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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
20章 登校日の、いつも通り?――な勇者たちと、美魔女の責務
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第277話 早速過ぎる衣装合わせによるお披露目会 −1−



 ……というわけで、HR後。



 まるで大掃除でもするみたいに、机が全部下げられた2-Aの教室内には、僕も含めて、ほとんどのクラスメイトが残っていた。




 もちろん、その目的は――。


 おキヌさんが宣言した『主要メンバーの衣装合わせっぽいこと』を見物するためだ。




 そしてさらに僕らクラスの人間だけでなく、どこから聞きつけたのか――いや、きっとおキヌさんが校内に情報をバラまいたんだろう。


 教室の外の廊下にも、多くの見物人(主に女子)が詰めかけてきていた。




 ちなみに、このお披露目のメインだろう裕真(ゆうま)鈴守(すずもり)さんの様子はどうかと言えば……。



 裕真は、最初は「話が早すぎるだろ!?」とか文句も言ったものの、さすがに『やる』と承諾しちゃったからだろう――。

 今はもう、『どうにでもなれ』みたいな、諦観だか投げやりだかの表情で、下げた机の一つに腰掛けている。


 で、鈴守さんはその隣で、同じく机にちょこんと座り――ひたすら緊張してる感じだ。




「――さて、えー……と、だ。

 まずは、劇の大雑把なシナリオと予定してる配役だけども――」




 裕真や鈴守さん以外にも、思い思いに、床に座り込んだり、壁際に立ってたりするクラスのみんなをぐるり見渡してから……。


 沢口(さわぐち)さんを従えたおキヌさんは、メモを片手に教室の中央で説明を始めた。




「とりあえず、文芸部の協力も得て鋭意製作中のシナリオは、完全オリジナルだ。

 誰の目にも分かりやすい、剣と魔法の異世界ファンタジーものになってる。


 ストーリーそのものも、分かりやすい王道で……。


 平和な王国が、魔王率いる魔の軍勢に侵略され……かろうじて難を逃れた若き王子が、護衛の女騎士とともに、祖国を取り戻すため、幾多の試練を乗り越えて魔王に挑む……ってな感じだね。

 ……いわゆる、貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)みたいな」




「おう、『リシュリュー・リターン』な……もちろん知ってるぜ?」


「いやイタダキ、そんな『三銃士』の二次創作じゃないんだから……。

 ――っていうか、リシュリュー枢機卿(すうきけい)、よく知ってたね?」


「お、おう? リチウム有機系な! あれヤベーよな!」



「……は……?

 あ〜……うん、確かにヤバいね色んな意味で……。

 なんかゴメン、僕が悪かったよ……」



「いやそこで謝んなよ(まもる)! オレがザンネンなヤツみてーだろ!」



 実にザンネンなイタダキの発言は、テキトーにスルーしておいて……おキヌさんの話に意識を戻す。



 ……といっても、まあ……。


 今聞いたシナリオでの配役なんて、確かめなくても決まってるようなものだけどね。



「で、配役だが……。

 当然、主人公の1人である、国を追われた流浪のショタ――もとい若き王子はおスズちゃん!

 でもってもう1人の主人公、そんな王子を護り助ける女騎士こそ、赤みゃんってわけだ!」



「……ショタて、言うてもうてるやん……。

 ウチ、何歳の役やらされるんやろ……」


「ん〜……まあ、お姫サマやれとか言われるよりはまだマシ、か……?」



 おキヌさんの発言に、鈴守さんと裕真がそれぞれ、感想をもらす。




「で――だ。

 それに加えて、裏の主人公とでも言うべき魔王……。


 強く、恐ろしく、美しく、威厳ある――そんなラスボスに相応しい、魔王の役には!


 やはり……そう、我が校が誇る、最強の恐るべきイケメン魔王のリャおーこそが適役だと思うんだが、どーだろーか!」




「「「「 おおおーーーッ!!! 」」」」



 おキヌさんが問いかけると、みんな(クラスメイトばかりじゃなく、廊下から見物してる多くの生徒も)揃っての大拍手で賛成の意を示した。


 うん、僕もそうだけど、やっぱりみんな『それしかない』と思ってたんだね〜……。



「……という民意が示されてるんだけど、どーだい、リャおー?」




「ふむ……。

 この余が魔王役とは、実に面白い。


 よかろう――キサマらのその願い、聞き届けてやろうではないか!」




「「「「 おおおーーーっ!!! 」」」」



 まるで動じる様子もなく余裕たっぷりに……そればかりか、言葉通りに、楽しそうに口元に笑みをたたえて承諾するハイリア。


 その姿に、また歓声も上がる。



 ……っていうか……。

 ハイリアの場合、演技しなくても素のままでいけるよねコレ……。



「それで……だ。

 余も、女装をすれば良いのか?」



 しかもハイリアはさらに、まったく臆する様子もなく、おキヌさんにそんな質問もしていた。



「……マジかよ……自分から?

 やっぱ、ガチの美形は言うことが違うなー……」


「ホントにねー……」



 呆れのような感嘆のような言葉をもらす裕真に、思わずうなずいて同意する僕。



 一方、ハイリアに女装について聞かれたおキヌさんは、意外なことに「うんにゃ」と首を横に振り――



「それも考えたんだけどねー。

 リャおーってば、男女どっちに転んでもアリな反則級の美形だろ?

 ……だからさ、うん――――もういっそ、『性別不詳』で行こうかと」



 そして、ニヤリと悪い笑みを浮かべる。



 ……それって、『観客の好きなように捉えられる』ってことだよね。

 男女どちらでも、どうぞご自由に――ってことだよね?



