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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
21章 苦難の先に道を見出す者と、苦難こそが道と信じる者と
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第301話 しっかり者に天真爛漫な妹たちと、優しいお姉さんと −2−



 ――千紗(ちさ)さんが作ってくれたお好み焼きをみんなでおいしくいただいて、楽しく過ごした晩ごはん……その後は。



 お兄やハイリアさんが、ママやパパと〈(あま)()〉のお仕事に行ったので……。


 あたしとアガシーは、居間で、千紗さんに宿題を見てもらうことになった。



 アガシーは、ゲームで遊ぼうって考えてたみたいだけど……それなら、お兄やハイリアさんもいるときの方がいいと思ったから。


 ……とはいえ、いっつも、めんどくさがって宿題は後回しにするアガシーは、けれど実際は頭良いから、教えてもらわないとダメって問題なんて基本的に無くて……。


 だからむしろ、教えてもらうのはあたし一人だった。


 でも、そんなあたしはあたしで、一応それなりにマジメに勉強してきてるし、そもそも小学生の宿題だから、そこまで難しいものでもなくて。



 結局は、『お姉さん』といっしょに、ゆったり宿題を進めつつ、お菓子を摘まみつつ、のんびりお喋りしてる……って感じになっていた。



「――そう言えば千紗さんも、小学校の頃、自由研究とか宿題に出ました?」


「うん、もちろんあったよ。

 けど正直、ニガテやったなあ……何したらええか分からへんくて」


「あ、やっぱりあったんですね!

 でもそうなんです、あたしも何したらいいか、いっつも困って……」


「そうやんね〜……。

 ――そうや、アガシーちゃんは?

 外国やと、むしろ教育の方針的に、そっちの方向に力を入れてそうやけど……」



「わたしですか?

 う〜ん……宿題って形ではなかったですけど……。

 自主的な研究、って意味なら、やってたと言えなくもないかもです。


 ――ん〜……なんて言いますか……。


 そうですねえ……絵本や小説といった物語はもちろん、論文っぽいのとか、単なる書類みたいなものまで……いろんな書物を、そりゃもう手当たり次第に読みふけって……。

 で、そーゆーので得た知識を下敷きにですね、ガラクタ同然の落とし物とか拾い物とかを集めて……そこから、『自分とは違う世界』を生きる人たちの生活とか、アレコレ想像したりしてました!」



「へぇ〜……なんか、スゴいね……!

 アガシーちゃんて頭も良いし、文化人類学の研究者とかになれそう……!」



 千紗さんは、アガシーの答えに感心しきりって感じで目を輝かせてるけど……。


 お兄から聞いて、今のアガシーの答えの本当に意味するところを知っているあたしとしては……ちょっと切ないような気分になってしまう。



 ……だってそれは、アガシーが、〈剣の聖霊〉としてのお役目を――それを全うすることだけを考えて、生きていたときの話だから。



 そう……お役目に縛られて、閉じた小さな世界の中だけでずっと過ごして……。

 でも、外の広い世界に憧れて……。

 近くに迷い込んだ人間たちの持ち物から、外の世界を夢想するだけだった――。


 そんな、外の世界で生きることなんてムリだと諦めて、想像だけで満足だって、自分に言い聞かせていた――哀しいころの話だから。



 でも……それを、こうして何気なく話せるってことは……。


 アガシーにとっては、もう、ツラいばかりの記憶じゃないのかも知れなくて。



 もしそうなら、その理由の1つに……。


 こうして、こっちの世界で『赤宮(あかみや)シオン』として生きるようになったから――あたしたちと生活するようになったから、っていうのも……あったらいいんだけどな。



「ふふふ……実はですね、この赤宮シオン!

 こう見えて、昔はけっこーな引きこもり軍曹だったのです!」


「へえ〜……そうやったんや……。

 今のアガシーちゃんからはゼンゼン想像つかへんけど……」



「そこはそれ……自ら封印を破り、禁断の力を覚醒させてしまいましたからね……!

