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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
20章 登校日の、いつも通り?――な勇者たちと、美魔女の責務
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第282話 その乙女は今日も、威厳をもって少年少女を見守っている −1−



 ――生命(いのち)をもたらし、生命を育み、生命を還す、大いなる風の王……。


 それが何者かと言えば、そう、この(ワシ)――〈霊獣〉ガルティエンである。



 つまりは偉大である。わりとエラいんである。

 しかもその上、うら若き乙女でもある。

 さらにさらに、擬態した姿は、実にらぶりーなインコ(っぽいの)なのである。


 そんな、なにかとスゲー儂ではあるが、ザンネンながら万能とまではいかず……。



 ゆえに、この真夏のクソったれな暑さには、やはり辟易(へきえき)させられるのだ――。



 ………………。



 ……いや、だって、霊獣でも暑いのは暑いんじゃもん! 悪いか!




 しかし……そこへ来て、この世界の学舎(まなびや)というのは、実に快適であるよな。



 外は夏真っ盛り、その暑さたるや、アスファルトの上にでもいようものなら、儂のように繊細な鳥系乙女はリアル焼き鳥まっしぐらなほど――じゃが。



 ……にも関わらず、エアコンなる文明の利器の効いた教室の、まあ涼しいことよ……極楽極楽。



 いやまあな、エアコンなら、我が主アーサーの部屋にもちゃんと備え付けられてはおるのじゃが……。

 あれ、イマイチ効きが悪いし、そのくせ少々うるさいんじゃよなあ……。


 ならばと、アーサーを通じて、母君に買い換えてくれるよう進言したところで……交渉役があの悪ガキでは、「勉強してから言え」と、脳天にゲンコツを1発落とされて終わりじゃろうし。



 ……と、いうわけで。



 今日のHRも終わったことであるし、アーサーが「すぐ帰る」と言い出してもおかしくなく――。


 しかしそうなったら、「もう少し涼ませろ」と駄々をこねるつもりであった、この儂、偉大なる霊獣ガルティエンであるが……。



 幸いにして……というか、アーサーにはまだ帰る気はなかった。



 教室には他にも、亜里奈(ありな)凛太郎(りんたろう)見晴(みはる)……と、いつもの面々が揃っておって。


 皆して、担任教諭の喜多嶋(きたじま)夏子(なつこ)と聖霊を待っている――と、そんな形だ。



 ――以前、そう、約1ヶ月前……このメンツが、喜多嶋教諭の図書室整理を手伝ったらしいのじゃが……。


 そのお礼がまだ出来てなかったからと、メンツがきれいに揃うこの日に、約束のコンビニスイーツなるものが振る舞われることになり……。


 喜多嶋教諭は、荷物運びの手伝いに立候補した聖霊を連れて、その買い出しに行った――というわけなのだ。



 ……思えばその日は、儂としても感慨深い日である。



 何せ儂が、アーサーと主従関係を結び、この大いなるチカラを貸し与え――。


 それによりヤツが〈烈風鳥人(れっぷうちょうじん)・ティエンオー〉という、もーちょっとネーミングなんとかならんかったんか……と、苦言を呈したくもなる存在に、初めて変身した日――なのじゃから。




「……にしても、アレ、みーんな見てたなんてなー……」



 机の下に入れた足でバランスを取りつつ、椅子に大胆にもたれかかり……前脚を浮かせてゆらゆらと揺らしながら、アーサーがつぶやく。



 ちなみに、アーサーの言う『アレ』とは……。


 先日、ここにいるメンツで行ったプールでのイベント……ウォーターサバゲー〈アクアアサルト〉の動画のことである。



 どうやらあのとき、嬉々として観戦側に回っていた見晴は、自分でも動画を撮影したうえに、主催者側の公式動画も添えて、クラスの友人に広めまくっていたらしく……。


 それをしっかりと視聴したクラスメイトから、特に最後に壮絶な一騎打ちを繰り広げたアーサーと聖霊は、登校日の今日、ちょっとした有名人のような扱いを受けた――というわけなのだ。



「……そんなこと言って……満更でもなかったんじゃないの?」



 ちょっと意地悪な口調で、アーサーにそんなツッコミを入れるのは亜里奈。



 うむ確かに、アーサーめ、「カッコ良かった」「スゴかった」という男女両方からの称賛に、わりと気分良さげに、調子ブッこいた対応してやがったからのう……。


 ジャリ坊のクセに……というか、ジャリ坊だからこそ、じゃろうが。



 あ〜……いやしかし、態度と言えば、聖霊も……。



「ふははは!

