第310話 見習い勇者に聖霊に不思議ちゃん、事件現場捜査中!
「っくしょ〜……なっかなか見つからねーモンだな〜……」
《そりゃそうじゃろ。
お主ごときジャリ坊がカンタンに手掛かりを見つけられるようなら、ケーサツなんぞいらんからなー》
しばらく空き地のすみっこの草むらをゴソゴソやってたオレが、腰が痛くなって背中を伸ばすのに合わせて……頭の上に乗っかったテンがタメ息をつく。
――ここは、周りにちょこちょことフェンスに囲まれた空き地がある、多分、じゅーたくち、って言っていいんじゃないかな――な地区。
2日前の夜に、ドクトルばーさんが見つかったって場所の近くだ。
……昼前に、この場所のことを知っていた軍曹に連れられてやって来たオレたちは、3人で、ドクトルばーさんを眠らせたヤツの手掛かりを捜して、ずっとこの辺を調べてるんだけど……。
『これ!』みたいな手掛かりは、まだゼンゼン見つかってなかった。
「……っかし〜な〜……。
ロープレだと、こう、いかにもこーゆーアヤしいところで地面が光ってたりしてさ、そこ調べたら『貴重なアイテム』とかが見つかって、それが手掛かりになって話が進むんだけどなー」
《ド阿呆が、現実を見んかい……。
そんなファンタジーがあってたまるか、つーんじゃ》
「って、まんまファンタジーなお前が言うなよな~……。
いや、オレだってさ、ンな、つごーよくいかねーってことぐらい分かって――げげ、ここも蚊に刺されてるっ!」
《そりゃお主、こんな草むらゴソゴソやってりゃのう……》
「だって、手掛かりっつったら、こういう場所がてーばんじゃん!
――っくしょー、蚊、ムカつく! テン、食っちゃってくれよ!」
《なにをぬかすか、虫食うとかイヤじゃっつの!
儂、グルメな鳥系乙女じゃもん》
テンとあーだこーだ言いながらオレは……ここ、何もなさそうだし、とりあえずヤブ蚊がプンプン飛び回ってる草むらから脱出した。
……っくしょー、ヒデー目に遭ったぜ〜……5ヶ所ぐらい刺された気がする……。
「軍曹と凛太郎はどーなのかなー」
一度フェンスよじ登って、空き地からも出て……道路脇のポールに座りながら、周りを見渡す。
はっきりと何を捜したらいいかも分からねーんだし、ひとまず手分けしようってことで、オレたちはそれぞれ、思い思いに行動してるんだけど……。
とりあえず、軍曹も凛太郎も、目に見える範囲にはいなかった。
2人とも、『聞き込みする』みたいなこと言ってた気がするけど……。
《さての〜……。
少なくとも、お主よりはなんか掴んどる気もするが》
「ちぇ〜……」
《ま、そうむくれるな。
世の中適材適所、向き不向きはあって当然じゃからな》
「そーゆーテンは、なんか見つからなかったのかよ?」
《少なくとも今のところ、魔力を感じるようなものが落ちていたり……ということはなかったのう》
「じゃ、オレと同じじゃん」
《……ま、今のところはの。
じゃが、なあに――この鳥系乙女、ここからが本領発揮というヤツよ……!
母君のマンガでも、最後に活躍する者が一番オイシイところを持ってってるわけじゃしなっ!》
「…………。
お前、最近かーちゃんのマンガばっか読んでるもんな……鳥なのに」
オレの頭の上でバタバタ羽ばたくテンを、うるさいからちょちょっと突っついてると……通りの角を曲がって、軍曹がこっちに戻ってくるのが見えた。
「お〜、軍曹! どーだった? なんか分かった?」
「アーサー……そっちはどうです? なにかありましたか?」
「その辺の空き地の草むらとか調べてみたけど……テンが見ても、魔力とか感じるようなものはなかった、ってさ。
……ぶっちゃけ、蚊に刺されまくっただけだった」
「……そうですか。
まあ、物的証拠がお気軽に転がってないって分かったのは、それはそれで収穫――ってことにしといてやりますよ。
――しっかし、ホントに刺されまくってますね、まったく……ほら、これ」
蚊に刺されたところをポリポリ掻いてると……軍曹は背負っていたリュックから、手の平サイズのプラスチックのボトルを出して渡してくる。
……これ、うちの家にもある、虫刺され用の塗り薬だ!
スースーするやつ!
