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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
3章 勇者にテスト、妹に魔王
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第29話 腕相撲大戦――その激闘の軌跡



 ――腕相撲大会……。



 それだけを聞けば、普通に教室でもやるような、休憩時間の他愛ない遊びに思えるものの……。


 ドクトルさんがジムの人に部屋に運び込ませたのは、アームレスリングの大会で使われているような、本格的な競技台で――ただの遊びではないという本気度が窺えた。



 もちろん、こちらも望むところってヤツである。



 ドクトルさん、あなたに俺の男気をしっかりと見せつけて――。


 そして俺は、鈴守(すずもり)のちょ~っとだけ恥ずかしい写真とやらをしっかりと見せてもらうぜ!



《うっわ、鼻息荒いわー、ヒきますわー……》


(なんだよアガシー、お前も見たいとか言ってたろうが。

 ――っていうか、なんでいつもみたいに『恥ずかしい写真……グヘヘ』とか下品なこと言わないんだよ?)


《いや、興味はありますけどね?

 ほら、わたし的にドストライクなのは、もうちょっと小さい女の子ですしー》


(こんなときに、そのややこしい好みをキッパリとカミングアウトされてもなー……)



 アガシーの発言に、思わずやる気が吸い取られそうになるのを堪え……長机をどかして部屋の中央に据えられた競技台を見やる。



 そこでは、今まさに――。


 鈴守、おキヌさん、沢口(さわぐち)さんの三人VSドクトルさんの、女子頂上決戦が行われるところだった……!



「おばあちゃん……世夢庵(せむあん)抹茶プリン(エメラルドソード)、ホンマやんな……?

 もしウソやったら、今日の晩ご飯は、白いご飯をおかずに白いご飯食べてもらうで……?」



 鈴守が、なんか低い声でスゴいこと言ってるな……。


 いや、っていうかあの目、あれは肉食獣の目だ――狙うエモノはスイーツだけど。



 うむ、しかし……。


 大好物のスイーツに、文字通り目の色を変えるその姿もまたカワイイ……アリだな!



「フン……そんなセコいウソ、吐きゃしないさ。

 それに白メシで白メシ、上等じゃないか――こちとら大和撫子、米が食えりゃあ、それで充分幸せってモンだよ」



 ハンデとしての三人分の両手――合計六つの手に右手一つを握られながら、余裕の表情で応えるドクトルさん。


 その重なり合った七つの手に、審判役になった(まもる)も手を添える。



 そして――。



「じゃ、行くよー?

 レディー…………ゴーッ!」



 戦いの火蓋が切られた。


 ほぼ同時、最速で最大の力を込めたのは――やはり鈴守とドクトルさんだった。



 常人ならいざ知らず、俺なら見ていて分かる――。


 二人とも、びっくりするほど見事な反応だ。



 はっきり言って、おキヌさんと沢口さんは置いてけぼり――祖母と孫娘、どちらかがほんのわずかでも反応が遅れていたら、状況は大きく傾いていただろう。


 つまり、今のところ互角。


 遅れて参戦するおキヌさんと沢口さんが、顔を真っ赤にして力を込めるも、右手一本のドクトルさんは、しばらく中心から動かなかったが――。



 ジワジワと、右側にその角度を落としていき……。


 やがて――ペタンと、そのまま手の甲を台の上に軟着陸させた。



「いやぁ〜……さすがにこの歳で、三人同時はキツいねえ……。

 お見事、アンタたちの勝ちだよ、良く頑張った!」


「いやっほー! エメソーげっとだぜーい!」



 はしゃぐおキヌさんと沢口さん。


 一方、鈴守は苦笑というか……複雑そうな表情だ。



 まあ、明らかに手加減――どころか、ワザと負けたもんな、ドクトルさん。



 スイーツゲットのためなら、別にそれでいい気もするんだが……まあ、鈴守って控えめではあるけれど、案外、勝負にこだわるというか、負けず嫌いなところもあるからなあ。


 ……いやぁ、そんなところもまた俺にとってはカワイイんだけど。




「さーて、それじゃ……次は男子諸君、代表者を決めてもらおうか?」




 三人同時の激戦後にもかかわらず、涼しい顔をしたドクトルさんに呼ばれ……俺たち男子三人は、競技台の前に集まる。



「ふっふーん、鈴守のちょ~っと恥ずかしい写真か……見逃す手は無いよな!」



 ――知らぬコトとはいえ、彼氏を前によく言ったイタダキ。死なす。



「写真についてはどっちでもいいけど……ま、せっかくのお遊びだしね!」



 ――うむ、さすが衛、お前いいヤツだよな……でも泣かす。



「ううぅ〜……っ!」



 ……な、なんか、背後、鈴守がいるはずの方向から、すっごい恨みがましい唸り声と視線を感じるんだけど……。


 しかしスマン鈴守!