 何せわたしはJS界のピースメーカーですからね! 当然なのです!」



 ……とか、調子に乗りまくっておったからのう……ある意味いつものことじゃが。



 まあ、精神年齢が同レベル、といったところか。



 ちなみに、亜里奈や凛太郎ももちろん、活躍している場面が一部とはいえちゃんと動画に出ておったので、アーサーたちほどではないにしろ騒がれたのじゃが……。



 亜里奈は、「運が良かっただけだよ」と笑顔は朗らかに、しかしクールにそつなく対応――。


 凛太郎に至っては、概ね「ん」の一字と首振りだけで乗り切っておった。




 ……で、である。


 それだけなら、アーサーは今でも調子良く騒いでいてもおかしくなさそうじゃが……ご覧の通り、場はむしろ静かと言っていいほど。



 まあ、クラスメイトに騒がれたのはあくまで朝のことで、その後全体集会にHRと、時間が空いたから――というのがあるし……。


 ちょうど今、一番賑やかな聖霊が、喜多嶋教諭の買い出しに付き合っていてこの場にいない、というのもあるが……。



 恐らく、亜里奈が『満更でもなかったんじゃないか』と問うたのは、むしろアーサーが現在進行形で調子に乗らずにいる――そっちの方の理由についてじゃろう。



「べ、別にそんな風に思ってねーし!

 大騒ぎされて、ちょっとメンドいなーってぐらいだし!」



「ふーん……? ま、いいけどね」



 ちょっとムキになって言い返すアーサーを、亜里奈は意味ありげに受け流す。



 そしてそんな2人に対し……。



 凛太郎はいつものごとく我関せずの態度で(しかしきっとキッチリ話は聞いておるハズ)、無表情に『世界のジョーク集』などという、宇宙一こやつに似合わぬ本を開いておって……。


 見晴はと言えば、ニコニコと超朗らかに、聖女のごとき笑みを浮かべながら、やり取りを見守っておる。



 ……で、まあ、アーサーが調子に乗らず、何やら静かになってしまっておるその理由――。



 それは――動画を見たクラスメイトの女子から、イベントでの活躍だけでなく、聖霊とともに、「なんか2人、すっごく仲良い!」と茶化されたから……だったりする。



 こういうとき、デキる男や女なら、さりげなーくうまーくやり過ごして、事なきを得るんじゃろうが……。



 アーサーの母君の所蔵する恋愛マンガを読みあさることで、最強の恋愛猛者へと進化したこの鳥系乙女とは違い……。


 アーサーにしろ聖霊にしろ、色恋沙汰となれば完全なガキんちょじゃからして。



 ある意味仲良く……2人揃って、茶化されたことに「そんなことない、別に普通、誰がこんなのを」みたいに、ちょいとムキになって否定しおったもんじゃから……。


 なんとなーく、今もそれを引きずっておる――という感じなわけじゃな。



 ……とはいえまあ、売り言葉に買い言葉、ケンカするほどなんとやら……といったところで。


 そしてそれも、互いにガキんちょゆえのこととなれば、そういつまでも引きずるものでもなく……。


 もうしばらくすれば、自然といつも通りになるんじゃろうよ。



 ――ともあれ、そんな状況じゃから、亜里奈めが真に言いたかったのは――。


 『アガシーと仲が良いって言われて満更でもなかったんでしょ?』ってなところじゃろう。



 あの娘も、どーにも複雑な感情を抱いているようじゃからのう……。


 そこはかとなーく、三角関係的な匂いを感じるというか……。



 ……うむ……!

 さすが、マンガに鍛えぬかれし恋愛猛者の儂……見事な推察!



