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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
22章 〈世壊呪〉をめぐり、めぐる運命たちのその先は
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第316話 やけに秘密基地っぽい地下研究施設を捜索せよ!



 ――総合格闘ジム〈ドクトル・ラボ〉は、外におっても分かるぐらいに、今日も熱気に満ちてた。


 おばあちゃんが入院したからってジム閉めたら、練習生の人たちが困るやろうから……昨日のうちにコーチしてはる人らと相談して、いつも通りに開けてもらうようにお願いしてたんやけど……。


 うん、この分やと、こっちは心配することなさそう。



 ジムの前で、しばらく様子を窺ってから……邪魔をするのも悪いと思って、ウチは裏手にある、居住スペースの玄関の方に回る。



 そう……今日、戻ってきたんは、ジムの様子を見るためやなくて。


 おばあちゃんが、入院することになった原因について、何か記録を残してへんか――それを調べるためやから。



「…………」



 居住スペース(家の中)は、当然やけど誰もおらへんで、ガランとして……思った以上にさみしく感じられて――。


 改めて、真里子(まりこ)さんが『うちに来なさい』って言うてくれたことのありがたみが身に染みた。


 あの暖かな赤宮(あかみや)家やなくて、ここで夜を過ごしてたら……。

 今朝なんか寝坊してまうぐらい疲れてたのに、それでも、ロクに寝られへんかった気がする。



「……って、あかんあかん……」



 感傷に耽ってる場合やないと思い直してウチは、まっすぐ廊下の突き当たりへ。


 そこにあるんは、両開きになってる小さな物置の扉――やけど……。



 まずは、扉の脇に掛けられた、小さな花の油絵の額に手をかざして――生体認証。


 そのあと、スマホに入ってる、おばあちゃん特製のアプリを起動すると……。



 ご近所に配慮した、感知出来ないぐらいの微かな振動と、ほぼ無音に近い駆動音とともに――。



 ものの数秒で、扉の向こうが回転して……ただの物置から、おばあちゃんの地下研究施設へのエレベーターに早変わり。


 それに乗り込んで、これもまた、生体認証システムを組み込んであるらしいボタンを押せば――金属の箱は、静かにスムーズに、地下へと降りていく。



 ジムの地下にも、前にみんなとの勉強会にも使った会議室とかの部屋はあるから……研究施設は、そのさらに地下。



 ……ちなみに、研究施設て言うても、研究員は実質おばあちゃんだけやから、そんな広いもんでもないし、当然、誰に見せるわけでもないのに……。


 『雰囲気が大事』っておばあちゃんの理念通り、内装は凝ってて――なんか、いかにも秘密基地っぽい感じになってる。



 そのおばあちゃんによれば、これ、〈聖鬼神姫(エンジェルオグリス)ラクシャ〉の何作か前にやってた魔法少女アニメの、主人公が所属する組織の基地を参考にした――とか何とか。


 ウチは詳しく知らへんねんけど……。



「……亜里奈(ありな)ちゃんやったら知ってるんかな」



 つい、そんなどうでもいいことをつぶやきながら……。

 研究施設についたエレベーターから降り、施設内用のスリッパを履いて廊下を進む。



 ただ一人の主がおらへんから、なんか……。


 そもそもが、ちょっとした機械の駆動音が響くだけの静かな場所やけど……むしろ今は、上の家の中よりもずっとひっそりした感じがした。



 そんな中、ウチが向かうんは……いつもの戦闘訓練室とか、シルキーベルのスーツの修理とかに使う作業室やなくて、おばあちゃんがメインで使ってる――『第1研究室』。



 おばあちゃんが普段、家の中も含めて研究施設(ここ)の外で使うパソコンは、あくまでこの研究室にあるメインコンピューター(おばあちゃん特製)の、文字通りの『端末』でしかなくて……そっちに記録は残らへんようになってるて言うてたから――。


 おばあちゃんの『端末』はウチでは動かされへんようになってたし、直接、ここの記録にアクセスするしかない、って思て、ここまで来たわけやけど。


 ホンマに必要なものなんか、おばあちゃんのことやから雰囲気重視の内装なんか……どっちともつかへん謎の機械類の中、おばあちゃんが向かってるのを見てた、メインコンピューターのコンソール席に着いてみるも――。



「……どうやって操作したらええんやろ、コレ……」



 ウチの口を突いて出た第一声はそれやった。


 とりあえず、一番の用事はおばあちゃんの日記的な行動記録を見るだけで、研究機械とかを動かすわけやないし……。

 おばあちゃんも、普段はノートパソコンでアクセスしてたぐらいやから、普通にパソコン使う感覚で何とかなるって思ってたんやけど……。



 ……甘かった……。


 なにコレ、何がどうなってんのか、ゼンゼン分からへん……!



 ディスプレイもコンソールも、タッチパネルみたいになってるのは分かるけど……パソコンのアイコンみたいな分かりやすいのがゼンゼン無いし……!


