大剣を振り回してきた。
それは、一撃をゼネアで受けてみたら、思ったよりずっと強烈で……!
《アーサー! 力押しはするな!》
「わーってるって!」
威力はあるし、それなりに速いけど――でもなんつーか、ミエミエだ。
だけど、まだ子供のオレは、やっぱり力勝負には弱いから……。
「そらよ――っと!」
だから、特別大きく振りかぶろうとした一撃に合わせてジャンプ――斬り込んでくる瞬間の大剣を蹴り飛ばし、その勢いでバク宙しつつ、一気に大きく距離を開ける。
そんで――!
光の刃を消したゼネアに、代わりに風のチカラを流し込みながら振りかぶり――!
「食ぅらえぇぇーーッ!
必〜殺ぅ……〈陣風穿〉ッッ!!!」
思いッッッ切り、投げつける!
一点集中で、ドリルみたいに風で渦を巻きながらカッ飛んだゼネアは――。
「ギ――ギィィィィッッ!!??」
ガードしようと前に出て来た大剣を、その向こうの本体を――!
デッカい風穴開けて……問答無用に、ブチ抜いた!
……っしゃあ! 決まったぜ!
「ギィ、ギィィ……ッ!
我、ハ――我ハ……! ちち、ちからちから、ヲ……!
ハカ、破壊ヲ、ちからヲォォ……! ワ、我ハァァ――」
グライファンの〈呪疫〉の身体は、形を保ってられなくなったみてーで――泥のカタマリが地面に落ちるみたいに、ドチャ、ってなって……。
そのまま、なんかホラーな呪いの声みたいなのをブツブツつぶやきながら……地面にしみこむみたいに、消えていった。
それから、ゼネアを手元に引き戻しつつ、ちょっとの間様子を見るけど……。
アイツのイヤな気配は……もう、感じられなくなっていた。
「っし……やーったぜ! リベンジたっせー!」
《………………》
バッチリやっつけたし、さあ勝利のポーズ……と、思ったら。
オレと違って、テンは――。
変身で合体してっから、顔は見えねーけど……なんか、納得いかねー、みたいな感じだった。
「……どーしたんだよ、テン?」
《今の一撃……トドメになったと思うか?》
「え? けどよー……アイツの気配、消えたぜ?」
《……逃げただけ、という可能性もあるじゃろ?》
テンに言われて、あらためてアイツが消えたところを見る。
……そうしたって、何が分かるわけでもねーけど……。
「でも、カケラだけだったんだし、だいぶ弱くなってたし……考えすぎじゃね?」
《……むう……だと、いいがのう……》
――そう、アイツのイヤな気配はもう、キレイさっぱり消えたんだ。
でも、周りの――アイツに引き寄せられたんだと思うけど、ヘンな空気の感じと、それのもとになってそうな〈呪疫〉の気配はまだ残ってるわけで……。
今はまず、そっちの方が大事だろ!
凛太郎としおしおねーちゃんが、巻き込まれてっかも知れねーんだからさ!
「とにかく、凛太郎とねーちゃんだ! このまま行くぜ、テン!」
《うむ――。そうじゃな……!》