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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
20章 登校日の、いつも通り?――な勇者たちと、美魔女の責務
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第275話 一見平和なHRに、恐るべき陰謀が潜んでいた



 ――さて。


 何はともあれ、体育館での全校集会をつつがなく終えた俺たちは、残るHRを消化するために教室に戻ってきた。




 ちなみにだけど……その集会中、我が2-Aは、やたらと他クラスの――主に女子からの注目を集めていた。



 ……いや、だからって別に、うちのクラスの連中が――いざとなると妙な団結力を発揮して、バカげた無茶もやり通すヤツらだけど――集会中、特に何かをしたってわけでもない。



 だから、『注目を集める』って言っても、表立って――じゃなく。


 何かチラチラと、こっそりこちらの様子を窺っている――って感じだ。



 ……いやまあ、こう言っちゃなんだけど、集会なんて特別面白いわけでもないんだし……。


 マジメに校長先生とかの話を聞こうなんてしないで、他のことに意識が持っていかれる気持ち、それ自体は分からなくもないけどさ。



 で、その興味の向かう先が、何でまたうちのクラスなのかと言えば――。



「ちっ……やっぱり頂点ってのはどうしたって目立っちまって、埋もれようがないってこったな……。

 まったく、やれやれだぜ……」


「……イタダキお前、さっき通学路であんな目に遭ったばっかりで、もうそんな妄想抱けるのかよ?

 ある意味尊敬するわ……」



 ……なんかカン違いしてる頂点は、もちろんまったく関係無くて。



 正確には、視線の行き着く先は、やっぱりというか千紗(ちさ)と……ハイリアだった。



 周囲のクラスから漏れ聞こえてきた、女子たちのヒソヒソ話から察するに……。


 ファンクラブを持つ千紗だけでなく、ハイリアについても――。


 夏休みに入ったことでしばらくお預けになっていた、魔王サマのご尊顔を拝めて感激……ということらしい。



 いやまあ、朝の登校時から、妙に視線が多いような気はしていたんだが……。


 なるほどそういう理由か、と納得。



 そして当然ご本人サマは、そのことに気付かないはずもなかろうに、まったく普段通りに涼しい顔である。



 ……ちなみに、ハイリアがこれだけ女子人気が高いにもかかわらず、直接声を掛けてくるような子がまるでいない理由は……。


 亜里奈(ありな)が呆れた調子で言うことには、「そりゃ美人過ぎるもん」だそうである。



 うむ……さすが、恐るべき魔性のイケメン。




 で、一方、やはり視線を集めていた千紗はと言うと、体育館から教室までの帰り道に……。


 なぜか、ファンの女子から「頑張って下さい!」「期待してます!」とかの応援(?)を投げかけられて、困惑していた。



 ……ちなみに――。


 そのファンの女子の『応援』が、『俺との仲』を指しているとカン違い出来るほど、俺もおめでたい男じゃない――ってことは明言しておこう。うん。







 ――まあ、そんなこんなで、ようやく突入したHR。


 これさえ終われば、晴れてまた自由の身となる今日最後の時間。



 我らが担任、剣崎(けんざき)聖利(まさとし)――マサシン先生は、さっさと最低限の連絡事項を終えるや……。



「……じゃ、後はまあ、みんなの自主性に任せるから」



 ……と、後はさっくりクラス委員に丸投げ。


 自身は教室の隅に椅子ごと移動して、のほほんとした様子で、会議を見守るつもりらしい。



 ……いやまあ、うん、体育祭のときも、うちのクラスはマサシン先生そっちのけで、暴走状態みたいなもんだったからなあ……。


 マサシン先生からしたら、「もう今回もそれでいいんじゃない?」ってなところだろう。



 ただ、そんな頼りなげな態度取っときながら、ちゃんとホントに俺たちのやることを『見ている』し……。


 『大人』が必要なときは、さりげなーく助けてくれたりするのが、このマサシン先生って人なんだけどな。


 ……ちなみに、それらも『たまたま』でしかないって説があったりもするけど――ホントのところは不明である。




 ――さておき、肝心の、HRの会議の中身はというと……。


 予想通りというか、『来たる文化祭の出し物について』だった。



 どうも、今日のこの時点で、出し物についての投票までするらしい。




 まあ、そうは言っても、まだ夏休み中だしな……。

 どうせ、今の時点での第一希望がどんなものか、ってリサーチする程度だろう――。



 そう決めてかかった俺は、いつもながら妙にやる気に満ちあふれているうちのクラス委員が、テキパキ進める会議を他人事のように眺めながら……。



 それよりもむしろ、朝に白城(しらき)と会話して思った、『千紗にもクローリヒトのことを打ち明けるべきじゃないか』ってことについて、あれこれと考え続けていた。



 ……そうしているうち、黒板に書き並べられた数々の出し物候補に、得票数を示す『正』の字が(ちなみに俺は露店に1票入れた)ちょっとずつ増えていき……。



 やがてそれは――暴走上等のうちのクラスにしては珍しく、〈喫茶店〉という至極真っ当な案が1位を取る形で終わった。



 お……そう言えば朝、千紗はまさに喫茶店が良いって言ってたっけ――。


 本人は調理担当を希望してたけど……。

 うん、これを機にウェイトレス姿とか拝めたらラッキーだよな〜……。


 でもまあ、まだアンケート段階だしなあ……。




 ……なんて、のほほんと考えていると――いきなり。





 ――バンッ! ガタタンッ!





 激しく机を叩く音に続き、椅子を蹴立てる勢いで誰かが立ち上がった――!



「――っ!?」



 何事か、と思わず教室内を見渡すも……。



 …………あれ? 誰も立って――ない?




 ――――!

 いや違う、これは……ッ!