 そう、まさに男子三日会わざれば――というやつです!」



「なにその厨二設定。

 ――てか女子だし。意味わかんないし」



 アガシーのノリだけ発言に冷徹にツッコミを入れつつ……あたしはテーブルに広げたおやつから、〈たけのこの里山〉を摘まんで口に放り込む。



 ……ちなみにこの〈たけのこの里山〉は、兄弟的存在の〈きのこの山里〉と、『山が先か里が先か』――と、どっちが好きかでとにかく日本中で論争が絶えない、チョコのお菓子だ。


 うちも、お兄とママがきのこ推しの『山派』で、あたしとパパがたけのこ推しの『里派』なので、昔からよく揉めてきたけど……。


 千紗さんを見る限り、さっきから手を伸ばしている比率は明らかにたけのこが多くて――。



 ふふ……やったね。

 これは、上手くすればお兄も『里派』に引き込めるかも。



 そうなれば、断然『里派』が優勢になって……。

 お買い物のとき、山と里を五分五分で買い揃えるしかなかった今の比率を、里寄りに出来るってことだ……!


 あ、ちなみにだけど、アガシーとハイリアさんは日和見の『どっちでも派』だから、この論争においては毒にも薬にもならないんだよね……。


 ……と、『山が先か里が先か』はともかくとして――。



「それで、千紗さんは小学校のころの自由研究、どんなことやってたんですか?」


「え、ウチ?

 う〜ん……そんな特別面白いようなことはしてへんと思うよ……?」


「でもでも、すっごい興味あります! 聞かせてほしいです……!」



 ――アガシーは、実際の年齢で言えばずっと年上なのかも知れないけど、実質妹みたいなもので……。


 だから、ちょっとだけ年上の、そして性格的にもいかにも『お姉さん』な千紗さんと、こうやって気兼ねなくアレコレおしゃべりするのは、本当に楽しくて。



 あたしも、ついつい、自然と甘えてしまっていて……。



 そして気付けば、そんなあたしをアガシーが「じーっ」って……わざわざ口に出して言いつつ見つめていた。



「うーむむぅ……。

 なんか、チサねーさまを前にしてのアリナの無邪気っぷりが、いかにも小学生なのですよ……!」


「そ、そりゃ実際、あたしは小学生なんだからね!

 ――てか、なにアガシー? あたしが老けてるって言いたいわけ……?」


「まさかまさかであります!

 むしろアリナは小っさくて最高にかわいらしいであります! じゅるり!」


「口でじゅるり言いつつ敬礼するな、このゲス軍曹」



 あたしとアガシーが、流れでまたいつものやり取りをしていると、千紗さんも楽しそうにくすくす笑ってくれる。



「ホンマに、2人ともいっつも仲ええね。

 再従姉妹(はとこ)どころか、ホンマに姉妹みたい。

 ……ウチ、そういうのってついついうらやましくなるねんなあ」



 そんな千紗さんの発言に、アガシーはポイと口に入れた〈コアラたちの進軍(マーチ)〉を勢いよく噛み砕きつつ、拳を振るって力説する。



「なーにをおっしゃいますやら少佐!

 同じ釜のメシを食った我らは、もはや戦友!

 そして戦友とは、血よりも濃い絆で結ばれておるのでありますよ!

 ……つーわけで、我らもまた既に『姉妹』なのです!

 つまりファミリー! むしろシシュター!」



「噛んでる噛んでる。シスター、ね。

 シシュターて、そんな新手の宇宙怪獣みたいな。

 ――まあでも、いいこと言うじゃない、アガシー」



 アガシーの頭をぽん、と叩いてから……千紗さんへと笑いかける。



「前にも言いましたよね、あたし、『千紗さん以外がお姉ちゃんはイヤだ』って。

 ……それ、今も変わってませんから」



「……亜里奈(ありな)ちゃん、アガシーちゃん……。

 うん、ありがとう……。

 そんな風に言ってもらえて、ホンマ、嬉しいな……」



 千紗さんはあたしたちに、すっごい優しい笑みを向けてくれた。


 それだけで……あたしたちも、すっごい嬉しくなる。



「うんうん、アリナ、成長しましたねえ……!

