第303話 見習い勇者たちの夜におかーちゃん
――今日は師匠たちと修行出来なかったし、なんか、千紗ねーちゃんが師匠んとこに来るって話で、いろいろ忙しそうだったから……。
朝、衛兄ちゃんに剣の稽古の相手してもらった後は、結局、ずっと凛太郎といっしょに、自主修行したり、遊んだりして過ごした。
……で、夕方からはオレんちでゲームしてたんだけど……気付いたら、もう晩メシ前になってて。
うちのかーちゃんが、
「もう一緒に晩ゴハン食べて――っていうか、いっそ泊まっていきなよ?
どうせ夏休みだし」
って言い出したから……凛太郎はうちに泊まってくことになった。
つっても、こんな風に凛太郎がうちに泊まるのってちょくちょくあるから、別に珍しいことでもないんだけど。
……で、そんなわけだから。
夜も遅い時間になったけど、凛太郎はまだオレの部屋にいて、オレたちは格ゲーで対戦したりしてた――
「よっ、ほっ、はっ、――っと! ハイ、終わり〜。
ふっふっふ……まだまだだねえ、少年たちよ」
……何でか、うちのかーちゃんまでいっしょになって。
「だーかーら! かーちゃんはいつまで交じってンだって!」
「えー……いーじゃん。
母親が、息子と、息子の友達とゲームしちゃいけないって法律はないもんね〜。
……つーか、おかーちゃんを追い出したかったら、実力行使すれば?」
「ぬぐぐぅ〜……っ!」
コントローラーを握ったまま、ふふん、って感じに笑うかーちゃんに、オレはヘンな声が出るぐらい、くやしがらずにはいられない……!
なんでかって言えば……!
うちのかーちゃんって、なんか特定のゲームだけ、ヤベーぐらい上手かったり強かったりするんだけど――今、オレと凛太郎がやってたゲームが、まさにそれに当てはまるからだ!
その基準は、とーちゃんによれば、『美少年か美少女がいるかどうか』らしーんだけど……。
とにかく、このレトロ格ゲー、〈キングオブフリーターズ98〉が、まさにそのかーちゃんにとってドストライクなゲームみてーで……。
もう、メチャクチャ強えんだよ……!
……今も、凛太郎のヤクザキャラが、かーちゃんの炎を使うイケメンに、『え、何それ、そんなの繋がンの!?』って感じのえげつねー連続技食らって、テッテー的に燃やされまくって――あっさりKOされてた。
いや、凛太郎だってケッコー強えんだけど……まるで相手になってねー……!
「ふっふっふ……焦げたろ?」
「おばさま、激強。めっちゃかっけー」
「へっへー……でしょでしょ? コレ、昔死ぬほどやったもんね〜。
いやーしかし、リアル美少年の凜くんに褒められると気分良いわ〜……」
凛太郎にパチパチと拍手されて、調子に乗りまくりなかーちゃんは……。
かと思うとオレの方を見て、わざとらしく小さくタメ息をつく。
「武尊ぅ……アンタも、凜くん見習って、もっと美少年っぽくなりなさいよー。
せっかくアンタ、顔立ちとかわりとカワイイんだからさー」
「カワイイとか、ぜってーヤダっつってンだろ!
オトコなら、カッケーの一択だっつーの!」
「……やれやれ……アンタはやっぱ、どうしたってそっちかー。
まあ、ヒーロー志願のわんぱく坊主ってのもそれはそれで悪くないけどねー。
――現に、なんか最近のアンタってば、ナマイキにもリア充の匂いがするし?」
オレを見る目が、なんかジトーって感じになったかーちゃんが……ふふふ、と笑う。
「なんのことだよっ?」
「ンもう、とぼけるなとぼけるな!
最近アンタの周りって、カワイイ女の子ばっかじゃないのよ〜。
……亜里奈ちゃんに見晴ちゃんに、アガシーちゃんまで!
いやー、おかーちゃん、ここ最近もうドっキドキでさー!」
「ドキドキぃ〜……?