 とっさに、アンタッチャブルな匂いを嗅ぎ取った俺は、自身が抱いた疑問を外には出さずに呑み込むが――それが出来ないバカもいた。



「あぁ? ンだよ、スっゲえ音したと思ったのに、だーれも立ってねぇ――ぶごぉっ!?」



 ――ある意味マジメに……しかしだからこそ地雷ど真ん中の発言をしたイタダキの顔面を、白い正方形が強襲する。


 あれはそう、遠隔攻撃用マスコット〈豆腐の角に頭ぶつけて死にさらせ君〉……!



 つまり、ハデに立ち上がっていたのは……!




「だーーーれが、立ってようやくみんなの座高と一緒のチビっ子だゴルァ!!!

 保険金と遺産の受取人アタシにした上で死なすぞマテンロー!!!」




 サスペンスってより昼ドラみたいな脅し文句とともに、イタダキをKOした〈豆腐の(以下略)〉を拾い上げ、席に戻るのは――そう、当然おキヌさんだ。



 ちなみに、そんな風に動き回ってもあんまり目立たないよな……なんてほっこりした思いで見てると、今度は俺が標的にされるのでさっさと忘れよう、うん。



 ……とにかくそうして、イタダキを物理的に、他のクラスのみんなを精神的に黙らせたおキヌさんは――。


 もっともらしい咳払いをすると、もう一度、バンと机を叩いた。




「まあな……〈喫茶店〉というのも悪くはない、悪くはないさ!


 そう――たとえばほれ、おからドーナツとか、豆腐使ったスイーツの専門店にでもすりゃさ……。


 独自色による話題性はあるし、味は保証出来るし、うちが仕入れ先になって材料費を安く出来るし、それでもうちは儲かるし宣伝になるしで、とにかくウィンウィンだからな……!」




 ……しれっと、実家の儲けまでブッ込んできやがったよ。


 けど、そんなプランをいきなり立てるあたり、さすがだな……おキヌさん。



 ――って、いやいや、そうじゃない。


 なんだ? いったい何を言う気なんだ……?




「だがしかし! だがしかしだ、諸君!


 我らのもとには、これほどに多くの陳情が寄せられているのだよ……ッ!」




 言うや否や、通学カバンを机の上で逆さにするおキヌさん。



 そこから落ち、ドサドサドサー……と山を成すのは……。


 かわいらしいデザインのものが大半の、便せん便せん、また便せんで――って!



 ちょっと待て、あれは……!




「これほどまでに多く、しかも真摯な求めから目を背け……儲けを追求した道を選ぶのが、正しき人の道と言えるだろうか!

 我らの正義に則っていると言えるだろうか!

 ――いやさ、言えまい! 反語!」




 いや、儲けを追求しようとしたのはアンタだろう……とかツッコんでる場合じゃない!


 マズいぞ、これって――!



「おい、おキヌさ――!」



 急いで抵抗の声を上げようとした、その矢先――。



「勇者よ」



 呼ばれて反射的に、隣のハイリアの方を向くや否や――半開きだった口に、ハイリアが指で弾いた何かが飛び込んでくる。



「んぐっ……!?」



 ……途端に口の中に広がる、この――!

 この、『ただただマズい』としか形容出来ない、最低最悪の方向に深い味わいは――っ!



 間違いない、アガシー謹製の〈レーション〉とかいう名の『何か』……!



 なぜこの危険物質をコイツが――とか疑問を抱く以前に、そのあまりに破壊的なマズさに、俺は完全に反論を封じられてしまう。



 何の真似だと、抗議を込めた視線を向ければ、ハイリアは――。



 いかにも魔王的に、優雅に悪い微笑みを浮かべつつ……「黙っていろ」とばかり、唇に人差し指を当てていた。



 こ、コイツ……!

 初めから俺を抑え込むのが目的で――!



 でも、待てよ――ってことは!


 しまった!


 そうだ、相手はあのおキヌさん……!




 ――やられた……。


 すでに関係各所に根回し済みってことか――っ!




「……と、言うわけでだ! 諸君ッ!


 我らはこの大勢の希望を汲み取るとともに、我ら自身の、大いなるお楽しみのためにも――!


 我がクラス――いやさ、我が校最強の勇者カップル、赤宮(あかみや)裕真(ゆうま)鈴守(すずもり)千紗が、それぞれ女装と男装によって主役を演じる〈演劇〉をこそ……!


 ――来たる文化祭の、出し物とすべきではあるまいかッ!!!」




「「「「 ぅうおおおおおーーーッッ!!! 」」」」




 いつの間にか椅子の上に立ち(それでもあまり目立たないが)、どこの独裁者だよってレベルで演説をブチ上げ、高々と拳を掲げるおキヌさんに呼応して……。



 いったいどれだけの内通者(サクラ)が潜んでいるのか知らないが、とにかくノリは最高なうちのクラスのヤツらが――威勢良く拳を突き上げ、喚声を上げるのだった。




 ……茫然自失の俺と千紗を、完全に置き去りにして。






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― 新着の感想 ―
[一言] >ぅうおおおおおーーーッッ!!!  うううううおおおおおおおおっっっっ!!!(拳) グッジョブおきぬちゃん!!! 美人すぎるハイリアさんも当然女装ですよね?(期待に満ちた眼差し)
[一言] みんな、歌舞伎の女形も、タカラヅカも大好き。クラスの「話し合い」の結果がこうなってしまうのは、仕方のないことなのです(笑) シリアス回が終了して、いつものほのぼのテイストにほっこり。実は迎…
[一言] 出し物、演劇決定ですね。 題材は何になるんだろ? それはさて置き、久々のレーション登場。 何味か気になります(笑)。
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