第307話 見習い勇者と相棒は、やんちゃに興味津々
――昨日の夜、うちに泊まりに来てた凛太郎と、『ドクトルばーさんが眠らされちまったことを捜査しよう!』って決めたオレ。
でも、オレも凛太郎も、まずばーさんがどこで倒れてたとか、そーゆーとこまでは知らなかったから……。
このままじゃ捜査も始められねーし、正直に、軍曹にでも聞いてみようってことになって。
ウォーミングアップ代わりに、軽く素振りとか自主修行してから……〈天の湯〉行って風呂入って、あらためて軍曹に話してみたんだ。
「……んあ? ドクトルばーさんが、病院に運び込まれたのはどこからか――って?」
番台に座った軍曹は、『なんでそんなこと聞く?』って顔してたから……。
ここはごまかさねーで、ちゃんと、ドクトルばーさんのことを調べてみるから――って答える。
師匠、なるべくオレたちを巻き込まねーようにしてるんだし、軍曹だってオレたちがそんなことしよーとしてるって知ったら、あんまし良い気分じゃねーかもだけど……。
ヘタにウソつくよりは、こっちの方がイイと思うんだよな。
それに……師匠だとダメだって言われるかもだけど……。
軍曹は前も、オレがティエンオーとしていっしょに戦うのを許可してくれたから……なんとかなるんじゃねーかな、って。
「ふ〜むむぅ……」
腕組んで、ムズかしー顔する軍曹。
あれ、もしかしてダメなんじゃ……って、ちょっと思ったら――。
「……分かりました。
ただし――勝手はダメです。わたしもいっしょに行きます」
軍曹は、マジメな顔でそう言った。
「え? 軍曹も?
――いや、オレたちは別にいいけど……軍曹、だいじょーぶなのか?」
「もともと、兄サマとわたしで、動ける方がその辺のことを調査してみよう――って話になってたんですよ。
で、調査となると、人手があるに越したことはないですし……しかも、マリーンとテンテンは、能力的に特に役に立ちそうですからね」
「……オレは?」
「…………。
たとえば、入っちゃいけないような場所に入ってるのが見つかったとき……。
『いかにも探検ごっことか夢中になってそうなワンパク小学生』がいると、大人は『しょうがないなー』で許してくれると思うんですよねー。
――ンな感じです」
「ンだよそれ! ぶっちゃけ戦力外じゃん!」
「そこまでは言ってませんって。
……期待もあんまししてませんけど」
「いっしょだっつーの!
……っくしょ〜……! ぜってー、なんか活躍してやっからな!」
オレが、番台にしがみついて食ってかかると……。
軍曹は、フフン、って意地悪に笑った。
「その意気や良し!――ってことにしといてやろう、アーサー!
……まー、とにかくそんなわけなんで……。
――いいか、この件について独断行動は許さん。
お前らはみんなわたしの指揮下に入ってもらうぞ……分かったな?」
「「 イエシュ、マム! 」」
オレと凛太郎は、なんつーか、つい反射的に、並んで敬礼で応えちまう。
「ウム、よろしい。
……じゃあ、わたしのお手伝いが終わるまで待ってて下さい。
もうちょっとしたら、アリナと交代することになってますから」
「「 らじゃー! 」」
軍曹にもっかい敬礼してオレたちは、じゃあ待合所の畳でゴロゴロしながらテレビでも見てよーぜ、って、移動しようとしたら――。
「……おい、そこのボウズども」
いきなり呼び止められた。
誰かと思って振り返ったら……さっき風呂の洗い場で会った、デカいにーちゃんだった。
「……フルーツ牛乳、いるか?
オレが飲むついでだ、さっきのシャンプーの礼におごってやる」
にーちゃんはオレたちにそう聞きながら……番台のトレーに、ジャラッて小銭を転がす。
……てか、それってもう払っちゃってるんじゃねーの? オレたちの分まで。
「あの〜、サービスですんで、お金はいいっすよ?
そこのジャリ坊どもの分もって言うなら、それも含めて」
軍曹が、トレーに載った小銭を返そうとするけど……にーちゃんはそれをさらに押し戻した。
「サービスの件なら、今度、赤宮のヤツから直に徴収すっから心配すんな。
……とりあえず今日のところは、売り上げに足しとけ」
「おお……? もしやこれが、硬派なオトコの生きザマ、ってヤツですか……!
