表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
20章 登校日の、いつも通り?――な勇者たちと、美魔女の責務
290/367

第288話 それこそが美魔女の責務、それこそが黄金の勇者の信念



「僕が……エクサリオ?

 ドクトルさん……それ、何の冗談です?」



 ドクトルさんの口調も、そして雰囲気も――。


 僕がエクサリオだという指摘……それが単なる憶測とか、ましてや冗談なんかじゃないってことは、充分に物語っていた。



 だけど僕は、ひとまずはとぼけてみた。

 ドクトルさんの様子を窺う意味でも。



 それに対して、当のドクトルさんは――



「……妙だと最初に思ったのは……小学校での、魔剣との戦いの後だ」



 僕から一旦視線を外し、前を向いたままシートに背を深く預けて……そう切り出した。



「あの小学校では結界があまりに強固かつ複雑で、内側で何が起こっているのかは、こちらではモニター出来なかった。

 そして後ほど、能丸(のうまる)として参戦していたキミは、破損した変身スーツとともに、『小学校内の戦いでダメージを受けたので離脱した』という報告を上げてくれたな」



「……はい」



「……ところが、だ。

 そもそもの、そのスーツの破損というのが……修理のために詳しく調べてみると奇妙だった。

 アタシは科学者だ、こういうとき、破損に至った状況や敵、その攻撃方法などなど、次に活かせるデータを様々な方向から検証するわけだが……。

 簡潔に言ってしまえば――それまで何度もあった戦いでデータ収集した〈呪疫(ジュエキ)〉の攻撃では、あんな壊れ方をするはずがない……という結論に至ったんだ」



「でも……〈呪疫〉と呼ばれる存在のすべてが、完全にデータ化されているわけでもない……でしょう?」



「もちろんそうだ。

 だから、あるいは〈呪疫〉がこれまでのデータに無い攻撃を仕掛けた可能性もある――と、一応は結論付けた。

 そもそもアタシだって、自分がスカウトした――しかも千紗(ちさ)の友人でもあるキミのことは、わざわざ疑ったりはしたくなかったからね。

 それに、その時点では……たとえウソだとしても、キミがそんなウソをつく理由がハッキリとしなかったわけだし。

 しかし……どうにも腑に落ちないのもまた、事実だった」



「…………」



 僕は、無言でドクトルさんの次の言葉を待つ。


 ……車の空調の音が、やけに大きく聞こえる。




「そして……スーツの修理を進める過程で、データを改めて検証すればするほど、なおさら〈呪疫〉によるダメージとは思えなくなってきてね。

 加えて言えば、破損具合から逆算した場合、最も確率の高いダメージの受け方が、『着用者本人による攻撃』だと判明したんだよ。


 そしてもし、スーツの破損がキミ自身の手によるものなら……。

 キミはそもそも、それだけの――能丸としてのものとは違う『チカラ』を有していたことになる――」




「なら……僕はクローリヒトとか、他陣営の関係者の正体……あるいは、これまで〈世壊呪(セカイジュ)〉を巡る戦いに顔を見せていない別の何者か……の可能性もあるんじゃないですか?」



 なおも反論を続ける僕に、けれどドクトルさんは面倒がったりせずちゃんと対応し――首を横に振った。




「……覚えているかい?