 つまり――これでまた話題性をかっさらおうってわけか……おキヌさん。



 何て言うか……ホント、さすがというか、容赦ないというか……。





「――ぃよっし! んじゃま、そーゆーことで……。

 そろそろみんなお待ちかね、お着替えタイム行ってみよーか!


 ……つーわけで、メイクちゃん――後は頼んだぜ!」




「ほいきた……待ちわびたることよ。

 よーやく要約、よう焼く役、自分の出番――ってわけだね」




 おキヌさんの呼びかけに応えて、颯爽と立ち上がったのは……。


 ボサッとした感じの長い髪に目元を隠し、さらにそこへメガネもかけた――。

 パッと見は、鈴守さんとは別方向に大人しめというか、ちょっと暗い感じにも見えるクラスメイトの女子。



 ……でもそれは、あくまで見た目だけ。


 実際は、暗いっていうより……ある意味うちのクラスに相応しい、ちょっと――うん、ちょ~っとだけ風変わりな人なのである。



 ――彼女は、河春目(かわるめ) 郁美(いくみ)さん。



 メイクに人生を賭けるほどの並々ならぬ情熱を燃やし、それに見合った卓越した技術も持ってるそうで、名前にかけてそのまんま〈メイク〉と呼ばれる……演劇部の副部長でもある女の子だ。




「さーてさてさてサテライト……。

 どの子から、罪深〜く変えてあげよっかい四日市?」



「いや、そう言って……。

 その、エモノを見つけた猛獣の目で、俺を真っ直ぐ見つめるのはカンベンしてくれメイクさん……」



 多分メイクに使うものだと思われる筆(っぽいの)を幾つも、まるで暗器かなにかみたいに、交差した両手の指の間で器用にクルクルと回しながら……前髪とメガネに隠れた眼を、ギラリと光らせるメイクさん。


 そして、そんなメイクさんにたじろぐ裕真。



 ……そう言えば、裕真のことを『絶対に女装が似合う!』って言い切り、前々から機会を窺ってる感じだったもんなあ……メイクさん。



「んむ、まあ気持ちは分かるがメイクちゃん……。

 メインディッシュは後回しに、まずはそこの超絶美人から始めてくれんかね」



 おキヌさんの指示を受けたメイクさんは、ちぇー、と残念そうに筆(っぽいの)を、ペン回しのように両の手の中で高速回転させた。




「ハイリアはねえ……アレなんよアレ、稗田阿礼ひえだのあれ

 いわば、モナリザに今さらエルフ耳つけっか? つけねーだろ?……みたいな。

 ぶっちゃけ、自分がやることほとんど無いから、腕の振るい甲斐がちょい欠っけ欠けなんだなー。


 ――けどま道満(どうまん)……。

 自分の手でこれをさらに輝かせるも、一興異教徒一極集中ってトコロもあるかいね〜……ウム」




「ふむ……では頼むぞ、メイク」



「仰せのままに(まにま)にマーメイド」



 芝居がかった一礼で応えたメイクさんは、ハイリアを連れ……教室を出る。



 どうやら隣の教室に、おキヌさんたちが協力を仰いだ美術部員が、衣装や小道具とともに待機していて……メイクと着替えもそこで済ませる形になってるらしい。


 ……ホント、用意周到だなあ……。





 ――そして……待つことわずか数分。





 いち早く、廊下の見物客から上がった黄色い歓声で、結果がどういうものかは見ずとも分かったけど……。


 それでも、こちらの教室に戻ってきたハイリアを実際に見た僕らは、口々に「おぉ〜……!」と、感嘆の声を上げずにはいられなかった。



 ダークな色合いながらも、ところどころがちゃんと煌びやか、かつ豪華な感じのマントを羽織ったハイリアは、いつも背中の下あたりで三つ編みにしている髪も解き、頭には小道具の山羊っぽい角も付けて……いかにも『魔王』って感じで。


 しかも、そんな仰々しいマントを、まるで当たり前のように着こなし……立ち居振る舞いも威厳と気品に充ち満ちて。


 さらに、メイクさんにより絶妙の『性別不詳の美しさ』を盛り立てられた顔立ちは(パッと見では、本人が言ってたようにあまり手が入ってない感じだけど)、まさしく魔性の色気たっぷりってやつだった。



 ……っていうか、メイクさんの技術もスゴいけど、ハイリアのどこか物憂げな表情がまた、見せ方を分かってるっていうか……!



 いやホントに、ハイリアってば釣り以外は何でも出来るんじゃない……?



「……さて……『魔王』の余は、どうであった?」



 表情をいつも通りに戻し(それでも美人は美人だ)、マントを翻して優雅に、みんなに尋ねるハイリアに……。



「「「「 うおおおおーーーッ!!! 」」」」



 見物客も僕らも――そして鈴守さんに裕真まで、拍手喝采で応える。



「ふっ……今宵もまた一人、罪深きモノへ変えてしまった……」



 ……で、そんな様子を、目元は隠れてるけど、それなりに満足そうに見守っていたっぽいメイクさんは。


 喧噪が収まった頃を見計らい――




「さあて……おスズに赤宮(あかみや)

 次に自分の手で罪深く変わっちゃうのは――どっちダッチ丁稚でっち……?」




 前髪とメガネのその奥で、ギラリと輝く瞳を――。



 口元に浮かべた笑みとともに、たじろぐ裕真たちに向けていた。






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― 新着の感想 ―
[一言] おおう。女騎士なんだ。 ……巴御前とか? ジンヌダルクのようになるのかな。 次回楽しみにしております。
[一言] メイクさん…… やるぅ! (≧▽≦) ハイリアもノリノリですね。実はかなり楽しんでると見ました(笑)
[一言] 更新お疲れサマーメイド!! いやー楽しそうだなリア充達め!!
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