なにそれ、ふせーみゃく、ってやつ?」
「おバカ。
そんなんなるのは、アンタのテストの点とか成績表見たときだけだっつーの。
――あ、で、どうなの凜くん。
武尊のヤツ、どの子に傾いてそう?
宇宙最強のかわいすぎるしっかり者妹キャラの亜里奈ちゃんに〜……!
超絶癒やし系のほんわか聖女でお金持ちお嬢サマの見晴ちゃんに〜……!
そして、ちょっと変わった言動も、妖精みたいな外見も、リアルに2次元キャラとしか思えない愛らしすぎるアガシーちゃん……!
おかーちゃんとしては、どの子も最高に個性的で良い子だし、ひたすらカワイイからアリなんだけど!」
とーとつに、凛太郎の方を振り向いて、なんか目ェキラキラさせながら語るかーちゃんに……。
でも凛太郎もまるで驚いたりせず、「ん」とうなずいて――。
「――ではおばさま、お耳を拝借」
「おっ、よしきた、オーケイ……っ!
……ん? テンちゃん、アンタも聞きたいのかなー? よーし、おいでおいで」
なんか、棚の上から飛んできたテンもいっしょになって……。
ときどき、チラチラとオレの方見ながら、コソコソと話してる。
……つーか、何の話だよ……。
アリーナーに、見晴に、軍曹? かたむく?
ワケわかんねーし!
だいたい、リア充って、師匠みたいにカノジョがいるヤツのことだろ?
――ならオレ、ンなの、ゼンっゼンかんけーねーし……!
「ん〜……ほう、そっかそっか〜、なるほどねえ〜……!
あ〜、なんか分かるわ〜……うんうん」
凛太郎の話を聞き終えたかーちゃんは、なんか、すっげーうなずきまくってる。
その頭の上で、テンも同じよーなことをしてた。
「ンだよ、なんのコソコソ話だよ……気分わりーなー」
「はっはっは、ゴメンゴメン。
そうさねー……武尊、アンタがおかーちゃん秘蔵のラブコメマンガ読破するなら、教えたげてもいいよ?」
「ンなのムリに決まってンだろ! どんだけあるんだよアレ!
……つーか、あーゆーのってつまんねーし!」
かーちゃん、マンガとかスゲーいっぱい持ってるんだけど、特にラブコメとかそーゆーのが多いんだよなあ……。
ヒーローものとかバトルものとかは、カッケーしおもしれーしで、オレも何回も読んでるんだけど……恋愛モノとかあーゆーの、だいたい、つまんねーんだもんなー。
「フッ……まあアンタは、だからこそ――なのかも知れないわね〜。
いや〜、はっはっは。この先、1年2年後が楽しみだわー」
「ンだよそれ……ワケわかんねーし。
――つーか、マジでいつまでいンだよ、かーちゃん!」
「……え? だから言ったでしょ?
おかーちゃん追い出したかったら実力に訴えろ、ってさ」
なんかキョトンとした顔で、そんなこと言いながら……コントローラー握って、早速対戦キャラを選ぶかーちゃん。
それに対して、オレも――
「くっそ〜……!
もうマジだ! ゼッテー、ボッコボコにしてやっからな!」
凛太郎からコントローラーを受け取って、一番得意な、帽子の金髪イケメンにーちゃんを選んだ……!
――で、結局……。
オレも凛太郎も、何回やってもかーちゃんには手も足も出なくて……。
1時間ぐらい、オレたちの挑戦をはねのけ続けたかーちゃんは、
「ふっふっふ……甘いな子供たちよ!
一児の母となろうとも、我がオタク魂とキャラ愛に衰えなどないのだ……!
――つーわけで。
子供は子供らしく、まずは学校の宿題ちゃんとやって〜……それからだ!
それから、もっと鍛えて、出直してくるがいい……!」
……って、満足げに言い残して、部屋を出て行った。
「く、くっそー……!
