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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
3章 勇者にテスト、妹に魔王
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第28話 勇者と彼女と勉強会と……?



 ――勉強会は、拍子抜けするほど真っ当に、ちゃんと『勉強会』していた。



 イタダキやおキヌさんあたりに面白おかしくされるか、ドクトルさんに無理難題を(主に俺が)吹っかけられたりするんじゃないかって思っていたが……ゼンゼンそんなこともなく。


 集まったメンバーの中で、成績が特に良い鈴守(すずもり)(まもる)をメインの教え役にして、各々、苦手な教科、分からないところを、お互いに教え合ったりする感じで進められた。



 で、ドクトルさんはと言うと……。


 基本的には俺たちに干渉せず、もはや武器なんじゃないかと錯覚しそうなほど分厚い、何かの専門書らしい本を(片手で)開き、コーヒーを飲みつつ読みふけっている。


 だけど、俺たちだけでは難しいところがあったりすると、そのつど丁寧に、分かりやすく助言を与えてくれた。



 けれど、あくまでその程度だ。



 当たり前のことだけど、「人に教えるということは、教える側にも勉強になる」わけで……。


 ドクトルさんが、まずは俺たちが互いに教え合うことで、この場の全員にとってちゃんとした『勉強』になるように――と、配慮してくれているのが良く分かった。



 まあ、もちろんそれだけじゃなく……何せ、これだけ威厳と迫力のある人だからな。


 同じ部屋にいるだけで、空気が引き締まってるって面もあるだろう。



 特に、俺にとっては――。



「……うん、言うほど悪くないよ、赤宮(あかみや)くん。ちゃんと出来てる」


「そっか? でもそれは、鈴守が教えてくれてるお陰だよ、ありがとな」



 ――そう。


 俺の隣で、鈴守がほぼ付きっきりで教えてくれるこの状況……ドクトルさんがいなきゃ、自分で言うのも何だが、デレデレになっちまって効率最悪だったことだろう。



 この嬉しいシチュエーションを満喫出来ないのは残念極まりないけど……。


 まあ、テストを無事に乗り切ったら、また――というか今度こそ、ちゃんとデートすればいいだけだしな!



《もしかして次は、エイリアンが襲撃してきたりするんですかね?》


(いや、頼むから、そういうフリはやめてくれマジで……。

 てか、楽しそうに言うんじゃねえよ!)



「……さて、と……!」



 俺が、いらんことを抜かすアガシーに脳内で思い切りツッコんでいると――。


 ドクトルさんが、わざとらしく大きな音を立てて本を閉じる。



「そろそろ2時間になるな。

 みんな良く頑張った、ダラダラやったところで効率は悪いし……いったん息抜きを挟もうじゃないか」



 ドクトルさんに言われて、みんな、思い思いの返事をしながら緊張を解いた。


 途端に部屋の空気がゆるむ中……ドクトルさんはさらに、一つの提案をする。



「で……だ。

 せっかくだし、ゲームでもしないか?」



 ……な、なんだ?


 ドクトルさん、すごい笑顔で言ってるのに……イヤーな予感がするぞ……。



「頭を使ったあとは、身体を動かすのがいい。

 ――というわけで、だ。

 上に行けばリングもあることだし、いっちょ、このドクトル・カリヨンと一勝負――」



 ……ドクトルさんの視線はしっかり俺に向いている。



 おいおい、マジかよ……と思ったら。


 俺の隣で、ドクトルさんとは対照的に冷たい目をした鈴守が、実の祖母をジトーッとニラみ付けていた。


 しかし当のドクトルさんは、含み笑いで難なくそれを受け流す。



「……と、言いたいところだが……まあ、さすがに無茶な話だからな。

 そこで――ここはひとつ、アタシと腕相撲とかどうだい?