 かといって、適当に触ってみるんも、ヘタになんかの機械動かしたら危ないし……。



「もう〜……! どないしたらええんよ、これ〜……」



 思わず文句をこぼしながら、頭を抱えて――でもそのときふと、1つの考えが浮かんだ。



 もしかして、と、スマホを取り出して……目立たへん場所に置いてあった、目立たへんアプリをタップ。



 これはつい先日、おばあちゃんに勝手にインストールされたアプリで……。

 シルキーベルに変身しなくても、使い魔のカネヒラとコミュニケーションが取れる――ていうもの。



 ちょっとしたデジタルペット扱い出来るぞ、とかおばあちゃんは言うてたものの、ヘタに人のおる前では使われへんし、ゴタゴタが続いててつい忘れてたけど……。


 もともと、シルキーベルに変身中、戦闘データとかをやり取りする役目も持ってたカネヒラやったら……。

 このメインコンピューターへのアクセスも出来るんちゃうかな――って、期待を込めてのアプリ起動。



「――いい、いえす御意〜っ!

 この不肖カネヒラ、表に出るなど(もっ)ての(ほか)な小物にございまするが……っ!

 他ならぬ姫のお召しとあらば、参上つかまつるより他に無く〜……っ!」



 いつも通りに、声だけはイイ感じのテノールを響かせて……。

 平常運転のへりくだりまくりテンションなデフォルメ武者ロボが、スマホの画面に姿を現した。



「カネヒラ……!

 ――あのな、いきなりでゴメンやねんけど、ちょっとお願いがあって……!」


「なな、なんと、姫ェェ……!

 拙者のような役立たずに『お願い』せねばならぬとは――その立たされし苦境たるや、いかばかりか……! お(いたわ)しゅうござるゥ〜……!

 ――あいや、皆まで申さずとも!

 拙者のこの、矮小な命を捧げて済むのであらばァァ〜ッ!」


「ちょっ!? やから、見限るの早いて言うてるやん!

 ――(ちゃ)うて、違うから……!」



 毎度のように刀を自分に向けるカネヒラを、止めようと思って反射的に画面に触れると……。


 タッチセンサーが機能してるみたいで、ちゃんと刀を抑えることが出来た。


 まあ、おばあちゃん、デジタルペットとか言うてたし――タッチセンサーについては、『ちゃんとふれあいも出来るぞ!』みたいな理由やと思う。



 ……いや、うん、まさに『自刃防止用』とかやったら、それはそれでイヤやし。



「ま、まずはちゃんと説明するな? いい……?」



 カネヒラを落ち着かせてから、改めて現在の状況……。

 おばあちゃんのこと、手掛かりを求めてここへ来たことを説明した。



「……って、そういうわけやから……。

 このメインコンピューターにアクセスしたいんやけど……出来る?」


「おお、おおぉ……!

 まさか、拙者のような出来の悪いポンコツが、姫に頼られる日が来ようとはァ〜……ッ!

 感謝感激、恐悦至極……ッ!

 ……嗚呼、これで最早、思い残すことは――」



 ――――イラッ。



「出・来・る・ん?」



 また刀を振りかざそうとするカネヒラの機先を制して――スマホに顔近付けて、1文字ずつ、思いっっっ切り力を込めて聞き直す。



「……ぅわひぃぃっ!?

 いい、い、い、いえす御意ィィィッ!

 ――出来まするやれまする、ただちにやらせて頂きまするゥ〜ッ!」


「やったら、最初からそう言うてな?

 次は――もう、止めたげへんよ?」



 いかにもな作り笑いをニッコリと浮かべて、カネヒラの刀を指差しながら……暗に『マジメにやって』とクギを刺しておく。



「いい、いえす御意ィィッ!!」



 なぜか、まるでアガシーちゃんみたいな、ビシッとした軍隊式の敬礼を返してから――。


 カネヒラは、このスマホをコンソールの適当な場所に置くよう指示してきた。



 ――言われた通りにすると、瞬間、まるでようやく本格的に電源でも入ったみたいに……ディスプレイにもコンソールにも、色んな文字列とかアイコンとかが現れ始める。



「……やった!

 ありがとうカネヒラ、これで……!」



 居並ぶアイコンとタイトルからして、研究記録みたいなもんとか、そもそも日本語やなくて意味の分からへんもんとかが大半やけど……。


 中には、ウチでも分かりそうな、まさに捜してたようなもんもあって……!



「……カネヒラ、そこにある、〈シルキーベル活動記録〉と〈覚え書き〉ていうファイル、開けられへんっ?」



 試しに指でタップしてみても反応無いから、これもカネヒラを通さなあかんのかな、と思って聞いてみる。


 言うても、カネヒラはおばあちゃん自身が作ったウチのサポート役――ここまで出来るんやったら、それぐらい問題ないって思てたけど……。



 予想に反してカネヒラは、ふるふると首を横に振った。



「……も、申し訳ございませぬゥ、姫ェ〜……。

 これらもそうでござりますが、大半のものにロックが掛かっておりまして……今の拙者ごときでは、アクセス許可が得られませぬゥ……」


「――って、なんで……っ?

 こんなとこ来るん、おばあちゃん以外ウチぐらいしかおらへんのに……!

