表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
20章 登校日の、いつも通り?――な勇者たちと、美魔女の責務
287/367

第285話 黄金の勇者として、魔法剣士としての、彼のお仕事



 ――8月6日、夜。



 今日の『男装女装お披露目会』の最中、少し気になることがあった僕は、白城(しらき)さんに会ってそのあたりを確かめたかったのだけど……。


 結局あの後は、おキヌさんの号令一下、いつものメンツで久しぶりに〈世夢庵(せむあん)〉に行くことになったので、それは叶わなかった。



 まあ、断るって選択肢もあったんだけど……。

 白城さんには、その気になれば〈常春(トコハル)〉へ行けば会えるし、別にいいか――って。



 ……で、みんなと〈世夢庵〉で、お披露目会の反省会みたいなことをして盛り上がり、夕方を過ぎる頃家に帰ってきた僕は……。


 その後、イタダキに借りたゲームとかをやりながら、何となくダラダラと過ごしてるうちに――気付けば、すっかり夜も更けていたのだった。



「……ま、夏休みだし……いっか」



 誰にともなく言いながら、コントローラーを置き……代わりに、安く買い込んでおいた缶コーラを取って、喉を潤す。


 缶表面の結露さえ乾いていたコーラは、当然、すっかり炭酸が抜けきっていた。



 それにしても……こんなの、実家にいた頃じゃ考えられない生活態度だ。



 まあ、別にうちが、ゲーム禁止、コーラは身体に悪いからダメ……なんて、特別厳しい家だったわけじゃないけれど。


 ゲームぐらい普通にやってたし、コーラだって……いつもじゃないにしろ、よく冷蔵庫に冷えてたし。


 ……実はじいちゃん、結構炭酸好きだったってのもあって。



 でも、剣の稽古とかもあったから、ここまでダラダラすることはなかったなあ……。



 今日の晩ゴハンだって、自炊するのが面倒だったから、コンビニで買ってきた弁当で済ませようって思ってるぐらいだし。


 ……っていうか、いい加減、その晩ゴハンにするにも遅い時間だった。



「そう言えば……確かこの前、イタダキと一緒におキヌさんの手料理食べさせてもらったとき、『夏休み中、2回までならタダでゴハン世話してやる』――って言ってたっけ。

 ……今度、お願いしてみようかな」



 おキヌさんが作ってくれた豆腐尽くし料理の、あの絶品と言っていい味を思い出しながら……冷蔵庫に放り込んでおいた、『大盛り牛カルビ焼き肉弁当』を取りに立ち上がった僕の前で。



 折りたたみテーブルの上に置いていたスマホが――着信を告げた。








 ――そして、数分後……。


 魔法剣士〈能丸(のうまる)〉となった僕は、人気の途絶えた緑地公園の一角へとやって来ていた。




 先の電話の相手は、ドクトルさんで――。


 能丸としての僕へ、出動要請が出たからだ。




 ……以前、小学校での魔剣グライファンとの戦いの際……。


 てい良くエクサリオとして活動するべく、能丸はダメージを負ったから離脱する、っていう形にするため、わざと変身スーツを壊したんだけど……。



 その修理が終わって、ドクトルさんから改めて変身スーツを預かったのが、つい先日のこと。


 だから、こうして能丸になるのは……随分と久しぶりだ。



 ――ただ、今回はシルキーベルは出られないとのことで……戦うのは僕だけ、らしい。



 もしかしたらシルキーベルは……昨日、僕のクローリヒトへの一撃をかばったせいで、変身スーツが故障でもしたのかも知れない。


 全力にはほど遠くても、手を抜いたわけでもない一撃だったから――。


 機械的なところもあるスーツだし、それぐらいのダメージは負っていてもおかしくないと思う。



 まあ、さすがに、事実そうだったのかを、ドクトルさんに確認するわけにもいかなかったんだけど。




「……ここ――か」




 昼間なら、家族連れなんかで賑わうのだろう、芝生の広場――。


 そこに、一見してそれとは分からないよう張られた結界の中では……以前にも見た覚えがある虎型の魔獣が、その魔力を使って〈霊脈(れいみゃく)〉を汚染しているところだった。



