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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
3章 勇者にテスト、妹に魔王
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第30話 腕相撲大戦――その死闘の結末



「ふぃ〜……いやぁ、さすがっすね……ドクトルさん」


「君もな、赤宮(あかみや)くん。

 まさか、ここまでやるとは思わなかったよ」



 ドクトルさんに左手で握手を求められ、笑顔で応じる俺。


 お互い、右手は力を込めすぎてフラフラだからな――って。

 ……この感じ、まさか……。



「ドクトルさん……実は左利きですか?」



 俺の問いに、ドクトルさんは豪快な笑いで答えとした。



 くっそー……やられたな。


 ラスボスは、まだもう一段階変身を残していたらしい。





 ……ちなみに、腕相撲勝負の結果は俺の負けだった。





 長い間、拮抗状態が続いてたんだが……その最中、ドクトルさんに唐突に、



千紗(ちさ)の写真だがね。

 実は、生まれたままの姿に、バスタオル一枚だけってものなんだ」



 ――なんて、小声で暴露されちまったからな。


 そこから押され始めて……結局、そのまま押し切られちまったよ。



 なぜって――



《……ま、そういうところが勇者様ですよねえ》



 審判として近くにいて、一緒にドクトルさんの爆弾発言を聞いちまった鈴守(すずもり)が……さすがに露骨に顔を曇らせたからな。



 うん、ドクトルさんが撮ったって写真が、鈴守がちょ~っとヘンな格好しているところだとか、笑ってすませられる、冗談になるような恥ずかしさなら構わないし、きっとそういうものだろうって思ってたが……ハダカとかになるとな。



 ……そりゃあ、俺だって健全な男子高校生だ。


 好きな女の子のハダカの写真なんて、見たくないわけない。見たいに決まってる。



 見たいけど、それは――鈴守に、本気でイヤな思いをさせてまでのものじゃない。



 そうなると、イタダキや(まもる)には見せない、って目的はもう達成してるんだから……。


 あとは、俺が身を引いて――でもドクトルさんを立てるためにも、良い勝負の果てに負けたって形にすればいい、というわけだ。




 さて、それはともかく……さすがの俺も、一言、言わずにはいられない。


 俺は、鈴守が何かを言うより先に、握手をしたまま――面と向かって、ドクトルさんに告げる。




「でもドクトルさん、一つ言わせて下さい。

 いくら家族でも、さすがに勝手に、その……ハダカの写真なんて撮って――ましてや他人に見せたりするのは、ゼッタイに良くないと思います」


「赤宮くん……」


「ああ。それについてはまったく、君の言う通りだ」



 さわやかに答えてドクトルさんは、握手を解いた手でスマホを取り出し、鈴守に手渡す。



「どうするかは、千紗本人の判断に任せよう」


「…………」



 さすがに不満が隠しきれない様子で、スマホに目を落とした鈴守は――。



「ハァ~……もう、なんやと思たら~……!」



 呆れかえったような表情で、大きな大きなタメ息をつく。



 そして……おもむろに。

 俺――だけでなく、他のみんなにも見えるように、スマホを差し出した。


 そこに映っていたのは……。



「赤みゃん――じゃなくって、赤ちゃん?」



「生まれてすぐの頃の千紗だよ。顔、くしゃくしゃでカワイイだろ?」


 ドクトルさんが、イタズラっ子のような笑顔で言う。



 そう……そこに映っていたのは、身体を洗ってもらった後らしい、大きなバスタオルにくるまった赤ちゃんの写真だったのだ。



 ……あー……なるほど。


 生まれたままの姿に、バスタオル一枚……だわな。確かに。



 そして、本人にしてみると、赤ちゃんの頃の写真って、そりゃあちょ~っと恥ずかしかったりするだろう。


 看板に偽りなし――って、いや、ちょっと待てよ?



「でもドクトルさん、昨日撮った写真って言ってませんでした?」



「ああ、もちろん、昨日撮ったものだとも――。

 パソコンで整理してたアルバムの中の一枚を、スマホでパシャリとね」


 悪びれる様子もなく、あっけらかんと言い放つドクトルさん。



「……うう……ゴメンな、おばあちゃん、こういう人やから……」



 なんだかんだで、「カワイイ!」と盛り上がるみんなをよそに、鈴守が申し訳なさそうに、そっと俺に耳打ちしてくる。


 だが……俺としては、むしろ良い気分だった。



「いや、ドクトルさんさすがだなーって、なんか嬉しくなったよ。

 それに、鈴守の色んな面と――カワイイ写真も見られたしさ!」


「もう……。

 今度は、赤宮くんのちっちゃいときの写真も見せてもらうから……!」



 頬を膨らませてスネたように言う鈴守。それがまた可愛かった。




「――さあみんな、息抜きは終わり!