興味ねーゲームだったら見向きもしねーくせにぃ〜……!」
負けまくりの悔しさにコントローラーを投げ出して、ベッドの上に大の字になる。
一方凛太郎はと言えば、クッションの上でなんかしきりにうなずいてた。
コイツ、なんだかんだでうちのかーちゃんと仲良いからなあ……。
なんか学んだ、とかそんな感じなのかなあ……。
……まあ、なんにしたって……。
「いずれゼッテーリベンジすっぞ、凛太郎!」
「ん」
このまま、負けたばっかでいられねーからな……!
それも、かーちゃんに、なんて……!
「っしゃ、じゃあ早速修行すっかー!」
「……おばさま、宿題してから、言ってた」
「えぇ〜……? いーって、そんなの。
宿題なんて、まっだまだ日にちあるんだしさー。
最悪、出すときに持ってくんの忘れたってことにすりゃ、さらに次の授業まで時間が出来るし!」
オレがそう言い張っても、凛太郎はなんか「ダメ」って言いそうな雰囲気だ。
でもなー、せっかく凛太郎も泊まりに来てるのに、宿題とかやってらんねーしなー……。
――っと、そうだ!
こーゆーときは、話題を変えちまおう!
今のオレたちには、宿題なんかより、もっと大事なことがあるんだしな……!
「……そー言やさ、凛太郎。
ドクトルばーさん、やっぱり魔法で眠らされてたって話、聞いたろ?」
「ん」
昼間、凛太郎といっしょのとき、師匠から受けた連絡で、ドクトルばーさんが病気なんかじゃなかったことを教えてもらったんだけど……。
じゃあオレたちにも何か出来ることあるかな――って思っても、師匠からの指示は特になかった。
一応、「手伝ってもらうことが出来たら、そのときは頼む」って言ってくれたけど……。
やっぱり師匠、こーゆーのに、オレたちをなるべく関わらせないようにしてるって思うんだよな。
そりゃあさ、オレたちなんて未熟だし……。
足手まといにだってなりたくねーけど……。
でも、ドクトルばーさんの入院とか、千紗ねーちゃんのことで師匠たちもいそがしーだろうし……オレたちでも、なんか役に立つことがあるはずなんだ。
そう、たとえば……。
ドクトルばーさんに魔法をかけた犯人の手掛かりを探す、とか!
で、そのことを、凛太郎に話してみると……。
やっぱり凛太郎も、何かしたいって気持ちはあるみたいで――「ん」って力強くうなずいてくれた。
「それなら……。
あんまり聞かないようにしてた『声』、聞くようにしてみる。ちょっと」
「……『声』、って……。
――あー! あれか、テンが言ってた、凛太郎の才能!
えーっと、なんだっけ……確か……チャーハン?」
オレが首を傾げると……テンが素早く頭に乗っかって、おでこを突っついてきた。
あだだ! いってーなあ、もう……!
《メシ炒めてどーする、このド阿呆! 〈巫覡〉じゃっつの!
――しかし……。
うむ、あれは確かに情報を収集するには便利な能力かも知れんが……。
『声なき声』を聞くというのは、なにかと負担が大きいはず。
あまりムリはするでないぞ、凛太郎?》
「ん。ほどほどで」
「おう、そーだな。ここで凛太郎がムリして倒れたりしたら、それこそ『トンカツ弁当』ってヤツだもんな!」
《……本末転倒、な。
アーサー、お主はやはりまず宿題やっておれ……》
テンが、すっげえタメ息混じりにそんなこと言うけど……。
やっぱ、ンなことしてる場合じゃねーもんな!
つーわけで……!
「っし、ンじゃ……!
オレたちで、なんか手掛かりつかんでみせるぜ!」
「おー」
オレが拳を突き上げるのに合わせて……。
凛太郎も、いつもの無表情のまま――でも、やる気を見せて。
いっしょに、拳を上げてくれた。
――よーし、やってやるぜ……!
「でも、捜査、明日から。
ゆえに今日、宿題。明日の分も」
「え――ええぇぇぇ〜〜……?」