 勝った子には、ご褒美を進呈しようじゃないか?」



「おばあちゃん……元プロレスラーがなに言うてんの。

 そんなん、ウチら勝てるわけないやん」



「もちろん、ハンデはつけるさ。

 ――まず、女の子は全員総掛かりでいい。当然、両手もアリだ。

 千紗(ちさ)、それなりに鍛えたアンタまでいるんだ、それなら勝機もあるだろう?」



 俺は、チラリと鈴守を盗み見る。



 ……そう言えば鈴守って、成績はもちろん、運動神経の方も相当良いんだよな。


 今にして思うと、おばあさんがこれならさもありなん――か。



「……おキヌさん、鈴守って、力も結構強かったり?」



 成り行きを見守るおキヌさんに、そっと尋ねてみる。



「外見通りで、強い、ってほどじゃないと思うけどねー。

 あ、でもアタシ、足をちょっとひねったとき、保健室までお姫さま抱っこしてもらったかなー」



 ふむ……。

 小柄な鈴守が、さらにちっさいおキヌさんをお姫さま抱っこしてる光景……。



 ………………。



 なんだろう。なんか、すげえほっこりする……。


 うむ――アリだな……!



「なんだ赤みゃん、アタシみたいなちょ~っとばっかり小柄な女子でも、お姫さま抱っこ出来ちゃうなんて……怪力女だ、ってヒいちゃうとか?」


「は? まさか、ゼンゼン気にならん。

 ……というか、むしろさらにホレた」


「それを真顔で言うところがさすがだねえ、赤みゃんは」



 ……そんな風に、俺がおキヌさんとヒソヒソ話している間にも……鈴守はドクトルさんに、今度は男子のハンデについて尋ねていた。



 どうやら、女子全員を相手にして、さらに男子まで全員同時はさすがにツラいと、男子については代表者一人と一騎打ちってことになったようだ。


 ドクトルさんのメインターゲットは……まあ、十中八九俺なんだろうが……それはさておき、一応、その代表者は、男子同士で勝負して決めるらしい。



 つまり、イタダキや衛に負けるようならそもそも論外、ってところか……。



「それで、肝心要(かんじんかなめ)のご褒美だが――」



 ぐるりと全員を見回し、もったいをつけるドクトルさん。



《おお……なんでしょうねえ!

 科学者ってぐらいだから、変身ヒーローにでも人体改造してくれるとか!?》


(どんだけの科学力だソレ。

 つーか、モロ犯罪だしむしろペナルティじゃねえか……)



「……まず女の子には、昼間に買っておいた、世夢庵(せむあん)の抹茶プリン、〈エメラルドソード〉を進呈しよう! そう、数量限定のあのエメソーだ!」


「おおっ、エメソー!? あの幻の!」



 おキヌさんと沢口(さわぐち)さんが沸き立つ。


 鈴守は――おや、表情こそ硬いままだが、唾を飲み込んだぞ。



 ……もしかして、大好物――なのか?



 うむよし、いい情報をゲットした……! 覚えておくべし!



「女の子には、って……ほんなら、男の子には……?」



 鈴守の当然の疑問に、ドクトルさんはスマホを取り出し、ニヤリと笑う。



 ……あ、ヤバい……!

 アレはなにかを企んでる人間の顔だぞ……!



「思春期男子のご褒美に、スイーツもないだろう?

 そこで……だ。

 男子諸君、見事アタシに勝ったあかつきには――」



 ドクトルさんはこれ見よがしにスマホを振る。



「昨日アタシが撮影したばかりの、千紗のちょ~っとだけ恥ずかしい秘蔵写真をお目にかけようじゃないか」


「ンなぁ――――ッ!?」



 実の祖母のトンデモ発言に、文字通りに絶句する鈴守。



 一方――ド阿呆のイタダキに、こんなところまで付き合いが良い衛、さらにはなぜか女子勢までが、「おおー!」と歓声を上げた。いや、アガシーもか。



 ……え、俺?


 俺は……うん、そうね……。



 ……………………。



 そりゃもちろん、見たい! 決まってるだろ!?


 けど、それ以前に――。



 他のヤローどもには、鈴守の恥ずかしい姿とかゼッタイに見せられん……!


 ゆえに――勝つ! 何としても!!



(ふっふっふ……今こそ、俺の勇者の力を発揮するときだな……!)



《ちょっと勇者様、そりゃわたしも見たいですけど、くれぐれもやりすぎないで下さいよ?

 ……てか聞いてます? おーい?》




 どうだ?――と、挑発するようにドクトルさんが俺に視線をやる。



 俺は、それを真っ向から見返しながら……拳を握り締めていた。






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― 新着の感想 ―
[一言] 彼女の恥ずかしい写真を他の連中に見せられっかー!! ウガー!!
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