――わっかりました! そーゆーことなら!」
にーちゃんに敬礼して、軍曹はトレーのお金をしまい込む。
それを確認してから、にーちゃんは――
「いちいち大ゲサなヤツだな……そんな大層なモンじゃねえっての」
ドリンクの入った冷蔵庫の方へ行って……。
瓶の頭を持つ感じで、フルーツ牛乳を片手で3つ取り出して、もう一回、オレたちを振り返り――。
「カネ払っちまったからな……『いらねえ』っつーのはナシだ」
オレと凛太郎に向かって、そのうちの2つを差し出してくれた。
「へへ、じゃあ……サンキュー!」
「せんきう」
そういや、風呂上がりのドリンク、まだだったからな〜……ラッキー!
「顔はこえーけど、いいヤツだな、にーちゃん!」
「ああ? 顔怖えは余計だ、ナマ言ってやがると取り上げンぞ?」
ふりょーっぽく、迫力出して言うにーちゃんだけど……あんまし、こえーって感じじゃない。
フルーツ牛乳をめっちゃウマそうに飲んでるから、ってのもあるかもだけど……。
なんつーかさ、このにーちゃんって、オレらみてーな子供相手にマジでキレたりしねーって分かるんだよなー。
……ワルっぽいけど、悪いヤツじゃない――。
そう、『正義のふりょー』って感じなんだ!
うん、師匠やリアニキとはまたタイプ違って……このにーちゃんみたいなのも、結構カッケーよな……!
「……なーなー、にーちゃんってさ、やっぱふりょーなの?」
冷蔵庫から待合所の方に移動して、畳に座ったにーちゃん……それを追っかけながら聞いてみる。
「ああ? ンだよ、ド直球だなテメーは……。
つーか、いちいちオレに絡んで来ンじゃねえよ……ガキはガキで遊んでりゃいーだろ、おら、向こう行けって」
しっしっ、って手を振られるけど……気にしねーで、凛太郎と2人で挟むみたいに隣に座る。
「えー、いーじゃん、別に。
――で、どーなの? やっぱふりょー?」
「ンだよ……めんどくせえな。これだからガキってのは……。
ったく、せっかくすっかり酒も抜けたってのに、別の意味で頭痛がすんぜ……」
にーちゃんは、すっげーイヤそうな顔するけど……。
でも、それ以上はなにもしねーで、フルーツ牛乳飲んでる。
そんなにーちゃんを、凛太郎と2人で、どんな答えが返ってくんだろーって期待しながら見てたら……。
「あ〜、わーったっての! 視線で圧力かけンじゃねえ!
――確かに数年前まではやんちゃしてたけどな、今はフツーに大学生だ!」
「「 おお〜、やんちゃ……っ! 」」
なんかヤケクソっぽいにーちゃんの答えに、オレと凛太郎のかんどーの声が重なる。
うん、分かるぜ凛太郎……なんか、カッケーもんな!
……で、そんなオレらを見て、にーちゃんはおっきなタメ息をつく。
「……なんでそこに食いつくンだよ、テメーら……」
「で、で、どんなことしたのっ?
やっぱ、ワリーぼーそーぞくとかを、こーそーでブッ潰したりとかっ?」
かーちゃんの持ってるマンガだと、正義のふりょーっつったら、やっぱそーゆーもんだからな!
ぜってー、間違いねーぜ……!
「…………ノーコメントだ。
つーか、テメーら……そんなモンにヘタに憧れて、不良やろうなんて思うなよ?
イキがってバカなやんちゃしたところで、周りに迷惑かけるばっかだからな?」
にーちゃんは、盛り上がるオレたちにマジメな顔でそう言って……。
ぐいっと、残り3分の1ぐらいのフルーツ牛乳を一気に飲み干した。
「わーってるって、大丈夫!
だって、オレがなりてーのはふりょーじゃなくてヒーロー……勇者だからさ!
――な、凛太郎!」
「ん」
「……でも……やっぱ思った通り、にーちゃんもカッケーな!
さすが、正義のふりょーだよな!」
「ねっけつこーは」
「……ったく……調子のいいボウズどもだな。
大体、オレぁそんな良いモンじゃねえってンだよ」
そんなことを言いながら立ち上がったにーちゃんは、カラの瓶を冷蔵庫横のケースに入れて……そのまま、出入り口の方に歩いてく。
「あれ? もう行っちゃうのかよ?」
「これ以上、うるせえボウズに絡まれンのはゴメンだからな」
「……ありがとーございましたー!