 小学校での戦いに移行する前、キミらは河川敷で大量の〈呪疫〉を相手にしたが……そこに、〈世壊呪〉を巡って争う主要なメンバーは出揃っていたんだ。


 あの場にいなかったのは……サカン将軍とエクサリオの2名のみ。

 だが、サカン将軍は娘までいる年齢だ……自然とキミの正体の候補からは外れる。


 そして、キミがエクサリオであるなら――。

 小学校で、わざわざスーツを自ら破損させて、中途での離脱という『理由』を(かた)ったのがなぜかも説明出来る。


 そう――改めてエクサリオとして参戦するためだ、とね」




「……なるほど」



 ……つまり、正体を知られないように、って小細工が、逆に首を絞めた形ってわけか。


 まったく、安っぽいミステリーじゃあるまいし……。




「しかし、それでもまだ憶測の域は出ない。キミが言ったように、これまでまったく関わってこなかった第三者――という可能性もまた、僅かでも存在する。


 だから……変身スーツに、修理する過程で1つ、機能を追加しておいたんだ。


 キミの戦闘中の霊力の――強弱ではなく、波形のようなものを、詳しく記録、データ化する機能……といったところか。

 カンタンに言えば、魔術的なDNA検証のようなものだ。

 今日、キミに単独で出動してもらったのも、その詳細なデータを取るためでね。


 そうして得られたデータは――。


 昨日、シルキーベルがクローリヒトをかばい、エクサリオの攻撃を至近で受け止めたことで、偶然得られたものと……一致したよ」




「…………そう、ですか…………。


 うん――。

 やっぱり、スゴい人だったんですね……ドクトルさんって」




 僕は苦笑混じりに、大きく大きく、息を吐き出した。



 冗談でも、皮肉を言ってるわけでもない。

 それは本気の称賛だった。



 うん……まさかこんなところから、こんな風に正体がバレるなんて、思ってもみなかったなあ……。



 そんな風に、比較的余裕をもって感じ入る僕は……そう、さほど慌ててもいなかった。



 なぜなら――。

 これが、〈世壊呪〉を巡って敵対している陣営だというならともかく……。



 僕は――エクサリオでも能丸でも、『〈世壊呪〉を滅ぼす』というスタンスは変わりなく……。

 そしてそれは、ドクトルさんとシルキーベルの理念に最も近い位置にある、いわば同盟のような関係にあるからだ。



 だから、正体を知られたからといって、驚きはしても慌てる要素はそもそも無かったと言える。


 ……だいたい、ドクトルさんはまず、能丸としての僕を知っているわけだしね。




「それで、ドクトルさん。

 僕がエクサリオだとして……どうされるんですか?」



 僕の問いかけに……ドクトルさんは渋面とともに、頭を掻いた。



「そう……そこが一番の難問だな。

 だが、これは……アタシにとって、恐らく責務ってやつなんだ。

 何よりも、年長者としての……な」



「…………」



 考えられるのは……僕の正体を知っていることを1つのアドバンテージとして、改めて今後の協力を要求する――ってところだろうか。



 場合によっては、『正体』は脅しにも使えるだろうけど……ドクトルさんがそんな人間じゃないのは分かりきってることだし……。


 第一、もともと理念が近く、明確に敵対していたわけでもないんだから、そんな真似をする理由も無い。



 あとは……まあ、ドクトルさんの科学者としての好奇心のために、異世界の〈勇者〉がどういうものか科学的に検証させてくれ――とか?


 それについては、程度の度合いによりけり、ってところだけど……。




 ……そんな風に、いろいろと考えながら答えを待っていると……。



 ドクトルさんは、一つ深呼吸してから……こちらを向いた。




国東(くにさき)くん……。

 キミには、改めて、シルキーベルに力を貸して欲しいと思っている」



 うん……まあ、やっぱりそうなるよね。



「ええ……もちろん。

 もともと僕も、世界に(あだ)為すという〈世壊呪〉を滅ぼし、平穏を守る――そのために協力してきたわけですから。

 だから、これまで通りに――」



「……やはり……そう捉えるか。

 だけどね……そうじゃないんだよ」



「……え?」




「……昨日の、キミ、シルキーベル、そしてクローリヒトのやり取りについては、アタシも記録から聞いて把握している。

 その上で、お願いするんだ。


 ――今のシルキーベルにこそ、協力してあげてほしい……とね」




 ドクトルさんの答えに……僕は、反射的に眉をひそめてしまっていた。




「それは、つまり……。

 クローリヒトの口車に乗って、世界を守る者としての覚悟を決められずに迷っている……そんなシルキーベルの考えを支持しろ、ってことですか?


