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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
22章 〈世壊呪〉をめぐり、めぐる運命たちのその先は

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第307話 見習い勇者と相棒は、やんちゃに興味津々



 ――昨日の夜、うちに泊まりに来てた凛太郎(りんたろう)と、『ドクトルばーさんが眠らされちまったことを捜査しよう!』って決めたオレ。


 でも、オレも凛太郎も、まずばーさんがどこで倒れてたとか、そーゆーとこまでは知らなかったから……。

 このままじゃ捜査も始められねーし、正直に、軍曹にでも聞いてみようってことになって。



 ウォーミングアップ代わりに、軽く素振りとか自主修行してから……〈(あま)()〉行って風呂入って、あらためて軍曹に話してみたんだ。



「……んあ? ドクトルばーさんが、病院に運び込まれたのはどこからか――って?」



 番台に座った軍曹は、『なんでそんなこと聞く?』って顔してたから……。


 ここはごまかさねーで、ちゃんと、ドクトルばーさんのことを調べてみるから――って答える。


 師匠、なるべくオレたちを巻き込まねーようにしてるんだし、軍曹だってオレたちがそんなことしよーとしてるって知ったら、あんまし良い気分じゃねーかもだけど……。

 ヘタにウソつくよりは、こっちの方がイイと思うんだよな。



 それに……師匠だとダメだって言われるかもだけど……。


 軍曹は前も、オレがティエンオーとしていっしょに戦うのを許可してくれたから……なんとかなるんじゃねーかな、って。



「ふ〜むむぅ……」



 腕組んで、ムズかしー顔する軍曹。


 あれ、もしかしてダメなんじゃ……って、ちょっと思ったら――。



「……分かりました。

 ただし――勝手はダメです。わたしもいっしょに行きます」



 軍曹は、マジメな顔でそう言った。



「え? 軍曹も?

 ――いや、オレたちは別にいいけど……軍曹、だいじょーぶなのか?」


「もともと、兄サマとわたしで、動ける方がその辺のことを調査してみよう――って話になってたんですよ。

 で、調査となると、人手があるに越したことはないですし……しかも、マリーンとテンテンは、能力的に特に役に立ちそうですからね」


「……オレは?」


「…………。

 たとえば、入っちゃいけないような場所に入ってるのが見つかったとき……。

 『いかにも探検ごっことか夢中になってそうなワンパク小学生』がいると、大人は『しょうがないなー』で許してくれると思うんですよねー。

 ――ンな感じです」


「ンだよそれ! ぶっちゃけ戦力外じゃん!」


「そこまでは言ってませんって。

 ……期待もあんまししてませんけど」


「いっしょだっつーの!

 ……っくしょ〜……! ぜってー、なんか活躍してやっからな!」



 オレが、番台にしがみついて食ってかかると……。


 軍曹は、フフン、って意地悪に笑った。



「その意気や良し!――ってことにしといてやろう、アーサー!


 ……まー、とにかくそんなわけなんで……。


 ――いいか、この件について独断行動は許さん。

 お前らはみんなわたしの指揮下に入ってもらうぞ……分かったな?」



「「 イエシュ、マム! 」」



 オレと凛太郎は、なんつーか、つい反射的に、並んで敬礼で応えちまう。



「ウム、よろしい。

 ……じゃあ、わたしのお手伝いが終わるまで待ってて下さい。

 もうちょっとしたら、アリナと交代することになってますから」



「「 らじゃー! 」」



 軍曹にもっかい敬礼してオレたちは、じゃあ待合所の畳でゴロゴロしながらテレビでも見てよーぜ、って、移動しようとしたら――。



「……おい、そこのボウズども」



 いきなり呼び止められた。


 誰かと思って振り返ったら……さっき風呂の洗い場で会った、デカいにーちゃんだった。



「……フルーツ牛乳、いるか?

 オレが飲むついでだ、さっきのシャンプーの礼におごってやる」



 にーちゃんはオレたちにそう聞きながら……番台のトレーに、ジャラッて小銭を転がす。


 ……てか、それってもう払っちゃってるんじゃねーの? オレたちの分まで。



「あの〜、サービスですんで、お金はいいっすよ?

 そこのジャリ坊どもの分もって言うなら、それも含めて」



 軍曹が、トレーに載った小銭を返そうとするけど……にーちゃんはそれをさらに押し戻した。



「サービスの件なら、今度、赤宮(あかみや)のヤツから直に徴収すっから心配すんな。

 ……とりあえず今日のところは、売り上げに足しとけ」


「おお……? もしやこれが、硬派なオトコの生きザマ、ってヤツですか……!