またのお越しをお待ちしてまーすっ!」
軍曹のアイサツに、持ってるヘルメットを小さく振って応えて、〈天の湯〉を出るにーちゃん。
オレと凛太郎も、飲みかけのフルーツ牛乳持ったままその後を追っかける。
「……おい……ンだよボウズ、まだ何かたかろうってのか?」
「ちげーって、お見送りってやつだよ! おごってもらったしさ!」
クーラーかかってる〈天の湯〉と違って、外は太陽ギラギラのアスファルトじりじりで、上からも下からもめっちゃ暑い。
そんな中、駐車場に回ったにーちゃんの前には……。
すげーデカくて速そうな、メチャクチャかっけー黒いバイクが!
「うおお……! これ、にーちゃんのバイク!?
うっわ、すっげ、かぁっけぇ〜……っ!」
「ヒーローっぽい」
「おう……コイツの良さが分かるかよ、イイ眼してンじゃねえか」
バイクにまたがりながら、にーちゃんは嬉しそうにちょっと笑った――けど、すぐに、マジメなような、機嫌悪いような顔になる。
「けどよ、バイクに憧れンのはイイが……。
さっきも言ったみてえに、調子こいて免許も取れねえ歳で乗ろうとかすンなよ?」
「わーってるって!
――あ、そんじゃさ、今度にーちゃんのそれに乗っけてよ!
にーちゃんの後ろならいいんだろ?」
「ニケツで風になる」
「……機会があったらな」
ぶっきらぼうにそれだけ答えて、エンジンをかけるにーちゃん。
……うおお、すげー、エンジンかかるとまたカッケ〜……!
エンジンの音が、腹まで響いてくるみてーだ……!
そうして、そのままヘルメット被ろうとしたにーちゃんだけど――。
そこで、なにか気付いたみたいに手を止めて……自分からオレたちに話しかけてきた。
「そう言や、テメーら……小学生だよな? 通ってンの、東祇小か?」
「ん? そーだけど」
「じゃあよ――ガッコの周りで、こう、こんな感じの……宝石みてえな石のカケラ、見たとか、誰かが拾ったとか……聞いたことねえか?」
にーちゃんは、色んなたとえとか使って、その石のことを説明してくれたけど……オレも凛太郎も、ゼンゼン心当たり無くて。
2人で、そのことを正直に答えたら……にーちゃんも、「そうか」ってだけ。
なんか丁寧に説明してくれたし、大事な落とし物でも捜してンのかと思ったけど……。
にーちゃんの様子は、むしろ『良かった』って感じなのが、不思議だった。
「その石のカケラがどーかしたの?」
「いや……知らねえってンならそれでいい。
別に大したことじゃねえんだ、気にすンな」
「えー? ンなこと言われたら逆に気になるっての!」
「…………。
ま、心底キライなヤローの落とし物、ってトコだ。
だから、手掛かりナシって聞いてせいせいしたンだよ。
――いいかボウズども、もし万が一見かけても、放っとけばいいからな?」
「ふーん……分かった」
オレと凛太郎がうなずくのを確認して……にーちゃんはヘルメットを被る。
そんで――。
「……ンじゃーなー、にーちゃん!
今度は後ろに乗っけてくれよなー!」
オレたちが手を振るのに、一度だけ小さく手を上げて応えて――そのまま、スゲー音だけ残して、バイクで走り去ってった。
「……なーんか、おもしれーにーちゃんだったな、凛太郎!
けっこーカッケかったし!」
「…………」
道路の向こうに、あっという間に消えてったにーちゃんとバイクを見送って、凛太郎に話しかけたら……。
凛太郎は、なんか考え込むみたいに、小さく首を傾げてた。
「ンだよ凛太郎、どーかしたのかよ?」
「ん……」
聞くと凛太郎は、もうちょっと迷うようにしてから……ポツリとつぶやく。
「……あのにーさん……。
ちょっと変わった気配――してた」
「変わった気配……って?」
「んー……。
動物……みたいな?」
「あ〜……なんか分かる!
ワイルドっつーか、野生動物っぽい感じあったよな!
そーゆーとこが、師匠たちとは違う感じでカッケかったのかな〜」
凛太郎のことだから、なんかスゲーこと言い出すのかとキンチョーしてたら……。
オレでも分かることだったから、ついつい嬉しくなっちまった!
「……ンじゃ、もう戻ろーぜ!
あんまりアチーから、フルーツ牛乳がホットになっちまうよ……」
「……ん……」
ちょっと口を付けたら、フルーツ牛乳がもうぬるくなっちまってたし……。
オレは、凛太郎といっしょに急いで〈天の湯〉に戻ることにした。
軍曹が、アリーナーと仕事を交代したら――。
次は、しっかりドクトルばーさんの捜査に行かなきゃいけねーんだしな……!