 何があろうと災いの芽を摘み取る――そのための犠牲から目を背ける弱い心を、慈悲と混同するような……そんな主張を認めろってことですか――っ!?」




「――そうだ」



 思わず感情的になってしまった僕に怯むことなく……ドクトルさんははっきりとうなずいた。




「……そもそも、何があろうと〈世壊呪〉を祓え、というのは、シルキーベル個人ではなく――彼女に使命を与えた『組織』の理念だ。

 アタシもシルキーベルも、出来ればより穏当な手段を取れれば、とは常々考えていた。


 そして、シルキーベルは……キミからすれば軟弱に見えたのだろうが、むしろその逆に――より強固な意志をもって、〈世壊呪〉をも救いたい、と……そう考え始めている。


 もちろん、それが本当に正しいのかはまだ迷っているし、そんな態度が、キミの目には覚悟が無いと映りもしただろう。

 ……それについては、実際その通りだからな――今はまだ。


 だが……アタシは、より平和的な解決を見出そうとするその姿勢を認めてやりたいし、助けてやりたいと思う。

 意思持つ存在だという〈世壊呪〉を、その手で祓い滅ぼす……そんなどうしようもない重荷は、出来れば背負わせたくないからだ。


 ――それは当然、国東くん……キミにもな」




 ドクトルさんは、僕に向ける視線を決して逸らさない。


 そして――それは僕もまた、同様に。




「キミは既に、相手が何であろうと、犠牲を(いと)わず目的を果たす――その覚悟を決めているようだ。

 それは確かに1つの安定した解決法だ。そして、キミの望んだやり方でもある。

 しかし、だとしても――それが重荷であることは決して変わらず、きっとキミを今後も(さいな)んでしまうだろう。


 そして、そんなものは……アタシのような老人ならまだしも、キミたち若者が背負うべきじゃない。

 ならばこそ、その力を、それ以外の……より良い方法を模索し、選び取るために使ってほしいと願うんだ。


 ――それに……もう1つ。


 シルキーベルに使命を与えた『組織』は、どうあっても、シルキーベルの〈祓いの儀〉によって〈世壊呪〉を祓いたいらしくてね――。

 独自に〈世壊呪〉を滅ぼそうとするエクサリオを、邪魔者だと見ている節すらある。

 場合によっては、独自にキミという存在を嗅ぎ付け……あらゆる手を使い、その活動を封じようとするかも知れない。


 だから……キミ自身の心の平穏、そして身の安全のためにも。


 その信念を今一度、考え直してもらいたいんだ――どうか、頼む」




 そして、ドクトルさんは僕のような子供に……けれど迷い無くしっかりと、頭を下げる。


 こういうところ……本当に立派な人だよな、と思う。




 ――だけど…………だけど、だ。




「……本当に……残念です。

 ドクトルさん……あなたほどの人が、本当に大事なことを見誤るなんて」



「国東くん……キミこそ、本当に大事なことを見誤ってはダメだ。

 キミ自身の、本当の心から目を背けてはダメだ……!」



 ドクトルさんはなおも真剣に、僕を諭すように……そう告げてくる。




 僕の――本当に大事なこと?


 僕の――本当の心?



 そんなもの――分かりきってる……!






『ずっと……みんなを守る、心正しい勇者でいてね』






 ――あの日交わした約束、胸に刻んだ誓い……それがすべてだ……!



 世界を――人々を守るために、正しく〈勇者〉であるために……!

 何があろうとそれを為す、『本当の強さ』に至るために……!



 僕自身も含め、必要な犠牲を厭わないと――そう、覚悟を決めたんだ――!



 だから――そのためには……!




「……本当に、残念です……ドクトルさん。

 あなたも――僕を邪魔する側に回るなんて……」



「……国東くん――?」



「気付いてましたか? 魔剣の騒動以来、〈呪疫〉の出現は減ってますが……〈霊脈(れいみゃく)〉の穢れの流れは、むしろ加速している節があるんですよ?

 つまり……一見沈静化して見えますが、恐らく……〈世壊呪〉のチカラは、加速度的に増しているはず。

 〈霊脈〉の汚染がなお進めば……近いうちに、〈世壊呪〉は覚醒に至るでしょう」



「ああ……昨日の戦いにおける〈呪疫〉のデータからもそれは推測された。

 〈世壊呪〉に流れる穢れは、収まっていたのではなく――ただ、これまでと形を変えていただけで、むしろ悪化しているんじゃないか――と。

 そして、それによってキミの言うように、〈世壊呪〉の覚醒が近付いているのなら……!

 なおのこと、より良い手段を選ぶために、キミの力を――!」



「ええ、そう……きっともうすぐ、なんですよ。

 だから――」




 僕は、返事の代わりに……。


 異世界で手に入れたアイテムを収納してある、いわば異次元アイテム袋から――手の中に、手品のように一つの〈魔導具〉を喚び出す。



 そして、その小さな三角錐型の琥珀を――そこから放たれる柔らかな光を。

 ドクトルさんの眼前へと差し出した。




「――っ!? これ、は……!

 ……くに、さき……く、ん……っ!?」





「だから……すいません、ドクトルさん。


 今、邪魔をされるわけには――――いかないんです」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 今回も話が動いている。 さすがの黄金勇者。安定の脊髄反射っぷり(笑)。 こういう反応だから、当て馬にしか見えない(笑)。
[一言] 衛ぅ!ドクトルさん、いじめちゃメッ、ですよー。おとなしく言うこと聞いときなさい! …… と、なぜか言いたくなりました(笑) ドクトルさんは本当に、年長者らしいですね。 ちゃんと衛のことも心…
[良い点] ドクトルさんがシルキーベルの祖母だと知らなかったから、詭弁だと切って棄てられなかったところですね。(個人的にけっこう重要) 諦めないことを諦めない姿勢を、とうの昔に捨て去った人間を説得す…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