 こういうときに、ウチがアクセス出来へんかったら意味ないやん……!」



 日頃は、何かと大雑把なイメージやけど……その実、ちゃんとしとかなあかんところはやっぱり、ちゃんとしてるのがおばあちゃん。


 けど、いくら何でもそんなガチガチにロック掛けるとか……!

 なんでなん、って問い質したくなるよ……!



「……お、恐らくでございまするがァ……。

 マスター・ドクトルは、鈴守(すずもり)宗家(そうけ)が、姫のことについて、意思を尊重せずに身勝手な命令などを下しはせぬか――などと、ビミョーに警戒しておられまして……。

 ゆえに、鈴守宗家とはやや距離を置き、義務的なデータ提出も、必要最小限のものにしておられたわけで……。

 この強固なロックは、万が一、そんなマスターを(いぶか)しんだ宗家の者がここへ侵入したとしても、情報に触れられないように――とのことではと、拝察いたしまするゥ……」



「……鈴守宗家を……」



 確かにおばあちゃんは、そうした組織的な問題とかから、ウチを守ろうとしてくれてたと思うし、理由としては分からへんことも無いけど……。



「でも、それでウチまで何も出来へんかったら、意味無いやん……」



 思わず、椅子の中で肩を落とすウチ。


 でも、そこへ――



「い、いいえ、姫ェ〜……!

 姫ならば、アクセス権を得る方法がございまするゥ……!」



 カネヒラが、おずおずと、そんなことを言い出した。



「え……どういうこと?」


「あ、あくまで、『今の拙者では』ムリだと言うだけでございましてェ……っ!

 ――このメインコンピューターを起ち上げた際に、システム情報として入手いたしたのですが……。

 どうやらマスターは、『シルキーベルスーツのアップデート』を準備しておられましたようで……。

 姫の情報アクセス権も、それに伴い、自動的に上昇することになっておるようなのです〜……!」


「え、ほんなら……!」



 思わず立ち上がったウチに……。

 スマホの画面の中でカネヒラは、烏帽子(えぼし)がズリ落ちそうなぐらい、何度も首を縦に振ってみせた。



「いい、いえす御意……っ!

 スーツのアップデートを行えば、これらの情報の閲覧も可能になりまするゥ〜……!」





 ――それから、ウチは。


 カバンの中に入れてきてた、シルキーベルへの変身アイテムの〈神楽鈴(かぐらすず)〉を、カネヒラの指示通り、一つ一つ手順を確認しながら――作業室にある、揺り籠みたいなカプセル型の機械にセットして……。


 大丈夫そうなんを見届けてから、改めて、第1研究室の方に戻ってきた。



「……これで、ウチもアクセス出来るようになるん?」



「も、申し訳ございませぬゥ〜……。

 アップデート作業そのものは、今、拙者がスタートさせましたゆえ、ここのシステムが自動で行ってくれまするが……。

 完了まで、推定、まる1日近くかかるかと思われまするので、それまではァ〜……」


「……そっか……。

 そやね、そんな単純なシステムなわけないんやしね……」



 カネヒラがディスプレイに表示してくれたらしい、作業進行度を表すバーがまったく進んでないのを確認して……ウチはうなずく。


 初めは、どうなることかと思ったけど……手掛かりは、なんとか繋がった。



「……うん……ほんなら、待つしかないね。

 カネヒラ……今日はありがとう。ホンマに助かったよ」


「お、お、おおおお〜……ッ!

 拙者如きポンコツが、姫のお役に立てたとはァ〜……ッ!

 姫の麗しき『ありがとう』を、この短い時間に、二度も頂戴出来るとはァ〜……ッ!

 まさに人生の絶頂期、嗚呼、今なら悔いを残さずにィ――」


「……止めへんよ? 言うたやんな、ウチ?」



「………………」


「………………」



「あ、あ、明日もまたこちらを起ち上げる必要もございましょうしィ〜……いい、今しばらくは拙者、生き恥をばァ〜……!」


「うん、そうしてくれる?」



 きょどきょどと挙動不審になってるカネヒラを、ちょっと冷たくあしらって――。


 ウチはスマホをそっと持ち上げて……おやすみ、って挨拶して、ポケットに戻す。



 そうして――。

 やっぱりまだゼンゼン進んでない、作業進行度のバーを一目確認してから。



「――明日……」



 後ろ髪を引かれるような思いを断って――研究室を後にした。






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― 新着の感想 ―
[一言] おお!? 鈴守ちゃんなにげにカネヒラには強い! …… と思ったら、こちらで間咲さまがゾクゾクされててめっちゃツボりました(笑) 秘密基地っぽいとこ、ドクトルさんらしいですね!
[一言] か、帰っていいのか? 本当に帰っていいのか~! 何かのフラグが立ったような気がして、胃が痛いよおおおお(/ω\) 毎話、それぞれの秘密がぎゅんぎゅんに近づいてきてハラハラします。 それに…
[一言] ついに来たパワーアップイベント。 これでフルアーマーシルキーベルへとアップデート(笑)
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