 僕の本来の――〈霊脈〉の汚染を進め、それによって〈世壊呪(セカイジュ)〉の覚醒を促し、完全な状態で出現したところを滅ぼす――という目的からすれば、その行為はむしろ見逃す方が良いぐらいなんだけど……。



 能丸としての僕は、そうもいかず――単身、虎型の魔獣へと近付いていく。



 すると、そんな僕を遮るように、一筋の光が地面より立ちのぼり――。


 その中から、人影が姿を現した。



 それは、きらびやかな……けれど『戦い』のために作られているのが分かる、戦闘用のドレスに身を包み――。

 真っ白な長い髪をなびかせ、蝶ネクタイをした三毛猫を肩に乗せた……顔には戦化粧を施した女の子だ。


 その子は、右腕に輝く籠手を大きく薙ぎ払い……夜の闇に、光の虹を描きつつ。




「〈魔法王女(マギアレギナ)・ハルモニア〉――降臨(アドヴェンタス)ッ!」




 凜々しく、そう名乗りを上げた。



 ……彼女が、ハルモニア……。

 直接会うのは初めてだけど、彼女のことは、ドクトルさんから情報が伝わっている。


 〈救国魔導団(きゅうこくまどうだん)〉の代表である、サカン将軍の娘……だったか。


 魔獣のチカラのようなものを、あの右手の籠手に宿して戦うらしいけど――。



 さて……いったい、どれほどの実力者なのやら。



 シルキーベルを圧倒出来ていないって時点で、クローリヒトより上ってことはないだろうけど……。


 そのときは実力を見せなかっただけ――って可能性もあるからね。




 ……まあでも、今の僕は〈能丸〉だ――。




 まさかここで本気を出すわけにもいかないし……。

 いつも通り〈弱体化〉の魔法で僕自身の戦力を制限して、適度に戦い、適当なところで敗走するのがいいだろう。


 もとより、魔獣による〈霊脈〉の汚染を邪魔する気はないわけだし……ね。



「……キミがハルモニア――か。話は聞いてるよ。

 僕は、〈能丸〉……シルキーベルの刃として戦う剣士だ」



 シルキーベルの刃――そう、初めは、そのつもりも確かにあった。



 エクサリオとしてであれ能丸としてであれ、シルキーベルは求める正義が近く、純粋に協力出来ると思っていた。



 ……もちろん、ドクトルさんの要請に応じて〈能丸〉になった理由は、それだけじゃなく――。


 その方が、〈世壊呪〉という脅威や他の勢力についての情報が、合理的に得られるだろうことと……。

 あとはただ単純に、何だか面白そうだったから――ってのがある。



 僕だって……小さな頃は変身ヒーローとか、憧れてたからね。



 ……まあともあれ、そんなこんなでなってみた〈能丸〉だけど――。



 世界を守るために、共に戦えると思っていたシルキーベルが……クローリヒトの戯れ言に惑わされるような、まさかの体たらくだ。



 今後も情報を仕入れるために、能丸であることをやめるまではしないけど……。


 シルキーベルが、『世界を守る者』としての覚悟を決めない限りは……率先して力を貸すこともしない、ってところかな。




 どのみち――。

 〈勇者〉なら、僕一人がいれば充分なんだ。


 大切な人たちも、世界も――僕が、〈勇者〉として守ってみせる。




 この手にあるのは、そのための〈チカラ〉で――。


 そして僕こそ、そのための……〈勇者〉なのだから。




 ……そうだ。


 何が障害になろうとも、必ず――この僕が。




「能丸――ね。わたしも話は聞いてるよ。

 ……あなたもやっぱり、世界に災いを為す――そんなチカラを持っている存在は、ただそれだけで滅びるべきだ、って……そんな風に思ってるの?」



 ハルモニアはまだ戦闘態勢には入らず……そう語りかけてくる。



 それ自体は別に構わない、けれど……。


 クローリヒトの言い分を彷彿とさせるその内容には、少し気が立った。




「ただそれだけで――とは言うけれど。

 それが、世界に災いを為すようなチカラなら……むしろ当然じゃないか?


