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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
21章 苦難の先に道を見出す者と、苦難こそが道と信じる者と
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第304話 そして彼女は、苦難の先に道を見出す



 ――わざわざちゃんと干してくれてたみたいで、お日さまの匂いのする、ふかふかのお布団に潜り込んで。


 見慣れた自分の部屋のものとは違う天井を見上げながら……。



 ウチは……昨日の夜からのまる一日を、振り返る。



 おばあちゃんが病院に運び込まれたって連絡を受けて……。

 そんで、こうして、裕真(ゆうま)くんの家でお世話になるまでを。



 ――そうすれば、真っ先に思い浮かぶんは……ベッドで寝てるおばあちゃんの姿。



「……あれ、って……」



 そんなおばあちゃんから感じたんは……霊力みたいな、一種の『チカラ』の気配やった。



 だから――あの眠りは病気なんかやなく、きっと、何らかの魔術的なもので……。


 つまりは、誰かが仕掛けた――ってことやと思う。



 でも……それが誰かは……分からへん。



 〈呪〉を祓うのを家業にしてきた、ウチら〈聖鈴(せいりん)の一族〉――。


 その一員やとしても、おばあちゃんは基本的にこれまで、その家業の方にはあんまり関わって()えへんかったんやから……そうした繋がりから狙われたとかは、考えにくい。


 他には、ウチ――シルキーベルの関係者と知られて、〈世壊呪(セカイジュ)〉を巡って争ってる人らに……って可能性もあるけど……。


 それも、なんかしっくり来えへん気がして……。



 間違いなく言えるんは、感じられたんが〈呪〉の気配やなかったから、おばあちゃんが〈世壊呪〉とか〈呪疫(ジュエキ)〉にあんな風にされたんやない……いうこと。


 だから、誰か――。

 誰か、人としての『犯人』がおるっていうんは、間違いないはずなんやけど……。


 ウチの頭やと……それが誰かは、まるで見当がつかへんくて――。



「……おばあちゃん……」



 とにかく、そんな状況やから……。


 お医者さんとして力を尽くしてくれはってる、イタダキくんのお父さんたちには申し訳ないけど……今のおばあちゃんは、現代医療でどうにかなるもんやないと思う。


 でも、やからって、結局おばあちゃんがこれからどうなるんかも、どうすればええんかもウチにははっきり分からへんから……。


 病院ていう場所で、様子を見守ってもらえてるんは――素直にありがたい。



 ウチだけやったら……ホンマに、どうすることも出来へんから――。



「……おばあちゃん……。

 お父さん、お母さん……!」



 ウチはお布団で口元を覆って……その中で、つい、家族を呼んでしまう。



 魔術についても研究してるお父さんに、神職に携わってたお母さん。

 それに何より、何でも知ってるおばあちゃん――。



 お父さんやお母さんと、せめて連絡がついたら……。

 矛盾した話やけど、おばあちゃんがいてくれたら……。



 どうしても、つい弱気になって――そんなことを考えてまう。



 ……けど……。


 そうやって、眠ったままのおばあちゃんのことを思えば、考えれば……やっぱり、ツラくて寂しいけど……。



 今は、そればっかりやなくて――。

 その不安を、優しくやわらげてくれる気持ちも……ウチの中にはあった。



 そんな気持ちを、ウチにくれたんは――。



 お見舞いにも来て励ましてくれた、おキヌちゃんたち友達のみんなと……。


 色々と手助けしてくれただけやなく、ウチのことを暖かく包み込んでもくれた、真里子(まりこ)さんを初めとする、赤宮(あかみや)家の人たち。



 そして――ウチのことを。

 こんなときでも変わらず、一番身近に、心から支えてくれる……裕真くん。



 ……色んな人たちのお陰で、ウチは今、こうして――。


 不安はあっても、でも、それを何とか受け止めていられるぐらい、落ち着いた穏やかな気持ちで……暖かくて優しいお布団の中にいてられる。



 もし、こんな風に、助けてもらうことがなかったら……。



 ウチはきっと今頃まだ、お父さんもお母さんにも頼られへんくて、どうしたらええか分からへんで……。

 どうしようどうしようって、誰もおらへん家で一人、不安に苛まれてたと思う。


 そう考えたら――



「おばあちゃん……ウチは、なんて……恵まれてるんやろね」



 自然と、その思いが口を突いてこぼれ出た。


 そして――やからこそ。


 ウチの力で、この人たちを〈世壊呪〉による厄災からゼッタイに守らなあかん――って、そんな想いも強くなる。



 ――やけど……それと同時に。



 こうしておばあちゃんが倒れて、縁のある人たちにいっぱい助けてもろて……。