 ちょっと前まで、『お兄に近付くなんて、この泥棒猫!』とか言ってたのに……」


「言ってません!

 それ、あなたが勝手に妄想してただけでしょーが!」




 ――それから。


 時間も遅くなってきたし、千紗さんも疲れてるだろうから、もうお風呂にしようってなったんだけど……。



「では、わたしがねーさまのお背中を流しましょう!

 ……ええ、そのきめ細かい白魚のような玉の肌をこの手で……! ぐへへ」



 言い方はともかく(デコピンで悶絶させたけど)、アガシーが先にそう言っちゃったし、千紗さんも――。



「うん、ほんなら、アガシーちゃんの背中と髪はウチが洗ったげるな?」


 って、乗り気だったから、2人はいっしょにお風呂に入ることになった。



 ……実はあたしも、千紗さんといっしょに入りたかったなあって思うんだけど……。


 さすがに、うちのお風呂は3人で入るには狭い。



 だから――次の機会はあたしだからね、とアガシーにクギを刺しておいて、今回は譲ることにした。



 で、やっぱりっていうか、案の定っていうか……。



 アガシー、千紗さんとお風呂入るのに前のめりになりすぎて、着替えを用意するのを忘れてるみたいだから……。


 部屋から下着とパジャマを持ってきて、脱衣所に置いてあげる。



 そうして、そのことをお風呂の方に報せてあげれば――。



「……おおぅ! わっすれてましたーっ!」


「――あ! ちょ、アガシーちゃん、まだアカンて!」



 髪か身体を洗ってもらってる最中だったのか、千紗さんの制止の声を振り切って……アガシーがガラッと豪快にガラス戸を開ける。



「いやー、さっすがアリナ! ありがとうございまっす!」



 湯気の中、最敬礼を向ける笑顔のアガシーは……全身あわあわだった。


 ……うん。いろいろアウト。

 コレ、おばあちゃんが見たら「はしたない」ってお説教コース確定だね。



「だーかーらー……!

 せめて、スキマから顔を覗かせるだけにしなさい、っての!」



 で、もちろん、そんなおばあちゃんにしつけられたあたしも、この暴挙を見逃すわけにはいかないので……。


 渾身のデコピンを食らわせてから、お風呂に押し返してさっさと戸を閉めた。



「……もう〜、やからアカンて言うたやん……」


「えへへー、ゴメンナサイです」



 お風呂からは、千紗さんにも怒られてる声が聞こえてくる。


 でもそれも、すぐに、髪がキレイだとか、肌がツルツルだとか、楽しそうな会話に変わっていって。



 ときどき、アガシーの「ぐへへ」ってゲスい笑いと、千紗さんの困った声がするあたり……。


 詳しくは何してるんだか知らないけど、お風呂上がったらもう一度デコピンを食らわせる必要があるな、とも思いながら。


 同時に、あたしは――。



 あたしたちが、こうしてすごく楽しいように……。


 これで、千紗さんも楽しんでくれてるなら……。

 少しでも励まされてるなら、安らぎを感じてくれてるなら……。



 それならいいんだけどな――って、そんなことを考えていた。






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― 新着の感想 ―
[一言] アガシーさんの身の上話にまったく嘘がないの、好きですよ! ……日和見でごめんなさい。
[一言] 『里派』に一票です!w 皆さんの感想も面白くて笑ってしまいました。
[一言] 嗚呼、一人仲間外れは可哀想と思いながらも、ここで一歩引かすのがキャラ設定がしっかりしている所だなーと思いました。
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