 ――わっかりました! そーゆーことなら!」



 にーちゃんに敬礼して、軍曹はトレーのお金をしまい込む。


 それを確認してから、にーちゃんは――



「いちいち大ゲサなヤツだな……そんな大層なモンじゃねえっての」



 ドリンクの入った冷蔵庫の方へ行って……。


 瓶の頭を持つ感じで、フルーツ牛乳を片手で3つ取り出して、もう一回、オレたちを振り返り――。



「カネ払っちまったからな……『いらねえ』っつーのはナシだ」



 オレと凛太郎に向かって、そのうちの2つを差し出してくれた。



「へへ、じゃあ……サンキュー!」


「せんきう」



 そういや、風呂上がりのドリンク、まだだったからな〜……ラッキー!



「顔はこえーけど、いいヤツだな、にーちゃん!」


「ああ? 顔怖えは余計だ、ナマ言ってやがると取り上げンぞ?」



 ふりょーっぽく、迫力出して言うにーちゃんだけど……あんまし、こえーって感じじゃない。


 フルーツ牛乳をめっちゃウマそうに飲んでるから、ってのもあるかもだけど……。



 なんつーかさ、このにーちゃんって、オレらみてーな子供相手にマジでキレたりしねーって分かるんだよなー。



 ……ワルっぽいけど、悪いヤツじゃない――。


 そう、『正義のふりょー』って感じなんだ!



 うん、師匠やリアニキとはまたタイプ違って……このにーちゃんみたいなのも、結構カッケーよな……!



「……なーなー、にーちゃんってさ、やっぱふりょーなの?」



 冷蔵庫から待合所の方に移動して、畳に座ったにーちゃん……それを追っかけながら聞いてみる。



「ああ? ンだよ、ド直球だなテメーは……。

 つーか、いちいちオレに絡んで来ンじゃねえよ……ガキはガキで遊んでりゃいーだろ、おら、向こう行けって」



 しっしっ、って手を振られるけど……気にしねーで、凛太郎と2人で挟むみたいに隣に座る。



「えー、いーじゃん、別に。

 ――で、どーなの? やっぱふりょー?」


「ンだよ……めんどくせえな。これだからガキってのは……。

 ったく、せっかくすっかり酒も抜けたってのに、別の意味で頭痛がすんぜ……」



 にーちゃんは、すっげーイヤそうな顔するけど……。


 でも、それ以上はなにもしねーで、フルーツ牛乳飲んでる。



 そんなにーちゃんを、凛太郎と2人で、どんな答えが返ってくんだろーって期待しながら見てたら……。



「あ〜、わーったっての! 視線で圧力かけンじゃねえ!

 ――確かに数年前まではやんちゃしてたけどな、今はフツーに大学生だ!」



「「 おお〜、やんちゃ……っ! 」」



 なんかヤケクソっぽいにーちゃんの答えに、オレと凛太郎のかんどーの声が重なる。


 うん、分かるぜ凛太郎……なんか、カッケーもんな!



 ……で、そんなオレらを見て、にーちゃんはおっきなタメ息をつく。



「……なんでそこに食いつくンだよ、テメーら……」


「で、で、どんなことしたのっ?

 やっぱ、ワリーぼーそーぞくとかを、こーそーでブッ潰したりとかっ?」



 かーちゃんの持ってるマンガだと、正義のふりょーっつったら、やっぱそーゆーもんだからな!


 ぜってー、間違いねーぜ……!



「…………ノーコメントだ。

 つーか、テメーら……そんなモンにヘタに憧れて、不良やろうなんて思うなよ?

 イキがってバカなやんちゃしたところで、周りに迷惑かけるばっかだからな?」



 にーちゃんは、盛り上がるオレたちにマジメな顔でそう言って……。

 ぐいっと、残り3分の1ぐらいのフルーツ牛乳を一気に飲み干した。



「わーってるって、大丈夫!

 だって、オレがなりてーのはふりょーじゃなくてヒーロー……勇者だからさ!

 ――な、凛太郎!」


「ん」


「……でも……やっぱ思った通り、にーちゃんもカッケーな!

 さすが、正義のふりょーだよな!」


「ねっけつこーは」



「……ったく……調子のいいボウズどもだな。

 大体、オレぁそんな良いモンじゃねえってンだよ」



 そんなことを言いながら立ち上がったにーちゃんは、カラの瓶を冷蔵庫横のケースに入れて……そのまま、出入り口の方に歩いてく。



「あれ? もう行っちゃうのかよ?」


「これ以上、うるせえボウズに絡まれンのはゴメンだからな」



「……ありがとーございましたー!

 またのお越しをお待ちしてまーすっ!」



 軍曹のアイサツに、持ってるヘルメットを小さく振って応えて、〈天の湯〉を出るにーちゃん。


 オレと凛太郎も、飲みかけのフルーツ牛乳持ったままその後を追っかける。



「……おい……ンだよボウズ、まだ何かたかろうってのか?」


「ちげーって、お見送りってやつだよ! おごってもらったしさ!」



 クーラーかかってる〈天の湯〉と違って、外は太陽ギラギラのアスファルトじりじりで、上からも下からもめっちゃ暑い。


 そんな中、駐車場に回ったにーちゃんの前には……。



 すげーデカくて速そうな、メチャクチャかっけー黒いバイクが!