 それで、改めて思い知ったこともあって。


 ちょっと考えたら分かりそうなもんやのに……きっとこれまでは、強く意識出来てなかったこと。

 こんな状況になったからこそ、否応なく、実感させられたこと。



 それは――。

 滅ぼすべき〈世壊呪〉も、また、意志を持つ存在――人であるなら。


 その向こうには、ウチと同じように――。

 大事な人と、縁のある人たちがいるに違いない……っていうこと。



 だから……ウチに縁のある人たちを守るためにって、そう理由を立てても。

 〈世壊呪〉を滅ぼすのは――。


 ウチが、人を手に掛けるような真似はしたくないとか……そんなことよりも先に。


 〈世壊呪〉そのものだけやなくて、その向こう側の、同じように縁のある人たちすらも見捨てる――いうことになる、って。



 やから、それは……きっと、『違う』。



 誰かを守るためにって、他の誰かを切り捨てる――。


 それは、本当の意味で『守る』ってことには……なれへん、きっと。



「そうやんね……? 裕真くん――」



 ウチは小さく、口の中でつぶやく。



 ウチにとっての、ホンマの勇者みたいな裕真くんも、きっと、そんな風に考える――。

 ウチのこの想いを後押ししてくれるって……そう思って。



 ――そう、やからウチは……ようやく、改めて心に決めた。


 エクサリオにも言われてた、覚悟を――決めた。




 ……ウチは――〈世壊呪〉を滅ぼさへん。絶対に。




 ウチの、この力は――。

 一人でも多くの人を、本当の意味で守り抜く……そのためにこそ、あるはずやから。



 もちろん、それやったら、どうやって〈世壊呪〉の脅威を防ぐんかって話になって――少なくとも今のところ、その方法の目処はゼンゼン立てへんけど……。


 クローリヒトは、〈世壊呪〉に厄災をもたらすような意志は無い、って言うてたし。


 なら……クローリヒトとか〈世壊呪〉本人の協力も得られたら、なんかええ打開策も見つかるかも知れへん。



 そうや――。

 色んな人たちに助けてもろてばっかりで、自分だけやとロクに何も出来へんウチやけど……。


 やからって、何もせえへんのは――違う。



 もちろん、その中にはまず、こうしてお世話になってる赤宮家でのお手伝い、があるけど……それだけやなくて。


 おばあちゃんの指示がなくても……シルキーベルとして、やれることをやっていかへんと。




 覚悟を決めた通り……〈世壊呪〉の厄災から、みんなを守るためだけやなく――。


 〈世壊呪〉自身も、ホンマに厄災になってしまわへんよう……守るために。




「……やったら……」



 折良く〈呪疫〉でも現れてくれたら、その場所でクローリヒトとかその仲間と遭遇出来て、協力を打診する機会になるかも知れへんけど……。


 今の状態やと、〈呪疫〉の発生を感知するには、どうしたってウチ自身の感覚に頼るしかなくて。


 でもそうなると、感知出来るのは、ごく狭い範囲になるし……しかも赤宮家にお世話になってる以上、ヘタに変身して出かけるわけにもいかへんから、機会を狙うのはどうしたって難しそう。



 やから、今のウチが、まずやれることってなると――。



 時間を見つけて、家――っていうかおばあちゃんの研究室で、おばあちゃんが付けてた記録とかを調べてみること……やろか。


 そもそも、そういうのがウチでも見られるようになってるかは分からへんけど……。


 端末自体が動かせたら、おばあちゃんがモニターしてた、広範囲で〈呪疫〉の発生とかをある程度感知するようなシステム――あれが使える可能性もあるし。

 そうなったら、クローリヒトたちに遭遇出来る可能性も上がるし。


 それに――。


 首尾良く、記録を見られたら……そこに、おばあちゃんを眠らせた犯人に繋がる手掛かりもあるかも知れへん……!



「……うん……」



 こうやって考えたら、ウチにはちゃんと、まだやれること――やるべきことがあって。


 やから……その先には、ちゃんと道が――。



 みんなにとって、一番良い道があるって……そう信じて。



「うん……頑張らな……!」



 ウチは、ウチを取り巻く人たちの優しさそのものみたいな、このお布団にくるまって――。



 そのお陰で、前を向けた心と一緒に。


 今は休もう、って……感謝を抱いて、安らぎに任せて……目を閉じた。






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― 新着の感想 ―
[一言] 眩しいなぁ……! 軸が定まって良かったです。 鈴守さん、がんばってー!
[一言] 良きシーンでした……! 健やかな成長を感じます。
[一言] う……ん。やっばりパワーアップイベントみたいに見えますね。 ここで、衝撃の事実と共に試作品を発見みたいな感じかな。 次章も楽しみにしてます。
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