 これで、いつステキなイケバードと出逢っても大丈夫というわけじゃな……! むふふ。




 ……あ、いやまあ、それはさておき……じゃ。



 我が主アーサーにしろ、あの聖霊にしろ、互いに少なからず意識しておるのは間違いないじゃろうが……。


 根っからガキんちょのアーサーはそもそも、恋愛感情というもの自体、まだ認識しておらん気がするし――。



 一方、聖霊は聖霊で……そう、なんというか……。


 自分がそういう感情を抱かないよう、自制しておる気がするんじゃよなあ……なんとなく。



 まあ、そんなわけじゃから……。


 あの2人が、事実、互いに好意を抱いていたとしても――。



 色恋沙汰にまで発展するのは、いつになることやら……といった感じじゃな。



 うむ……。

 むしろこの儂が、イケバードのハートを射止める方が早いかも知れぬのう……ふふふ。



 ………………。



 いや、うん……まだ候補すらおらぬけどね……。



 てか、だいたい、〈霊獣〉たる儂に釣り合うこっちの世界の鳥類ってなんじゃろ?


 ……ロック鳥? フレスヴェルグ? フェニックス?



 ――って、どれも神話級っ! どーやって出逢えっつーんじゃーーいっ!




 ……などと、思わず儂が脳内で一人ノリツッコミをしておると――。




 ガラリと教室の戸が開き……それぞれ手にビニール袋をさげた喜多嶋教諭と聖霊が、笑顔とともに現れた。




「遅くなってゴメンねみんな、買ってきたよー!」


「よーし、喜べヤローども、配給の時間だぜー!」



「おっ、待ーってましたぁっ!」



 ガタン、と、揺らしていた椅子を蹴り出すように立ち上がるアーサー。



 おやつにありつけるとなるや、途端に満面の笑顔を浮かべるそのサマは……これがアレか、いわゆる『花より団子』とかいうやつじゃな。



 いやまあ、この者たちの歳を考えれば、別におかしくはない……か。


 ほれ、続けて集まってくる亜里奈や見晴、凛太郎に至ってまで、アーサーほど露骨ではないにしろ、嬉しさをにじませておるからのう。



 やはり、儂のような愛に生きる乙女と違い、皆、まだまだ子供というわけじゃな……。


 ふふ、何とも微笑ましい――



「あ、今日は大サービス!

 ……テンテンちゃんにも、先生、カボチャの種買ってきてあげたよー!」



 ………………。



 な――――なんじゃとおぉうッッ!!??


 マジか!? マジなのか!?



 ――って、おおお、喜多嶋教諭が掲げしあの袋に入っているのは、まさしく至高のおやつ『カボチャの種』……ッ!



 なんじゃ喜多嶋夏子、キサマが神かっ! うひょーい!



「――うわわ、すっ飛んできたよ!?

 ホンっトこの子、カボチャの種への愛着スゴいねー……」


「あ〜……最近、うちのかーちゃんがカボチャの種切らしてたからかなあ」



 ……ふぉっ!? いいい、いかんいかん……。


 偉大なる〈霊獣〉ともあろう儂が……つい取り乱してしもうた。



 うむう……げに恐るべきは、カボチャの種……その魔性の魅力よ……!



「――それで先生、これ、このままここで頂いちゃっていいんですか?」



 儂がなんとか理性を総動員して誘惑を断ち切り、平静を取り戻す間に、喜多嶋教諭の周りに集まってきた皆の中、亜里奈がそう問うと……。



「うーん、そうだねえ……。

 他の子たちや先生に見つかると、説明が面倒だからなあ……」



 少し考えた後――。


 儂を頭に乗せた喜多嶋教諭は、妙案とばかりに手を打った。




「うん、あそこに行こう!

 ……みんなに書庫整理手伝ってもらった東校舎の、あの『第2応接室』!

 あそこならゆったり出来るし、滅多に誰も来ないしね!」






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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初はオマケぐらいに思ってた小学生組ももはやこの作品の半分ぐらいの割合を占めるぐらいになってきましたね…。小学生のほのかな恋愛模様も悪くない…
[一言] ガルティエン…… 握手! (*≧∀≦)∞(≧∀≦*)♪ おばちゃんと一緒にニマニマしような! アーサーのお母様とも気が合いそうです(笑)
[一言] んー? この辺の気持ちは分かるような気もしますが……まだまだ自身がヤバイ相手と戦っているという自覚が無いんだろうなー。 そんな風に思ってしまいました(笑)。
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