「うおお……! これ、にーちゃんのバイク!?

 うっわ、すっげ、かぁっけぇ〜……っ!」


「ヒーローっぽい」



「おう……コイツの良さが分かるかよ、イイ眼してンじゃねえか」



 バイクにまたがりながら、にーちゃんは嬉しそうにちょっと笑った――けど、すぐに、マジメなような、機嫌悪いような顔になる。



「けどよ、バイクに憧れンのはイイが……。

 さっきも言ったみてえに、調子こいて免許も取れねえ歳で乗ろうとかすンなよ?」



「わーってるって!

 ――あ、そんじゃさ、今度にーちゃんのそれに乗っけてよ!

 にーちゃんの後ろならいいんだろ?」


「ニケツで風になる」



「……機会があったらな」



 ぶっきらぼうにそれだけ答えて、エンジンをかけるにーちゃん。



 ……うおお、すげー、エンジンかかるとまたカッケ〜……!

 エンジンの音が、腹まで響いてくるみてーだ……!



 そうして、そのままヘルメット被ろうとしたにーちゃんだけど――。


 そこで、なにか気付いたみたいに手を止めて……自分からオレたちに話しかけてきた。



「そう言や、テメーら……小学生だよな? 通ってンの、東祇(とうぎ)小か?」


「ん? そーだけど」


「じゃあよ――ガッコの周りで、こう、こんな感じの……宝石みてえな石のカケラ、見たとか、誰かが拾ったとか……聞いたことねえか?」



 にーちゃんは、色んなたとえとか使って、その石のことを説明してくれたけど……オレも凛太郎も、ゼンゼン心当たり無くて。


 2人で、そのことを正直に答えたら……にーちゃんも、「そうか」ってだけ。



 なんか丁寧に説明してくれたし、大事な落とし物でも捜してンのかと思ったけど……。


 にーちゃんの様子は、むしろ『良かった』って感じなのが、不思議だった。



「その石のカケラがどーかしたの?」


「いや……知らねえってンならそれでいい。

 別に大したことじゃねえんだ、気にすンな」


「えー? ンなこと言われたら逆に気になるっての!」



「…………。

 ま、心底キライなヤローの落とし物、ってトコだ。

 だから、手掛かりナシって聞いてせいせいしたンだよ。

 ――いいかボウズども、もし万が一見かけても、放っとけばいいからな?」



「ふーん……分かった」



 オレと凛太郎がうなずくのを確認して……にーちゃんはヘルメットを被る。


 そんで――。



「……ンじゃーなー、にーちゃん!

 今度は後ろに乗っけてくれよなー!」



 オレたちが手を振るのに、一度だけ小さく手を上げて応えて――そのまま、スゲー音だけ残して、バイクで走り去ってった。



「……なーんか、おもしれーにーちゃんだったな、凛太郎!

 けっこーカッケかったし!」


「…………」



 道路の向こうに、あっという間に消えてったにーちゃんとバイクを見送って、凛太郎に話しかけたら……。


 凛太郎は、なんか考え込むみたいに、小さく首を傾げてた。



「ンだよ凛太郎、どーかしたのかよ?」


「ん……」



 聞くと凛太郎は、もうちょっと迷うようにしてから……ポツリとつぶやく。



「……あのにーさん……。

 ちょっと変わった気配――してた」


「変わった気配……って?」


「んー……。

 動物……みたいな?」



「あ〜……なんか分かる!

 ワイルドっつーか、野生動物っぽい感じあったよな!

 そーゆーとこが、師匠たちとは違う感じでカッケかったのかな〜」



 凛太郎のことだから、なんかスゲーこと言い出すのかとキンチョーしてたら……。


 オレでも分かることだったから、ついつい嬉しくなっちまった!



「……ンじゃ、もう戻ろーぜ!

 あんまりアチーから、フルーツ牛乳がホットになっちまうよ……」


「……ん……」



 ちょっと口を付けたら、フルーツ牛乳がもうぬるくなっちまってたし……。

 オレは、凛太郎といっしょに急いで〈天の湯〉に戻ることにした。




 軍曹が、アリーナーと仕事を交代したら――。


 次は、しっかりドクトルばーさんの捜査に行かなきゃいけねーんだしな……!






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― 新着の感想 ―
[一言] うん。みんな大好きフルーツ牛乳(笑)。
[一言] 黒井さん、この頃は出るたびに株を上げていきますよね! なんだかんだ言いつつも面倒見はいいですし、やさしいですし……。 個人的には、今後も活躍してほしい登場人物の上位です。 ……ところで凛…
[一言] 凛太郎くんの嗅覚、すごいですね! 素でボケてるアーサーくんが可愛くて、いいコンビだと改めて思いました。 アーサーくんが黒井くんのバイクの後ろに乗っけてもらう、絵柄的にも素敵です! いつかそん…
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