 勉強をもうひと頑張りしようじゃないか!」




 ……やがてドクトルさんが、大きく手を叩きながら声を張り上げた。


 さすがの切り替えと迫力に、みんな慌てて勉強の準備に戻っていく。




 その最中に――。


 俺はドクトルさんに請われて、一緒に競技台を部屋の外へと運び出した。




「……さっきは、試すようなマネをして悪かったな、赤宮くん」



 競技台を挟んで廊下を進みながら、ドクトルさんが俺に話しかけてくる。



「まあ……確かに、ちょっと人が悪かったとは思いますけどね。

 それと、悪いと言うなら……俺より、むしろ鈴守に」



「ああ、分かってるよ……いや、本当にすまなかった。

 だが、あそこで男子高校生らしく、欲望に突き動かされて勝ちに走ったとしても……それはそれで、アタシとしてはアリだったけどな」


「……あ~……もしかして、バレてます?」



 ドクトルさんはニヤリと笑う。



「アタシの暴露でイヤな顔をした千紗……それに気付いた君の様子を見ればな。

 どちらかと言えば、発奮させるつもりだったわけだが……まさか、身を引くとは。

 しかしまあ、とりあえず――千紗の人を見る目は確かだった、と分かった」


「あ――えっと。あ、ありがとうございます……」



 倉庫らしき部屋に入り、競技台を置くと……ドクトルさんは機嫌良さそうに、俺の背中をバシンと叩いた。



「千紗のこと、これからもよろしく頼むよ――ただし、今しばらくは節度を持って、な」



「――は、はいっ、よろしくお願いします!」



「ああ。

 ……じゃ、あとの細かい整理はアタシがやっとくから、赤宮くんは勉強に戻るといい」



 ドクトルさんに言われて、なんか急に気恥ずかしくなってた俺は、慌てて倉庫を飛び出した。



《……結局、認められちゃいましたね。さすが勇者様、人たらし》


(人聞きの悪いこと言うなよな……)



 アガシーにはそう応えながらも……少しばかり頬が緩むのは抑えられなかった。


 いやー……ホント、嫌われたりしないでよかったよ……。



(さーて……心労も一つ減ったし、あとは頑張って勉強するかー)


《これで赤点なんて取ろうもんなら、せっかくの高評価がひっくり返るかも知れませんからねえ?》


(そーゆーこった。……うーし、やるぞ!)



 俺は気合いを入れ直して……みんなが待ってる会議室のドアに手を掛けた。











      *     *     *




 その日の夜――ドクトル・ラボの上階、鈴守家でもある居住スペースにて。



 10人程度なら優に集まれるだろう広いリビング、それに見合った立派なソファに浅く腰をかけたドクトルは、パソコンを前に低く唸りつつうなずいていた。



 ……そこへ、夕食の片付けを終えた千紗がやって来る。



「おばあちゃん、お風呂どうするん?」


「ああ、先に入りな。

 アタシはあとでいいよ、もうちょっとやることもあるしな」


「うん、分かった」



 千紗は、リビングを出ようとドアに手を掛けるが……そこでドクトルが彼女を呼び止めた。



「……なに?」


「赤宮くんは、何か武道でもやってるのか?」



 祖母の問いかけに千紗は、「んー……」と少し考え、首を横に振る。



「そんな話、聞いたことないなあ……。

 部活もやってへんし、おうちも道場とかちゃうし」



「そうか……。いや、あの体型で、ヘタすりゃアタシも倒しそうだったのが驚きでな。

 ――ということは、彼、無意識で霊力を使って、腕力を強化したりしてたのかもな」


「無意識で――って、出来るもんなん?」


「たまにいるさ、霊力そのものが高かったりする人間の中には。

 もっとも、訓練してない分、ムラが大きくはなるが。

 しかしそれは、逆に言えば、訓練すれば相当に強くなれる要素があるってことで――」



 千紗が顔をしかめる。



「――おばあちゃん。

 まさか……赤宮くんを巻き込もう、とか考えてへん?」


「……千紗?」


「それだけはやめて。

 ……赤宮くんとか、みんなを守るためにってウチ頑張ってるのに、やのに、巻き込むってなったら――!」



 ドクトルは苦笑混じりに手を振った。



「大丈夫だよ、安心しな。そんなことは考えてないさ。

 ……ま、もっとも――」



 浮かべていた苦笑が、ニヤリ、とイタズラめいたものに変わる。



「アンタと結婚するときには、アタシが直々に、心技体、みっちり鍛えてやるけどね?」


「……も、もうっ! お風呂入ってくるっ!」



 顔を赤らめた千紗は、勢いよくリビングから飛び出していった。



 その足音が遠ざかっていくのを聞きながら……ドクトルは改めて、パソコンに視線を移す。



 ……ディスプレイに映し出されているのは、この広隅(ひろすみ)市の地図と、数多くのデータ、そしてグラフなどだ。


 中でも、見るからにあまり良いものではなさそうな、小さい黒い円が、地図上に幾つかぽつぽつと落ちているのが目立つ。


 それは、今はまだ小さいものの、黒い色のせいか、墨がにじんで広がっていくような……そんなイメージがあった。




「ふむ……〈世壊呪(セカイジュ)〉のこともあるが……〈霊脈(れいみゃく)〉汚染で湧き出る〈呪〉の処理も――。


 さて、どうしたものか……」




 眉間に皺を寄せながらつぶやくドクトルは……。


 千紗に、風呂の前にコーヒーの一杯でも煎れておいてもらえば良かったと後悔しながら――大きく息を吐き出すのだった。






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― 新着の感想 ―
[一言] あぁ~……確かにヒトによっては恥ずかしい写真( ̄▽ ̄;) そして、霊脈の汚染とかの呪い……厨二心をくすぐられますねぇ( ´∀` )
[一言] みんなテストの前って勉強するものなん? 偉いね……ってかなりどうでもいい話題を書こうかと思っていたのですが、章終わりに、霊脈汚染なんて素敵ワードが出てきたじゃないですかー。 なんとも心躍る予…
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