 男には、戦わねばならないときがあるんだよ……!




 ――代表決定戦は、負けたヤツから脱落ということで、ジャンケンの結果、まずは俺とイタダキが勝負すると決まり……。


 競技台に乗せた右手をつかみ合う。



「ふふん、ザンネンだったな裕真(ゆうま)……!

 ちょ~っと恥ずかしい写真とか聞けば、ムッツリなお前も興味があるのは分かるが……なんせオレは頂点に立つオトコ!

 ゆえに、こんな他愛ない勝負でも負けるわけには――」


「死なす」



 ――ゴっヅン。



「ぐおお〜っ!?

 み、右手が、ギリギリ有り得る角度でヘンな方向にぃ〜っ!?」



 ぷらーんとなった右手をフリフリ、退場するイタダキ。


 代わって、それを見て笑顔を引きつらせた衛が、競技台に右腕を乗せる。



「ゆ、裕真、まあ、もうちょっと楽しく行こうよ?

 ね、ほら、お遊びなんだしさ――」


「泣かす」



 ――ゴっヂン。



「びゃああ〜っ!?

 み、右手が、そろそろヤバい角度でヘンな方向に〜っ!?」



 だらーんとなった右手をフリフリ、退場する衛。



「え、ええ~……?

 赤宮(あかみや)くんってば、こんなパワータイプだったっけ?

 なんか、世紀末に君臨しそうなオーラが見える――ような気がしなくもないんだけど」


「そりゃアレだよ、ウタちゃん、愛だよ愛。愛の成せるワザなのさ!

 そうさ、らぶいずおーばー……!」


「……おキヌちゃん、それやと終わってるから……!」



 一方、後ろで女子の皆さんが騒いでいる。


 ちなみに、『ウタちゃん』とは沢口さんのことだ。下の名前が唄音(うたね)なので。



 ……っていうかおキヌさん、この場で大声で『愛』とか言わないでおくれよ、イタダキたちが聞いたら――って、大丈夫か。


 ヤツらは己の右手の無事を確かめるのに必死だ。聞こえてない。



「いやはや……二人とも、特別弱いって感じでもなかったのに、瞬殺とはねえ――」



 不敵な笑みを浮かべながら……ついに、ラスボスが競技台に上った。



「思った以上に楽しませてくれそうじゃないか……赤宮くん?」



 そう言って右腕を台に乗せたドクトルさんと、俺は右手を組み合わせる。



 ――それだけで分かる。


 当然だろうが、この人……とんでもなく強いな。



 これで60前とか、マジで信じられん。


 鬼人族(オーガ)族長(リーダー)クラスですら、相手になるかどうか……。



「君も両手を使ってくれて構わないぞ。――ハンデだ」



 ドクトルさんが当たり前のように言うが、俺は右手を握り直すだけ。


 ……そして、こちらも不敵に笑ってみせる。



「いくら何でもおばあさん相手に両手じゃ、カッコつかないっすよ」



 あー……つい、言っちまった。


 強敵相手ってんで、俺も、写真とか関係なく昂ぶってきてるらしい。



 もしかしたら怒るかなー……と思いきや、ドクトルさんは心底楽しそうに笑った。




「いや、失礼な申し出だったようだな。


 ――よし、千紗(ちさ)、審判を!」




 呼ばれた鈴守が、複雑な表情で、俺たちの組み合った右手に手を添える。




 そして――何かを言いたそうにしたけど、結局何も言わず。


 審判として堂々と、俺たちに勝負の開始を告げた――。






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[気になる点] 第29話 戦いの火蓋が切って落とされる。 ほぼ同時、最速で最大の力を込めたのは――やはり鈴守とドクトルさんだった。 『火蓋を切る』と『幕を切って落とす』を混用しているのでは? 火縄銃の…
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