 ――たとえば、キミたちが匿っているという、そこにいるような魔獣が……何かの拍子に、そのチカラを暴走させたらどうするつもりだ?


 それによって被害を被った人に……キミは、どう償うつもりなんだ?」




「……そんなことにならないように、この子たちの居場所を作ってあげるのよ。

 そして、そのために……わたしたちは戦ってる」



 一瞬、背後の魔獣を振り返り、ハルモニアは答える。




「だけど、そのために……キミたちもまた、〈世壊呪〉を利用するつもりなんだろう?

 意志を持っていると聞いてなお、それを犠牲にするつもりなんだろう?


 ――なら……結局は、僕らと同じなんじゃないのか?

 世界の平和を守るために、チカラを持つものを討ち滅ぼそうとする――僕らと」




 僕が冷静に言い返すと……ハルモニアも、毅然とすぐに反論しようとしたものの――。



「…………っ」



 急に、何かに気付いたように一旦それを呑み込み……苦い顔で唇を噛んで。


 一度、仕切り直しとばかり――改めて口を開いた。



 ただし……そこには、ついさっきまでの勢いはなく――。




「……確かに……わたしたちのやろうとしていることも、誰かに犠牲を強いるものかも知れない……!


 だけど……!

 だけど、わたしたちは――!


 わたしたちは、それを、犠牲のための犠牲になんてしない!

 それを……多くの命を守る、そのために……っ!」




 答えるハルモニアの言葉は、どんどん歯切れが悪くなるばかりだった。


 表情からしても……妙に苦しげだ。



 僕と話すことで――何かに思い至るか、何かを思い出したのか。


 そしてそれが――大きな迷いを生じさせたのか。



 ……ハルモニア――。

 ドクトルさんから聞いていた話とは、少し違う印象だな。


 もっと、確たる信念を持っていそうなイメージだったんだけど……。



 まあ、ドクトルさんだって直に会って話をしたわけじゃないんだし、そもそもの遭遇だってそう何度もあったわけじゃないんだから……当然かも知れない。



 取り敢えず、確かなことは……彼女もまた、シルキーベルと同じく。



 自分たちの行いに、相応の覚悟を持てていない――ってことだ。




「多くの命を守るための、必要な犠牲――。


 だからそれが、僕らと同じだって……そう言ってるんだよ」




 ――これ以上、問答をしても仕方がないな……。




 ……ふと、心がざわつくような、妙なイラ立ちを覚える。


 何だろう。彼女の、覚悟を持てていない……その姿勢にだろうか。



 まあいい、とにかく――




「……とにかく――このまま、黙って見ているわけにはいかないな」




 今はただ、ハルモニアの実力を測りつつ、魔獣の〈霊脈〉汚染を見届けるために。



 今は、まだ――能丸として敗北する、そのために。




 僕は、腰に提げた二刀を抜き放つと……構えを取った。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ほうほう、おキヌさんの手料理はお口に合ったわけですな!? そして、次のお約束もほぼできているとな!? いつ頼むの、いつ頼むのー!?(ワクワク) 久々の能丸出場なのに、おばちゃんそっちのほう…
[一言] 久しぶりの能丸登場。 けれども負ける(笑)。 弱体化という設定だとは思いませんでした。
[一言] >だから、こうして能丸になるのは……随分と久しぶりだ。 読者「確かに」 この世界では、フラグが立ってる者同士は、敵として邂逅しなきゃいけない運命にでもあるのかな!?(爆)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