「さんきゅー、軍曹! さっすが、用意いい!」
「ちゃんと前もって準備をしておくのは基本中の基本でしょーが。
……だーから、キサマはへっぽこ新兵のままなんだぞ、まったく……」
早速、貸してもらった薬を、赤くなってるところにぬりぬりしておく。
「ふぃ〜、スースーする〜……!
……あ、軍曹は使わねーの?」
「わたしは――蚊になんて、刺されませんし」
「え、マジでっ? なにそれ、なんかスゲー!」
「当たり前でしょう、この身体――厳密には、人間じゃないんですから」
オレが返した薬をリュックにしまいながら……ポツリと、軍曹は答えた。
その一言が、なんかいつもより元気ないみたいだったから――もしかしたら、悪いこと言っちまったのかも知れねーって、謝ろうとしたら。
「そう――このひたすらパーフェクツな美少女JSには、ヤブ蚊ごときでは遠慮して近付くことすら出来んと、そーゆーわけですね! ふはは!」
顔を上げて笑う軍曹は、やっぱりいつも通りで……なんか、ホッとした。
「……で? 軍曹の方の成果は?」
「うむ……ウワサ好きのオバサマがたに取り入って聞き出したところ、どーやら、ドクトルばーさんの車にはもう一人、若い男が乗っていたようですね。
そいつを犯人と断定するのは気が早いですが……とりあえず、現状一番アヤしいのは確かでしょう。
それと……どうも、わたしたちと同じように、当時のドクトルばーさんのことについて話を聞いてる人間がいるよーです。
キチッとしたスーツにメガネって格好の、保険会社のおねーさんらしいですが……」
「ホケンガイシャ……?」
「まあ、多分、ドクトルばーさんの状態が特殊なんで、病気か事故か、それとも事件なのか、保険金がどーなるのか……その辺を調べてる――ってことだと思いますけど」
「んん〜っ? つまり、どーゆーこと?
つーか、ホケンガイシャって、何する会社?」
軍曹の説明聞いても、何のことだかサッパリだ。
……っていうか、保健室の『ホケン』なら、病気のことだけ調べてるんじゃねーの?
事故とか事件のことまでとか……わけわかんねー。
あ、でも、『ホケンキン』は何となく分かるぞ……殺人事件とかのもとになったりするヤツだよな!
んー……だから、事件かどーかとかも調べんのかな……?
「わたしだって、知識としてとりあえず知ってるだけですからね……アーサー、あなたに理解出来るようなレベルでの、易しくて詳しい説明とか、ぶっちゃけムリです」
「……じゃあ、テンは?」
《いや、お主な、異世界の聖霊やら霊獣やらに、こっちの世界の保険のシステムなんぞ説明させるな、ちゅーんじゃ。
家帰ってから、母君に聞けっつの》
「んー……じゃ、ま、探偵みてーなもんってことでいいや」
なんかややこしそーだし、とりあえずそーゆーもんにしとこう、ってことで納得したオレは……。
ただでさえあちーのに、わけわかんねーこと考えすぎて余計暑くなった気がしたから……リュックから水筒を出して、まだそこそこ冷たい麦茶をぐびっと飲む。
そうして、一息ついてると――今度は、凛太郎がこっちに戻ってくるのが見えた。
……てゆーか……アイツ、なんか抱えてねーか?
ついでに、なんか付いてきてねーか?
《む……ありゃネコじゃな。
つーかあやつ、何をあんなに連れてきとるんじゃい……。
ネコどもは、この偉大なる〈霊獣〉にしてプリティーな鳥系乙女たる儂を、エモノとカン違いしてヤベー目で見てきやがるから大キライじゃっつーのに!》
オレの頭の上でバタバタ羽ばたきながら、テンがギャーギャー文句を言ってる。
で、テンの言ってた通り……凛太郎が抱えてる小さいのも、後ろから付いてきてた3匹も、ぜーんぶ確かにネコだった。
首輪があったりなかったりだから、飼いネコと野良が交じってるみてーだ。
「マリーン……わたしたちは、ネコ捜しをしてるんじゃないんですが……」
さすがの軍曹も、呆れたみてーな声を出すけど……。
凛太郎はいつも通りの無表情に、スッと抱えてた子ネコを差し出して――。
合わせて、付いてきてたネコたちも凛太郎に並んで座る。
「ん。こちら、情報提供ニャンコの皆さま」
「「《 ……へ? 》」」
で、凛太郎の、そんな大マジメな言葉に――。
オレ、軍曹、テンのマヌケな声が、キレーに重なった。